はじめに(プロデューサー・ノート)

冒頭から私事で恐縮ですが、気がつけば来年五十歳を迎えます。親は八十歳。子供たちは社会に出る年頃となりました。人が生きていることは、家族という形を通してずっとつながっていて、気が遠くなるような昔から世代交代を繰り返してきたのだとリアルなこととして感じるようになりました。ドラマを創る作り手として、ずっと家族の在り様を描きたいと意識してきました。家族なのに。家族だから。一番身近なのに、一番分かっていないもの。ささやかなのに、かけがえのないもの。それなのにぞんざいに感じてしまうもの―――。家族というドラマツルギー。家族でいるという当たり前の日常に潜んでいる葛藤をドラマという表現を通して描きたいと願ってきました。
その中でも自分にとってのドラマのテーマというと大袈裟ですが、それはずっと息子と父の関係性だったような気がしています。それはきっと家族の中で一番希薄なものであり、日常の中でお互いに言語化されないあいまいなものではないかと思うからです。

北海道も今年6月からいよいよ地上デジタル放送が始まりました。96年から制作を始めた私たちにとっても初めてのデジタルハイビジョン撮影での取り組みとなります。人間の自然な視野に一番近いと言われる16:9の画角を生かす舞台として、北海道の大地性の象徴である上富良野の、しかも農地を選びました。上富良野町はラベンダーのふるさととして知られていますが、ビールの原材料となるビール大麦とホップの日本で数少ない生産地でもあるのです。 しかもこの広大な北海道にホップの生産農家がたった4軒しかなく、それが全て上富良野町にあるということがシナリオを作る上での大きな入口となりました。ホップやビール大麦の生産農家の方々に取材することから始まり、そこにはある意味で日本の農業が置かれている厳しい現実があり、その中で作ることの喜びと苦悩を分かち合う家族の姿は私たちスタッフの胸を強く打ちました。空と大地の間にあるもの。それこそ国境と超え、時代を超え、世代を超えて変わらない人の生きる様ではないのかと。

本作品は「北海道から全国へ」という全く新しいスターダムの在り方を体現している大泉洋さんをタイトルロールに迎えて描く、家族の物語です。今年も素晴らしい本と、素晴らしいキャストを得て、私たちが生きているこの北の大地でドラマを紡ぐことが出来ることを感謝します。北海道の小さなドラマチームの、大きな夢見る力を応援して頂ければ、これほど嬉しいことはありません。連日のようにニュースで取り上げられる家族の姿は、これはフィクションであって欲しいと両の拳をぎゅっと握りしめるほど時として過酷です。だからこそ、家族であることの意味を問いかけたい。そう思うのです。


2006年7月
北海道テレビ ドラマ班
プロデューサー 四宮康雅