嬉野雅道連載企画「ぺのおじさん 鯨森惣七のダラララーな日々」

もくじ

第1回 おじさんは、あばずれだすのだ

鯨さんのアトリエに行った。

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玄関には手袋がいっぱい。

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なんでこんなにいっぱい手袋持ってるの?
わかんねぇんだよ。
このおじさんは質問すると、だいたい、わかんねぇんだよ、と言う。
たぶん、おじさんはいつも衝動的なのだろう。
おそらく理由はあったのだろうと思う。
でも、それは覚えておかなければならないほどには重要でなく。
だから、いまさら答えはでない。
うーむ、そうね。
答えはいらないよね。
そう思うとなんだか深そうであるようにも思える。

上がると床にダンベルがあった。

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ソファーの裏には足踏み健康器具もあった。

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健康には気を使っているようだ。
やってるのかどうかは別にして。

そいえば戸口に松葉杖が立てかけられていて。

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年をとると足腰も弱る、全部が弱る、おじさんには、いろいろあるのだ。

柱には「今日やること」とメモが貼られていた。

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おじさんの一人暮らしは、もう6年経つそうだ。
自分で自分を管理しないと、もう誰もおじさんを管理してはくれない。
前の日に明日のスケジュールを書いておかないと忘れてしまうのかぁ。
だったらオレもあと10年したらやらなくっちゃなぁ。

キッチンに行くと

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葱が栽培されていた。

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ガスのコンロには、鍋、薬缶、フライパンが置かれたままで。

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壁にはズラッと鍋が下がってて。

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おじさんは、芸術家でもあるが、料理人でもあるのだ。
昔、桜ムーンという伝説のカフェをやって繁盛店にしてしまったのだ。
底の知れない人なのだ。

うれしー、美味しくないお茶とインスタント珈琲、どっちが好い?
どっちも嫌だよ。
たが、「コーヒーで」といったら、コトっと出てきた。

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飲むと意外と美味かった。
聞けばインスタントコーヒーをいくつか混ぜ合わせているという。

この窓からUFOが見えたんだ

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おじさんはそう言うと、地図を見せてくれた。

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いずれ雪が解けたら探検に出るという。

窓際の壁に鳩のイラスト。
そこに若い女性の写真が貼られている。

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娘だよ。
美人だね。
思えば、このおじさんも、若い頃は好い男だった可能性が高い。
うーむ、あなどれん。

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ピアノあるね。
娘のね。
そうだろね、弾いてる感じないもん。
もう売ろうかと思うんだよね。
あぁ、ねぇ。
娘に知らせてから売るのが好いかなぁ?
黙って売った方が好いよ。
そうかもね。

なんだか競馬新聞がゴチャッと並んでいた。

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競馬やってるの?
イメージトレーニングね。
はぁ、イメージ浮かぶの?
浮かぶよ。
当たるの?
あたんない。
なんだよ。

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なになに?競馬ブック?
ほんとにイメージトレーニングだけなのかぁ?

表のデッキに犬がいた。

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名前は? ちゃちゃ。
いくつなの? 9歳かな。

息子さんも自立して家を出て。娘さんも自立して家を出て。
最後に奥さんも自立して家を出た。
それからおじさんはずっと一人暮らしで、6年になるのだ。

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ちゃちゃ、死んじゃったら、淋しいね。
こいつ死んだら、オレも出て行くかな。

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あれ。グローブあるね。
うん。
野球するの?
キャッチボール。息子とね。
好いね。
そう。

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炎の勢いに負けるものもいる
負けずと耐えたものは艶っぽい顔をする

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やがてことこと静かにあばずれだす
暮しのどこかで何んじゃこれってあばずれる

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そんなんでも おもしろがってくれたら うれしーな
いとーしんでくれたら いいな

そうおじさんは言うのである。
ではまた次回。

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