スペシャルドラマ 六月のさくら
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プロデューサー・ノート

 
 私事ですが、四十代も後半になると自分の親の残り時間の短さをどこかで感じている自分がいます。夜遅くに自宅から携帯に電話がかかってきたりすると、言いようのない不安がよぎることがあります。それなのに親とちゃんと向き合えないのは、自分や自分の家族のことで一生懸命で、思いやる余裕がないのでしょうか。親の人生の時間が少なくなった頃に、子は人生の繁忙期を迎え、それゆえ親となかなか向き合えないのだとすれば、これこそ親子という関係が内包している哀しみで、いつかは自分に向けられるものではないかと思います。そうした、日常でふと感じる親子や家族に起こる小さな感情の波紋が、HTBのドラマのシードになっています。

 このシリーズでは冬の小樽を舞台にドラマを作ったことがありましたが、一番北海道が美しい季節でもう一度トライしたいとずっと思っていました。小樽を訪ねた時に感じたのは、地方都市の共通 の悩みであると思いますが、高齢者が多いせいでしょうか、街に訪問看護や介護のためのステーションや花屋さんが目に付いたのが印象的でした。漁師町なので信心深い人が多く、札幌などと比べて非常に仏花の需要があるのだと聞きました。
 映画「愛を乞うひと」を観て衝撃を受けてからずっと大好きであり、憧れであり、目標でもあった鄭義信さんが脚本を引き受けて下さり、ご一緒に小樽をシナリオハンティングしたのは今年1月のこと。花を育てる園芸農家のご苦労やリハビリテーションの現実を取材する中で、三姉妹と母との愛情物語という素敵なシナリオに仕上げて下さいました。特にリハビリの話は自分の親だけではなく、自分自身を重ねるほど身近に起こることなのだと知りました。協力していただいた病院に理事長先生が、リハビリとは障害によって失ったものを再び獲得する喜びをサポートすることで、それには家族の支えが欠かせない。それは単に機能の問題ではなく、全人格的な回復を目指している、とおっしゃった言葉が大変心に残っています。
 若い頃は“ここではない何処か”をいつも探していたような気がします。しかし、夢を見ることは何かを失うと言うことで、今ここにあるありのままの痛み、喜び、哀しみを引き受けることで人は生きている― それでも生きて、一日一日と人生が進んでいくことはそれだけで大切で、意味のあることだと思えるようになった自分がいます。昨今は耳を疑うほど現実の方が荒んでいて、ドラマの持つリアリティが時には空虚のような感じさえするのです。でも私は家族と言う名の物語には未来があり、希望があると信じたいのです。なぜなら人は誰かとつながってしか生きられないし、その中心にはやはり家族があると思うから。家族とは本来もろいもの。だからこそ思い合わなければいけないと。
 花の散った「六月のさくら」を美しいと思えるようになったヒロイン・・・・・・、今年も素晴らしい脚本と素晴らしいキャストを得て、多くの人々の心に届くドラマが紡げることを心から願っています。


北海道テレビ ドラマプロデューサー 四宮康雅

     
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