正月休みに子供と映画を2本見に行った。
「シュレック」と「ハリーポッター」。
両方とも、どえらい混んでて、両方とも前から2列目で見た。
おかげで、両方とも眼球が飛び出しそうになった。
昨年は「千と千尋」もあって、久々に子供たちと映画館に足を運んだ年だった。
(くっ!そういえば「千」も前から2列目だった・・・。)
(くそっ!思い出した!何年か前の「クレヨンしんちゃん わくわく温泉大作戦」も2列目だった!)
・・・そして、この正月。
私は、映画館で、たいへん懐かしい劇場予告を見た。
「ET」だ。
あの名作「ETちゃん」が、20年ぶりにこの春、再公開されるらしい。
20年・・・。20年も経つのか。
「ハリーポッター」でトロルが大暴れして、子供たちが泣き叫ぶ中、私はちょっとした感傷に浸っていた。
20年前といえば、高校1年生。
中学から高校にかけて、私は、たくさんの映画を見ていた。
そして必ず、公開初日の朝一番に映画館に並び、わくわくしながらパンフレットを買い、幕が開くのを待っていた。
「スターウォーズ」では、オープニングが「ジャーン!」と鳴り出すと同時に、黄色いタイトル文字が宇宙に飛び出して、観客から大きな拍手が巻き起こった。
「スタートレック」も、ミスタースポックが登場すると、大拍手だった。
「地獄の黙示録」の時は、普段映画を見に行かない友達が、「オレも行く」と言ってついて来た。
ヤツは、CMでやたら流れていた「水着のお姉さんが、妖しげに踊るシーン」を見て、てっきりエッチな映画だと思い込んでいたらしい。
見終わった後、「やっぱり戦争はむごいよね」などと話している横で、力なく「そうだね・・・」と肩を落としていた。
そして、「ET」。
「未知との遭遇」で、すっかりスピルバーグ先生にやられていた私は、クラスでしきりに「今度の映画はでーれースゲエぞ!」(凄くスゴイぞ!の意)とふれまわっていた。
「初日にみんなで見に行こみゃぁ!」
と、私が「ET観戦ツアー」の参加者を募っていたところ、新井くんというちょっとでっぷりしたクラスメートが耳よりな情報を持ってきた。
「先行上映とかいって、前の日の夜にETやるの知っとる?」
「映画」といえば、「早朝の長い列」と思い込んでいた私にとって、「前の日の夜」というのは、にわかに信じられない情報であった。
さらに当時は、まだまだ青臭い高校1年生。
「夜遅くに名古屋の中心地へ友達と連れ立って行く」なんてことは、ちょっと想像もつかない冒険であった。
「夜か・・・」
「行こみゃぁて・・・」(行こうよ)
「よーし・・・行こみゃぁか!」(よーし!行くか!)
なんだか、ちょっと悪いことをしているような楽しさがあって、話は盛り上がった。
「ねぇねぇ、わたしんたちも行っていい?」
好奇心をそそられた何人かの女子が参加を申し込んできた。
話は、さらに盛り上がった。
「じゃぁ、学校にみんなで遅くまで残っとって、一緒に行こみゃぁか。おみゃぁさんたちだけで行くと危ないでかんで」(キミたちだけで行くと危ないからダメだ)
「夜の町はオレに任せろ」と言わんばかりに、小太りの新井くんは、教室の片隅に女子を集めて言い放った。
女の子たちの参加を得て、俄然「悪いこと度」が増してきた「夜のET観戦ツアー」は、そして、いよいよ決行の日を迎えた。
「じゃぁ!行くぜぃ!」
部活も終わって、ガランとした校門付近で、新井くんが少し照れながら号令をかけた。
男子5~6人、女子2~3人が、なぜそういう話になったのかは定かではないが、全員自転車に乗って、夜の繁華街を目指した。
あたりは薄暗くなり始めていた。いつもの帰り道とは逆の、町中へと続く道を、女の子たちと一緒に自転車をこいで、それはやはり、たまらなく楽しかった。
30分近く走ったんだろうか。「なんで地下鉄にしなかったんだ!」なんてヤボな疑問を言うやつもなく、一団は、満ち足りた気分で映画館に辿り着いた。
「ET」は、それは予想以上にいい映画だった。
今でも冒頭のシーンは、よく覚えている。
暗い森の中で、懐中電灯の光が小刻みに揺れながら突き進む。それが怪しくて、なにかが出てきそうで、思いっきりスクリーンに引き込まれていった。
クライマックス。自転車に乗った子供たちの一団が、ETを助けようと、薄暮の森の中を必死で逃げ回る。
そして、あのシーン!大きな月をバックに、自転車が空に舞い上がる!
「うおっくッ!泣いてしまうっ!」
後列に控える女子たちの手前、泣くのはカッコ悪いと思いつつ横を見ると、新井くんはじめ、男子全員が、すでに泣いていた。
そして、映画が終ると、なぜだか、みんなあまりしゃべらずに黙々と自転車を漕いで、夜道を急いでいた。
しばらくたって、ようやく
「良かったなぁ」
「うん・・・良かった」
みんなが、ぽつりぽつり感想を話し出した。
すると新井くんが何を思ったか、
「いやぁー!ET良かったぁーっ!」
急に大声で叫びながら、自転車を勢いよく発進させた。
そして新井くんは、やみくもに夜の町を蛇行しながら、曲乗りのように自転車を走らせた。
「なっ!なんだ!おみゃぁ!」
「新井くん!なにしとんのー!」
男子も女子も、大声を出して、笑いながら見ていると、新井くんは縁石にすごい勢いでぶつかり、「ガシャーン!」という大音響とともに自転車ごとすっ飛んだ。
「うわッ!新井飛んだ!」
「うわぁッ!とッ!飛んだぞッ!」
「でっ!でーじょーぶか!あいつ!」
新井くんは、名古屋の町中で、その夜、ETになった。
でも、映画と違って40センチほどしか飛ぶことはできず、おまけに両ひざを痛打して、しばらく立ち上がれなかった。
20年前の「ET」公開前夜の思い出である。
その時、いっしょに映画を見に行った女子のひとりが、今のカミさんだ。
・・・と言えば、話のオチも盛り上がるところだが、今となっては、女の子たちの顔も、よく思い出せない。
でも、新井くんがETになった瞬間の映像は、やけに鮮明に思い出される。照れ隠しに「面白かった?・・・」と言いながら、恥ずかしそうに立ち上がった姿も、よく覚えている。
あれから20年。
「ハリーポッター」は、ファンタジーだと思っていた子供たちは、トロルの凶暴さに恐れおののき、じっとぼくの背中に隠れたままだ。
映画が終ると、でも「恐かったけど、おもしろかった」と言った。
「家族5人で映画見ると、5000円もかかるよぉ。高いなぁ・・・」
いつもカミさんと、そう言っているので、少し気を使ったのかもしれない。
「じゃ、今度はET見ようか!」
「イヤだ!」
「なんで?」
「トロルみたいで怖い!」
「私もトロルみたいなのは絶対イヤだ!」
「イヤイヤ!」
3人の子供たちが間髪入れずに叫び倒す。
でも、私は決めている。
雪が解けたら、20年ぶりの「ET」を子供たちと見に行って、新井くんのように、ウケを狙ってやるのだ。
それが・・・今年の正月の出来事だ。(純くん風)