昨夜の衣装の話だ。
収録の数日前。
スタイリストの小松から「今度の衣装どうすんの?」と電話がかかってきた。
そう言われて、私は正直困った。
恒例の「ミスターネタ」は、もう品切れだ。
いくら考えても「ミスター梅介」と「ミスターオクレ」しか思い浮かばない。
ビジュアルはどちらも似たりよったりで、だいいち華がない。
やや考えて、私は開き直った。
「もういいよ。全身タイツだけで。あとは何かテキトーなかぶりものでお茶を濁そう」
とにかく「んなもんで悩むのもあほらしい」と思ったのである。
「そう。じゃ、わかった。」
さすがカリスマ・スタイリスト小松さん。
「なら私に任せて」と言わんばかりに、きっぱりとした口調で電話を切った。
(なにか秘策でも・・・)
少なからず私には、そんな期待を抱かせるカリスマの口調だった。
そして収録当日。
小松が、巨大な袋をかついで現れた。
「おぉ!それはなんですか!小松さん!」
「じゃま!じゃま!どいて!どいて!」
通路をふさぐ私を押しのけて、
「あぁ!もう!」
なんて言いながらカリスマは、ドカッと、その巨大な袋を床に降ろした。
「なんすか?これは」
「えぇ?・・・もう、とにかくいろんなもん持ってきたから」
「おぅ」
「あとは藤やん選んで!」
「おれが?」
「だってもう、めんどくさいんだもん。」
結局、小松もあれこれ悩んだあげく、「あほらしい」と気づいたんだろう。
見るからに「手当たり次第に持ってきた」という無秩序な衣装のラインナップである。
「すげぇ・・・いくつあんの?」
「わかんない」
乱暴だ。自分が用意した衣装の数さえ把握していない。
しかし、私は、カリスマの「本当の意図」を汲み取った。
「なるほど!小松さん。何回かお色直しをするわけだ!だからこんなにたくさん用意したわけだな!」
「全然そういう意味じゃないけど」
「いや、そうでしょう。そうじゃなかったらこんなに用意しないでしょう」
「だって本当に、めんどくさかったんだもん」
カリスマは正直に告白したが、方向は決まった。
CMごとにお色直しをして、とにかく「数で勝負」である。
収録現場に、十数種の衣装がズラッと並んだ。
さながら「フリーマーケット」のようである。
「なにごとだ」と、困惑の表情を浮かべる出演陣を前に、
「お二人はですね、この中から、ご自分のインスピレーションにビビっときた衣装を選んでいただいて・・・」
「インスピレーションなんてねぇよ!」
すかさず、大泉さんはゴネたが、もう1人の方は、「わかりました!」とばかりに、早くもパンツ一丁になり、緑色の全身タイツを手に取った。
「じゃ、ぼくは仮面ライダーで」
言いながら、社長はへんてこな仮面ライダー風ヘルメットをかぶった。
「あっ!仮面ライダー取られた!」
ゴネながらも、大泉さんも仮面ライダーを狙っていたようである。
「くそっ・・・じゃ、こっちの鉄腕アトムにするか」
しぶしぶ大泉さんは、アトムのヅラを手に取った。
「小松・・・肌色の全身タイツは?」
「無いよ」
「裸でやれってか!」
「黄色でいいじゃない」
「黄色?・・・黄色か?」
「しょうがないじゃん。ないんだもん」
カリスマのきっぱりとした態度に押されて、大泉さんは、不本意ながらも黄色の全身タイツを着込んだ。
「おっと・・・これはなに?」
まっ赤なマントが大泉さんの目に止まった。
「アトムのマント・・・」
カリスマの声が少し小さくなった。
「おい鉄腕アトムって・・・マントなんかしてたか?」
「してないですよ」
あちこちから疑惑に満ちた声が上がった。
「マントしてなかったっけ?うそ・・・してたんじゃない?」
言いながらも、カリスマだって、さすがに気づいたはずだ。
アトムは黒いパンツとブーツ。マントはしていない。
しかし、大泉さんは、マントのひもを結びながら、
「いや、そうなんじゃない?だって小松が用意したんだもん」
そう言って、小松に見せつけるように、勢いよく、真っ赤なマントをひるがえして見せた。
「いッ!いや!これは違うだろ!」
「違う!違う!」
誰の目にも明らかだった。
明らかに、そこに立つ大泉さんは、鉄腕ではなかった。
「いや、そうなんだって!小松が用意してんだから」
「いッ!いや・・・」
「そうなんだよ」
「そっ・・・そうか」
「そうでしょう。だって小松が用意してんだもん」
そう言って大泉さんは、さらに追い討ちをかけるように、真っ赤なマントとともに置かれてあった、これまた燃えるような赤いパンツをはいて、小松の前で、ポーズをとった。
「よし。」
こうして大泉さんは、カリスマの創造した「新鉄腕アトム」となって、収録に臨んだのである。
さて、次回も「CMごとのお色直し」がございます。
次回も・・・スゴイぞ。