
【藤村・嬉野 本日の日記 試し読み】
<まえがき>
たぶん2002年の春先のことだったと思う。
「おい、ちょっと話がある」
たまたま別の番組の収録で来ていた大泉くんを、ぼくは編集室に呼び入れた。
「なんですか?」
「いやちょっと…」
少しだけ怪訝な顔をしたけれど、やつは黙ってぼくのあとについて編集室の小部屋に入ってきた。
「なんですか」
「いや、まぁ…」
編集室でふたり、突っ立ったまんま。
そのまんまで、さらっと言った。
「まぁ…番組をね、いったんやめようと思って」
「はぁー、そうですか」
やつの返事は、実にそっけないものだった。
「まぁ完全にやめるというわけじゃなくてな、これからは年に1回とか2回とか、そういうぺ-スでやろうと思って」
「はぁー」
そのあまりに拍子抜けな態度に、ぼくの方が逆に慌てた。
「いやアレだからな、毎週放送っていうスタイルをやめるだけでな、完全にやめるわけじゃないからな」
「はぁ」
完全にやめるわけじゃない。その言葉だけをぼくは何度も繰り返した。
「で、いつやめるんですか?」
「ん?えーと、秋ごろ」
「あ、わりとすぐですね」
「ま、そうだな」
「はぁー」
やつは、最後まで抑揚のない、そっけない返事を繰り返した。
「で、おまえ…どう、思う?」
「うーん、まぁ、まぁ、しょうがないんじゃないでしょうかね。みなさんが決めたんなら、それは、正しいと思いますよ。うん、しょうがないでしょ」
「…そうか」
「うん、しょうがない、しょうがない…」、最後までそれしか言わずに、やつは他の番組の収録に行ってしまった。
それからもうずいぶん経ったあとで、あいつがその夜、一睡もできなかったことを知った。
2002年の春。番組をやめる半年ほど前のことである。
次へ
「藤村・嬉野 本日の日記 試し読み」TOP
南平岸ユメミル工房 TOP
HTB TOP