まずは、奇襲だ。やってやったぞ。
当初の予定では、福島でも当然「対決」するつもりでいた。目星をつけていたものもある。須賀川の「くまたぱん」とかいうへんてこな名前の菓子だ。実態は、わからんが、とりあえずネーミングに惹かれた。
しかし、山形決戦を終えると、すでに3時を回っておった。宿は、栃木の川治温泉を予約してしまっている。もうスケジュールは押し押しだ。
「どうしよっかなぁ・・・」と、回りを見れば、全員バカみたいな顔して寝てやがる。
「ミスター・・・敵の目前で、そんな無防備になってはいかんなぁ・・・。寝込みを襲われたら、どうするんだい?」
「・・・寝込み」
・・・私は、こっそり福島県内のサービスエリアに停まり、福島名物「くるみゆべし」を購入した。
温泉宿。突然の「ずんだ対決」で、ひとしきり盛り上がり、「やれやれ・・・」なんてテレビを見ているミスターの後ろで、私は、安田さんに一枚の紙を手渡す。
(やぁやぁ!鈴井貴之・・・)
一読して、安田さんは事態を理解したようだ。嬉野くんにも同じように紙を見せた。
(・・・何時?)
(わからん・・・目が覚めたら、すぐやる)
(・・・わかった)
目の前では、相変わらずのんきにテレビを見ているミスターチームのふたり。
5人同部屋なので、目覚まし時計をかけるわけにもいかない。我々3人のうち誰かが目を覚ましたところで「作戦開始」ということにする。
「じゃ、そろそろ寝ますか・・・」
明かりが消され、緊張の一夜がスタートした。
(よーし・・・)
いくぶん寝付けない時間が過ぎた。
「やるよ・・・ちょっと・・・」
ハッと目が覚めると、暗がりに嬉野くんの顔が見えた。
「あ・・・今・・・何時?」
「5時過ぎ・・・」
「そうか・・・」
いつのまにか寝ていたようだ。
暗がりの中、そ~っと安田くんに近づき、肩を揺らす。
「あっ・・・ハイ!」
「しっ!」
「あ・・・すいません・・・」
「やるよ・・・」
バカバカしいと思ってはいけない。当人たちは、かなり真剣だ。ふたりを起こさないように、細心の注意を払って、暗がりの中、態勢を整える。
嬉野くんが、カメラのスイッチを押す。
カチャッ。
(おっ・・・)
静まり返った部屋では、カメラの音も大きく聞こえる。
耳を澄ます。
「ス~・・・ス~・・・」
大丈夫。ふたりの寝息が聞こえる。
(じゃ・・・いくぞ・・・)
パチッ!部屋が一気に明るくなる。
一瞬の間を置いて、安田さん!
「やぁやぁ!すずいたかゆきーッ!」
その声が、あまりにデカ過ぎて、私自身びっくりした。
でも、もっとビックリしたのは、熟睡していたご両人だ。
ミスターなんか、布団にくるまったまま、3回ぐらい飛び跳ねた。大泉さんの浴衣も乱れがちだ。
奇襲は見事に成功した。
しかし・・・しかし!敵ながらあっぱれ!
戦意喪失かと思いきや、ミスターは、スタートの合図とともに「ゆべし」に食いついた。
やはり、こうでなくてはならない。勝負を捨てない姿勢。大事だ。
でも、よく考えれば、あれはもう、条件反射なのだろう。表情を変えず、口だけをパクパクさせて、朝5時に「ゆべし」を食うミスターを見ながら、そう思った。
そして・・・「関東大会」。
魔神が「すっぱいもんに弱い」というのは、実はずいぶん前から、みんな知っていた。
でもやつらは「敵の弱点を突く」という戦術上の常套手段を、これまで取ってこなかった。当たり前だ。彼らに「種目を選ぶ権利」なんかなかったからだ。
それが、この「関東大会」で、初めてその権利を得た。
こっちとしては、所詮「駄菓子」。なにを選んだって大差ないだろう、ぐらいに思っていたわけだ。
だから、その朝、「もうこうなったら、毒盛るしかないね」なんて、ひとを怪獣みたいに言うもんだから、「梅干しは、食えないんだよねぇ・・・」なんて何気なく言っちゃったのだ。
だって「梅干し」が、「駄菓子屋」に売ってると思うか?思わないよ。
しかし!だ。川越の「菓子屋横丁」に着いて驚いた。
どこの店にも「これも名物なんでーす!」と言わんばかりに、「梅干し」が売ってやがる。大泉くんが、「こっちでもいいよ」なんて差し出した「袋入り梅干し」の商品名は、まんま「川越に行って来ました」と書いてあった。名物なんだな、あれ・・・。
知らんかったぞ。
にしても、「梅干し」以上の強敵が、「梅ジャム」だった。大泉くんも一袋食うのに四苦八苦してたでしょ。魔神は、一口で撃沈された。口が切れるんじゃないかと思ったほどだ。
その「梅ジャム」を、あの男は一気に4袋食った。
だが、あの時点では、本当に「負ける」なんて思ってなかった。
「魔神の弱点」→「ミスター勝利」の方が、「テレビ的な流れとしては分かりやすい」。
でもだ。言っとくけど、「番組の流れ」なんて、「レディーゴー!」の掛け声とともに吹っ飛んでいく。「あんた、少しは出演者に花を持たせなさいよ」なんてケチな考えは、こっちは、ひとかけらも持っちゃいない。それが証拠に、「梅干し」食ってる時は、「すっぺぇ」なんて一言も言ってない。さんざっぱら「梅干しが苦手だ」なんて言っときながら、「すっぺぇ」のひとことがなけりゃ、オチもつかない。しかし、そんなことは知ったこっちゃないのだ。
「とにかく勝つ!」
一心不乱に梅干しを食った。生まれて初めてだ、あんなに梅干しを食ったのは。不思議とすっぱさも感じなかった。闘志が味覚に勝ってたわけだ。
で、ふっと顔を上げて、ミスターを見た。
「!」
いっこしかねぇんだ・・・。
「こいつ・・・おれが食うの待ってやがる・・・」
そう思った瞬間、味覚が一気に戻ってきた。もう20個分のすっぱさが、一気に戻っちゃったわけだ!
気絶しそうになったぞ。メガネもずり落ちるよ。
安田さんは言ったな。
「あなたも、やっぱり人間だった・・・」
次回、決戦の舞台は、中部地方へと移ります。
言わば、魔神のホームだ。
「ミスター、生きて帰れると思うなよ・・・」
魔神は、これまで以上の、あらゆる謀略を巡らして、敵方を迎え撃つ。
だが次回、なぜか、その魔神自身が、「致命傷」を負うことになるのだ。