＜今回のテーマ＞

昨年10月から毎月1回の6回シリーズで、「～患者のココロ、医療のココロ～こころに寄り添う医療の現場から」と題して、患者さんの「こころ」に寄り添う医療者の努力や、それによって変わる患者さんの姿などを通して、医療現場でのコミュニケーションのあり方、大切さを紹介しています。
最終回となる今回は、「患者力」について、「メディカルソーシャルワーカー」の観点から、秋田厚生医療センター医療福祉相談室のソーシャルワーカー　和田美智子さんにお話を伺いました。

＜患者力とは＞

「患者力」は、がん医療の現場において、エビデンス、チーム医療に次ぐ、第3の柱ともいわれ、今では重要な要素の一つとなっています。「患者力」とは、医療従事者が患者さんとのコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことで、患者さん自身がご自分の病気をしっかりと受け止めてもらえるようになれるチカラ、それを「患者力」と呼んでいます。

＜メディカルソーシャルワーカーとは＞

秋田厚生医療センター医療福祉相談室でメディカルソーシャルワーカーとして勤務する和田美智子さんは、治療に取り組む患者さんと、そのご家族が抱える様々な問題を社会福祉士の観点からサポートして、患者さんのQOL（生活の質）向上に努めておられます。
メディカルソーシャルワーカーとして、患者さんにどのようなことをするのか、和田さんにお聞きしました。
和田さん「病気や怪我で、昨日までの生活が一変してしまって、（患者さんが）一番大切にしていることが出来なくなって、（患者さんが）本来持っているチカラ（患者力）が閉ざされたり、無くなったりしたときに、そのチカラ（患者力）を取り戻す、お手伝いをしているだけなので、特別なものだとは思っていません」
「患者力」とは、本来、どの患者さんも持っているものなのでしょうか。
和田さん「（患者力は）本来、患者さんが持っているものなので、（患者力を）発揮できるようにするのがメディカルソーシャルワーカーの仕事だと思っています」

＜メディカルソーシャルワーカーによって「患者力」を取り戻した患者さんの声＞

2017年に肺がんで手術を受けた菅原若子さん（70代）は、手術後、体調不良や精神的不安から鬱状態になり、メディカルソーシャルワーカーの和田さんが勤務する医療福祉相談室を訪ねました。菅原さんに手術後はどのような精神状態だったのか、お聞きしました。
菅原さん「良好な精神状態が保てなくなって、先生にも言ってはならないことを言ったかなと思いますけど、（自分の病状が）分からないので、全部お任せしなければ、先生の言うことを聞かなければダメだなって、というようにしか思えませんでした」
そのような精神状態の菅原さんに対して、和田さんは、同じような悩みを抱える患者さんが集まる、秋田厚生医療センターのがんサロン「きずな」に参加することを提案されました。
菅原さん「（がんサロン「きずな」では）がんという共有したものを持っているから、いろいろな話が出来るんですよ。私は一人ではないんだな、ということを物凄く感じて、自分が変わらなければ先生も変わらないんだな、ということを学びました。そうしたら、私だけの思いかもしれないけれども、先生も変わったように感じました。そして、私が納得のいくような医療を先生もしてくだされば良いな、と思って、一緒に（先生と）進んで行こうかな、と思ったら楽になりました」

＜患者力の高まりによる医療従事者の変化＞

「患者力」が高まると医療従事者も変わるのでしょうか。
和田さん「（医療従事者に）お任せだった患者さんが、自分で病気をちゃんと見つめ直すようになって、自分から（病状に対する）不安や疑問を聞いてくることになるので、患者さんがチカラ（患者力）を取り戻している分、私たち（医療従事者）も、それに合わせていかなければならないので、ますます、私たち（医療従事者）もしっかりやらなくては、というふうになりますね」

患者さんご自身が納得する医療を受けるためには、全てを医療従事者任せにせず、自分の抱える気持ちを言葉にして素直に伝えていく、ということはとても大切なことです。特にがん医療の現場では、「患者力」の存在が、医療従事者にとっても大きなチカラになりますので、患者さんが「患者力」を取り戻せるように、メディカルソーシャルワーカーをはじめ、医療従事者の方々は日々努力されています。

取材協力：
秋田厚生医療センター
秋田市飯島西袋1-1-1
018-880-3000(代表)
http://www.akikumihsp.com/