※すいぶん遅れたが「ただの第6夜」ウラ書きました。
放送を思い出して読んでくれぃ!
そう、「ただの第6夜」である。
ベトナム縦断4日目。
我々は、目的地・クイニョンまで50キロを残し、遂にベトナムで最も危険な「夜」を迎えてしまった。
前回、「第5夜」のラスト、ニャンさんの歌う「ホーチミン・シー」にのって、意味ありげな「予告」が流れた。
「ミスター!」大泉さんが、叫ぶ。
「ミスター・・・」続いて、私も呼びかける。
「私の身に・・・信じられないことが・・・起こっています」
ミスターが言う。
途中、鼻をすするような、涙を堪えるようなミスターの嗚咽が、漏れ聞こえる。
それを受けて、再び大泉さんが叫ぶ、「ミスター!」
プップープー・・・。
けたたましいクラクションが鳴り響き、その音にかき消されるように、ミスターの後姿が、ゆっくりと闇に消えていく・・・。
んーッ!どうだ!
これは絶対に「何かよからぬ事態」が、ミスターの身辺に起こり、最悪「ミスター死んだんじゃねぇか?」という予測さえ成り立つような「予告」である。
しかし・・・だ。
結局「第6夜」をすべて見終わってみれば、「んなミスターの生命をおびやかすような事態」などどこにも無く、せいぜいニャンにカブを乗っ取られて、ミスターが憮然としたぐらいなもんだ。
「じゃぁ・・・じゃぁ!藤村くん、あの予告はいったい何だ?」
そう問われれば、
「あれもまぁ、ひとつのダマシだ。」
そう答える。
つまり、だ。
9月4日「第6夜」は、本来「最終回」のハズであった。
しかし、9月4日が近づくにつれ、
「本当に第6夜で、ホーチミンに着けるのか?」
「本当に第6夜、最終回なんか?」
誰しもがそんな「疑い」を持ち始めた。そりゃそうだ。
「全行程7日間」と言っておきながら、「第5夜」にして、まだ「4日目」しか消化していない。
まぁ事実、「最終回は延長!」となるわけだが、あの時点では、それをカモフラージュする必要があった。
そこで、あの「予告」だ。
さも、ミスターの身に何かが起きたような予告。
「もしかしてミスター!事故かなんか起こして、ベトナム縦断は、途中で終わっちゃったんじゃないだろうか?」
「だから・・・だから!来週で最終回なのかっ!」
そういう、「勝手な予測」を立てて欲しい。
そう思って作ったのが、あの「予告」である。
しかし、やはり老練なベテラン視聴者相手に、今さら小手先の、そんな無理くりなこじつけをやったところで、全てが手遅れ。
「やっぱりね。どう考えたって終んないでしょ」
「それに、最初の予告編の時に、ホーチミンに着くあたりの映像もあったしね。今さら着かないってことは、ないでしょ」
あっさり言われたのが、我ながら情けない。
では、結局、あの予告に使われた「ミスター!」という「大泉さんの呼びかけ」と、「私の身に、信じられない事態が・・・」という「ミスターのセリフ」は、どんなシーンから引っ張って来たのか?
前者は、「休憩」をする際、トランシーバーを持たないミスターに、大泉さんが「ミスター!休憩しよう」と呼びかけているシーン。こっから持って来た。
これは、放送でも登場したから、「なんだよ。これか?」と思った人も多かったことだろう。
しかし後者、「私の身に・・・」というミスターの言葉は、放送では登場していない。
実はアレ、夜間走行中、ミスターの口の中に「虫」が飛び込んできて、慌てふためくミスターが吐いたセリフである。
「私の身に、信じられない事態が、起こっています」
そりゃそうだろう。
いきなり口ん中に「虫」が飛び込んできて、おまけにそれを「飲んじゃった」んだから。
「ミスター・・・なんか泣いてたような気がする」
違う!違う!全然違う!
ミスターは、「虫」を必死に吐き出そうと、ゲホゲホしてたんだ、ありゃ。
ただそんだけ。
でもね、不思議なことに、その「ゲホゲホ」の前後に、大泉さんの「ミスター!」という切羽詰ったような「叫び声」を入れると、ミスターが、涙をこらえてるような、どこか「せつない声」に聞こえてしまうんですね。
全部知ってる大泉さんたちが見たって、ちょっと「しんみり」してたもの。
不思議ですね。
これがいわゆる、どうでしょうの「予告編マジック」なんですね。
お互い「無関係」な「言葉」と「映像」を組み合わせることによって、「本来の意味とはまったく違うストーリー」を作り上げる。
緊張感あふれる「ガメラ」のサントラにのって、各企画の前に流れる恒例の「長編予告」。
ベテラン勢には、周知のことと思うが、この際だからハッキリと言っておこう。
あれは、すべて「この手法」によって、ストーリーを「壮大に」「緊迫感を持って」「危機的な」状況へと、勝手に「作り上げているもの」であって、実際の企画内容とは、「大きくかけ離れている」場合が多い。
だから、よくよく見れば、「予告編」で使われていても、いざ「本編」となると、全く登場しない場面やセリフなんてのは、結構多い。こんなこと、普通の予告でやったら、詐欺だ。
でも、ウチは平気でやる。
「どうでしょうの予告」というのは、「次回企画内容の見せ場」「ウリ」「あらすじ」なんていう「本来の予告編の意味合い」は、ほとんど無い。
それより、いかに「緊迫感」を持たせ、いかに皆さんを「興奮させるか」その点を、重点的に追求している。
例えば、だ。
疾走する車の映像に、「目的地までおよそ200キロ!」なんてセリフをかぶせてみる。
するとアラ不思議!「なにやら急を要する事態発生!」なんて印象を、見ている者は、勝手に抱いてしまう。
大泉さんのなんでもない後ろ姿に、「いや!ヤバイって!」なんてセリフをかぶせると、「うわ!大泉さん!何をしたんだッ!気になる!」ってことになる。
これが、およそ1秒から2秒の間隔で次々と映像が切り替わり、あっという間に1分経過。
見てる方は、「なんだ!なんだ!なにが起こったんだッ!」整理もつかない間に、「ズドーン!」と企画タイトルが出て、予告が終わる。
「うーん!・・・なんかわからんが、とにかく今度はスゴそうだ!」
ずいぶんと興奮しちゃって、「よしっ!」なんつって膝を叩いて、トイレに立つ。
しかし、トイレの中で、ふと我に返れば、結局「なにがスゴイのか」、ひとっつもわからないまま、「まぁ、いいか」なんて言いながら、慌ててチャックを下ろして用を足す。
「どうでしょうの予告」というのは、あくまで「なんだか知らんが、とにかく緊迫した予告編」という、これはもう、ひとつ独立した「本編」なのだ。
「どうでしょう」は、
「映画並のスピーディーな緊迫感」と「テレビ以下のバカバカしい笑い」。
このふたつが同居する。
この意次元のふたつの世界を、同じ「映像」と「音声」で作り上げる。
そこに、なんとなく、この番組の「異質な世界」が存在してるんではなかろうか。
いや・・・こりゃまたずいぶん、えらそーなことを言ったな。
話を戻す。
あっまだ長いから、トイレに行きたいなら、今、行っておけ。
さぁ、「ただの第6夜」。4日目だ。
「ベトナムの夜」を迎え、我々は、相当に「緊張」していた。
向かってくる車のライトが、なぜかすべて「ハイビーム・上向き」なのである。これは、ベトナムが「車社会」ではない故の、「マナーの不備」であろうと思われる。
だからとにかく、眩しくて前が見えない。
だから、路面の状況がわからない。
穴に落ちれば、一発で転倒。
その上、無灯火のカブ、自転車が、昼間と同様、あちこちから飛び出してくる。
さすがの私も、言葉が出てこなかった。
事故が起きなかったのは、あの夜に関しては「運が良かっただけ」だと思う。
もしも、「ベトナムをカブで縦断したい」という人がいるのなら、これだけは言っておく。
「ベトナムを走ること」それ自体は、正直、そんなに危険なことじゃない。
しかし、「夜間走行」だけは、「絶対にやめた方がいい」。
4日目。「猛暑」と「悪路」と「夜間走行」。恐怖の「3本立てステージ」をクリアして、夜8時過ぎ、ようやくクイニョンに到着。
クイニョンの宿。
ここで実は、大泉さんの積荷「ジャックフルーツ」を切ってもらって、食べた。
参った。
匂いが、スゴイ。
「腐ったような」ではないんだけれど、「強烈なフルーツ臭さ」が部屋中に充満した。
で、お味の方。
「うーん・・・まずくはないけど・・・うまくはない」
大泉さんの感想である。
さて、この夜。ミスターの「トランシーバー紛失問題」に、ひとつの「解決策」が示された。
日本から、なんとミスターの奥様、通称「副社」(オフィスキュー副社長)が、トランシーバーを持って「ベトナムまでやって来る」というのだ。
驚く。
でも、これは大事なことだが、大泉さんは、実際のところ、それを聞いた瞬間「ハデに驚く」というより、じっと考えた。「考えた」というか、現実的な「心配」をしたようだ。
「いくらなんでも、それだけのために、高い金出して・・・」
そうだ。その「感覚」。大事だ。
「トランシーバーを持ってくるだけのために、ベトナムまで奥さんを呼びつける」
確かに「おもしろいしハデな演出だ」と、一瞬思う。
でも、そんなやり方は、単なる「金満」だ。「一般的な常識」「金銭感覚」からは、かけ離れている。企画で、海外に行くのとは、別次元の傲慢な演出だ。
だから、ここはあっさりと、正直に、その「真相」を大泉さんに話した。
ベトナム料理店をやっている奥様が、たまたま時期を同じくして、ホーチミンに来る予定になっていた。
だから、ミスターはトランシーバーを紛失したその日の夜、すぐに日本へ電話をし、一連の手はずを打っていた。
運のない我々ではあるが、「幸運」が舞い降りた。
奥様には、ホーチミン滞在中のスケジュールを、一部変更してもらい、我々に協力していただいた。心よりお礼を言いたい。
結局、ニャチャンまで来ることになった奥様も、「どうせホーチミンまで戻るんだから」ということで、最後の2日間、ロケに同行することになった。
大泉さんなどは、
「ミスター、わざと落としたんじゃないの?奥さんに、最後の旅を見てもらおうと思って」
なんてなことを言っていたが、まさかそんなことはあるまい。
いや・・・でも、もしかしたら、
もしかしたら・・・そうだったのかもしれない。
でもそれは、ミスターの仕業ではなく、きっと「どうでしょうの神様」が、巧妙に仕組んだイタズラだったんだろう。
決して、これが「最後の旅」なんかじゃないけれど、でも、それだけの「重みのある旅」の最後に、神様がミスターへ、粋な計らいをしてくれたんじゃないだろうか。
旅を終えた今、なんとなくそんな想像をしている。
5日目。クイニョンから、「強風」の中、250キロを走行し、ニャチャンへ到達。
そして翌朝、空港で、さわやかな笑顔とともに、日本からトランシーバーを運んできてくれた貴婦人を迎え、いよいよ6日目がスタートを切った。
その日。ミスターの背中には、こう書かれてあった。
「妻よ、ありがとう」
それは、別に今回のトランシーバーの一件にとどまらず、その昔、ほとんど収入の無かったころから、ずっと自分を支え続けてきてくれた、気丈で、がんばり屋な奥様への、正直な感謝の気持ちだったんだろう。
そんな夫の背中を見た奥様は、少し眠そうな目をこすりながら、こう言った。
「なにアレ?やめてもらいたいわ」
そして、ひとつ大きなあくびをすると、そのままパンにかじりついた。
・・・腹が減っていたんだろう。
原付ベトナム縦断。ホーチミンまで、あと2日。
いよいよ・・・いよいよ、6年間続いた我々の長い旅も、一度、ここで終わる。
2002年9月23日・午後3時。
放送の2日前。
すべての作業を終えた。
「いい音楽」にのせて、最後のエンディングは、テレビとしては異例な4分に及ぶ。
今は、ただ、
みなさんに、最後まで、ぼくらの旅を、見届けてほしい。
みんなが、見てくれてたから、ぼくらは、今まで旅をしてきた。
だから、巨人の胴上げがあったって、見届けてほしい。
そう、願うのみだ。
9月25日水曜日。午後11時15分から午前0時15分まで。
「水曜どうでしょう ラスト・ラン 1時間スペシャル」
放送です。