水野光二はちょうど一年前の夏に生まれ故郷の 東京の大学を出て、進学塾の講師として勤めていたが、兄・幸一が不幸な海の事故で亡くなったのをきっかけに、結婚を考えていた恋人・香織とも別れ、コンブ漁師になるため帰郷したのだ。だが、自分はこれからどう生きていけばいいのか…昔気質の父・辰雄の小言を毎日のように聞きながら、光二は自分を持て余していた。 そんなある日、東京で派遣の旅行添乗員をしている姉の明海が突然帰ってきた。しかも明海は、派遣先の小さな旅行会社の社長で現在、妻と離婚調停中だという村田太郎の子を身ごもっていた。その太郎が水野家にあいさつに来るが、怒り心頭の辰雄は太郎を殴り、力づくで追い返してしまう。 異なる事情や気持ちを抱えながら、再び一つ屋根の下に集った家族。しかし、それぞれの気持ちを言葉でうまく伝えられず、すれ違っていく想い―。そしてある晩、酔った辰雄と光二、明海はとうとう道端で口喧嘩になり、一方的に二人のことを罵る父を、光二は思わず投げ飛ばしてしまう。「おれのやってきたことは全部間違いだったのか…」と嗚咽する辰雄。光二は「父ちゃんだって、助けて欲しいことだってあるだろう。許して欲しいことだってあるだろう!」と自分の思いを初めて父にぶつけるのだった。 夏祭りの夜、それぞれの思いを胸に夜空に打ち上げられる花火を眺める辰雄と太郎、そして光二と明海。花火の光が夜の海面に幾千にも飛び散り、海の蛍のように美しい煌きを放っていた。海面に映っては消えていく煌きを眺めながら、光二は自分の中にあった迷いが消えていくのを感じていた。「この海で生きていこう・・・この海で、巡る季節をひとつひとつ数えていこう・・・」と。コンブ漁の短い夏の漁期もまもなく終わろうとしていた。 |