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ドキュメント9・25 第3話「死闘!40時間耐久更新作業」の巻

藤村 | 2002.11/18(MON) 18:04

 お待たせした。「ドキュメント9・25」の続きである。

 前回「もったいぶりな」終り方をして、「早く続きを書け!」と思っていただろう。いよいよ、だ。

 今回は、当時の資料(日記だ)を元に、前回以上に完全「ドキュメンタリータッチ」で「あの日」の裏側を描いてみた(「その時歴史が~」風はやめたぞ。長くなるから)。

 心して読め。

 ちなみに、「第3話」ということは、まだ「最終回」ではない。これはもう、「ウラ」始まって以来の「長編」である。

 では、行くぞ!

 運命の9月25日。「ラスト・ラン1時間スペシャル」放送日。

 私は午前10時に出社。

 いつもなら、すぐさま編集室にこもり「作業開始!」・・・というところであるが、もう、編集室へ行く必要はなかった。

 「我々のベトナム」は、すべて、終わったのだ。

 (いや・・・待てよ。)

 この時、私は「大事なこと」をすっかり忘れていたことに、気付いた。

 ※こっから、気になる「第3話」のスタートだ。

 (いや・・・待てよ。)

 (あ・・・思い出した!)

 「そういえば!・・・ベトナムの「出張清算」が残ってた!」

 「くっ!おい!なんだよ!1ヶ月近く待たせといて、んなことかよ!」
 「最終回の放送に大きな問題が!とかそういうんじゃねぇのかよ!」

 そう思っただろ?うるさい!とりあえず「次に期待させとく」のが、我々の常套手段だ。いいからもう気にせず読み進め。

 まぁ、7月に「ベトナム出張」を終えて以来、その清算を全くやってなかったのだ。

 私もサラリーマン。番組制作にかかわる金の精算は、重要な職務のひとつだ。

 しかし、出張を終えてからというもの、経理部から「清算は?」「はい。すぐ出します」「できました?」「いや、まだ」「もうできました?」「ええと、まだです」「できましたよね?」「はい。もうすぐ」、そう言っておよそ2ヶ月。めんどくさい出張清算を先延ばしにして来たのだ。

 別にこんなところで言い訳したってしょうがないが、ほんとメンドくさいのである。

 ロケ中の食事代、飲み物、ジャック、お香、現地で使ったお金、そのすべての領収書が、無造作に私のバッグに詰め込まれてある。中には金額だけを殴り書きしたような「紙切れ」もある。

 これを、ひとつひとつ整理し、所定の用紙に使用細目を書き込む。

 (えー食事代、35万6千・・・えぇッ!35万ッ!なッ!なに食ったんだ!)

 慌ててはいけない。

 ベトナムの通貨「ドン」を「円」に換算すると、1ドン=0.008円。

 「35万6千ドン」は、日本円でおよそ「2800円」。4人で、たらふく食って、この値段だから、べらぼーに安いのだ。

 一方で、こんな領収書もある。

 (えー食事代、35・・・ん?35?おい、いくらなんでも「35ドン」は、安すぎねぇか?)

 違うのである。「35」は35「ドン」ではなく「35ドル」。つまりアメリカ「$」だ。

 ベトナム国内では、アメリカ「$」も、現地通貨「ドン」と併用して使われるのである。

 どうだ。

 文字通り「ケタ違い」の2種類の通貨を、ひとつひとつ「円」に換算し直し、さらに英語表記の領収書を解読して、その使用目的を記入する。とにかくメンドくせぇんだ。

 放送日の25日、私はこの作業に忙殺され、そしてようやく夜9時、帰宅することになったのである。

 【9月25日(水)午後9時の日記】

 現在夜9時を回りました。

 嬉野くんは、午後5時過ぎに出社し、それ以来、編集室の掃除をしています。
 私は、朝から「ベトナム出張」の精算をしています。
 本当は、ロケから帰ってすぐやんなきゃいけないのに、忙しくて、やっと今日。
 一枚一枚領収書とにらめっこをし、「これは、あそこで食った昼飯か?」なんて思い出しながら。

 さて、あと2時間後です。

 私は、そろそろ帰ります。

 あとは嬉野くんが引き継ぎます。(藤村)

 ・・・放送当日。私は、嬉野くんをひとり残し、帰宅することにした。

 話は前日にさかのぼり「9月24日」のこと。

 「明日は、遅く出でて来ますから」

 嬉野君が帰り際に、言った。

 「おっ・・・明日は徹夜なさる?」

 「やりたかないけど、しょうがないでしょう」

 重大発表のあった「7月24日」、そして、ニセ最終回の「9月4日」もそうであったが、放送後、ホームページへの「膨大な書き込み」が予想される夜は、なぜだか

 「嬉野君ひとりで徹夜の更新作業にあたる」

 そう決められていた。

 決めたのは、私ではない。キミらだ。

 「うれしーのBBS祭り!」とかなんとか、勝手なネーミングまでして、「今夜は、やりますよね!」なんて期待するもんだから、嬉野くんも引っ込みがつかなくなっていたのである。

 「藤村くん、さすがにこの歳で徹夜は、キツイんだよ・・・」

 そうだろう。そうだろう。でも、こうなったらしょうがないのだ。お客さんは、嬉野くんを待っている。

 さて「25日」。その嬉野くんがやって来たのは、夕方5時を回った頃だった。

 「おっ・・・もういらっしゃった?」

 「アレ?もっと遅くてもよかった?」

 「よかったんじゃない?だって、徹夜すんでしょ?」

 「藤村くんね、言っとくけど、徹夜は無理だよ。たいがいには帰るよ」

 「わかってますよ。あんなの徹夜でやったら大変だよ」

 確かに大変なのだ。

 説明しておこう。

 我々の「更新作業」とは、こんな手順で行われる。

 1.まず、諸君から送られて来る書き込みは、そのまま、我々の「作業専用ページ」に届く。

 2.ここで、ひとつひとつに目を通し、読み終えたらレスを書き込み、「登録」もしくは「削除」のボタンを押す。1件1件押すんだ。

 3.ひたすら同様の作業を、サーバーに貯まったすべての書き込みに対し繰り返す。

 4.すべてをチェックし終えた所で、ようやく最後の「ホームページに登録する」のボタンを押して、ようやく作業完了。ホームページ上にキミらの書き込みが反映される。

 ついでに言っておけば、「作業ページ」には、容量の限度がある。(キミらが見ている「掲示板」は、10ページあるね。それよりもかなり多い量だ。)そして、それを越える書き込みが殺到すれば、古いものから順に自動的に抹消されていく。

 つまり、我々が「作業ページ」で、どんどん更新をしていかないと、諸君のメッセージは、陽の目を見ることなく、消え去ってしまうのだ。

 「だったら、D陣の手を煩わさず、自動的にホームページに載るようにすればいいのに。」
 「せっかく書いたのに、自分の書き込みが消えるのは許せない」

 言われてもダメだ。

 どんなにメンドくさくても、「水曜どうでしょう」と名のつくものは、我々の目を通さないと、みなさんにお見せすることはできない。管理できない商品をお出しするわけにはいかないのだ。

 運悪く、我々の作業が遅れ、消え去ってしまったのなら、アッサリあきらめてくれ。

 そうならないために、そう、嬉野くんが、臨戦態勢で、夕方出社してきたのだ。

 出社したまま、「出張清算」に追われる私を尻目に、編集室にこもり、パタパタと掃除を始めていた。

 そして夜9時。

 「じゃ、そろそろ帰りますよ」

 私は、嬉野くんに声をかけた。

 「ミスターと大泉さんのメッセージ、ビシッと放送直後に載せるように!」

 そうだ。嬉野くんには、「掲示板の更新」以上に、今回とても「重要な任務」が課せられていた。

 数日前、私は「最終回」に寄せて、初めて鈴井、大泉両名に執筆を依頼した。これまでは、我々ディレクター陣が管理・運営してきたホームページではあるが、「この日」、きっと視聴者のみなさんが、一番聞きたいのは、我々ではなく「あのおふたりの胸の内」だろう。

 その「大事なメッセージ」を、「放送直後のグッドタイミング」でホームページに載せる。
 
 とても重要な任務だ。

 「大丈夫ですよ」

 「ほんとかなぁ・・・」

 私は露骨なまでに疑念の目を嬉野くんに向けた。

 彼のパソコン操作には、多少疑問があったからだ。

 あれは、9月4日「ニセ最終回」の日。

 今回と同じ任務で、彼はとんでもない失態を犯していた。

 あの日。私は、きっと視聴者の皆様から「お怒りの書き込み」が殺到するであろうと予測し、「申し訳ございませんッ!」と題した謝罪文を、放送直後、急遽、自宅から会社の嬉野くんにメールで送った。

 「すぐホームページに載せて!」

 「よし!わかった。すぐやる!」

 電話口で嬉野くんは、頼もしい返事をしていた。

 この迅速な連係プレー。
 
 私は、受話器を置きながら、とっさに考えついた視聴者の皆様に対する「誠意ある事情説明」「誠意ある対応」に、満足していた。

 待つこと3分。

 「おっ!もう載ってるじゃないか!素早いぞ嬉野くん!」

 早くもホームページには、先ほど私が送った「誠意ある謝罪文」が掲載されていた。

 ところが、だ。

 その「タイトル」を見て、驚いた。

 どこをどう間違ったのか、私の書いた「申し訳ございませんッ!」という字句が、

 「訳ござ申しいませんッ!」

 という全くもって意味不明な順列に変換されて、堂々画面上に踊っていたのだ。

 「ど・・・どういうことだ。嬉野くん・・・」

 私は言葉を失った。

 「いったい!どんな操作をすれば、こんな文面になるのだ・・・」

 せっかくの「誠意ある対応」も、結果、

 「訳ござって・・・なんですかぁ?ウケましたぁ!」
 「うぷぷっ・・・あせってたんですネ!藤やん!」

 いいだけ失笑を買い、

 「(こんなダマシは、私にゃ)訳ございません。(でも)もうしません。そういう意味なんですね?」

 なんだか暗号並みの「解読」を試みるヤツまで出る始末・・・。

 あんな惨事は、もう二度と繰り返してはならない。

 「くれぐれも今度は・・・」

 「わかってますよ!もうちゃんと準備してます!」

 さすがの嬉野くんも反省したのだろう。今度は、入念な準備をしているらしい・・・あっ!

 あはは!そういえばその「準備」で思い出した!

 いや、大泉さんにね、放送の前の日「おい!ちゃんとメッセージ書いてくれよ!」って念押ししたらさぁ、ヤツがこんなことを言うわけ。

 「書きますよ。だって、嬉野さんから、なんだかスゴイお願い文書が届きましたもの」

 「なんだそれ?」

 いや、おれは知らなかったんだけど、嬉野くんが、大泉さんに宛てて、こんな「メール」を送ってたらしいのよ。

 スゴイのよ。これが。まぁ、読んでみ。

 【9月24日・大泉さん宛て、嬉野くんのメール】

 お世話さまでござります。うれしのめにござります。  先生、御機嫌いかがでござりましょうや。
 わたくし、若干の腹痛に微熱まで発して頑張っております嬉野めでござります。
 気持ち、頭痛も感じながらのこのメールでござります。

 さて、いよいよ明日最終回でござります。
 
 明晩は、放送直後に先生方のコメントをスタッフルームに上げさせていただく段取りでござりまするが、明日の晩、実際、先生方のコメントをネット上に上げまするは、わたくしめにござりますゆえ、「先生のコメントが書きあがりましたらわたくしめに送っていただきます」よう、あらかじめお願い申しておきます。

 この点、お間違え無きよう、重ねてお願いいたします。
 「藤村くんに送るんではなくて、嬉野に送る!」
 よろしいですね。

 わたくし、先生のコメントをあげるために明日は徹夜の態勢でございます。
 先生のために明日は徹夜。
 徹夜でございます。

 先生、御多忙のただなかと不肖嬉野、御推察もうしあげるのでございまするが、
 なにとぞ感激の一遍、ただ、ただ、お待ち申しております、わたくしめのありますこと、夢、お忘れ無きよう。On願いあげ奉りまする。

 以上。(嬉野)

 ・・・ぶはははは!どうだ!この文章!

 「わたくしめ」「先生」などと呼ばわり、妙に平身低頭のくせして、「若干の腹痛に微熱まで発して頑張っております嬉野めでござります」だの、「明日は徹夜。徹夜でございます!」だのと、聞いちゃいねぇのに、押し付けがましい身辺報告。

 これはもう、一種の「へりくだった脅迫文」だな。スゴイ手法だよ。受け取った方は、もうどうにも逆らえないもの。

 しかしまぁ確かに、その文面からも今回は、並々ならぬ「入念な準備ぶり」がうかがえる。

 この気合に押されてか、さっそく25日の夕方には、大泉さんのメッセージが嬉野くんに届いていた。

 「じゃ、よろしくお願いします」

 「帰るんだね、藤村くん」

 「帰りますよ」

 結局その日、私が会社を出たのは、午後10時を少し回った頃だった。

 放送まで、あと1時間。

 そして、いよいよ!嬉野くんの「孤独な戦い」が、スタートした。

 9月25日、午後11時15分。

 「ラスト・ラン1時間スペシャル」放送開始。

 私は、自宅のソファに腰掛け、ひとりで、それを見ていた。

 ひとりで少し、緊張していた。

 午前0時15分。

 放送は、無事終了した。

 泣きは、しなかった。さすがに。それより、気になっていた。嬉野くんが。

 そして、すぐにホームページにアクセスを試みた。何度かエラーが出て、なかなか繋がらなかった。

 (やっぱり混んでるな。嬉野くん大丈夫かな・・・)

 何度目かに、ようやく繋がった。日記には、こう書かれてあった。

 【9月26日(木)午前0時09分の日記】

 最後まで、
 ぼくらの旅を見守ってくれたみなさん、ありがとう。

 はるばる、海峡を越え、
 ぼくらの最後の走りを見届けようと駆け付けてくれたみなさん、ありがとう。

 遠く道外で、時をそれぞれに隔て、ぼくらの旅を追い続けてくれているみなさん、ありがとう。

 6年におよぶ、どうでしょうの旅は、今、終わりました。

 みなさんがこれまで番組に寄せてくれた、想いのひとつひとつに、深く感謝します。

 本当に、ありがとうございました。

 さぁ、ウラを押してみてください。

 ミスターと大泉さんから、みなさんへ宛てた、メッセージが届いています。

 良ければ、みなさん。
 掲示板に今の気持ちを書き込んでみてください。
 今夜は、不肖嬉野。
 死しても止まず!
 夜の明けるまで、更新に邁進する覚悟でございます! (嬉野)

 ・・・「死しても止まず!」とは、嬉野くん・・・。いや!見上げた根性!

 そして私は、すかさず「更新時間」を見た。

 「0時09分」。

 (よし。いいぞ)

 嬉野くんは、「0時15分」の放送終了直後ではなく、その「6分前」に、「日記」をアップしている。

 終了直後は、サーバーがパンクすることを見込んで、「1/6」のエンディングが終わり、その余韻を残して入った「最後のCM」、その一瞬のスキを突いて、彼は、素早く「日記」をアップしたのである。

(いい判断だ!)

 続いて、「ウラ」を押してみる。またしてもエラーが出た。みんな「ミスターと大泉さんのメッセージ」を読んでいるのだろう。しばらくして、ようやく繋がった。

 (おっ!ちゃんと載ってる・・・今回は嬉野くん!合格!)

 ひと安心し、そして、私も、読んだ。

 ・・・やられた。

 放送ではこなかったが、ふたりのメッセージに、やられた。

 しばらくパソコンの前で、鼻をすすり、そして「掲示板」を見た。

 まだ「放送後の分」は、アップされていないようであった。まさに今、作業中なのだろう。

 午前1時。私は、会社に電話を入れた。すぐに嬉野くんが出た。

 「どうだい?」

 「・・・やってますよ。」

 「ずいぶん来てる?」

 「いや、どうだろうなぁ、わかんない・・・まぁ、やってますよ」

 この段階では、いったいどれぐらいの書き込みがあったのか、誰にもわからない状態であった。

 「じゃ、適当なところで、いいから」

 「まぁ・・・やりますよ」

 嬉野くんは、言葉少なだった。

 「じゃぁ・・・」

 この時はわからなかったが、「みなさんからの声」を、ひとつひとつ受け取っていた嬉野くんと、まだ何も受け取っていない私とでは、明らかに「気持ちの違い」があったのだろう。

 電話を切ると、私は、嬉野くんの掲示板の更新を待たず、寝てしまった。

 9月26日。朝。

 嬉野くんにとって、長い夜が明けた。

 私は、午前8時に起床し、いつものように会社へと向かった。

 ちょうどそのころ、嬉野くんが、3回目の更新作業を終え、最後の日記をアップしていた。

 【9月26日(木)午前9時46分の日記】

 さあ、夜が明けました。
 もう朝です。
 たくさんの書き込み、本当にありがとう。

 掲示板には、放送終了後、24時30分から最初のでかい波が押し寄せて来て、
 波全体をアップさせるのに1時間30分ほどかかってしまったから、
 更新がないぞと、みんなやきもきしてたかな。

 次の午前2時30分ころから寄せてきたた第2波をアップし終わったのは、
 午前5時近かった。

 今日、あらためてビデオで最終回を見てくれる人も多くいるのだろうけど、遠慮せずに書き込みしてください。
ここは、勿論、これからも健在なのですから。

 もうすぐ、藤村くんがやってくるでしょう。
 あとは、藤村くん、よろしく。
 じゃぁ、ぼくは、これで帰ります。(嬉野)

 ・・・私が出社したのは、午前10時。

 嬉野くんは、ほんの数分前に、帰宅したようだった。

 だから、日記の文章でしか、彼の死闘を知るすべはない。

 「24時30分から最初のでかい波が押し寄せて来て・・・」

 それをアップするのに「1時間30分もかかった」、とある。

 レスをつけずに、黙々と読み、「登録」ボタンを押すだけの作業に「1時間半もかかった」ということだ。

 そして、午前2時に最初の更新が終了。

 続いて同様の作業を繰り返し、「午前2時30分ころから寄せてきた第2波をアップし終わったのは、午前5時近かった」。

 更新に「3時間」もかかっている。放送直後より、さらに作業時間が増えているのだ。

 つまり、放送終了から時間が経過するごとに、「時間当たりの書き込み件数」が、倍増していることがわかる。

 そして、3回目の更新作業を終えたのが、「午前9時過ぎ」。作業時間はさらに増えて「4時間」。

 朝を迎えるに従って、書き込み量は、減るどころか、増え続けていたのである。

 そんな状況の中、嬉野くんは、午前0時15分の放送終了から、およそ「9時間」もの長時間に渡り、書き込みひとつひとつに目を通し、更新ボタンを押す作業を、黙々と続けたわけである。

 そんな「死闘」を知る由もない私は、いつものようにパソコンの前に座り、とりあえず「掲示板」のページを開き、みなさんの書き込みを読み始めた。

 そして、すぐに、「とんでもない事態」に気がついた。

 みなさんの「書き込み時間」である。

 例えば、「午前3時16分」。この「たった1分」の間に、5~6件の書き込みがあり、さらに次の「3時17分」にも、数件の書き込みがある。

 見事に「1分刻み」で数人が書き込みをし、この「数珠繋ぎ」の状態が朝まで、延々と続いていたのである。

 「1分刻みで」。「朝まで」。

 なんということだ!

 この事態に気づき、初めて嬉野くんの、その夜の死闘が、はかりしれないものであったと痛感した。

 そして、私が寝てしまった後も、いったい何人の人たちが、このホームページを見、そして書き込みをしたか。

 きっと繋がりづらい状態で、せっかく書き込みしても「エラー」が連発したんだろう。普通はあきらめるのに、あきらめないんだなキミら。それで朝を迎えちゃったんだ。

 ・・・私は、パソコンに向かい、なにをどうしたらよいのか、わからないまま、とりあえず日記を書くことにした。

 【9月26日(木)午前11時53分の日記】

 9月26日木曜日です。
 おはようございます!藤村でございます。
 午前10時出社しました。

 今はね、なんとも言えないなぁ。
 さっきから、何度も書いたり消したりして、
 どんなことを言えばいいのか、わからん状態だな。

 でも、いいか。
 私は今、人生最大の恥ずかしい時間を過ごしているのだ。わかるな。

 ちょっと落ち着いたら、なにか書こう。

 それより、今は、ミスターと大泉さんのお言葉を、ウラの一番最初の目に付きやすい所に残しておく。

 ダメだもんなぁ。さすがに、放送は冷静に見てたけど、
ウラ見たら、ヤラレたもんなぁ。ダメだって!もう。

 じゃぁ、こっからは、私が更新する。

 嬉野くんは、私が出社する直前に、帰宅したようである。

 がんばり過ぎだ。朝9時過ぎまで。ほんと、がんばり過ぎだ。

 <ボロボロになった嬉野くんの最後の日記を残しておく>

 ~以下、前夜の嬉野日記全文を掲載~ (藤村)


 ・・・日記を書き終えて、「掲示板の作業ページ」を開く。

 すでに、容量を完全にオーバーし、いったい何件の書き込みが、消え去ってしまったのか、想像もつかない。申し訳ない。

 ひとつづつ読んでいく。
 レスを書いていく。
 いつもだって、

 「こんなおっさんでも、返事を貰った方が喜ぶだろうに」

 と思いつつ、

 「でも、それをやってたら本来の仕事の時間がなくなる。悪いけど・・・。」

 そういう葛藤が、人間だもの、当然ある。
 でも、今日は違う。
 今日は、時間がある。
 
 そして、私には、書き込み全てに返事を書く義務がある。

 そうして、パソコンに向かった。

【同日・午後3時30分の日記】

 藤村でございます。
 午前9時から11時までの書き込みをアップするのに、
 約4時間かかりました。

 もう全然間に合いません。

 再び更新作業に入ります。(藤村)

 ・・・「午前9時から11時まで」たった「2時間」の間にサーバーに貯まった書き込み、その全てにレスをつけるのに、4時間かかった。しかし、この4時間の間に、また絶え間なく書き込みがされていく。更新しても更新しても間に合わない。

 この後、同じく4時間をかけて2回目のアップができたのが午後7時。

 そして、夜11時を迎えた。放送終了からちょうど24時間後である。

【同日・午後11時の日記】

 昨夜の放送終了から、ほぼ24時間経過した現在11時まで、
 ほぼ毎分、途切れることなく、書き込みが続いています。

 朝、学校へ行く直前に書く学生諸君。
 昼前、掃除の手を休めて書く主婦のみなさん。
 午後、改めて昨夜のことを思い出し、書く皆様。

 時間の流れとともに、「本当にいろんな方がこの番組を見てくれていたのだ」と、実感した一日でした。

 あのね、ぼくはね、会社でね、
 また、少し涙ぐんでいるよ。

 じゃぁね。帰るよ。嬉野くんはね、来ない。
 死んじゃうから。

 いいな!この野郎!帰るぞ!(藤村)

 ・・・9月26日。私が帰宅したのは、深夜0時を大きく回ったころだった。

 翌27日。放送の2日後。死闘を演じた嬉野くんが、出社してきた。

 【9月27日(金)の日記】

 9月27日金曜日になりました。現在午後2時30分。嬉野です。

 あの日は、ねぇ…、よくわかんない、です。

 とにかく、みなさんの熱い想いを、
 ひとつひとつアップさせていただきました、
 夜通し。朝んなるまで。
 右肩がネェ、痛くなるほど。
 だってねぇ「01:36」とか、書き込みした時間が記録してあるでしょう。
 あれがさ、上げても上げても「01:36」なのよ、
 時間が進まないの。
 1分間の隙間に書き込みが束になって刺さってるですよ。
 ドカッ!ドカッ!っと。
 正直、クラっと、来るものはあったけど、
 ほんと、みなさん、ありがとう。
 あんなに来ちゃったら読まずには帰れない。
 申し訳なくて。

 そいで、昨日一日、気絶して、今日出勤して掲示板見てみたら、びっくりするじゃないか。

 藤村くんが、全部の書き込みにレスつけてるじゃない。
 想いはひとつだ。
 みなさん、ありがとう。

 で、まぁ、藤村くん、今もレス付けてる。
 これからは、掲示板管理が本業になるな。我々。
 望むところだ。(嬉野)

 ・・・嬉野くんが日記を書いている横で、私は、黙々と更新作業を続けていた。放送終了から2日目を迎えた27日も、書き込みは、一向に「減る」気配を見せなかった。

 そして、とうとうこの日は、1回も「掲示板」をアップできないまま、夕方を迎えてしまった。

 【同日・午後5時30分の日記】

 今、午後5時30分過ぎたな。
 暗くなってきちゃった。

 みなさんは、こう想ってるかもしれない、
 「昨日の7時くらいから、掲示板、更新されてないじゃん。」
 って、ね。
 「さすがに、Dも疲れて更新を放棄したかな?」
 って、ね。

 違うんだ。

 昼から、藤村くん、パソコンに向って、そりゃぁせっせとレスつけてるのよ。
 ところが、この時間までみっちりやってるのにまだ終わらない。
 だから未だに上げられないのよ。

 いったい何件分やってるんだろう。
 オレ、一個一個書き込みの数、数えてみた。
 したら、およそ650件もあった。
 びっくりする。
 昨夜から、今日のお昼くらいまでで、650件だもん。

 これアップしたとしても、ほとんどが掲示板の容量を越えて、流れ去るんだろうなぁ。
 でもね、自分のがアップされてなくてもガッカリしないでおくれ。
 藤村くんは、きっちり読んでたから。
 きっちり読んで、せっせとレスも付けてたから。
 きっちり、コミュミュケーションは完結しているのだから。

 この時間もまだ、みなさんのパソコンから、携帯から、粛々と書き込みが続けられてます。

 ほんとに、みなさん、ありがとう。ありがとう。(嬉野)

 ・・・27日の「掲示板」は、画面上、昨夜から更新が完全にストップしていた。嬉野くんが数えたところ昨夜11時から、この日の午前中までおよそ「11時間」の間に「約650件」の書き込みが寄せられていた。

 「11時間」=「660分」だから、放送から2日を経過してもなお、「毎分1件」という驚くべきペースで、書き込みが続けられていたのである。

 そして、この「650件」の書き込みを、ようやくアップできたのは、夜7時を過ぎたころだった。

 
 【同日・午後8時の日記】

 とうとう夜の8時になってしまいました。

 さきほど、藤村くんようやく更新作業を終え、帰宅していきました。
 午後1時から始めた更新作業が6時間半かかっちゃったわけです。
 へろへろになっておりました。
 藤村くん、ご苦労さん。

 さて、わたくし嬉野は、明日より九州の実家に帰省します。
 帰って、年老いてしまった母に会ってまいります。
 藤村くんもちょっとの間、お休みします。

 きっと来週、週明けのどっかで出てくるとは思いますが、日時は未定です。

 その日まで、ちょっとの間、このホームページは、静かになります。

 最終回の放送終了から2日間の熱気のカケラを残したままで。

 また、お会いしましょう。

 掲示板にアップできなかったみなさん、ごめんなさい。(嬉野)

 ~以下、2日間の「日記」全文が、掲載された~

 ・・・こうして、私と嬉野くんの「40時間以上にも及んだホームページとの戦い」は、終わりを告げた。

 さすがに2日連続で更新作業を続けていた私は、最後には「めまい」と「吐き気」に襲われ、画面を直視することもままならず、ラストの更新ボタンは嬉野くんに押してもらった。

 その後、我々が短い休みに入った間に「9月のHTB番組ホームページ・アクセス数」の集計が発表された。

 それによると「水曜どうでしょう公式ホームページ」は、25日の放送直後から、翌26日にかけて、パソコン・携帯合わせて「約50万件」という、かつてないアクセス数を記録していた。

 当分破られることはないだろう。

 ・・・あれから、およそ2ヶ月。

 信じられないことに、「ホームページ」へのアクセス数は、「番組をやっていたころ」より、逆に「増え続けている」。

 その数、パソコン・携帯あわせて、「一日平均10万件」。

 番組がいったん休止に入ってもなお、一日に10万件ものアクセスがある。

 「くそぉ・・・こんなに見られてちゃぁ、手も抜けん」

 おかげで我々ふたりは、寂しい思いをするどころか、楽しみながら「ホームページ版どうでしょう」を作り続ける毎日である。


 【第3話・おわり】

 さて、私と嬉野くんの「ドキュメント9・25」は、こんな感じであった。

 で、気になるのは「あのおふたり」は、どんな風に「あの日」を迎えたのか。

 次回、「最終話」で、そのうちのお一方、「大泉洋さんの9・25」を、私の綿密な取材を元に、お伝えしよう。

 そこには「驚愕の事実」が隠されていたのだ!

 なに?もう騙されないって?バカだな。読まないと損するぞ。もう、執筆は終っている。近々「更新」の予定だ。

 毎日、「押せ!」。