今世紀最後の放送も無事終了いたしました。
最後の放送は、何をやろうか?
一番思い出深いものはなんだろう?
そう考えて、3人に「一番つらかった旅は何?」と聞いてみました。
韓国・・・つらかった。
北欧・・・つらい、つらい、もう2度と行きたくない!
東京ウォーカー・・・歩いたもの、つらいよ。
でも、4人とも挙げたのが「マレーシアジャングル探検」でした。
・・・あれは、放送時間が11時台に繰り上がった最初の企画。気合も入っておりました。しかし残念ながら、視聴率は満足のいくものではなかった・・・。「おもしろいのに・・・」そんな悔しい思い出がある企画です。
で、改めて見返してみた。「おもしろかった!」
雪の降る札幌から、いきなり40度を超える熱帯のジャングルへ行ってしまった我々。
そして、あの「ブンブン」。
我々4人のほかに、誰もいない。
聞いたこともない「鳴き声」が、周囲を取り囲む。
「さっきから、キーキー言ってるのは、あれは虫か?サルか?」
確かめようにも、その声の主が、近くにいるのか遠いのかそれすらわからない。
「恐怖」という感情に、いくつか種類があるとすれば、生まれてから一度も経験したことのない種類の「恐怖」だ。
間もなく日が暮れる・・・。
「こんなとこ連れてきて、悪かったよ・・・」
本当にそう思った。冗談でなく。
そして、あの出来事。
みなさんは、「野生の猛獣」に襲われるかもしれない・・・という体験をしたことがあるだろうか?北海道ならヒグマに遭遇、ということもあるだろう。
でも僕はそんなことは、別世界の話だと思っていた。他の3人だってそうだ。
それが、出たのだ!目の前に!動物園で見たあの「トラ」が!
でも、オリがない!オリが無いんだぞ!
信じられるか!?オレは信じられなかった。確かにジャングルだ、ここは。でも、そんなに出るもんじゃない。そうだろ?そうやすやすと出られたら困るよ。
僕は、まず信じなかった。確かに「光る目」は見た。でも、きつねも猫もたぬきも、目は光る。
・・・そういうことを僕は考えていた。
第一発見者は、うれしーだった。「なんかデッカイのがいるぞ・・・」
次に見たのがミスターだった。「うん、いるいる・・・」
そして、とりあえずカメラを手に取って、回したのは僕だ。
テープが回り出した時には、すでに「それ」を見ちゃった二人は興奮状態だ。
う「こっち来るって!」「来る!?」
おもしろいことに、普段しゃべらないほうの二人が、しゃべりまくる。まくしたてる。
普通なら一番リアクションをとる僕は、「カメラ」を持っていたので、意外と冷静だった。その証拠に「100円ライター」を点火したのは、ちゃんと「ウケ」を狙ってた。
でも、興奮したミスターは、はなにもかけてくれなかった。
「なにしてんだよ!」大泉くんがかろうじて突っ込んでくれた。
みなさんは、本当に意外だと思うだろうけれど、大泉という男は、冷静だ。いや、冷静というより、「アクシデント」が起きると、まず「考える」。ほんの一瞬考えてから「的確なリアクション」をとる。むやみやたらに騒ぐようなうるさいやつではない。だから彼のリアクションは「おもしろい」のだ。
でも、この時は「考える」時間が長かった。だって、もし本当に「トラ」だったら「笑い事」ではない。のんきに「おいおいおい、そりゃ聞いてないぞ藤村くん!」とは言ってられない。だから、やつは「笑い事」になるのか、「本当に死ぬのか」どっちか確かめるまでリアクションをとれなかった。「テレビである」ことをずっと意識していた、ともいえる。
でも、あのふたりは違った。とくにミスターは違った。
「テレビとかそういうことじゃないだろ!トラなんだから!」
「防御策は・・・火だ!もし襲ってきたら何か燃やすんだ!」
「そして・・・そうだ、バリケード・・・バリケードだ!」
・・・確かに彼の作戦は正当だ。銃器を持たない我々にとって「火」は考えうる最強の武器だ。そして「バリケード」。敵の進入経路を遮断すれば、無用な戦闘を避けることができる。
「しかし、しかし隊長!敵が何物なのかまだ確認できておりません!」
「バカ者!トラだと言ったろう!」
「しかし隊長!縞もようが確認できませんでした!」
「バカ者!縞がなければ・・・じゃあ、ヒョウだ!おまえは、そんなこともわからんのか!」
「隊長!敵の姿を見失いました!」
「なに!そうか・・・やつはもう我々の真下に潜入したかもしれん。いやそうに違いない!」
「いいか、これからオレは、突進する。ここで待っていてはやつの思うつぼだ。」
そう言いながら隊長は、自分のTシャツを脱ぎ、それをぐるぐると腕に巻きつけた。
「何をするんですか!隊長!」
「いいから、このTシャツにおまえの100円ライターで火をつけるんだ!」
「待ってください!そんなことをしたら隊長の腕が・・・」
「いいんだ。」
「それに、まだトラと決まったわけじゃ・・・」
「まだわからんのか!トラかヒョウに決まってんだ!」
隊長の怒りの鉄拳が大泉隊員の顔面を打つ。
「いいか、おれがトラに突進して時間をかせぐ。その間におまえたちはこのブンブンに火を放って、逃げろ」
「隊長・・・」
「しかし隊長、そんなことをしたらジャングルが火の海になります」
ズコッ!再び隊長の鉄拳が大泉隊員の顔面をとらえる。
「・・・いいな、やるんだ。」
そして隊長は、残った3人の顔をじっと見つめ、こう言う。
「おまえたちのことは忘れない・・・じゃあ!」
彼は言うが早いか、はしごを駆け降り、漆黒のジャングルの闇に消えた。
3人は、目をこらして隊長の行方を追う。
次の瞬間、ジャングルに火の手が上がる。
「隊長だ!隊長の火だ!」
見ると隊長の二の腕が赤々と燃えあがり、それを大きく振りながらジャングルを突き進んで行く。
「出て来いトラ!おれは鈴井だ!出て来いヒョウ!おれは鈴井貴之だ!」
隊長の雄叫びがジャングルにこだまする。
「隊長ーッ!」3人が口々に叫ぶ。
「よし!じゃあ火をつけるぞ・・・ブンブンを燃やすんだ!」嬉野隊員がライターに手をかける。
「待て!」その瞬間、大泉隊員が叫んだ。
「あれを見ろ・・・」
「あっ!あれは・・・」息を呑む隊員たち。
彼らが見たものは・・・
ジャングルの暗闇をジグザグに進む真っ赤な炎の数メートル先を、「なんで?なんで?」というように、ぴょんぴょんと跳ねながら逃げていくシカの姿であった。
「隊長ッ・・・」
全員が唇をグッと噛み締め、隊長の灯す「勇気の炎」がジャングルの奥に消えていくのをずっと見つめていた。
・・・とまあ、あのトラ騒動も、あと10分「確認」が遅れていたらこういう事態になっていたに違いない。
「命の危険」というものを4人が感じたのは、後にも先にもこの時だけ。そりゃ今となっては、こっけいな笑い話だけど、やっぱりこの出来事は4人の中にドッカと腰をおろしていたんだなぁとつくずく思ったわけでした。