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10月3日放送 「ユーコン川160キロ」第2夜

藤村 | 2001.10/ 5(FRI) 19:41


 ユーコン160キロのスタート地点。「レイク・ラバージ」の北端付近に設置されたキャンプ地へと到着したのが昼12時半ごろだったか。

 まずは、テントの設営である。

 ユーコンの鉄則。テントは、炊事をする場所から離れた所に立てないといけない。熊対策である。

 ぶんぶん飛び回り、ばしばし刺しまくる猛蚊の来襲を受けつつテントを張る。

 根拠は定かでないが、「蚊は、黒い色に寄ってくる」と嬉野くんが言った。

 見ると、ミスターは全身黒ずくめである。そして、やはりミスターは、猛襲を受けていた。

 「だめだよミスター!黒を着ちゃ!」

 私はミスターを叱責した。大自然の中では、些細なことが、命運をわける。

 「ぼくは、黒が似合うから」などという甘ったれた都会的な思考は、ユーコンの猛蚊の格好の餌食となる。

 「ミスター、自然を甘く見てはダメだ!」
 
 私は再びミスターを激しく叱責した。

 彼は言った。

 「言ってくれりゃ、黒なんか着てこなかったでしょ。」

 根拠は割としっかりあることだが、「蚊は、カメラに寄って来る」と嬉野くんが言った。

 見ると、確かに嬉野くんは、ミスター以上の猛襲を受けていた。

 この時はまだ、嬉野くんに外見的な異変は見られなかった。しかし、このあと我々は、彼の惨状をまのあたりにすることになる。

 この事件は、残念ながら放送されないので、次回以降、この場でお伝えしたいと思う。

 さて、テントの設営を終えると、昼食となった。

 自分で勝手にサンドイッチの、「うんざり欧米形式」だったが、不思議とうまかった。

 「自然の中で食べればね、なんでもおいしい」

 「それはあんまり関係ないけど・・・」

 あっさり言い放った大泉さんだったが、これは私も同感だ。「メシ自体」がうまかったのだ。

 
 昼食が終ると、ガイドふたりは、のんびりと焚き火を囲んで談笑をはじめた。

 聞けば、「風が強いので、カヌーの練習は、少し風がおさまってからにしましょう」とのことである。日は長い。「のんびりこう」ということだ。

 午後2時。手持ち無沙汰になった我々は、野球をすることにした。タオルをガムテープで巻いてボールにし、流木をバットにした。

 大泉さんが、特大のファールを打ち、ボールは湖に沈んだ。

 野球は10分そこそこで終った。

 「よし。釣りだ」

 釣り道具は、その日の朝、地元の釣具屋に行ってルアー2式とフライを1式買った。

 「なんで3つ買うんだよ。それにフライなんておれたち素人が使えねぇだろ」

 大泉くんが聞いた。愚問だ。

 オレのに決まってる。

 「それも会社の金で落とす気か?」

 愚問だ。

 出演者おふたりは、ルアーを湖に投げ込んで、釣りを始めた。30分経っても、いっこもアタリが来ない。

 「釣れないねぇ・・・」

 1時間たっても、

 「釣れないねぇ・・・」

 焚き火でコーヒーを飲んでるピートのところへ戻ると、彼は言った。

 「ここで、魚が釣れたのを見たことがないんだ。」

 早く言えっ!この野郎!

 「・・・実は、この湖には、魚は1匹しかいない」

 「は?」

 「こ~んなにデッカイ魚が1匹だけ。そいつが全部食っちまったのさ!ハハハッ!」

 くそおもしろくもないカナディアン・ジョークで、我々の釣りは終った。

 午後4時。もうやることもなくなり、最後の手段。昼寝だ。昼寝じゃないか。「夕方寝」だ。

 しかし、川原で寝ていると、いつのまにか太陽がじりじりと照りつけて、みんな寝ていられなくなってきた。

 恐ろしいことに、気温が上がり始めたのだ。夕方にだ。いうなれば、ようやく午前中が終わり、正午近くになった。そんな感覚である。

 だから、そうだ。「昼寝」という言葉は、合っていたのである。

 午後6時。夕食。

 「もうねぇ、やることないわけ」

 大泉さんが、そう言ったが、まさにその通り。

 感覚的には、まっ昼間に

 「やることないから、夕飯でも食いますか!」

 そんな感じである。

 で、夕食。ピートが料理長である。そして、彼の作るメシは美味い。まさか、キャンプで「ラザニア」など食すことになろうとは思っていなかった。実際には、あの「ラザニア」は、メアリーが作ったものをピートが温めただけだったが、それにしても今回は、「食事でやられる」という心配はなさそうである。
 
 ただ、「料理長の座」を虎視眈々と狙っている男がいた。

 次週、我々は、ヤツのおかげで惨状にみまわれることになる。久々に「シェフ」登場である。

 
 そしていよいよ「カヌーの練習」。

 夜9時。水面に光が反射して、ふたりは「カヌーイスト」になっていた。

 続いて「トイレの方法」の講義。驚くことに、説明するピートの顔には、まだまだビカビカの光線が当たっている。

 もう見た目には、時間経過などわかりゃしない。でも、おれたちゃ、昼12時に湖に到着して、それから10時間も経過しているのである。

 そしてようやく太陽が、地平線に落ち着こうとしているのである。

 そんな時だ。森の中から雄叫びが響いた。

 最初の犠牲者が出たのだ。ミスターのおしりは、それはもうスゴイことになっていた。

 「ボタンがいっぱいあった」というのは本当にそうだ。

 押したら、なんかいろんなものが出てきそうだった。

 
 そうして、我々は、ようやく11時過ぎ。テントへ入った。外では、小鳥がさえずり、もう「夕焼け」なんだか「朝焼け」なんだか判別できない太陽が、どこかさわやかな光を放っていた。

 こんな光の中、今から寝る。

 「おれたちゃ、水商売じゃないんだから」

 それが、初めて経験する「白夜」というものへの、正直な感想である。