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集まった人々、集まった表現で、作り上げるダンス―Sapporo Dance Collectiveとは?

舞台

わたなべひろみ

2019/11/21

演劇やダンス、音楽ライヴ、人形劇......さまざまな舞台作品がここ札幌でも数多く上演されています。目の前で繰り広げられる生の迫力は見る人を日常から別世界へと連れ出してくれます。でも、そんな場になかなか足を運ぶ機会がない、あるいはどんなものを見たらいいのかよくわからない、という人も少なくないのではないでしょうか。

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photo:yixtape

札幌で昨年から本格的に活動を始めた【Sapporo Dance Collective(サッポロダンスコレクティヴ)】はダンスカンパニーともユニットとも異なる、「人々」の集まりです。ダンス作品を発表するプロセスへの取り組み方や表現者の権利・暮らしにまで考えを広げる【Sapporo Dance Collective】について、不定期連載でご紹介します。

札幌でダンスの新しい創作の場をつくりたい

札幌市西区琴似にある劇場、生活支援型文化施設コンカリーニョではさまざまな演劇やダンスなどの舞台作品が上演されています。
この劇場の運営を行うNPO法人コンカリーニョ理事長であり、演出家・プロデューサーである斎藤ちずさんの思いから、【Sapporo Dance Collective(サッポロダンスコレクティヴ・以下SDC)】は生まれました。
これまでもコンカリーニョで多くの演劇作品やダンス公演を手がけたり、招聘してきたりした斎藤さんですが、なかなか札幌独自のダンスを作り上げる人たちの活発な動きが起きてこないことに、もどかしさを感じていたそうです。

「そうだ! 札幌にダンスカンパニーをつくりましょう!」

ダンスという表現のためのインキュベーション(事業創出)の場......集まった人々の試行錯誤を通して、舞台作品を育て上げる場を作ろうという意志のもとに、2017年9月に行われたのが【コンカリダンスカンパニー立ち上げ プレビュー公演&座談会】でした。これが現在のSDCの前身となります。

新しい試みを始めるにあたって、斎藤さんが声をかけたのは、国内外で活躍する指輪ホテル芸術監督の羊屋白玉さんと札幌のダンサー6人。

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指輪ホテル芸術監督の羊屋白玉さんが参加。羊屋さんは2017年の札幌国際芸術祭の市電プロジェクト×指輪ホテルでとして、市内を走る電車を舞台とした「Rest In Peace, Sapporo~ひかりの街をはしる星屑~」も上演している photo:yixtape

このメンバーによって創作された15分程度のダンス作品の上演と、上演後行われた演者と観客の意見交換が、札幌におけるダンスの新しい実験の第一歩となりました。

集まり、ゆるやかに繋がり、作り上げる―Sapporo Dance Collectiveの誕生

【コンカリダンスカンパニー立ち上げ プレビュー公演&座談会】の中で、斎藤さんと羊屋さんの対話から浮かび上がってきた疑問は、この時点でダンスカンパニーを作るのがゴールなのかということ。

ダンス創作の現場で一般的なのは一人の振付家が頂点に存在し、考え出された振りにダンサーたちが従って踊り、精度を上げ、作品として作り上げていくというもの。つまり、完全なヒエラルキーのもとで作られるものです。

斎藤さんが考えるインキュベーションの場とは、ダンサーそれぞれが振付を考え踊り、それを作品としてまとめていく。しかも、その集まった人々が対等な立場で意見を交換し、実験し続けられる......というイメージでした。

「それって、Collectiveじゃない?」

羊屋さんのひと言で、このダンス作品の新しい創造の場の方向性が決まりました。

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photo:yixtape

Collective(コレクティヴ)とは、日本語では「集合体」、「共同体」、「集団的な」などと訳され、個々ではなく集まりを形成するものを指します。最近のアートの動向の中でも多く見られ、複数のアーティストが集まってチームとなり、1組のアーティストとして活動するものです。

羊屋さんはこのCollective(コレクティヴ)の概念が札幌のプロジェクトに当てはまると考えたのです。こうしてSDCが誕生し、昨年2018年12月に第一作品【HOME】が上演されました。

提案、実験、対話を循環させてひとつの作品を作る

昨年2018年12月に上演された第一作品の【HOME】 には、【コンカリダンスカンパニー立ち上げ プレビュー公演&座談会】に引き続き、羊屋白玉さんをコンセプト・構成演出に迎えました。

北海道という土地にも深く関わる「ファミリーヒストリー」や「移民」をテーマの柱としたフィールドワークやインタビューを行い、そこからダンスとしての表現を模索することから作品づくりを始めます。さらにそれを共有し、互いに吟味し、練り直していく......というクリエイションが続けられました。しかし、これまでにない創作手法にメンバーは遠慮や戸惑いを覚え、当初はなかなかスムーズに進まなかったそうです。

2018年9月、試行錯誤のさなかに北海道胆振東部地震が起こりました。経験したことのない揺れとブラックアウトに北海道民の心は大きく揺らぎます。

SDCのモチーフにも地震や大停電が加えられ、上演の直前までダンサーたちの提案や実験、対話が繰り返されました。

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地震時の炊き出しなどの出来事がモチーフに加わった photo:yixtape

ダンサーたちによって手探りで作られた第一作品【HOME】は、コンカリーニョで3日間上演されました。まだ生々しく残る地震の記憶や自分たちの祖先のこと、家族のいる家。手が届きやすいイメージを生身のダンサーが演じる姿は、観客の目にはどう映ったのでしょうか。

表現を続けるために必要な要素を集めていく試み

2年目を迎えるSDCは2020年2月28日(金)・29日(土)・3月1日(日)の本公演に向けて、新たな実験を始めています。

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第一回ワークインプログレスでのBチーム photo:ナガオサヤカ

今回の公演は、現時点ではいくつかのグループに分かれるオムニバス形式で創作が始まりました。本公演までの間に3回のワークインプログレスの場を設け、制作途上の作品を一般の観客の前で発表します。観客の印象や意見を受けて、さらに作品を練り上げていくという試みです。本公演までにグループがそのまま存在するのか、融合し、ひとつのものになるのか......今はまだ、誰にもわかりません。

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観客の声をクリエイションに活かしていく photo:ナガオサヤカ

また、ダンスをはじめとする舞台公演は演者だけでは成り立ちません。宣伝広報、当日の受付、記録......資金調達も公演の要素です。目に見えたり、目に見えなかったりするさまざまな役割が手を取りあうように機能し、創作から発表までがワンパッケージとなって作品が完成するのです。

そこで、今回は踊る以外の役割をSUKIMA(スキマ)と名付け、作品を作っていく過程で発生するスキマを自主的に埋めていこうという人々が集まりました。できることをできる範囲で行い、SDCを一緒に作り上げていくことになるそうです。

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SUKIMAにはウェブ制作、グラフィックレコーディングなど多才な得意を持つ人たちが集まった

そして、作品にとって大切なもうひとつの要素は、表現する人がたゆみなく表現を続けられること。そのために、表現する人の生活の安定は必須です。また、表現・創造することが職業として認められる必要もあります。

これまで目を向けられることがなかった表現する人の生活維持やさまざまな権利について多角的に探り、問題解決の糸口を見つけていかなければなりません。

そこで、【Hokkaido Artists Union studies (HAUS) ホッカイドウ・アーティスツ・ユニオン・スタディーズ】がSDCの一環として樹立されました。アーティストや芸術に関わる人の労働環境を見直すきっかけを作るためのユニオン(労働組合)の設立に向けて取り組みます。

Sapporo Dance Collectiveは、ご紹介したダンスの創作、SUKIMA、そしてHAUSを柱として、ゆるやかに繋がりつつひとつの舞台作品を作り上げるプロジェクトです。先述したそれぞれのチームは、それぞれの車輪を回して三輪車のようにひとつの方向を目指します。

今年のタイトルも、初回公演と同じ【HOME】。第2回ワークインプログレスは11月22日(金)に行われ、各チームのダンス作品の上演はもちろん、HAUSの勉強会も行い、訪れた観客の皆さんと一緒に考えを深めていくそうです。

SDCってなんだろう? やっぱりダンスってよくわからない......そんな人こそ足を運んで、自分の目で確かめてみてはいかがでしょうか。

【公演情報】

第2回ワークインプログレス
2019年11月22日(金) OPEN 19:30 START 20:00

※これ以降の日程は変更になる場合があります。ご確認ください。

第3回ワークインプログレス
2020年1月25日(金)・26日(土) 時間未定

本公演
2020年2月28日(金)・29日(土)・3月1日(日) 時間未定

会場
生活支援型文化施設コンカリーニョ(札幌市西区八軒1条西1丁目 ザ・タワープレイス1階)

Sapporo Dance Collective ウェブサイト
https://sapporodancecollective.jimdofree.com/

この記事を書いたのは

わたなべひろみ