原子力発電所の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」。数万年にわたり強い放射線を出し続け、地下300m以深に貯蔵する計画だが、その最終処分場を日本国内のどこに作るのか、いまだ決まっていない。その議論が思わぬ形で動き出したのは8月中旬だった。
「日本の核のごみ問題に一石を投じる」
こう名乗りを上げた、北海道寿都町の片岡町長。処分場選定に向けた「文献調査」への応募を検討していると表明した。住民にとってはまさに「寝耳に水」。周辺自治体や北海道知事からも懸念や反発の声が上がったが、町長は一貫して応募の姿勢を崩さなかった。念頭にあったのが、調査受け入れで国から支払われる、最大20億円もの交付金だ。ある住民はこう言い切った。
「過疎を取るか、核を取るか、それだけだ」
急速な人口減少と産業の衰退に直面するマチ。巨額の交付金は魅力的だった。その1か月後。まるで足並みを揃えたかのように、同じ日本海に面する神恵内村でも応募検討の動きが急浮上。泊原発の周辺自治体として、長年原発マネーの恩恵を受けてきたが、人口は30年で半分以下の800人ほどに減少。マチの存続をかけた地元商工会の提案に、反対の声は影をひそめた。
急展開の裏にいったい何があったのか?キーマンの取材から、神恵内村で約10年前から秘密裏に開催されていた「勉強会」の存在が明らかになった。その場には「核のごみ」の処分事業を担当するNUMO(原子力発電環境整備機構)の職員も出席していたのだ。
ふるさとの衰退に直面し、選択を迫られる住民たち。そうした過疎地域に「核」を押し付けてきた日本の原子力政策。その現実と問題点に迫る。
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寿都町の片岡春雄町長と神恵内村の高橋昌幸村長
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神恵内村の人口は約30年前から半減し800人に
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道北・幌延町の深地層研究センター 地下350mまで続く立坑
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「核のごみ」の実物大模型
ガラスと混ぜて固めて複数の容器で覆われる -
幌延深地層研究センター では「核のごみ」処分技術の研究が続く
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神恵内村商工会が村議会に提出した
文献調査受け入れを求める請願書
スタッフ
- ナレーター
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山根 基世
- ディレクター
- 雲戸 和輝
- 編集
- 角田 朋美
- 撮影
- 滝本 真実
- 音響効果
- 前村 あづさ
- プロデューサー
- 金子 陽
- ■ナレーター
元NHKアナウンス室長
山根基世さん
- 1948(昭和23)年、山口県生まれ。1971年、NHKにアナウンサーとして入局。最初の3年は大阪勤務。その後、東京・NHK放送センター・アナウンス室に異動。主婦や働く女性を対象とした番組、美術番組、旅番組、ニュース、ナレーション多数を担当。2005年、女性として初のアナウンス室長。2007年、NHK定年退職後、地域作りと言葉教育を組み合わせた独自の活動を続けている。テレビ朝日「徹子の部屋」、日本テレビ「世界一受けたい授業」出演をはじめTBS「半沢直樹」「ルーズヴェルトゲーム」ナレーションなど、民放の番組も担当。 東京大学客員教授、女子美術大学特別招聘教授等を歴任し、現在は学校法人順心広尾学園理事、公益財団法人 文字・活字文化推進機構評議委員、シチズン・オブ・ザ・イヤー 選考委員会委員長を務める。2000年・放送文化基金賞、2008年・前島賞(逓信協会)、2009年・徳川夢声市民賞受賞。「感じる漢字」「ことばで『私』を育てる」他、著書多数。