今回の企画。これはあまりに「冒険な」「キツイ」企画である。
「そりゃ、3日連続、ホテルにも泊まらず、30時間もバスに乗る。キツイですよ」
確かにそうだ。でも「本当のキツさ」は、そういう体力的なものではなく、
「バスに乗るだけ」→「そのうえ出演者のお2人は、ほとんど映らない」→「でもそれを番組にする」
という、考えれば考えるほど理解不可能なテーマに「あえて挑む」。それも「5周年」という大事な節目に。そこに「本当のキツさ」がある。
これはだから「冒険」なのである。
ことの起こりは、ミスターとの企画会議でのことだ(当然、大泉さん抜きの3人だ)。
今年は、海外にも立て続けに出かけ、国内でも10週に及ぶ「対決列島」を敢行し、息つくヒマのない1年だった。
「まぁ、最後は釣りバカやクリスマスパーティーみたいな短期息抜き企画で〆ますか・・・」
そう考えていた。視聴者意識を考えても、それは正しい選択であろう。
「もう、お腹いっぱいです」と。
ミスターからも「そういう企画」がいくつか上がったが、どうも「コレ!」というものが掴めず、会議はしばし暗礁に乗り上げた(そうは言っても10分くらいだが)。
するとミスターがふと思いついたようにこう言った。
「そういえば、ちょうど5周年じゃないですか?」
「あぁ・・・そうですね」
(特に5周年!ということはこの時まで誰も意識はしていなかった)
「アレやりますか・・・深夜バス」
「サイコロかい?」
「いや、3夜連続深夜バス!」
「なんですか?それ」
「あれじゃないですか、我々深夜バスに2夜連続で乗ったことはあるけど、3回連続ってないじゃないですか」
「まぁ・・・そうだね」
「どうですか?」
「いや・・・どうですか?ってミスターそれは、単に3回乗るだけっていう感じかい?」
「そうですね」
「特になにかあるわけでもなく・・・ただ乗るだけという」
「どうですか?キツイでしょ」
「きついねぇ!ミスター!」
「どうですか!」
「イヤです。」
「あ・・・」
「じゃ、次、考えましょう」
当然のことながら、そんなものは、はしにも棒にもかからず、我々は再び熟慮期間へと入った。
だが、しばらくして私の脳裏に「ある光景」が浮かび上がった。
早朝のサービスエリア。バスから降りたミスターと大泉さんが空ろな目つきで、フラフラとこっちに向かって歩いてくる。
私は倒れそうなお2人をカメラの前に迎え入れ、威勢の良い声でこう聞く。
「さぁ、お話を伺いましょう。いかがですか!ミスター!」
(ぷっ・・・いかがですかって・・・そんなこと聞かれて、この人なんて答えるんだろう・・・)
目の前で新たな企画を真剣に考えているミスターを見て、私は笑いがこみ上げてきた。
「どうしたんだい?藤村くん・・・なにかいい考えが・・・」
さすが嬉野くんは、なにかを察して聞いてきた。
「まぁ・・・さっきの深夜バスの話。3回も乗るのはごめんだけど・・・でも、どうだい?おれらは乗らずに、この人たちだけ乗ってもらって、サービスエリアだけでお顔を拝見するというのは・・・」
「サービスエリアだけで・・・」
「何時間かおきに、やられきったお2人が、バスから降りてくるわけだ・・・」
「はははは!」
「どんなお姿で降りてくるのか、ちょっと見たくないか?」
「はははは!そりゃ見たい。」
「はははは!見たいでしょう。」
「見たいねぇ。」
「ミスター。決定。」
「えっ・・・」
「やりましょう。」
「いやいや・・・みなさんは乗らないの?」
「決定。」
ということで、あっさり英断を下してしまったが、よくよく考えれば、単に「やられ姿を見たい」という理由だけで、この企画を実行に移すのは、あまりにも乱暴だった。
だって「深夜バス」だ。
「昼間」は、基本的になにもすることがないわけだ。ヒマにもほどがある。
なのにお忙しいお2人を、実質4日間も拘束していいものか。
「いや、大丈夫ですよ。なんたって5周年ですから」
「さすが社長!やる気だ!」
「5周年記念行事ですよ」
「いやぁ!ぜいたく!」
「まぁ、この機会に、なんていうか自分の体力的な限界を知っておきたい気がするんですよ」
「なるほど・・・」
「だからまぁ、テレビ的な企画というより、6年目に向けての、ひとつのチャレンジと・・・」
「あぁ・・・」
どうやらミスターは、この企画を自分の「体力測定」ぐらいにしか考えていないようであった。
「そうと決まれば・・・よーし!がんばろ!」
なにやら気力充満、ミスターは、ひとり気をはいて部屋を出て行った。
そうして会議は終了した。
「それにしても・・・この企画は、冒険だなぁ・・・」
「まぁいいんじゃないかい?こういうのも・・・」
物事を達観したような物言いで嬉野くんが言う。
「でも、バスに2人が乗ってる間、どうすんのよ・・・おれら2人車の中で・・・」
「まぁ・・・そうだけど」
「安田くん呼ぶか・・・」
「あぁ!それがいいよ」
困った時の安田くん。実に重要なお人である。
だが、事務所に確認すると、安田くんのスケジュールは1日しか空いていなかった。
「どうしようか・・・」
「まぁ、いいよ。とりあえず1日で・・・」
その時、私の脳裏には、再び「ある場面」が思い浮かんでいた。
(さぁ・・・ミスター・・・がんばれよ・・・)
さて、次週は「長万部」でのお2人のやられっぷりからスタートです。
今回の旅、ただ「3回深夜バスに乗る」というだけの行程に、いったい「どんなストーリー」が出来上がるというのか。
そもそも「おもしろく」なるのか?
そういう我々の「冒険」も、ウラテーマとして注目していただければ、深い味わいが出ると思うわけです。
「5周年記念!札幌-博多 深夜バスだけの旅」は、全3話で完結です。