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「人に迷惑をかけてもいい」大泉洋が小さな成人式で説いた人生訓

テレビ

乗田綾子

2019/06/25

それは2018年8月に行われていた、真夏の小さな成人式での言葉だった。

HTBが制作・放送しているローカルバラエティ番組「ハナタレナックス」のロケ で、揃って北海道・奥尻島を訪れていた演劇ユニット・TEAM NACS(森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真)は、「もし良かったら新成人を勇気づける励ましの言葉を」と奥尻町役場を通じ、ロケ当日に行われていた成人式に招かれる。

厳粛な雰囲気に包まれていた会場に、急遽「式次第にはございませんが......」という司会者の合図で、ロケ衣装のまま登場するメンバーたち。そして予期せぬサプライズに驚く16人の新成人たち を前に、TEAM NACSは1人1人がぶっつけ本番でスピーチをしていくことになったのだが、バラエティロケ中ということもあってどこかユーモアを取り入れたお祝いの言葉が続く中、自分の番が巡ってきた大泉洋は突然、こんな話を始めた。

「奥尻島の新成人の皆さん、本日は誠におめでとうございます。私がひとつ皆さんに贈りたいなと思うのは、私はこの45年間、"人に迷惑をかけてはいけない""自分で責任をとって行動するのが大人だ"と思っていましたし、そのように教えられてもきました」

「でも私は最近、その考えを少し改めたんです。人に迷惑をかけてもいい。多かれ少なかれ、人は迷惑をかけあいながら生きております」

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「ですから何か困ったことがあったら、人に頼ればいい。迷惑をかけることを恐れないでもらいたい。そして人に助けを求められたときは、自分が快く助けてあげられる。そんな大人になってほしいと思います」

この直後にはちゃんと本来の目的(バラエティの収録)を忘れず、大泉にはそのまま壇上で松山千春の名曲『君を忘れない』を一人熱唱するというオチが待ち受けているのだが、それにしても巻き戻して映像を見返す限り、前半の大泉の語り口は間違いなく"ガチ"だった。そしてそれは会場の新成人たちが聞き入る様子からも、充分に感じられるものだった。

「人に迷惑をかけてもいい」。現代はまずこの考えを発信すること自体、とてもハードルの高いことになってしまっている気がする。

ましてや大泉は、今や日本中で知られている有名芸能人だ。だけどそんな彼は、あえて自分の言葉で日々のつまづきを容認する。そして他者との関わりを恐れるなと励ますのだ。

その姿には常に注目されながら生きる職業人としての、そして現代人としての、真摯な覚悟と勇気が見えた気がした。だからこそあのメッセージは新成人の心に、しっかり届いていったのだろう。

そしてこのやりとりが北海道ローカルの番組ロケで行われていたということを踏まえて、さらに感じ入ったのは、大泉が「何か困ったら人に頼っていい」「迷惑をかけることを恐れないでもらいたい」というメッセージを、北海道・奥尻島の新成人に直接語り掛けていた、その意味である。

北海道の人間にとっては今も忘れられぬ記憶だが、奥尻島といえば1993年の北海道南西沖地震(推定最大震度6)で壊滅的な被害を受けている場所でもある。

【朝日新聞×HTB 北海道150年 あなたと選ぶ重大ニュース】北海道南西沖地震

この日会場に集まった新成人たちも、震災後に生まれた世代ではあるが、その成長の過程で災害の爪痕が残る故郷の苦しみ、そしてその困難に差し伸べられた無数の善意の力をずっと我が事として感じ取ってきた。

"被災地"の中で生まれた彼らはおそらく、他地域の同年代よりもその青春の中で、人の「助け」と「責任」の意味を幾度となく自分に問いながら、ここまで生きてきたはずなのだ。

しかし成人式という自立の出発口で大泉は、「何か困ったことがあったら、人に頼ればいい。迷惑をかけることを恐れないでもらいたい」と、新成人たちにあえて伝えている。

人生の先輩が勇気を持って伝えたこのメッセージで、小さな島の若い彼らが無意識に背負っていたものは、どれだけ軽くなっただろうか、とも思う。

大泉のスピーチは時間にして1分半、その後の熱唱まで含めたとしてもわずか3分半。しかも放送されていたのは、執筆時点で北海道内のみである。

ただそのさりげなくもあたたかい 人生訓は、北海道内だけで留めておくにはあまりにももったいない気がした。なぜならそれは奥尻島の新成人だけでなく、我々視聴者にとっても、もう一度人生の歩み方を変えてみたくなるような、珠玉のワンシーンだったのである。

この記事を書いたのは

乗田綾子

北海道在住のライター。著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)の他、『月刊エンタメ』『週女PRIME』等でも執筆中。HTBで一番好きな番組は夜のお楽しみ寝落ちちゃん。Twitter/ @drifter_2181