「全国に花を咲かす」北海道バンドシーンの最右翼・The Floorの現在地
2019/04/19
(【L→R】ササキハヤト(Gt/Vo)、コウタロウ(Dr.))
今北海道の若きバンドシーンが、全国的に見ても「アツい」と言われているのはご存知だろうか?The Floorというバンドは、その口火を切ったバンドのひとつである。ほんの数年前まで、ガラガラのライヴハウスでただただ音を放っていた日々から、メジャーデビューまでを瞬く間に駆け上がった彼ら。今回は、バンド内で作詞を担当しているササキハヤト(Vo/Gt)、コウタロウ(Dr)の人間/バンドとしての旅路に彼らの「歌詞」を中心としてフォーカス。
無邪気に音と遊んだインディーズ時代から、自らを見つめ直すきっかけになったメジャーデビューという出来事、そして遂に辿り着いた「開花」の現在地までを、地元札幌で語ります。
伝えたいことがどんどん増えていく
▶まずは、『CLOVER』リリースおめでとうございます!
ササキハヤト(Vo/Gt)・コウタロウ(Dr.)「ありがとうございます!」
▶率直に、リリース後の周囲の反応はどうですか?
ハヤト「僕らにとって挑戦的な1枚だったんですけど、その変化を感じ取ってくれる人が多くて、素直に嬉しいなと思います。それ以上に、The Floorを初めて聴いてくれる人にどう届いているのか純粋に楽しみで......凄く、気になる1枚になったなと思います」
コウタロウ「結構シンプルに『いい』と言ってくれる人が今までと比べて多いですね。だから、初めて聴く人にも届いているな、という実感があります」
▶いろんな人に自分達の音楽が届いているという感覚は、今作がとてもポップで即効性のある作品であったとも言い換えられるのかな?とも思うんだけど、それは自分達ではどう思いますか?
ハヤト「意図的に『今までよりもポップにしよう』という感覚はなくて、今までを踏まえた上で素直に出てきた6曲で。アルバムの流れを意識して創ったというより、『この曲がいいよね』ってつまんでいった結果アルバムができた感覚なんです。だから、今回は僕らからしたら本当に自然体な1枚ですね」
コウタロウ「前回出した『革命を鳴らせ』に入っている"FASHION"という曲が今までに比べて実験的なアレンジだったからこそ、今回はより自由に創れた1枚になったかな、という気がしてます。僕が今回創った曲も、僕の中ではバンドでやりたいというよりも、自分のスキルアップのために具現化した打ち込みデモだったんです。でも、それがバンドに自然に受け入れてもらえて。だから、前作の『革命を鳴らせ』があって、今回の『CLOVER』が生み出せた、という自然な流れで完成した、ステップアップできた1枚だなと思います」
▶今作はちょうど『ターミナル』のリリースから1年後。言い換えてみると、メジャーデビューからちょうど1年が経ったタイミングでのリリースですよね。メジャーデビューは少なからずバンドにとって大きな出来事だったと思うんだけど、何か変化はありました?
ハヤト「なんて言うんだろう......変わってしまった、というのは凄くあると思うんですけど、音楽的に『こうしなければいけないんじゃないか』って悩みがあったな、と俺は正直思っていて。『ターミナル』を出してから『革命を鳴らせ』を出すまでに凄く時間がかかってしまったんですけど、その悩んだ時期があるからこそ、"革命を鳴らせ"という曲と歌詞も、挑戦的な"FASHION"って曲もできて。その流れを踏まえた上で今回のミニアルバムができたので、The Floorとしての進化は着実に遂げられたかな、と思ってますね」
▶メジャーデビュー盤の『ターミナル』がフロアにとって初めてのフルアルバムで、個人的には『ターミナル』に散らばっていたものをギュッと固くして、『革命を鳴らせ』というシングルがまず生まれたなという印象でした。そして、海外インディーロックのサウンドに今まで以上に素直に取り組んだ作品が『CLOVER』、という印象です。
ハヤト「それこそ、僕らが好きな2010年代の海外インディーロックみたいなニュアンスを追及して、本当に『好きなことをしたい』というコンセプト/心持ちのもとで制作を始めたのが『CLOVER』だったので、そう聴いてもらえて俺は嬉しいです」
コウタロウ「フロアの今までのリード曲って、バンド感が強めでBPMの速い曲が多かったんですけど、今まであった"イージーエンターテイメント"(from『ターミナル』)や"FASHION"の流れを汲んだ"Clover"(M1)が今回リード曲になったのは新しい部分ですね。そこが逆に、今まで聴いてなかった人達の耳にも引っ掛かっているのかな?というのもあります」
▶さっきハヤトくんが「"FASHION"は挑戦の曲」って言ってました。実際、僕もこの曲を初めてライヴで観た時に、「あ、ひとつステージ進んだな」という感覚が凄くありました。より素直に、バランスを取らずに、やりたいことを曲に落とし込んだなという印象で。ハヤトくんって、意外とKICK THE CAN CREWとか、RIP SLIME辺りが好きだったりするじゃないですか?
ハヤト「はい(笑)」
▶実はそのニュアンスが、歌い方にバチバチに出ているなと個人的には感じて。
ハヤト「うん、ジャパニーズヒップホップ的な感じですよね」
▶だから、"FASHION"はメロディの面において従来の洋楽的なメロディリズムの要素だけじゃないなと思って聴いてたんです。そういう意味でも、今まで出ていなかった要素が出てきてるなと思いました。
ハヤト「僕らが本来出したかったものを、ようやくちゃんと出せたのも大きかったです。今の僕達のモードを届けたくてこのアルバムは創ってるので、やっぱり今一番届いて欲しい作品は『CLOVER』。ーー今推したいのは、新しい今の自分達ですね」
▶それを素直に思えてるのは、凄くバンドとして健全だなと思います。ここでハヤトくんに訊いてみたかったことがあるんですが、2016年にインディーズデビューをして、その後メジャーデビュー。言葉を選ばず言うと、みんなは本当に急激にいろんなステージに出たと思うんです。
ハヤト「ですね、はい」
▶札幌という街で息を潜めていたバンドが、いきなり表舞台に立ったことで、自然とフロントマンとしての振る舞いやステージング、そしてやりたいこと/見せたいこともどんどん変わってきたのかな?と思います。
ハヤト「めちゃめちゃ変わりました。ほぼ札幌だけで活動していた時は『(お客さんに対して)届けたい』と思っていなかったんじゃないか?って今だと思ってしまうくらい内向きだったし、好きなことしかやってなかったんですね。でも、CDを全国流通という形で出させてもらってからは、音源を聴いた上で来てくれる人が増えて、その分ライヴを楽しんでくれる人も増えたんです。自然と来てくれるお客さんの気持ちに呼応できるライヴがしたくなって、伝えたいこともどんどん増えていって......応援ソングみたいなものが多くなったのも、ライヴを楽しみにして来てくれる人達に対して、素直に力になりたいと思って変わっていったものだと思います。ステージングで言えば、俺自身は笑顔が凄く増えたし、お客さんと一緒に楽しみたくて『一緒に手挙げようぜ』とか『楽しもうや!』みたいな言葉も増えました。それこそ『ターミナル』『革命を鳴らせ』あたりから、MCは得意というか器用なわけではないけれども、一生懸命何かを伝えたくなってきて。今までないがしろにしていたMCの部分で、少しでも何かを伝えられればいいなと思えるようになりました。頑張って喋ろうというのとはまた違うんですけど――」
▶前のハヤトくんは「本当は喋りたくないんだよな」って思ってたもんね。
ハヤト「はい、喋りたくなかったです、下手なんで(笑)。それでも伝えたいことがどんどん増えてきて。お客さんの顔を実際に見ていたら、ライヴで何かひとつでも来てくれた人の景色がいい方向に変わればいいなと思いながらライヴができるようになったのかな、と。凄く人間として成長したなと思います」
▶人として感受性が強くなったのかな?と。いろんな人と出会う分だけ、何かしらの影響は返ってくると思います。メジャーの環境になると、今まで以上にいろんな人が関わる、そんな内部のことも、もしかしたら大きかったのかもしれないですね。
ハヤト「そうですね、中も外も、みんなですね」
▶コウタロウくんは常にライヴの時はドラマーとして後ろにいて、他のメンバーが全員見える唯一のメンバーです。自身でも歌詞を書くドラマーとしてステージを重ねていく中で、後ろから自分の歌詞が伝えられる様子を見るのはどんな感覚でした?
コウタロウ「歌うのはハヤトなので、あまり『俺が、俺が』っていう歌詞ではなくて、各々が解釈できるような歌詞を書くって意識が常にあります。その歌詞を、いざライヴでハヤトが歌って、それをお客さんが聴いてっていう図を見て、自分自身が心動かされることが偶にあるんですよね。自分が書いた歌詞だけど、ハヤトというフィルターを通して自分に戻ってくる、っていうのは面白い感覚にはなります」
▶自分が書いた歌詞に対して、感覚がリスナーってことですよね。
コウタロウ「そうですね。自分が書いた歌詞だけど、ハヤトが歌うことによって違って聴こえて、新しい捉え方ができる、っていう僕にしかわからない感覚なんですけどーー面白いですね」
▶コウタロウくんは自分自身でも言っていましたが、作家性の強い、想起させるものが広くてひとつの意味では捉えられない歌詞を書いているので、ハヤトくんに提供する段階で一回リスナーに戻るのかもしれないですね。
コウタロウ「そうかもしれないですね。だから『こういう解釈もあったんだ』って逆に気づかされることも偶にあったりします。ライヴでは自分が想像していた以上の反応があるというか。歌詞に解釈の余地は常に持たせようとはしていて、より沢山の人のそれぞれに響くポイントがあったらいいな、という気持ちはあるりますね」
▶ハヤトくんは同じバンドの中に作詞をする人がもうひとりいる、っていう状態でずっとやってきていると思うんだけど、コウタロウくんに対してライバル意識はあるの?
ハヤト「めちゃめちゃありますし、参考になる部分もあるし、『あ、パクろう』とかも思います(笑)。そういう意味では尊敬している部分もあるんですけど......まぁ、勿論僕にも多感な時期はありまして(笑)」
▶あはははは!(笑)
ハヤト「(笑)。いろいろあった上で、今は素直にコウちゃんを尊敬しながらバンドの中で歌えているなという感覚はありますね」
▶ハヤトくんがコウタロウくんの歌詞を「パクろう」と思うと言ってたけれど、コウタロウくんの歌詞の要素がハヤトくんにかなり入ってきたなと凄く今作で思いました。
コウタロウ「僕らから、無意識的に共通のワードが出てきたりして」
▶確かにコウタロウくんもハヤトくんのように『ウェザー』あたりからヘイトの感情を隠さなくなった。
コウタロウ「あははは! そうですね」
ハヤト「それは俺からコウちゃんに書いて、って言ったのもあるし、ペットは飼い主に似るっていうのでね」
コウタロウ「おっと、これはちょっと後で喧嘩する......」
ハヤト「はははは!」
▶(笑)。それは後で決めていただいて(笑)
ハヤト「同じバンドの中でそれぞれが歌詞を書くことによって、お互いに意識しながら使うワードというか、共通意識みたいなものが何処かに生まれているのはいい傾向なのかなとも思います。前作の話になっちゃいますけど、"革命を鳴らせ"の歌詞を共作で書いた経緯もあるのかなと」
コウタロウ「お互い無意識的に影響し合っていることは大いにありますね。今作の歌詞は全体的に湿度の高い、水っぽいワードが多いです」
春をずっと待っているんです
▶では、ここから本格的に今作『CLOVER』の話を訊いていこうと思います。音楽の話でいうと、今までと比べると凄く実験的な音を鳴らしていている1枚で。たとえば"Lullaby"(M2)みたいな曲も、今までのフロアだったらガチガチのギターロックになっていたと思うんだよね。
ハヤト「うん、そうですね」
▶ヴォーカルのリヴァーブ感や全体の音色のニュアンスとかも洋楽寄りの角を取ったもので。ヴォーカルは「日本語に聴こえない感じで歌え」ってレコーディングの時に永田くん(涼司/Gt)が言ったのかな?
ハヤト「そうですね。その通りです」
▶その変化は、今作のサウンドが洋楽的アプローチに寄ったのと、まったく同じことだと思うんです。この歌い方の変化は、音楽的追及の結果なのかなと思ったんだけど、どうですか?
ハヤト「本当にそうですね。今まではパキパキと言葉をハメて歌っていたんですけど、今回は全体を通して言葉をぼやかすというか......入ってくるんだけど......」
▶リズム重視という感じかな?
ハヤト「そうですね、いい意味でのど越しさわやかで残らない、しこりがない感じで。洋楽ってリズム重視な感じで凄くスッと入ってくるじゃないですか。だから、日本語で洋楽的なアプローチをしながら表現したかったのが今回のアルバム、って感じです。今作は結構全体を通してそうですね」
▶それではここからは曲ごとにその歌詞世界を訊いていこうと思います。まず"Clover"なんだけれどハヤトくん自身が何か耐え忍んでいたのかな?
ハヤト「そう......ですね。本当にそんな感じです」
▶冬を越さないと芽吹かない雑草をタイトルにして、灯りを待っていた、と。
ハヤト「ふふふ、春をずっと待ってるんですよ。"Clover"は歌詞を書いてる時に、何か花で表現したいなと思ってたんですよね。コウちゃんといろいろ調べてたら、クローバー、つまりシロツメクサは冬の寒さがないと春に花を咲かせない、って情報を知ったんです。そこからさらに調べてみると、成長過程で傷がついたところから、デフォルトの三つ葉から四つ葉になったり五つ葉になるということ、葉っぱが増えるごとに花言葉がどんどん幸せなものに変わっていくことーー知れば知るほど、本当に素敵な花だなと思って。いろいろ耐え忍ぶことはあるけれども、それが絶対に花を咲かせるものになるんだよ、っていう歌を今回書きたいなと思いました」
▶自分達もそうだし、聴いてくれる人にとっても、という感じかな。
ハヤト「そうですね、自分が思ったことが何か......俺は聴いてくれた人にとって少しでもプラスの何かになってくれたらいいなと思いながら書きました」
コウタロウ「これは言っていいのかわからないですけど......"Clover"は最初ハヤトと一緒に歌詞を書き始めた時のテーマが『復讐』だったんです」
ハヤト「クローバーに『復讐』っていう花言葉があって、そこから見つけたんですよ」
コウタロウ「それでクローバーが採用されたという」
ハヤト「復讐ってヘイト的な意味もあるけど、結局は『やってやるぞ精神』みたいなことじゃないですか。最後には前を向こうぜっていう。だから、歌詞の中でも言ってるけれど、僕らもいつか白く小さな花を片隅にでも咲かせたいし、聴いてくれる人が何処かに花を咲かせてくれたらいいなと思いながら、という感じですね」
コウタロウ「クローバーという言葉を見つけたからこそ、こういう(前向きな)歌詞にどんどんなっていったのかなとも感じてます」
▶メジャーデビューというものをすると、対バンライヴとかイベントも含めて、自然と戦う相手のレヴェルが上がると思うんですよね。競い合う相手も、より強い相手が出てくるタームに入ると思っていて。そういった部分で言うと、メジャーデビューの頃はインディーズの時にまとっていた無敵感とはまた違う、修行期間のような季節になったと個人的には思ってました。でも、着実に曲を創って、届けてーーまさに『冬の時期』が自分達の中にちょっとあったのかなと個人的には思っていたから、"Clover"はそんな想いの曲に聴こえました。
ハヤト「その僕らの背景を知ってるならば、それは間違いないです(笑)」
▶はははは!
ハヤト「全然間違いではないです。そういった経験が"Clover"を生んでくれたというのも勿論あります」
▶その想いを曲で解消するところが、ミュージシャンらしくていいなと思います。
ハヤト「SNSでグチグチいうのは違うと思うので。結果的にヘイトは言ってるかもしれないけれど、前向きな1曲にはなったなと思います」
▶ただがむしゃらに背中を押すというよりも、「お互いに傷だらけのクローバーだから一緒に花を咲かそうね」ってニュアンスの方が強く出ていると思います。
ハヤト「そうなんです。今までは押しつけがましい感じで歌を歌ってしまっていたなと思っていて、今回その感覚を変えたくて書いた歌詞だったのでよかったですね。自分の中で少し変われたかなと思ってます」
▶続いての"Lullaby"ですが、この曲の歌詞って今までのフロアにない歌詞で、こんなにも女性の登場人物が見える歌詞は初めてなんですよね。
ハヤト「ドロドロしい感じを書きたかったんですよ。なんていうんだろう......遊郭みたいな。だから<ショーウィンドウ>みたいなイメージで、一夜にある何かみたいなものを書いてみたいなと思って、今回の"Lullaby"の歌詞は書きました。で、それを忘れられないから<おやすみ>っていう意味で<ララバイ>です」
▶個人的には<身勝手な愛 囁き合って どうせ忘れてしまうのだろう>の一節と、この曲全体の流れるような疾走感が相まって、流されてしまう夜のニュアンスをすごく感じました。
ハヤト「本当にそんな夜をイメージしました」
▶この曲は今までのハヤトくんになかった創作感/作家性のある歌詞だなと思っていて。
ハヤト「そうですね。それに"Lullaby"は今までの中で一番言葉数というか、言葉のヴァリエーションが少ないんですよ。それでも何か想像してもらえるんだったら、俺は進歩したなと思います」
▶<最後の最後のこんな夜は>のリフレインだけで、様々な思いを巡らせる人がいると思うです。ある有名なバンドで<最後の花火に今年もなったな>って歌詞だけで毎年毎年いろいろ思い出させてくる方々いらっしゃるじゃないですか。
ハヤト・コウタロウ「あぁ......いますねぇ......」
ハヤト「俺そのバンド好きです......(笑)」
▶だからこの"Lullaby"の歌詞も、同じように聴き手に委ねる書き方で面白いなと思いました。続いて"Hate you,Cathy"(M3)なんですが、ストレートに聞きますがこの「Cathy」とは何を表してるのかな?
ハヤト「誰だと思います? こないだファンの子からTwitterでDMが来て、その子にはバレたんですけど――『歌詞』です。『Hate you,歌詞』です。歌詞が書けない俺の苦悩そのままです(笑)」
▶<傷を抉り合って>の部分は何処に向いてるんだろうと思ってたんだけど、確かに歌詞書く時って自分と向き合うから傷抉り合うもんね。
ハヤト「はい......でも今回、歌詞のことについて書いてるってバレたくなかったから、なるべく言葉を濁してというか。それこそ、女の子と向き合うかのようなイメージで書いてたので、俺的にはバレなかったのは正解なんですよね」
▶要するにハヤトくんにとって、歌詞は女性の心のように掴みどころがない存在ってことですね。
ハヤト「そうなんです、何書いても喧嘩するんですよ(笑)」
▶あははは! 歌詞の心は秋の空なんだ。
ハヤト「そうなんですよ。あいつ本当わかんねぇ......(笑)」
▶次は、コウタロウくんが作詞/作曲に関わった"Keep On Crying"(M3)です。今までに一番なかったタイプの曲で、空間系の広がりが強いインディーロックみたいなニュアンスで、個人的にはKyteを思い出しました。
コウタロウ「この曲は自分の中でのイメージはSigridでした」
▶なるほどね。この曲は全体的に薄っすらと虚無感があるというか、なんとなく漂うやるせなさや虚無感を、サウンドも歌詞も凄く表しているのかなという印象でした。
コウタロウ「実は最初のイメージとしてはそこまで漂う感じではなくて、肉体的なビートが結構しっかりしていて、歌も割とハツラツというかーーしっかり歌うイメージだったんです」
ハヤト「そうだったんだ?」
コウタロウ「俺がデモを創った段階ではそうだった。そこから、メロディを永田と考えることになって。AメロとCメロを永田が書いて、Bメロとサビは俺が持っていったデモがそのまま採用になったんです。そうやってメロディを創っていくうちに、曲に対するイメージもガラッと変わりました。実はデモも歌詞も船の上で書いてたんですけど――」
▶この曲は水槽の中から太陽を見てる感覚の絵が浮かんでました。歌詞の中に<海>って出てくるけれど、水っぽい印象はなんとなく合ってたんですね。
コウタロウ「そうなんです。歌詞も船で書いてたので、自然と海から受けるイメージみたいなものが言葉になったと思ってます。そこから最初に思い描いていたイメージからどんどん変わって、最終的に浮遊感のある感じになっていったので、これはこれで面白い曲の創り上げられ方でした」
▶そもそも"Hate you,Cathy"と"Through The Night"(M6)がある中で、1曲この音楽性に振れたのはバランスとしては凄くよかったんじゃないかな。 アルバムにこの1曲があるだけで、アーバンなテイストが出るよね。音に含まれているシティ感が、The Floorってバンドを艶やかに見せている曲になっていると思います。
コウタロウ「うん、そうですね。自然とこの曲もアルバムに入れようって話になりました。無理して入れた感覚はなかったです」
ハヤト「今回のアルバムの中で、めちゃめちゃいいスパイスになったと思います」
コウタロウ「個人的にはアルバムの中でこの曲だけ浮いてしまったら嫌だなというのがあったので、そう思ってもらえたのはよかったですね。ドラムもこの曲だけ打ち込みで、他の曲は全編似たようなサウンドメイクになってたので、それがどう伝わるのかなという不安はずっとあったんですけど、そう言ってもらえてよかったです」
▶それから<渡り鳥>という言葉も"ウィークエンド"(from『ウェザー』)を思い出しました。
コウタロウ「あぁ、死のイメージみたいなものは共通してるかもしれないですね」
ハヤト「あと、このスロウな曲調を出せたのは、今回初めてだったんじゃないかなと思います。今までも持ってたけれどーーちょっと忘れていた歌の楽しさの部分に、俺はもう1回この曲で気づけたなと思います。ずっと元気ハツラツな感じで歌ってたんで、こういう歌を久しぶりに歌えて凄く嬉しいですね」
▶"雨が上がって"(The Floorの旧名・Flooded Floor時代の楽曲)も、サビ以外はこういうニュアンスだった気もします。ハヤトくんってこういう柔らかい歌い方ができるヴォーカリストだったなと思い出しました。
ハヤト「俺も思い出しました(笑)。意外と俺こういう歌、歌ってもいいじゃんって。しばらく開けてなかった引き出し、ちょっと固かったけど開けれました」
▶昔の服引っ張り出したら古着みたいでいいじゃん、みたいな感じだよね。
ハヤト「そんな感覚でした」
コウタロウ「だから、僕らにとっては新しさと懐かしさがある曲なんですよね」
▶いい再チャレンジになってると思います。では、次の"allright!!!"(M5)です。"Lullaby"と同じくまた女性との寓話に聴こえる言葉たちですね。
ハヤト「(笑)。でも、これは完全に創作なんです。なんていうか、『もう取り戻すことのできない時間を今でも思っているけれど、それでもいいじゃん』って言いたい歌というか......無理矢理『大丈夫だよ』って自分を勇気づけるイメージの歌ですね。過去のことって『そんなの忘れちゃいなよ』、『もう切り替えた方がいいよ』、『シャキッとしろ』みたいなことを言う人もいるけれど、心の何処かに何か大切なものを引き摺っていたっていいじゃない、って歌ですかね」
▶その想いに対して「大丈夫!!!」って言えたのは、ハヤトくんの人間的な成長だよね。
ハヤト「そうですね(笑)」
▶年を取るごとに、きっといろんなものが自分の中で許せるようになってくると思うんです。前は過去を引き摺っていたり、引っ掛かっている自分が嫌だったりしたのかもしれないけれど、「それでもいいじゃん」って言える余裕が人として出てきたんじゃないかなと思います。
ハヤト「僕も年を取りましたから......(笑)」
▶そうだよね(笑)。だからそういう意味で言うと、創作とはいえ今作の中では一番ハヤトくん自身の曲だなと思います。
ハヤト「この曲は凄く素直ですね」
▶最後が、本日不在のヨウジ(ミヤシタヨウジ/Ba)くん作曲の"Through The Night"ですが、この曲はヨウジくんからコウタロウくんに歌詞を書いて欲しいという話があったのかな?
コウタロウ「この曲はデモがあった段階で、ヨウジから歌詞を書いて欲しいって言われました。その段階で『ただ楽しいだけの歌詞は違うから......任せます』みたいな感じでした」
▶「任せます」の言い方めっちゃ似てる(笑)。
コウタロウ「(笑)。歌詞を書く時って、大体特定の感情を自分の中からピックアップして、それをどんどん煮詰めていって濃縮させたものを歌詞に落とし込むんですけど、この曲もそういう感じで書いていきました。書いていくうちに、自分自信の気持ちに気づかされた歌詞でもありましたね」
▶実はさっきハヤトくんから"Hate you,Cathy"が歌詞の曲だ、ってことを訊くまで、逆に"Through The Night"が歌詞の曲だと思ってたんだよね。
コウタロウ「確かに! そうとも捉えられますね」
▶<終わらない真っ白な川の中をいつものように/お決まりの合図出して泳ぎ回る滲む黒い文字><声の無い世界 いつか行けるかな>の一節で、歌詞の話なのかなって思ってました。だから"Hate you,Cathy"の話を訊いて、あぁ、こっちが......って(笑)。
コウタロウ「こっちが黒幕でした(笑)。僕は人付き合いが凄く苦手だから、人とのコミュニケーションの煩わしさだったり、意見の食い違いみたいなものに対する想いを書き出していったんです。だけど、最終的に『まぁ、気にすんなよ』っていう自分自身への応援歌みたいな感じになっちゃいました」
▶いわゆる、コウタロウくんが打ち上げでよくひとりぼっちになることに対するアンサーソング、ってことでいいかい?
ハヤト「そういうことになりますね」
コウタロウ「あはははははは! そうとも言えますね(笑)。それでも解釈の余地は持たせたかったですね。それこそ今歌詞の話を黒澤さんがしてくれましたけど、そういう捉え方があったりするので。ーー人との繋がりというか、個人と大勢の繋がりだったり、個人と個人の繋がりだったりが凄く煩わしくなってきて、ひとりになりたいタイミングがあって。その気持ちがそのまま出ましたね」
▶その尖った感情を80'Sニュアンスのサウンドで鳴らすっていうのは、泣きながら踊るを体現化してきたフロアらしい。
コウタロウ「この曲のリフはヨウジが考えたんですけど、結構キャッチーでポップだったので、歌詞は棘があってもいいかなと思って。曲に救われたというか、上手いことバランスは取れてはいるかなと思いますね」
気持ちは『強くてニューゲーム』みたいな感覚
▶以前と比べると今作は凄く創作性/作品性の高い歌詞が集まったなと思います。サウンドスケープに似合うニュアンスが歌詞に凄く強く出ているなと印象でした。
ハヤト「歌詞が強く出過ぎると、ある種音楽として成り立っているのものが少し損なわれる部分もあるんじゃないか、って話し合った上で僕達が創りたいサウンドに対して、いかに1曲1曲を1枚ずつの絵のように見せるかで凄く悩んでできたアルバムなので、今回の作品は聴いてくれた人それぞれの解釈で聴いて想像してくれたら俺は嬉しいなと思いますね」
▶音楽的な追及をした結果、作品性の高い歌詞になった、というのは創作の順番として凄く面白いですよね。音楽的に何かを追及することは、拘りを深めていくことに近いと思うんですが、それはともすると、歌詞に自分の拘りが凄く出てくる可能性もあったのかな?と思うんです。結果として、自分自身の話が強くなることの方が多いのかなと個人的には思っていたんだけれど、フロアの場合は逆に音楽性の追求が作品性としての追及に転じて、いろんな捉え方ができる歌詞になった。
コウタロウ「僕自身はいつも歌詞に解釈の余地を持たせたい、と考えて書いているし、曲を創る永田も押しつけがましいものにはしたくない、とは常に言っていて。たとえば歌のニュアンスでも、あんまりにもダイレクトに日本語として耳に入ってくると、歌と楽曲のパワーバランスが変わってくるじゃないですか。でも、洋楽は英語の意味がすぐには入ってこないから、オケと歌のバランスが対等な感覚で聴ける。そのイメージに割と今回近づけられたのかな、っていう感覚はありますね。いい意味でダイレクトにメッセージが入ってこない、洋楽的なアプローチに近づけられたのかなと思います」
▶洋楽は歌も楽器のひとつに聴こえますからね。『CLOVER』の楽曲はライヴで何回かやってると思うんだけど、その感覚も今までと違いますか?
ハヤト「"Clover"が一番メッセージ性強いんで、そこはあんまり変わらないんですけど、他の曲を何回かやった上では、『曲で聴いてくれている』という感じはありますね。言葉を聴きに来ている、強いて言うならば歌を聴きに来ているというよりも、もっと曲全体を聴いてくれてるような感覚はなんとなくあります。"革命を鳴らせ"も今は言葉ひとつひとつというよりは、全体の空気感で聴いてくれてるんじゃないかなと思うし、自分もそういう感覚でライヴをやれてるなと思います」
コウタロウ「僕はハヤトが本来持ってたものかな、とは勝手に思ってるんですよね。"Toward Ward World"(from『ライトアップ』)とか聴けばわかるんですけど、言葉が入ってくるわけではなく、上手いことメロディと言葉がリズムに乗っかってる、っていうのを凄く自然にできてた人間だから。これからのライヴでも自然と表現してくれるんじゃないかな、と僕個人は思ってますね」
ハヤト「今になって考えたら、昔の歌詞の方にも好きなものも当然ありますからね。『ライトアップ』の頃はもっと自由に歌詞を書いてて、その当時の感覚が今回のアルバムにもあります」
コウタロウ「新しいけど、原点にも戻れた1枚なのかなというのは確かにあります」
▶『ライトアップ』は今と音は全然違うけれど、あの当時のフロアがめちゃめちゃ遊んで創ったアルバムだったじゃないですか。
ハヤト「何も考えてないですね(笑)。中坊みたいなアルバムです」
▶でも『ライトアップ』の曲が、実は最近のライヴでまた増えてるでしょう?
ハヤト「実はそうなんですよね。本当に初心というかーーバンドを好きになり始めた頃のモードに立ち返った部分は凄くあります。まぁ、それは毎回なんですけど......今回また自分達のやりたいものを原点からまた引っ張り出して、作品に落とし込めたんじゃないかなと思います」
▶また改めて『CLOVER』を持って再出発という感じだ。
ハヤト「そうですね。前よりは少し強くなって、いろいろみんなできるようになったけれども、気持ちは『強くてニューゲーム』みたいな感覚で。また、歩き出せるんじゃないかなと思いますね」
▶気持ちの面で立ち返れる作品を、メジャーデビューから1年というタイミングで出せたというのは、バンドとして凄く大きいことのような気がします。
ハヤト「僕らもそう願って音楽を創っていると思うし、何よりちゃんと楽しもうと思ってこのアルバムを創り始められたことも凄く大きかったのかなと思います。まずは自分たちが楽しんでこそだろ?ってメンタルにもう1回なれて、アルバムも出せて、ライヴも楽しくできている。今の状況はバンドとして凄くいいのかなと思いますね」
▶フロアは札幌で始まったバンドで。一時期かなり少なってしまっていたけど、最近また札幌でのライヴが増えてるじゃないですか。マイアミパーティやアルクリコールとツーマンライヴをやったり、札幌のバンドと一緒にやる機会もまた少しずつ増えていて。いろんな意味で、バタバタと過ぎ去っていた日々が1年経って、ちょうど今がもう1度原点に立ち戻る時期なのかもね。
ハヤト「僕もそう思っていて、札幌でのライヴはどんどん増やしたいんです。そもそも、ライヴ自体をめちゃめちゃ増やしたい。その分バシバシ曲も創って、初心の頃のような『何がなんでもやったる!』みたいな、がむしゃらな精神でやっていけたらいいのかな、とは思ってます。そういう意味で本当に再出発、って感じですかね。次またどうなるかは俺らはわかんないですけど」
コウタロウ「1年間かけて遠回りしてまた戻ってきたので説得力は増してるなと自分達も思うし、より確固たる自信というか『これでいいんだ』という気持ちに繋がってるので、次作とかそれ以降は、もうちょっと悩まず進んで行けそうな気はしていますね」
▶実は今、北海道の音楽が元気だと言われていて。それはフロアの同世代、年上、年下問わず、いろんなバンドがそうで、ここ数年なかった状態なんじゃないかなと思うんですよ。
ハヤト「一番活気づいてますよね。でも、俺らの存在めちゃめちゃ忘れられてて、札幌のバンドとして俺らの名前がまったく出てこないんですよ」
▶ただ、札幌のバンドはThe Floorがシーンに名前を打ち出していった様子を凄く間近で見てきたと思うんですよ。普段打ち上げで一緒に飲んでた兄ちゃんたちが、東京とか大阪で頑張ってるぞ、みたいな。だからこそ、北海道の音楽シーンに携わる人間としては、どうしてもフロアに期待してるところは凄くあるし、いい意味でそれをプレッシャーに感じてやってもらいたいなと思います。
ハヤト「そうですね。グイグイいいバンド、いい音楽が生まれているから、勿論負けたくもないしーーすべてを牽引するくらいの気持ちでバンドができたら、めっちゃ強いんだろうなと思います。そうなりたいから頑張ってる部分も勿論あるし、それは札幌だけじゃなくて、各地のどのバンドに対してもそう思ってやっていきたい。......今攻め気っす。倒して仲間にしていくスタンスでいきたいですね」
▶なるほど、仲間になりたそうに見られるようになりたいのね。
ハヤト「そうです、見られたいんですよ(笑)。それに俺も先輩をそう見ているし、そう思われる人間になりたいし。だから......魔物使いになりたいです」
▶このままだと「僕は魔物使いになりたい」でこのインタヴューが締まりますけど(笑)。
ハヤト「あははは!(笑)。『ドラクエ5』みたいな感じで(笑)」
コウタロウ「それはそれで興味そそるかもしれない。どんなインタヴューなんだろうって(笑)」
▶まぁそれは冗談として(笑)。札幌を背負うバンドだと思って、進んでいって欲しいなと僕は思います。
ハヤト「そう思われるくらい強い人間、強いバンドでありたいなと俺は思ってます」
▶『CLOVER』はそのための再出発のアルバムになったんじゃないでしょうか。
ハヤト「まさしくです。花を咲かせるアルバムになりました」
コウタロウ「北海道の寒い冬を超えてね。全国に花を咲かせましょうという感じです」
▶そして6月からは今作、そしてリリース発表もされた配信限定シングル『緑風』を携えてのワンマンツアーが始まります。
ハヤト「はい、『Eccentric!! Tour』です」
▶『CLOVER』の曲は当然セットリストに入ってくるだろうし、それ以外の札幌でのライヴもこれから控えている。そこで流石だなという姿をお客さんにも対バンにも見せてくださいね。
ハヤト「そうですね。札幌で観てくれてる人達には、札幌のバンドとして恥じないライヴをしたいなと思ってます。みんな忘れてるかもしれないけれど、俺たちは凄く札幌好きだし、そもそも札幌に住んでるしーーいろんな想いを持って、札幌でのワンマンに帰ってきてます。今回のツアーは札幌も会場のキャパをちょっと上げて挑みに行くので、全力で有りのままのThe Floorを一番表現できるワンマンライヴに、俺はぜひ触れて欲しいなと思います。ライヴをどう受け取るかはその人次第かもしれないけれど、悪いものは見せない自信だけはあって。絶対楽しませるぞって気持ちでいるので、ぜひ少しでも興味を持ってくれてる誰かに見届けに来て欲しいです」
(■text&interview 黒澤圭介 ■photo 松山雄介 ■sub editor 塚本葵)
INFORMATION
The Floor Presents 「Eccentric!! Tour」
2019.06.07 [Fri] 恵比寿 LIQUIDROOM
2019.06.16 [Sun] 名古屋 APOLLO BASE
2019.06.21 [Fri] 札幌 cube garden
2019.06.30 [Sun] 梅田 BananaHall
この記事を書いたのは
黒澤圭介(photo:松山雄介/sub editor:塚本葵)
『MUSICA』&MASH A&Rなどの東京時代を経て、地元札幌の某メディアのひと。音楽をメインに文章を書いたり、アーティスト育成などもしてます。ポツリポツリと書きます。