now onair

25:15

海外ドラマ「S.W.A.T.シーズン4」【二】

NEXT

お正月休みのファンタジー

藤村 | 2002. 1/ 4(FRI) 16:12


 正月休みに子供と映画を2本見に行った。

 「シュレック」と「ハリーポッター」。

 両方とも、どえらい混んでて、両方とも前から2列目で見た。

 おかげで、両方とも眼球が飛び出しそうになった。

 昨年は「千と千尋」もあって、久々に子供たちと映画館に足を運んだ年だった。

(くっ!そういえば「千」も前から2列目だった・・・。)

(くそっ!思い出した!何年か前の「クレヨンしんちゃん わくわく温泉大作戦」も2列目だった!)

 
 ・・・そして、この正月。

 私は、映画館で、たいへん懐かしい劇場予告を見た。

 「ET」だ。

 あの名作「ETちゃん」が、20年ぶりにこの春、再公開されるらしい。

 
 20年・・・。20年も経つのか。

 
 「ハリーポッター」でトロルが大暴れして、子供たちが泣き叫ぶ中、私はちょっとした感傷に浸っていた。
 

 20年前といえば、高校1年生。

 
 中学から高校にかけて、私は、たくさんの映画を見ていた。

 そして必ず、公開初日の朝一番に映画館に並び、わくわくしながらパンフレットを買い、幕が開くのを待っていた。

 「スターウォーズ」では、オープニングが「ジャーン!」と鳴り出すと同時に、黄色いタイトル文字が宇宙に飛び出して、観客から大きな拍手が巻き起こった。

 「スタートレック」も、ミスタースポックが登場すると、大拍手だった。

 「地獄の黙示録」の時は、普段映画を見に行かない友達が、「オレも行く」と言ってついて来た。

 ヤツは、CMでやたら流れていた「水着のお姉さんが、妖しげに踊るシーン」を見て、てっきりエッチな映画だと思い込んでいたらしい。

 見終わった後、「やっぱり戦争はむごいよね」などと話している横で、力なく「そうだね・・・」と肩を落としていた。

 そして、「ET」。

 「未知との遭遇」で、すっかりスピルバーグ先生にやられていた私は、クラスでしきりに「今度の映画はでーれースゲエぞ!」(凄くスゴイぞ!の意)とふれまわっていた。

 「初日にみんなで見に行こみゃぁ!」

 と、私が「ET観戦ツアー」の参加者を募っていたところ、新井くんというちょっとでっぷりしたクラスメートが耳よりな情報を持ってきた。

 「先行上映とかいって、前の日の夜にETやるの知っとる?」

 「映画」といえば、「早朝の長い列」と思い込んでいた私にとって、「前の日の夜」というのは、にわかに信じられない情報であった。

 さらに当時は、まだまだ青臭い高校1年生。

 「夜遅くに名古屋の中心地へ友達と連れ立って行く」なんてことは、ちょっと想像もつかない冒険であった。

 「夜か・・・」

 「行こみゃぁて・・・」(行こうよ)

 「よーし・・・行こみゃぁか!」(よーし!行くか!)

 なんだか、ちょっと悪いことをしているような楽しさがあって、話は盛り上がった。

 「ねぇねぇ、わたしんたちも行っていい?」
 
 好奇心をそそられた何人かの女子が参加を申し込んできた。

 話は、さらに盛り上がった。

 「じゃぁ、学校にみんなで遅くまで残っとって、一緒に行こみゃぁか。おみゃぁさんたちだけで行くと危ないでかんで」(キミたちだけで行くと危ないからダメだ)

 「夜の町はオレに任せろ」と言わんばかりに、小太りの新井くんは、教室の片隅に女子を集めて言い放った。

 女の子たちの参加を得て、俄然「悪いこと度」が増してきた「夜のET観戦ツアー」は、そして、いよいよ決行の日を迎えた。

 「じゃぁ!行くぜぃ!」

 部活も終わって、ガランとした校門付近で、新井くんが少し照れながら号令をかけた。

 男子5~6人、女子2~3人が、なぜそういう話になったのかは定かではないが、全員自転車に乗って、夜の繁華街を目指した。

 あたりは薄暗くなり始めていた。いつもの帰り道とは逆の、町中へと続く道を、女の子たちと一緒に自転車をこいで、それはやはり、たまらなく楽しかった。

 30分近く走ったんだろうか。「なんで地下鉄にしなかったんだ!」なんてヤボな疑問を言うやつもなく、一団は、満ち足りた気分で映画館に辿り着いた。

 「ET」は、それは予想以上にいい映画だった。

 今でも冒頭のシーンは、よく覚えている。

 暗い森の中で、懐中電灯の光が小刻みに揺れながら突き進む。それが怪しくて、なにかが出てきそうで、思いっきりスクリーンに引き込まれていった。

 クライマックス。自転車に乗った子供たちの一団が、ETを助けようと、薄暮の森の中を必死で逃げ回る。

 そして、あのシーン!大きな月をバックに、自転車が空に舞い上がる!

 「うおっくッ!泣いてしまうっ!」

 後列に控える女子たちの手前、泣くのはカッコ悪いと思いつつ横を見ると、新井くんはじめ、男子全員が、すでに泣いていた。

 そして、映画が終ると、なぜだか、みんなあまりしゃべらずに黙々と自転車を漕いで、夜道を急いでいた。

 しばらくたって、ようやく

 「良かったなぁ」

 「うん・・・良かった」

 みんなが、ぽつりぽつり感想を話し出した。

 すると新井くんが何を思ったか、
 
 「いやぁー!ET良かったぁーっ!」

 急に大声で叫びながら、自転車を勢いよく発進させた。

 そして新井くんは、やみくもに夜の町を蛇行しながら、曲乗りのように自転車を走らせた。

 「なっ!なんだ!おみゃぁ!」

 「新井くん!なにしとんのー!」

 男子も女子も、大声を出して、笑いながら見ていると、新井くんは縁石にすごい勢いでぶつかり、「ガシャーン!」という大音響とともに自転車ごとすっ飛んだ。

 「うわッ!新井飛んだ!」

 「うわぁッ!とッ!飛んだぞッ!」

 「でっ!でーじょーぶか!あいつ!」

 新井くんは、名古屋の町中で、その夜、ETになった。

 でも、映画と違って40センチほどしか飛ぶことはできず、おまけに両ひざを痛打して、しばらく立ち上がれなかった。

 
 20年前の「ET」公開前夜の思い出である。

 その時、いっしょに映画を見に行った女子のひとりが、今のカミさんだ。

 ・・・と言えば、話のオチも盛り上がるところだが、今となっては、女の子たちの顔も、よく思い出せない。

 でも、新井くんがETになった瞬間の映像は、やけに鮮明に思い出される。照れ隠しに「面白かった?・・・」と言いながら、恥ずかしそうに立ち上がった姿も、よく覚えている。

 
 あれから20年。

 「ハリーポッター」は、ファンタジーだと思っていた子供たちは、トロルの凶暴さに恐れおののき、じっとぼくの背中に隠れたままだ。

 映画が終ると、でも「恐かったけど、おもしろかった」と言った。

 「家族5人で映画見ると、5000円もかかるよぉ。高いなぁ・・・」

 いつもカミさんと、そう言っているので、少し気を使ったのかもしれない。

 「じゃ、今度はET見ようか!」

 「イヤだ!」

 「なんで?」

 「トロルみたいで怖い!」
 「私もトロルみたいなのは絶対イヤだ!」
 「イヤイヤ!」

 3人の子供たちが間髪入れずに叫び倒す。

 でも、私は決めている。

 雪が解けたら、20年ぶりの「ET」を子供たちと見に行って、新井くんのように、ウケを狙ってやるのだ。
 

 それが・・・今年の正月の出来事だ。(純くん風)