いのちと命

いのちと命~ドナー家族の心のケア~

映画「孤高のメス」息子の脳死に戸惑う母親
映画「孤高のメス」息子の脳死に戸惑う母親

孤高のメス公開

6月5日に全国で公開された映画「孤高のメス」。舞台は1980年代、当時の法律では認められていなかった脳死での臓器移植がテーマです。「あの子の手は、あんなに温かいのに…。」交通事故で脳死状態に陥った息子を前に、母親は戸惑いながらも脳死下での臓器提供を決断します。

7月に施行された改正臓器移植法では、本人の意思がわからなくても、家族が承諾すれば脳死状態でも臓器提供が可能になります。突然降りかかった深い悲しみの中、臓器提供の決断を下す家族の心の負担は計り知れません。


夫の遺影に手を合わせる女性
夫の遺影に手を合わせる女性

突然訪れた夫の脳死…寝ているようにしか見えない

脳死状態になった夫から臓器提供を承諾した女性です。女性は病院で手渡された夫の所持品の中から思いがけないものを見つけました。10年ほど前に夫が書いたドナーカードです。「脳死での臓器提供」の意思が、はっきりと示されていました。

くも膜下出血で倒れた夫は、入院2日目に脳死状態に。女性はドナーカードがあることを主治医に伝えましたが、戸惑っていました。「温かいし、心臓も動いているし、ただ呼びかけには応えない、寝ているっていう感じで・・・。脳死っていう言葉だけは知っていましたけど、植物状態との区別はついていなかった」。


脳死状態の患者 寝ているようにしか見えない
脳死状態の患者 寝ているようにしか見えない
脳死状態になると腫れてシワが見えなくなる
脳死状態になると腫れてシワが見えなくなる

脳死とは・・・

ベッドに横たわる脳死状態の患者。心臓は鼓動し、人工呼吸器によって呼吸もしています。
意識を失って寝ているように見えます。市立札幌病院救命救急センターの鹿野恒医師は、外見から脳死状態を判断することは難しいと話します。「見た目では分らないですよね。イメージとしては脳死になると色が悪いとか、体が冷たいとか想像があるかもしれないですね。普通に治療している方とほとんど変わらないです。スヤスヤと寝ているだけにしか見えない。」

脳死状態の脳のCT画像をみると、正常な脳に見られるシワがなくなるほど、腫れ上がっています。植物状態では、呼吸や自律神経などをつかさどる脳幹の機能が残っていますが、脳死状態では脳の全ての機能が失われています。植物状態と違い、脳死になると回復することは決してありません。

脳死判定では、脳幹の機能が失われていることも慎重に調べて、脳死状態であることを確認します。脳死状態に陥ると、通常1、2週間で心臓も止まります。


夫が書いたドナーカード
夫が書いたドナーカード

私がこの人の心臓を止めてしまう・・・。
ドナーカードが心のよりどころ

脳死状態になった夫から臓器提供を承諾した女性です。女性は病院で手渡された夫の所持品の中から思いがけないものを見つけました。10年ほど前に夫が書いたドナーカードです。「脳死での臓器提供」の意思が、はっきりと示されていました。

くも膜下出血で倒れた夫は、入院2日目に脳死状態に。女性はドナーカードがあることを主治医に伝えましたが、戸惑っていました。「温かいし、心臓も動いているし、ただ呼びかけには応えない、寝ているっていう感じで・・・。脳死っていう言葉だけは知っていましたけど、植物状態との区別はついていなかった」。


北海道移植医療推進協議会の総会・5月
北海道移植医療推進協議会の総会・5月

ドナー家族のサポート体制整備へ

ドナー家族をサポートする体制を整えようという動きが、ようやく本格化しています。北海道移植医療推進協議会は、精神的に大きな負担を強いられるドナー家族の心のケアをするため、専門家による面談や電話相談窓口の開設に向け準備を進めています。推進協議会の一員で北海道大学臓器移植医療部の嶋村剛医師は、ドナー家族の心のケアの必要性を強調しました。「提供しているときは頭がいっぱいで、あとになって考えると、色々悩まれることがある。それを、ケアをする専門の方たちの力を借りて、少しでも和らげたいと考えています」。


レシピエントから届いた手紙
レシピエントから届いた手紙

レシピエントからの手紙

脳死の夫から臓器提供をした女性が、夫の遺影の傍らに大事に保管している手紙があります。臓器移植ネットワークを介して、移植を受けた人から届いたものです。何枚もの便箋に綴られていたのは、感謝の言葉の数々。「こんなに素晴らしい人生が送れると思うと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです・・・」。一人の人間の死と、家族の苦悩の上に成り立つ移植医療。精神的な負担をどう軽減するのかが、大きな課題です。