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8月8日放送 「対決列島」第6夜

藤村 | 2001. 8/ 9(THU) 15:05


 まずは、奇襲だ。やってやったぞ。

 当初の予定では、福島でも当然「対決」するつもりでいた。目星をつけていたものもある。須賀川の「くまたぱん」とかいうへんてこな名前の菓子だ。実態は、わからんが、とりあえずネーミングに惹かれた。

 しかし、山形決戦を終えると、すでに3時を回っておった。宿は、栃木の川治温泉を予約してしまっている。もうスケジュールは押し押しだ。

 「どうしよっかなぁ・・・」と、回りを見れば、全員バカみたいな顔して寝てやがる。

 「ミスター・・・敵の目前で、そんな無防備になってはいかんなぁ・・・。寝込みを襲われたら、どうするんだい?」
 
 「・・・寝込み」

 ・・・私は、こっそり福島県内のサービスエリアに停まり、福島名物「くるみゆべし」を購入した。

 温泉宿。突然の「ずんだ対決」で、ひとしきり盛り上がり、「やれやれ・・・」なんてテレビを見ているミスターの後ろで、私は、安田さんに一枚の紙を手渡す。

 (やぁやぁ!鈴井貴之・・・)

 一読して、安田さんは事態を理解したようだ。嬉野くんにも同じように紙を見せた。

 (・・・何時?)

 (わからん・・・目が覚めたら、すぐやる)

 (・・・わかった)

 目の前では、相変わらずのんきにテレビを見ているミスターチームのふたり。

 5人同部屋なので、目覚まし時計をかけるわけにもいかない。我々3人のうち誰かが目を覚ましたところで「作戦開始」ということにする。

 「じゃ、そろそろ寝ますか・・・」

 明かりが消され、緊張の一夜がスタートした。

 (よーし・・・)

 いくぶん寝付けない時間が過ぎた。

 「やるよ・・・ちょっと・・・」

 ハッと目が覚めると、暗がりに嬉野くんの顔が見えた。

 「あ・・・今・・・何時?」

 「5時過ぎ・・・」

 「そうか・・・」

 いつのまにか寝ていたようだ。

 暗がりの中、そ~っと安田くんに近づき、肩を揺らす。

 「あっ・・・ハイ!」

 「しっ!」

 「あ・・・すいません・・・」

 「やるよ・・・」

 バカバカしいと思ってはいけない。当人たちは、かなり真剣だ。ふたりを起こさないように、細心の注意を払って、暗がりの中、態勢を整える。

 嬉野くんが、カメラのスイッチを押す。

 カチャッ。

 (おっ・・・)

 静まり返った部屋では、カメラの音も大きく聞こえる。

 耳を澄ます。

 「ス~・・・ス~・・・」

 大丈夫。ふたりの寝息が聞こえる。

 (じゃ・・・いくぞ・・・)

 パチッ!部屋が一気に明るくなる。

 一瞬の間を置いて、安田さん!

 「やぁやぁ!すずいたかゆきーッ!」

 その声が、あまりにデカ過ぎて、私自身びっくりした。

 でも、もっとビックリしたのは、熟睡していたご両人だ。

 ミスターなんか、布団にくるまったまま、3回ぐらい飛び跳ねた。大泉さんの浴衣も乱れがちだ。

 奇襲は見事に成功した。

 しかし・・・しかし!敵ながらあっぱれ!

 戦意喪失かと思いきや、ミスターは、スタートの合図とともに「ゆべし」に食いついた。

 やはり、こうでなくてはならない。勝負を捨てない姿勢。大事だ。

 でも、よく考えれば、あれはもう、条件反射なのだろう。表情を変えず、口だけをパクパクさせて、朝5時に「ゆべし」を食うミスターを見ながら、そう思った。

 
 そして・・・「関東大会」。

 魔神が「すっぱいもんに弱い」というのは、実はずいぶん前から、みんな知っていた。

 でもやつらは「敵の弱点を突く」という戦術上の常套手段を、これまで取ってこなかった。当たり前だ。彼らに「種目を選ぶ権利」なんかなかったからだ。 

 それが、この「関東大会」で、初めてその権利を得た。

 こっちとしては、所詮「駄菓子」。なにを選んだって大差ないだろう、ぐらいに思っていたわけだ。

 だから、その朝、「もうこうなったら、毒盛るしかないね」なんて、ひとを怪獣みたいに言うもんだから、「梅干しは、食えないんだよねぇ・・・」なんて何気なく言っちゃったのだ。

 だって「梅干し」が、「駄菓子屋」に売ってると思うか?思わないよ。

 しかし!だ。川越の「菓子屋横丁」に着いて驚いた。

 どこの店にも「これも名物なんでーす!」と言わんばかりに、「梅干し」が売ってやがる。大泉くんが、「こっちでもいいよ」なんて差し出した「袋入り梅干し」の商品名は、まんま「川越に行って来ました」と書いてあった。名物なんだな、あれ・・・。

 知らんかったぞ。

 にしても、「梅干し」以上の強敵が、「梅ジャム」だった。大泉くんも一袋食うのに四苦八苦してたでしょ。魔神は、一口で撃沈された。口が切れるんじゃないかと思ったほどだ。

 その「梅ジャム」を、あの男は一気に4袋食った。

 だが、あの時点では、本当に「負ける」なんて思ってなかった。

 「魔神の弱点」→「ミスター勝利」の方が、「テレビ的な流れとしては分かりやすい」。

 でもだ。言っとくけど、「番組の流れ」なんて、「レディーゴー!」の掛け声とともに吹っ飛んでいく。「あんた、少しは出演者に花を持たせなさいよ」なんてケチな考えは、こっちは、ひとかけらも持っちゃいない。それが証拠に、「梅干し」食ってる時は、「すっぺぇ」なんて一言も言ってない。さんざっぱら「梅干しが苦手だ」なんて言っときながら、「すっぺぇ」のひとことがなけりゃ、オチもつかない。しかし、そんなことは知ったこっちゃないのだ。

 「とにかく勝つ!」

 一心不乱に梅干しを食った。生まれて初めてだ、あんなに梅干しを食ったのは。不思議とすっぱさも感じなかった。闘志が味覚に勝ってたわけだ。

 で、ふっと顔を上げて、ミスターを見た。

 「!」

 いっこしかねぇんだ・・・。

 「こいつ・・・おれが食うの待ってやがる・・・」

 そう思った瞬間、味覚が一気に戻ってきた。もう20個分のすっぱさが、一気に戻っちゃったわけだ!

 気絶しそうになったぞ。メガネもずり落ちるよ。

 安田さんは言ったな。

 「あなたも、やっぱり人間だった・・・」

 次回、決戦の舞台は、中部地方へと移ります。

 言わば、魔神のホームだ。

 「ミスター、生きて帰れると思うなよ・・・」

 魔神は、これまで以上の、あらゆる謀略を巡らして、敵方を迎え撃つ。

 だが次回、なぜか、その魔神自身が、「致命傷」を負うことになるのだ。