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「どうでしょう本」製作記録~日記から~

藤村 | 2004/10/04(Mon) 17:32:01

 「テレビでは出来ないことをやってみたい」という欲求から始まった「どうでしょう本」。日記ではその製作過程を逐次報告しておりますが、中でも皆様に大変ご心配をかけております「大泉洋の小説・初挑戦」の顛末を中心に、一連の日記をここに抜粋して掲載しておきます。

 本日は10月4日月曜日。「どうでしょう本」のデータ入稿日であります。本当にもう「ギリギリ精一杯の締め切り日」。果たして大泉洋の小説は、完成したのか。文末には、今日現在の状況を書き加えてあります。

 では、じっくりお楽しみいただきましょう。「どうでしょう本」の製作記録であります。

【9月10日(金):藤村】
どうもみなさんこんばんは。
そして、このページを1日2回チェックして「どうでしょうの最新情報を掴んでいる」という大泉さん、こんばんは。
藤村でございます。
さて、そんな大泉さんに重要な連絡がございます。電話より手っ取り早いので、この場をお借りしてお伝えします。

「どうでしょう本」の件。ほぼすべての原稿が出揃い、各ページのレイアウト作業に入っています。あなたが微笑む表紙のデザインも完成しました。残るはミスター、そしてあなたの原稿だけです。締め切りは来週水曜日15日です。ミスターのことは心配していませんが、あなたの場合、毎月「じゃらん」の原稿を焦って書いている姿を見ているので、全く信用していません。しかし、ウチの本は、1日でも締め切りに遅れた場合、あなたのページには勝手にこちらで「大泉洋です。原稿が書けませんでした。私はバカです」と大書し、製本に回してしまいます。冗談ではないことを、あなたは痛いほどわかっているはずです。水曜日と言わず、週明け早々にでも原稿を送った方が身のためです。

【9月14日(火):藤村】
まずは業務連絡。
鈴井貴之さん並びに大泉洋さん。すでに2万冊以上の予約が入っておりますところの「どうでしょう本」。今日現在、お二人の原稿がまだ届いておりません。わたくし少々心配しております。
大泉さん、あなたは「連載小説を書く」とか言っておりましたが、筆は進んでおりますでしょうか。天才ゆえ、逆に筆が進みすぎて「長編小説」になっているのでしょうか。であればこのへんで手をお止めになり、原稿の方、早めにお送り頂けますようお願い申し上げます。
ミスターさん、あなたは油絵を描くとか言っておりましたが、筆の方は進んでおりますでしょうか。才気溢れるお方ゆえ、絵筆が進みすぎて「壁画になっちゃっている」というのであれば、そのへんで筆を置いて、早々に壁画の一部でもお送り頂けますようお願い申し上げます。
老婆心ながら改めて申し上げます。締め切りは明日15日の水曜日。締め切りに遅れた場合、各ご芳名の横に「原稿を書けませんでした。私はバカです」と大書し、製本へ回します。「それもおもしろい」などとたわけたことをお考えならば、すぐに考えを改めて原稿に手をつけて頂けますようお願い申し上げます。

【9月15日(水):藤村】
さて本日は鈴井・大泉両氏の原稿締切日でございます。
今朝、パソコンを開けますと「鈴井貴之様」より原稿が届いておりました。さすがでございます。ちなみに油絵ではございませんでした。興味深い「自己分析」なるものを氏はしたためておられました。
で、夕方6時現在。まだ大泉洋氏からの原稿は届いておりません。ですが、私はこれから外出せねばなりません。

「すべては明日」と、そう言っておきましょう。

ね、大泉さん。小説の方、進んでますかぁー?みんな楽しみにしてますよぉー。

【9月16日(木):藤村】
さて昨夜、ちょっと訳あって「ドラバラ新作」の収録現場にお邪魔いたしました。そこでまぁ、大泉さんとお会いいたしまして彼から直接「原稿が多少遅れる」旨、通告を受けました。普段であれば「やっぱり大泉洋は原稿も書けないバカだ!」そう一喝するところでありますが、しかし、ここ最近のヤツの多忙なスケジュールを聞き及び、そして実際、深夜まで続く収録現場を目の当たりにして、それもいたしかたないと思った次第でございます。
しかし本日。嬉野くんがパソコンを開けると、ヤツから原稿が届いておりました。
「いったいいつ書いたんだ・・・あいつ・・・」
多少目頭を熱くしながら二人で原稿を開きます。
するとそれは、大泉洋の数十年後の姿を描いた物語でありました。
「あぁもう涙が出る・・・」
嬉野先生は書き出しを見ただけで、ハンカチを顔に当てます。

では、読んでみましょうか・・・。
二人で読み進めます。
しかし、
「ん?」
「・・・もう終わり?」
「短っ!」
ヤツの原稿は1枚半で終っておりました。
「こっからってとこなのに!」
「この先を読みたいねぇ」
皆さんもきっとそう思われるでしょう。
我々は迷わず締め切り延長を決めました。とりあえず大泉洋のページを残して他のすべての作業を進めます。

【9月17日(金):藤村】
午後10時。藤村でございます。
本日は昼からずーっと「どうでしょう本」のレイアウト作業に没頭しておりまして、まだその途中であります。何時までかかることか・・・。
そんなわけで掲示板は更新できないかと思われます。申し訳ない。
その代わり「ウラ」を更新いたしました。「ドラバラCDの音楽的考察」と題しまして、大泉さんはじめナックスの皆さんの作った歌について論及しております。
黙って「押せ!」

【9月18日(土):嬉野】
嬉野でございます。土曜というのに出勤でございます。
昨夜は、藤村先生と共に「どうでしょう本」の追い込みで夜中の2時まで働いておりました。大変でございます。
しかしながら、人間、たのしんで仕事をしておりますと元気なものでございまして、ぴんぴんしております。
現在「どうでしょう本」は、はさみで切ったり貼ったりの手張りの状況ではありますが、おおかたのコンテンツが出揃い、まさに本という実感でございます。そして昨日実感したことは「また面白い物が出来上がってしまったじゃないか!」という強い思いでございました。
うちは、もうとにかく「顧客商売」でございますから、顧客のみなさんへ向けての単一指向性の制作態度を一貫してとっております。
ですから今回も顧客の皆様方にとってはもう堪らない逸品となっておるのでございます。またしても厳しい年貢取立てとなるかと思ういますと申し訳ないやら嬉しいやら。これはもうお楽しみ、お楽しみ。

【9月22日(水):藤村】
昨日のこと。大泉さんから電話がありました。
「藤村さん、ウラ読みましたよ」
「お、読まれた?」
「素晴らしい。あの考察は素晴らしい。ぼくの言いたかったことが見事に書かれてるね」
「そうですか」
「ぼかぁよっぽど掲示板に書き込もうと思ったよ。惜しみない賛辞の言葉をね」
「そうですか」
「その前のミスターへの文章も良かったね。『あんたらの考えは小さい』なんてさ、ちょっとハードボイルドだったね」
「そうか」
「いやぁ!素晴らしかった!」
「おい」
「なに?」
「話はそれだけか?」
「え?」
「原稿」
「あ」
「書いた?」
「その件なんですがね、あのー明日まで待っていただけませんか?」
その電話は結局、原稿の締め切り延長のお願いでした。

大泉洋は今回の創刊号にあたり「小説を書く」と豪語し、数十年後の自らの姿を描いた物語を書き始めました。
1週間前に届いた原稿は、数十年ぶりに千歳空港へとやってきた大泉が、ある青年と出会うところから始まっておりました。嬉野先生などは、その書き出しを読んだだけで感無量、ハンカチを取り出したほどです。ところがその原稿はたったの1枚半で終了。
「え?もう終わり?」
先生は取り出したハンカチのやり場に困ったものでございます。
「もっと読みたい!」
我々の衝動は抑えきれず、異例の「締め切り1週間延長」を決めたのでございます。
それを「さらに1日延長しろ」と。
いやしかし、待ちましょう。寛大な気持ちで待ちましょう。

大泉くん。きのうはゆっくり眠れたかい?そうか。それはよかった。
いいものを書くには、時間がかかる。キミが褒め称えてくれた「音楽的考察」にしたって「ミスターへの言葉」にしたって、それなりに時間はかかってる。たっぷり3時間はかけているよ。そりゃぁキミの「浅田次郎風のちょっと泣けるいい話」とは比べるべくもないが、いいかい?ぼくは3時間だ。キミにはすでに1週間の猶予を与えている。1週間だ。ぼくらは待ったよ。1週間待ったよ。そしてぼくはきのうキミに聞いたね。「それで結局どれぐらい書いたんだい?」と。そしたらキミは言ったね。「この前の倍ぐらいにはなりました」と。「倍」ってのはどういうことだい?えぇ?にょういずみ。おめぇの書いた原稿は1枚半だ。その「倍」ってのは3枚じゃねぇか!3枚の小説ってなんだよ!おい。笑って読んでんじゃねぇよ。正座しろ!正座!いいか。このホームページは1日20万件以上のアクセスがある日本でも有数のページだ。そのページ上で、おれはおまえを説教してんだ!わかってんのか!わかったらその虫みてぇな脳みそでとっとと原稿書きやがれ!

本日の業務連絡は以上だ!

注)翌23日は祝日のため日記の更新はなかった。1日おいて24日の日記から。

【9月24日(金):藤村】
本日は昼から「どうでしょう本」の最終校正作業を行っておりました。
昨日までに大泉さんから届いた原稿はかなり増えて「計6枚」。しかし、ヤツから直接話を聞いた嬉野先生によると、「もう少しだけ時間があれば、大泉先生はまだ書きたい!と強く希望しています」と。「そんなこと言って、口だけでしょ」と言いますと、「さにあらず。大泉先生には壮大な構想がすでに出来上がっており、私はそのストーリーを少し聞いただけで身震いいたしました」と。嬉野先生は私の前でやけに熱弁を振るいます。「そこまで言うのなら」と、本日、最終校正を終えたにもかかわらずさらなる締め切り延長となりました。

もうなにも言うまい。

「どうでしょう本」創刊号にふさわしい「いいもの」を書け。

よういずみおう!

【9月27日(月):藤村】
先週は祝日も続きまして落ち着かない1週間でございました。
そんな中で、「どうでしょう本」の表紙デザインの画像が公開されました。いかがでございましょう。なかなかイイ感じに仕上がっておりますでしょう。ねぇ。全く「ふざけた」感じがありません。
でもこの表紙を見て「あれ?大スターお二人の顔が表紙じゃないんですね?」と、書き込みされている方が何人かおりましたね。それもそのはず、以前の日記で「表紙の撮影をしました」「お二人が微笑む表紙が完成しました」などと私が書いていたからです。
実はですねぇ、ここに載せた表紙はまだ「完成」ではないんです。誰ですか?「オシャレな表紙ですね」なんて書いてた人は。あなたねぇ、この写真は鈴井・大泉両先生が不在の表紙ですよ!2大スターのお顔がない表紙なんて「どうでしょう本」とは言えないでしょう!
ここに、両先生のお顔が見事に「アレンジ」されてデザインが完成するんです。その完成品はですねぇ、実際にお手元に届いた時に、あなた自身の目で確かめて下さい。

【9月28日(火):嬉野】
火曜日です。
ですよね…。
そーですよね。

どーも曜日の感覚に乱れが生じる今日この頃です。
うっかり間違いますとですねぇ、日記を上げたあとで掲示板に指摘がバババと書き込まれます。
「間違ってるよ!うれしー!ばれないうちに書き直さないと!」
優しいことを言ってくれるわけです。
こっちはもうジジイですから「いたわってやらないと」という皆様の配慮が濃厚なんでございますね。
「だって、うれしー年寄りなんだから、無理ないよ」
そーじゃねぇだろう。
なーんてなことも思いますが、優しく気遣ってもらったりしますと、あれですね、嬉しくないことはないわけです。
でもってね、優しくされて直ぐ喜ぶ時点で年寄り化した証拠なんだそうですね。なんか雑誌でそんなこと読みましたよ。
なんか心当たりありますもんねぇぼくも最近。やっぱり着実に年寄り化してる訳なんですねぇ。

さて、「どうでしょう本」ですがね、さすがに今回創刊号ですから全てに力が漲(みなぎ)っております。どのページも全力疾走でございます。それはあの、11月にローソンでお受け取りになられた後、みなさま自身がお手に取られ痛いほどお感じになられることだと思います。そして現在ほとんどの記事が出揃い、大泉先生の小説のページだけが白いままで残っておるのです。

ただね、私この前大泉大先生とHTB内で遭遇いたしまして。
小説の構想を御本人の口から直接お聞きしたわけでございます。
驚きました。
最後までしっかりした構想があったのです。
ただ、いかんせん大先生には原稿をじっくり書くだけの時間がない。そして実際大先生の書き上げられた原稿はまだ誰も読んではおりませんから最終的にどのような形になるのか正直なところわかりません。
しかしながら、少なくともぼくは、大泉大先生の構想を口立てで聞きながらあの方の人生を見る目の優しさとその愛の深さに不意打ちを喰らい、思いもよらず泣きそうになったのでございます。
年寄り=涙もろい。そう、ここでもこの図式が有効に立ち現れますから皆様わたくしの申すことは充分引き算して読まれるほうが良いのかもしれません。ここは強く言っておかねばならぬのかもしれませんね。
それに、何の期待も無くいきなり読んでもらう方が大泉さんにとっても書き上がりました作品にとっても、そして皆様にとっても良いことなのかもしれない。
ただ、あの時、わたくしが、大泉さんのお考えに強く心を打たれたのもまた紛れもない事実なのであり、書かずにはおられなかったのでございます。

おぉ、もう夕暮れでございますね。
今夜の晩御飯は奥様方なにを御作りになるのでしょうか?
じみーに腹が減って参りました。
そして、とんかつが食べたくなってまいりました。
美味しいとんかつ。
あんまり衣の厚くない、噛むと口の中で豚肉の繊維の切れていく食感がほどよく楽しめるお肉のとんかつ。
ロースが良いですね。中年には良くないと言われましてもロースが良い。
「おめぇーいつまでだらだら書いてんだ」とお思いになり始めた?あぁー、ねぇ。
久しぶりだったもんですから。なんつって締めてたのか思い出せないんですね。まぁいいです、今夜はなんとしてでもとんかつを食ってやろうじゃないですか。以上。

また明日。

【9月29日(水):嬉野】
昨夜はね、どうしても「とんかつ食いたい欲求」消しがたく。
夜更けに音効の工藤ちゃんに近所の「とんかつ屋」まで同伴してもらい、事無きを得ました。いやぁ食った食った。食いたいものを食いたい時に食えることの喜びや大なり。
それに、昨日はつられて「とんかつ」食われた方が沢山おられたもよう!晩ご飯時に具体的なイメージを出されるとやはりつられてしまうわけでございますね

さて、「どうでしょう本」の話をします。
今回主筆の藤村先生の「本」に対する打ち込み方がもう強いですね。チェックが厳しい。随所にダメが出ます。
「そーじゃないんだ」と。
「こーなんだ」と。
「こーじゃないと面白くならないんだ」と。
もうもう陣頭に立って眼光鋭く舌鋒激しくキリキリと指揮しておられます。
そして、その度にスタッフ一同に緊張が走りワラワラっと直しが入ります。
藤村先生にはもう非常に具体的なイメージがありますね。
乗ってらっしゃいます。
DVDに匹敵する面白さの雑誌を目指しておられますね。
そしてね、これはやはり徐々にDVDと並ぶ「どうでしょう」のもう一本の柱になるかもしれないと思わせるところ大ですね。
これは確かにテレビではやれんだろうと。
雑誌という形式でしかやれんだろうと。
実にこう手に取りましてですね。
胸の前にハッシと掻き抱きまして、おぉ愛しき物よと。
汝、フェバリットなるものよと。
もうもう如何なる時も傍に置いて置きたいぞと。
かように思わせるものとなりつつありますね。
なんつったてあなた、DVDプレーヤーとか無くたって見れるわけですから。パラパラっとめくってね、読めちゃうわけです。
飛行機の中でだって、押入れのなかでだって楽しめる。

そーは言っても「どうでしょう本」が良き物であるか否か。
恐らく満天下の婦女子のみなさまは、固唾を飲んで動向を見守っておられる今日この頃の真実だと思います。

あおらあなた。
初物ですから、手控えて当然のものでございましょう。
そらそーです。
資産には限りがあるわけですから、よくよく吟味して買わなければ家計という物が成り立ちません。
大多数の方が爪に火を灯してのやりくり上手でございますから。
激しく吟味していただいてしかるべしなのでございます!
そして必ずやその厳しい吟味の目を乗り越えて、「どうでしょう本」は広く皆様方の御手元に届くことになろうかと庄屋(あまりにも久しく、かつ唐突ではありますが)愚考いたす次第。

そして、今ひとつ忘れてはならないのが、大泉先生の感動(予定)の連載小説!
ご本人は「読みきりです!」とおしゃってましたが、どーなのでしょうか。どーなるのでしょうか!
これもまた興味深い展開でございます!

さぁ、そして藤村大先生は、只今DVD第5弾の編集中!
あれもやり、これもやる!
あさから八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍!
もうもうもう、お腹いっぱいでございます。

それではみなさま、本日はこれにて。
眠れ良い子よ。良い夢を。また明日。
解散!

【9月30日(木):藤村】
さぁ!「どうでしょう本」の最終的な校正の締め切りが「本日」となっておりまして、これが終れば「データをすべて入稿する」段階へと来ております。
皆様が注目する「巨匠・大泉洋先生の連載小説コーナー」の表紙デザイン、文中に添えるイラストなどはすでに完成しております。

しかし!本日午後3時現在、肝心の「原稿」が、大先生から届いておりません!

今回、編集人として責任を持つ我々が、すべての作業の「例外」として、大泉先生のコーナーだけは「白紙状態」で待ち続けました。さらに嬉野くんから「大先生の構想は壮大だ。もっと書きたいと言っている」そう聞かされ、当初2ページの予定だった小説コーナーを、一気に「6ページに誌面拡大」してしまったのです!

もう後には引けません。

最悪の事態を考え、↑の写真のように「差し替え原稿」はすでに用意しました。本日夕方までに原稿が届かない場合、この「差し替え原稿」が計6ページに渡り入稿されることになります。

さぁ!どうなることか!

以下、業務連絡。

いいですか。大泉くん。1週間ほど前にぼくを「ゲンゴロウにしてトイレに流すぞ!だからあと1日待ちやがれ!」みたいなこと、どっかのページに書いてあったようだけどね(キュー公式ページ「ダイアリー」参照)、ぼくはね、いや、ゲンゴロウだね、キミの言い方を借りれば、ぼくはゲンゴロウだ。短い手足をバタバタさせながら泳いでいるゲンゴロウだよ。でもそのゲンゴロウがだよ、いいかい?1日どころか、あれから1週間もキミの原稿を待っているんだよ。ゲンゴロウがだよ。優しいゲンゴロウじゃないかぁ。でもね、もう限界だからね。いいかい?今日の夕方までに!原稿よこさなかったら!おめぇんちの庭ユンボで掘り起こして池作ってそこで泳ぎまくってやっからな!おれがだよ!ゲンゴロウがだよ!ぐわんぐわんに泳ぎまくってやっから近所の人集めとけ!

【10月1日(金):藤村】
さて・・・夜9時となりました。藤村でございます。
昨夜午後7時過ぎですか、日記を書いた後に大泉洋さんから無事原稿が届きまして、一同胸をなでおろしたところでございます。
しかし、その夜遅く、あれはもう12時を過ぎたころでしたか、制作部に本人がひょっこり現れまして、こんなことを言うのです。

「最後の方・・・ちょっと雑になってませんか?」と。

確かに、夕刻届いた原稿を一読した嬉野先生は、いくつかの改善点を挙げておりました。私も同じように、いくつか改善すべき点があると感じました。しかしそれは、ストーリー、テーマともに、あまりにもよく出来た話であるからこそ、「もっと良くしてほしい」という、我々の勝手な「欲」であります。本人もそれがよくわかっているからこそ、「なんとかしたい」と真剣にもがいております。

「もう一度・・・直してもいいですか?いや!そんなに時間はかかりません。明日の昼まで!いや・・・夕方、5時ごろまで・・・待てませんか?」

待てませんか?と言われれば、もう待てやしない。こちらはすでに最終的な校正とレイアウトのスタンバイをして原稿の到着を待ち構えている。
しかし「待てない」というのは、単に「制作スケジュール」の話であって、大事なことは、あのすずむしが真剣に「書きたい!」と思っている「欲求」であります。
そもそも我々D陣の「本を作りたい」という欲求だけで走り出した今回の「どうでしょう本」。正直、やつがここまで真剣にのめり込むとは思ってもいなかった。

待つさ。待ちますとも。夕方5時?・・・わかった。
おれたちは5時から最終的な校正、レイアウトを急いでやるよ。
待ってるぞ。がんばれ。

・・・それが昨夜の話。

で、本日。今はもう、夜の9時。

ヤツからの原稿はいまだに届きません。

よし。

週末はあいつんちの庭で泳ぐぞ。寒くなんかないさ。おれはゲンゴロウだからな。

おーい!すずむしぃ~!一緒に泳ごうぜぇ~!

 ・・・そして週が明けて月曜日。本日はデータの入稿日です。

 先週の金曜日夜9時から、今日までの2日間に、実は大泉洋の原稿を巡る「壮絶な戦い」がありました。

 ここにその出来事をすべて書き記しておきましょう。

【10月4日(月)】
先週の金曜日、「夕方5時までに原稿をすべて送ります」と言ったものの、大泉洋は夜9時になっても原稿を送って来なかった。私はその時点で日記に「週末はおまえんちの庭で泳いでやる!」なんてことを書きましたが、いずれにしたって、その日のうちに私と嬉野くんが最終的な校正を行い、その原稿をレイアウト担当者に送ることになっていました。

「いったいどうなったんだ?」

日記を書き終えてすぐ、私はヤツに電話を入れました。
「ハイハイ!」
大泉洋は、思いのほか明るい声で電話に出ました。
「あー藤村先生。わたくし今まさに原稿を送ろうとしてたところです」
「書けたのか?」
「いやーちょっとね、いいものが書けたんじゃないでしょうか!」
昨日までずいぶん思い悩んでいたのがウソのように、ヤツの声は晴れやかでした。
「じゃ、お二人のパソコンに送りますから!」
パソコンに原稿が送られて来たのが10時少し前。

大泉洋は「なんとか最後まで書いて、読みきりの形にしたい」と言っていましたが、どうがんばっても無理。途中まででも構わない。そのかわりしっかりとしたものを書いてほしい。そう思いました。それでヤツの小説は「連載」という形にして、今回はその「第1回」ということになりました。

ヤツから送られてきた「第1回」の原稿を読み、私はラスト近くのある一文で、思わず「ぐっ」ときてしいました。ヤツが明るい声で「書けました!」と言った通り、昨日の原稿よりも一段と良くなっている。

ただ・・・やはりまだ改善すべき点は残っている。そう感じたのも事実。そこで我々はそれぞれに「赤ペン添削」をして、ヤツに原稿を送り返したのです。

それが午前2時近く。

電話をすると、ヤツはまだ起きており、「どうでしたか?」と。
「いやもう、かなり良くなってた。でも、我々なりに添削した所もある。それを見て、自分が納得できるところは直し、そうでないところはそのままでもいい。最終的な原稿をもう一度送ってくれ」そう告げたのです。

「わかりました。でも、明日は1日中仕事があるので、最終的なものは日曜日の朝にしか送れません」
「それでもいい。がんばってくれ」

電話を切ったあと、私はこう思いました。
「本来、あいつの発想で書き上げたものを、オレらがあれこれ口出しするのは、かえって混乱を招いているのではないか」と。
しかし嬉野先生は「でもぼくはもっと良くなってほしいから、口出しせずにはいられない」と。
確かにどちらの考えも間違いではない。最終的に決めるのは大泉洋だ。しかしいずれにしても、モノを作り出す意欲がお互いに旺盛なこと。これは間違いない。幸せなことです。

そして昨日。日曜日の朝10時。嬉野先生はひとり出社し、パソコンを開きました。
ところがヤツからの原稿は届いていません。
「まだか・・・」
先生は待ちました。

午前10時30分。電話を入れます。
「どうですか?」
「もうちょっとで送れます!」
「もうちょっとっていつ?」
「11時・・・過ぎには」
「わかりました。じゃ、送るときに電話下さい」
先生は待ちました。

1時間待ち、2時間待ち・・・結局、5時間待ちました。

午後3時。
先生はこらえきれず一旦家へと帰りました。

丁度そのころ、大泉洋は「最終稿」を送る準備をしていました。
「いやぁ!遅くなっちゃった」
午後3時8分。送信完了。
急いでHTBに電話を入れます。
「嬉野さんは?」
「帰りました」
「あぁ・・・」
大泉洋は申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、「満足のいくものを書き上げた」という達成感も同時に感じていました。そして彼は仕事場へと向かったのです。

午後5時。
嬉野先生が再び出社。大泉洋の「最終原稿」を読む。じっくりと読む。

午後7時。
大泉洋が仕事の合間にHTBに電話を入れる。嬉野先生が出る。大泉は真っ先に尋ねた。
「どうでしたか?」
「まぁ、そうね・・・」
その声のトーンで、嬉野先生が全く最終原稿をお気に召していないことを悟り、大泉は暗澹たる気持ちになった。

「しかし、なんとか自分も納得が行き、そして嬉野先生にも気に入ってもらえるようなものを書きたい」

大泉は、真剣にそう思ったと言います。

一方の嬉野先生は、「正直もう、わかんなくなっちゃった」と後に白状しましたが、大泉にとことん付き合う覚悟をここで決めます。

その5時間後。

大泉洋が仕事をすべて終えて、家に帰り着いたのは午前0時を大きく回ったころでした。

午前0時半。HTBに電話を入れます。嬉野先生が出ました。先生は大泉が仕事を終えるまでずっと待っていました。

「とにかく頭っからひとつづつ問題点を確認していこう」という先生の提案で、二人はその後、電話口で原稿を一行づつ読み上げながら、お互いの考えを言い合ったといいます。

「話のつじつまは合っているのか」
「主人公の位置関係、周囲の状況はどうなっているのか」

話は詳細な部分にまで及び、すべての原稿を読み終えたのは、午前4時ごろであったと。

二人は3時間以上、電話で話し合ったというのです。

「マジか!・・・で、そのあとどうなったのさ?」

月曜日午前10時。出社した私は大泉に電話を入れ、はじめてこれら一連の出来事を聞きました。

「えー、そのあといよいよ身体に異変をきたしましてぇ・・・」

大泉洋はここ数日の多忙なスケジュールに加え、慣れない執筆活動に頭を悩まし、この日の朝、遂に全身にじんましんが吹き出て、顔が腫れ、目も腫れて病院に直行したという。

「それでも、あと少しで書き上がります」
「そうか・・・」
「もう、これを最終稿にしていただきたいと・・・嬉野さんに言って下さい」
「わかった、わかった」
「くれぐれも嬉野さんに、ご協力感謝していますと・・・」
「本当は、いいかげんにしてくれって思ってたんだろ?」
「違うって!本当にありがたいと思ってんだって!」

10月4日月曜日。午後1時30分。大泉洋から「最終稿」が送付される。

大泉洋の小説処女作、その第一話が本日、遂に完成した。