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「ドキュメント9・25」第2話

藤村 | 2002.10/29(TUE) 13:01


 9月25日、水曜どうでしょう「感動の最終回(いったん)」。その日を我々は、どう迎え、どう戦ったのか。

 その知られざる舞台裏を、赤裸々に描いて・・・と思って、書き進めるうち、「思わぬ長編」になってしまった「ドキュメント9・25」。

 今回は、その「第2話」である。「第2話」ということは、これはまだ「続く」ということである。「長げぇよ」と言うな。いいから読め。

 最終回放送まで1週間を切り、残された作業は、「4分に及ぶエンディング」、「本編すべてにスーパーを付ける作業」、そして、いつのまにやらオーバーしてしまった「およそ5分をカットする作業」であった。

 「5分」と言うと、これはかなり多い。「水曜どうでしょう」は、30分の番組だが、CMやらオープニングやらを除くと、本編そのものの枠長は、約22分。その「5分」だから、およそ「1/4」だ。最終回は1時間とはいえ、これはかなりな分量だということがわかる。

 だが、一気に5分もカットできるシーンなんて無い。そこで、10秒や20秒、時には3秒程度のシーンを細かくカットしていくことにした。

 例えば、冒頭のナレーション。初日からのストーリーを丹念に振り返っていたが、スパッとカット。ミスターの奥様の車中でのご様子(雑誌を読みふけり、居眠りをし・・・等々)も、カット。そして、最も多くの部分をカットしたのが、「パンクした後、大混雑のホーチミン市街を走るシーン」であった。

 ホーチミンは、ベトナム最大の都市。その混雑は、ハノイの比ではなかった。これまで経験したことのないカブの大渋滞。その喧騒の中を、涙声で交信しながら走る・・・。

 泣けるシーンではある。

 しかし、これをバッサリとカットした。そして、割とあっさりノボテル・ホテルのゴールシーンへとつなげた。

 正直なところ、「どうでしょう」には異質な「泣かせ」のシーンを長引かせれば、視聴者を「冷めさせる」ことにもなりかねない、そういう計算もあった。

 だが、VTRを見た大泉洋に、ひとつ、こう言われた。

 「藤村さん・・・あの大事な言葉を、カットしちゃったんだね」

 「あら?どんな・・・」

 「あなたが言った『大泉くん、見てるぞ』ってやつ・・・」

 「アレかい?」

 「ぼくはねぇ、あの言葉で、もう、ダメになっちゃったんだよ」

 実のところ私は、大泉洋が、あのセリフで泣いたとは、この時まで、全く気づいていなかった。

 事実、ロケが終わって、少し落ち着いた時、私はヤツに聞いた。

 「大泉さんは、どの辺でこう・・・きちゃったわけ?」

 「ぼかぁねぇ、ホーチミンの町が見えた橋の上でさぁ、なんかミスターの背中を見てたら、泣けてきちゃいましたねぇ・・・」

 そんな言い方をしていたのだ。だから、私のセリフなんか気にもとめていなかった。

 「アレで来た?」

 「来たねぇ・・・」

 そうだったのか・・・。

 「あのセリフ」は、そういうことで、実は放送直前になって、急遽、足しこまれたものだったのである。

 その後、思い入れたっぷりの「4分のエンディングシーン」の編集。6年間撮り貯めた膨大なテープを引っ張り出し、映像をはめ込む。同時に「写真」も入れ込むことにした。

 我々にとっての「どうでしょう」は、決して「VTRに記録されたものだけではない」。カメラが回っていないところで過ごした、我々だけの時間。

 「何気ない旅の1コマ」を切り取った「写真」によって、視聴者の皆さんに、それを伝えたかった。

 そして最後に、「決して映像には映ることのない」私と嬉野君が、大泉くんと語り合っている・・・そんな写真を通して、

 「あぁ、このひとたちは、そうか、4人で旅をしていたんだなぁ・・・」

 改めて、そう感じていただきたかった。そうすりゃぁ・・・もう、なんだ、泣くだろうと。

 そうして出来上がった素材の全編にスーパーを付け、最終的に、我々の作業が終了したのは、放送の4日前、土曜日深夜のことであった。

 【日曜日。放送3日前】

 編集の終わったテープは、音効・工藤ちゃんの手に渡り、そこにBGMや効果音が入れられ、全体の音声レベルを調整し、それでようやく全ての作業が完了する。

 【月曜日の午後。放送2日前】

 工藤ちゃんが完成したテープを持って現れた。

 「どうだ?工藤ちゃん・・・泣いたか?」

 私は、すぐに聞いた。

 実は、この世で一番最初に「完成した水曜どうでしょう」を見る人間は、私でも嬉野君でもなく、最後の音入れ作業をする、この工藤ちゃんなのだ。

 だから、彼の感想というのは、いつも気になる。

 「あぁ?なに言ってんのよ。見てみ。おれの顔」

 見ると、工藤ちゃんの目の下にクマができて、なんだか腫れぼったい。

 「泣いた?」

 「泣くって!あれはズルいって!」

 「ははは!そうか!」

 「いやぁ・・・なんか、オレもやっぱり、思い入れがあるんだなぁ・・・」

 月曜日・午後3時。

 「水曜どうでしょう ラスト・ラン 1時間スペシャル」は、遂に完成した。

 しかし、この時・・・。

 運命の「9月25日水曜日」に向け、「あるひとつの重大事」が、我々の力が及ばない世界で、確実に進行していた。

 この事態の進展によっては、最終回の放送が、「とてつもなく大きな影響を受ける可能性」があった。

 そう・・・。

 「野球中継」だ。

 この時、読売巨人軍が、優勝まで秒読み段階に入っていたのである。

 運命の9月25日。テレビ朝日系列では、午後7時から、甲子園で行われる「阪神―巨人戦」の生中継が予定されていた。万が一、この日の中継に「巨人優勝」がブチ当たると、その後に予定されていた番組編成は、大幅な変更を余儀なくされる。

 当然、「ラストラン・スペシャル」の放送時間も、多大な影響を受けることになるのである。

 「運命の9月25日」まで、あと2日―――。

 ここからは、「当時」の日記に記された文章を中心に、「その時」までの「激動の裏舞台」を追って行くことにしよう。(いいか。このへんから、NHK「その時、歴史が動いた」風に行くぞ。見たことないやつは、見てから読め。)

 【9月23日(月)の日記】(藤村)

 本日午後、音効・工藤ちゃんの作業が終了し、これをもって「ラストラン・スペシャル」が、無事、完成した。

 いよいよ放送は、あさって!

 で、気になるのは、「野球」である。今わかっている状況をお伝えしておこう。

 現在、巨人のマジックは「2」。今日か、明日には優勝が決まる可能性が高い。そうすると25日の巨人戦は「消化試合」となり、「野球放送の延長対応はない」。11時15分、定時に番組はスタートする。

 しかし、まさに25日、優勝が決まってしまった場合。最大、50分程度、番組が繰り下がる可能性がある。

 「いったい何時に放送がスタートするのか」

 こればかりは「その時」になってみないとわからない。できることは、ただひとつ。

 全員、テレビの前に、待機ッ!

 ・・・23日月曜日の時点で、巨人のマジックは「2」。月曜、そして火曜と巨人が連勝すれば「優勝決定」、翌水曜日の試合は、「消化試合」となり、「ラスト・ラン」の放送は「定時スタート」となる。

 さて、(こっからは松平アナ風に読めよ)月曜日。巨人軍は、見事勝利をおさめたのでしょうか。

 翌日の日記を見ることにいたしましょう。「ラストラン・スペシャル」放送の前日です。

 【9月24日(火)】

 明日だな。いよいよ明日だな。9月4日から3週間。書き込みの量は、変わらず膨大。
 しかし、皆様の気持ちは、しっかりと「リセット」されたようである。

 それでよい。その気持ちで、明日のオープニングを迎えてくれ。

 さて、「野球情報」だ。

 昨夜、巨人が勝って、現在、巨人のマジックは「1」。今夜、巨人が勝つか、ヤクルトが負ければ優勝決定。しかし今夜、巨人が負け、ヤクルトが勝つと、胴上げは明日に持ち越し。

 すると「明日の番組編成」は、とんでもないことになる。

 番組スタートは、定時の「23時15分」から、「24時01分」まで、「最大46分」繰り下がる。

 この「46分」の間、およそ5分刻みで、番組のスタート時間が、めまぐるしく変わる。

 23時21分かもしれないし、23時46分かもしれない。

 これは、野球中継の進行状況により、「直前」までわからない。

 「いったい1時間スペシャルは、いつスタートするのか!」

 わかんないぞ。誰にもわかんない。

 見逃すな。見逃すなよ!

 最後まで、ドキドキさせて悪いが、頼むぞ!諸君!

 そして巨人!勝てよ!今夜!

 ・・・さぁ、放送前日の「9月24日・火曜日」が「巨人軍」にとっても、そして「どうでしょう軍団」にとっても、「天王山」となりました。

 この夜の試合、巨人が勝てば、文句なしの優勝であります。「どうでしょう」も定時スタート。

 しかし、「そうはさせじ!」と、両者の前に壁のごとく立ちはだかる軍勢がありました。

 巨人を憎み、打倒巨人を生きがいとしてきた闘将・星野率いる阪神軍であります。

 戦いは、一進一退を繰り返し、遂に延長戦に突入いたします。異例の長期戦でありました。

 この時、生中継を担当していたのはフジテレビ系列。午後10時を過ぎても、全く終わりの見えない試合展開に、編成担当者は、肝もつぶれる思いであったといいます。

 この合戦に、ようやく決着がついたのは、試合開始から5時間が経過した午後11時のことでありました。結果は、延長12回、星野阪神軍のサヨナラ勝ち。巨人は、星野の前に、もろくも崩れ去ったのであります。

 さぁ!危うし「どうでしょう軍団」!

 ・・・しかし同日、巨人を追う第2位・ヤクルト軍が尾張・中日軍に敗れ去ったため、巨人の優勝が、自動的に決定。闘将星野は、皮肉にも、自ら倒した巨人・原監督が、悦び、宙に舞う姿を、目の前で見ることになったわけであります。

 こうして無事、「どうでしょう1時間スペシャル」は、「定時スタート」が決定いたしました。

 さてこの夜、フジテレビ系列の番組編成は、悲惨なものでありました。ゴールデンで放送予定だった「ナース物語」が実際に放送されたのは、深夜0時を過ぎておりました。

 歴史に「もしも」は禁句でありますが、「もしこれが、翌日の出来事であったなら・・・」そう思うと、ゾっとします。

 感動の「ラストラン・スペシャル」は、午前2時ごろから放送開始・・・。

 そんな時間から、1時間も見ておりましたら・・・「見ておりましたら」って・・・んなもん見ねぇよ!バカ言うな!みんな寝てるよ!と、いう所でございます。

 さて、放送前日に「最大の危機」を回避した「どうでしょう軍団」は、いよいよ「運命の9月25日」、その日を、迎えることになります。

 しかし、本当の戦いは、ここからが本番だったのです。

 さぁ、今夜の「その時、歴史が動いた」は、「アクセス数50万件にも及んだ番組ホームページ」、その更新作業に、たった二人で敢然と立ち向かった男達の物語であります。

 「その時」、男たちは、なにを思い、どう戦ったのか?

 2002年9月25日、水曜日。

 戦いの火蓋が、いよいよ!切って落とされるのであります!
(もうやめよう。この口調、疲れる)

 【9月25日(水)午後3時】(藤村)

 札幌は、朝からとてもいい天気だ。気持ちのいい日だ。

 午後3時現在、嬉野くんはまだ出社していない。夜に備えているのである。
 今夜は、掲示板の更新を倒れるまでやるつもりである。

 昨夜、巨人が優勝を決めたため「ラストラン 1時間スペシャル」は、定時の23時15分にスタートする。終了は、24時15分。

 では、今夜。

 テレビの前で、お会いしましょう。

 ・・・この日、札幌は朝から好天に恵まれていた。私は午前10時に出社。
 
 いつもなら、すぐさま編集室にこもり、昼食も取らず、夜まで一心不乱に編集作業に没頭!・・・というところであるが、もう、編集室へ行くこともなかった。

 「我々のベトナム」は、すべて、終わったのだ。

 いや・・・待てよ。

 そうだ!大事なことを忘れていた。終わっちゃいない!

 この時、私は、大事な仕事をひとつ、思い出したのであった。

 つづく!(次回が、本番だ!)