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2006年「新作」解説その2

藤村 | 2007/03/23(Fri) 18:30:09


 2006年7月11日。札幌・HTB通用口での企画発表。

 大泉洋氏の声が、やけに小さかったのにお気づきでありましょうか。
 
 「ヒゲの声ばかりが大きかったことは承知しております」

 いやいや、私の声がうるさかったのは自覚しておりますが、大泉氏の声が小さかったのには、理由がございます。

 この前々日、氏の所属事務所(通称ダサキュー)主催の大イベントが終わったばかりで、そのイベントをプロデュースしていた大泉氏は、たいへんお疲れであったのです。声もかすれがち。そのかすれた声で、氏は、おおいにゴネまくりました。

 「なんでこんな時期にやるんだ!」
 「せめてあと数日休ませろ!」

 そんな大泉氏に私は、

 「忙しいさなかだからこそ、我々は気を利かせて、たっぷりロケ日数を押さえました」
 「気の合う仲間同士、優雅なヨーロッパの旅を満喫しましょう」
 「さぁ!存分に癒されてください」

 そう申し上げました。

 氏は、

 「よけいに疲れる」

 そう言って、私の思いやりを一蹴しました。

 ともかくも、年に一度の水曜どうでしょう。今年は久々に4人だけで、7年ぶりのヨーロッパへと向かったのであります。

 千歳から成田を経由し、イタリアはローマへ。

 「機内では、たっぷり寝てください」

 私はそう申し上げましたが、元来ケチで小さな人間の氏は、

 「タダだから全部飲まなきゃ損」

 とばかり、機内サービスの欧州ワインを全種、飲み干しました。

 日本を出発して10数時間、現地時間で7月11日、同じ日の夕刻にローマ到着。

 空港から4人でタクシーに乗り、ホテルへ。

 空港から外へ出る。この瞬間が一番、異国情緒を感じる瞬間です。「おぉー・・・外国だ」と。しかし今回は、そんなものを感じる余裕がありませんでした。タクシーに乗った途端、クルマは急発進。
 イタリーの運転は乱暴です。ウィンカーはほとんど出さない。車間距離はとらない。助手席に乗っていた私は何度も腰を浮かし、「危ねぇよ!」と叫びました。しかし、チョイ不良風の運転手は、「こんなのは怖くない。ナポリに行ったらオレだって怖くて運転できない」と言いました。ナポリ・・・怖いところです。

 ヴァチカン市国の近く、サンタンジェロ地区にあるホテルにチェックイン。日本から予約したホテルはここと、ゴール地点のポルトガル・リスボンのホテルだけ。

 夜のローマ。ホテルを出て、4人で街を歩いてみました。ローマの中心部はこじんまりとまとまっていて、スペイン広場、トレビの泉など、有名どころはすべて歩いて回れました。

 私はこれまで、「イタリア」という国にあまり良い印象を持っておりませんでした。ブランド物を買い漁るような、チャラチャラとしたイメージ。落ち着きのない国。

 しかし、その夜、ローマの街を歩いてみて、「おやおや、なんだかいいじゃないか」「やけに落ち着くぞ」、そう感じたんですね。ミスターも同じことを言いました。「なんか、イタリアいいですね」。

 海外でも、なんだか落ち着く国というのがいくつかありました。ヨーロッパなら、ドイツ、スペイン、フィンランド。あとは、カナダとベトナム。

 そんな中でも、特にイタリアはいい感じでありました。おすすめです。今さら、ですけど。

 7月12日。いよいよ企画スタートのその日。まだ夜も明けきらぬ午前6時。私は、日本から持参した短パンTシャツ、ランニングシューズをトランクから出して、着替えを始めました。

 「ほんとに走るんですか?」

 寝ぼけまなこの嬉野先生が聞いてきます。

 「走りますよ。コロッセオ(古代競技場)あたりまでね、ビシッと行ってきますよ」
 「ケガかなんかして、すぐに戻ってくるんじゃないですか?」
 「うははははは・・・なにをバカな。じゃ、行ってきます」

 このとき先生は、確かに「ケガかなんかして」と、おっしゃいました。

 川沿いの道を走っておりました。私は少しセレブ気取りでありました。

 「ローマをランニングですよぉー」

 しかし・・・それは、一瞬の出来事でした。私は石畳の穴に足をとられ、足首をどえらい勢いでひねり倒しました。グギィッ!と、音がしました。

 「のわッ・・・っ」

 しばらく動けませんでした。顔はある程度ゆがんでいたと思います。

 走り出して15分。わたくし、早朝のローマで大ケガをいたしました。

 「んのっ・・・くっ」

 足を引きずりながら、ホテルへと戻ります。しかし、私にもプライドがあります。ビシッとした短パン姿。これで足を引きずっていては、「たった今ケガをいたしました!」「はい、わたくし調子に乗っておりました!」と、ローマ中に言いふらしているようなもの。

 できるだけ涼しいをして、「なんとなぁーく足が気になるなぁ」的な歩き方で、ゆっくりとホテルに帰ったのであります。

 「あれ?早かったですね」

 ベッドの中にいた嬉野先生が上半身を起こして私を見ました。顔をある程度ゆがめて、ドアの前に立ち尽くす私。

 「どうしました?」

 「・・・ケガを、しました」

 「おっ・・・ぷぷぷぷぷぷっ・・・ぷぷぷぷぷっ」

 うれしそうに笑いましたね。そりゃそうです。カンペキな前フリを決めていらっしゃいましたから。

 「いやー先生!さすが期待を裏切らない!」

 ほめてましたね。相棒のディレクターがロケ前に大ケガをしたというのに。

 朝食の時間になって、レストランに降りていくと、大鈴両名がいました。ゆっくりとした私の足取りを見て、

 「どうかしたんですか?」
 「あれ?どうしたの?」
 
 「・・・大ケガしたぞ、おれ」

 「おっ・・・うぷぷぷぷぷぷっ」

 嬉野先生と同じく、吹き出しましたね。

 「キミぃ、なぁーにをやってんだよぉー・・・ぷぷぷぷぷっ」


 朝メシを食い、ホテル近くのサンタンジェロ城まで行って、いよいよ企画スタート、カメラを回し始めたわけですが、そんなことがあったものですから、ローマの感想であるとか、企画が始まる意気込みのようなトークもなく、いきなり話題は足のケガになったわけでございます。

 足のケガは、嬉野先生が痛み止めの薬を用意しておりましたので、痛みはそれほど感じなくなったんですが、その後3日ばかりは、日に日に腫れ上がっていきましたね。今でも少し痛みますけど、ま、これはヨーロッパの旅の勲章ですよ。誰にも同情されませんけど。

 続きはまた。