北海道テレビ:HTB online 医TV

2021年07月02日15時31分

著者名:HTB医pedia編集部

医TVスペシャル 正しく理解しよう「体の防御機構と免疫」 新型コロナウイルス!がん細胞!免疫細胞はどう闘うのか

  

<今回のテーマ>

新型コロナウイルスのワクチン接種が全国的に進んでいます。
これまで新型コロナウイルスに感染した若い方の多くは、発熱などの自覚症状が軽い傾向に有ったことが報告さ
れ、その理由の一因に免疫が関与していたといわれています。
また、日本人の死亡原因のトップである、がんにおいても、私たちの体の中では毎日約5,000個の正常細胞が
遺伝子変異によって、がん細胞に変化していますが、これもまた免疫の力で抑えられています。
今回の「医TVスペシャル」は、新型コロナウイルスに感染した患者さんや、免疫細胞治療でがんをコントロールし
ている患者さんが感じたことに、感染症と免疫、がんと免疫のスペシャリストが、体の防御機能、免疫について分
かりやすく答えます。

<感染症と免疫について>

新型コロナウイルス感染症は、ウイルスが変異し感染リスクを増加させ、全国的な感染が続いています。
私たちの体の防御機能である免疫と、新型コロナウイルスなどの感染症について、順天堂大学医学部、奥村康先生にお聞きしました。

奥村先生 「歴史的に、天然痘から始まって、近年ペスト、コレラ等々、多くの方々が感染症で亡くなってきました。我々はコロナウイルスに限らず、風邪のウイルスなど、様々なウイルスが存在するところで生活しているわけですが、免疫が無いかぎり感染症を克服することは絶対できません。免疫は臓器の無い細胞ですから、なかなか学生にも説明しにくい仕組みになっていますが、赤ちゃんから大人まで、血液中やリンパ下の中で廻って、体を防御しているのが免疫なんです。免疫は、単球や顆粒球、そしてリンパ球というような組み合わせになっていますが、リンパ球が一番大事な免疫の本体となります」

実際に新型コロナウイルスに感染した方にお話を伺いました。

今野さん(仮名) 「僕の場合は発熱が有って、そのときは風邪かなぁって思ったぐらいで他の症状は無かったですね。PCR検査を受けた結果、陽性反応が出たので、保健所から連絡が来て、一応無症状だったので、それでホテルの方という扱いになりました。ホテルの方では、治療は無くて、免疫で治す、という手段だけでしたので、本当にに不安というか恐怖でした」

現在、新型コロナウイルスを直接標的とする治療薬はありません。
感染された患者さんの多くは、発熱した時には解熱剤、せきがひどいときには、咳止めなどの対症療法を行いながら、免疫の力でウイルスを排除するのが主な治療となっています。
私たちの体の中にウイルスなどが侵入した時、免疫細胞はどのように闘うのでしょうか。

奥村先生 「免疫を大雑把に申し上げますと、軍隊みたいな非常に強い免疫と、そこまで強くないお巡りさんみたいな免疫と、大雑把に二段階になっています。コロナウイルスや風邪のウイルスが、体に入ってきた場合、まず最初にウイルスを排除しているのは、お巡りさんであるNK細胞で、この場合、発熱も何も起こりません。しかし、NK細胞はちょっとしたことで、上がったり下がったりして、特に不規則な生活、ストレスに物凄く弱いという性質が有ります。特にお歳を召した方ですと、NK細胞の力が弱くなる可能性が有りまして、そうしますと、軍隊であるT細胞がミサイルを作れ、という指令を出します。ミサイルを作ることが出来るのはB細胞、それで、T細胞とB細胞がコロナウイルスのようなウイルスと闘うのですが、この場合、必ず熱が出ます。しかし、その発熱が結果としてB細胞による抗体作成に繋がるわけで、それが獲得免疫ということになります。

私たちの体に備わっている免疫には、自然免疫と獲得免疫が有ります。
自然免疫は、体内に侵入したウイルスなどをいち早く感知し、排除します。
また、獲得免疫は、感染したウイルスなどを記憶して、抗体をつくり、再感染を予防します。
新型コロナウイルスに感染した今野さん(仮名)は感染を経験し、いま感染を予防するためにどのようなことをしているのでしょうか。

今野さん(仮名)「免疫を上げるために、生活サイクルをちゃんとして、療養期間が終わってからも、ヨーグルトを食べてみたりとか、牛乳を飲んでみたり、気を付けたりはしているのですが、ただ、それが本当に合ってるかどうかも分からないまま、やっている状態です」

奥村先生 「ウイルスの排除で頼れるのは免疫しかありません。しかし、お歳を召した人は、NK細胞が下がりやすく、特に薬を飲んでいる場合などは非常に重篤になりがちです。そういう人になるべく早くワクチンの接種を行うべきです。更に、NK細胞はストレスや不規則な生活によっても大きく下がりますから、食生活においてなるべく乳酸菌を多く摂取して、腸内環境を整えたりすると、NK細胞の活性も上がります。そうしますとウイルスに感染しにくくなり、がんにもなりにくい、ということになります」

<免疫細胞の制御>

新型コロナウイルス感染症を重症化させる原因として、サイトカインストームが有るといいます。
免疫制御という視点から、北海道大学大学院、清野研一郎先生にお聞きしました。

清野先生 「新型コロナウイルス感染症だけでなくて、多くの疾患において、免疫を制御することの重要性を考えることが広まっていると思います。サイトカインストームとは、サイトカインという言葉とストームという言葉がくっついてできていて、一言で言うと免疫が暴走状態にあるということになります。今回の新型コロナウィルスは主に呼吸器系、肺に感染するわけですが、肺炎が起きると、小さな火事が起きているようなもので、それを治そうということで、免疫系がサイトカインを使って、火事を消そうと働くわけです。その代表的なものが、IL6といわれるサイトカインでして、ウイルスが細胞の中に入っただけで、NK細胞、そしてT細胞、B細胞という順で活性化していくことによって、感染症から体を守るという仕組みになっています。しかし、基礎疾患等の有る方、あるいはご高齢の方の場合は、免疫機能は低下気味ですから、免疫の制御、コントロールがうまくいかず、サイトカインや炎症物質が非常にたくさん出てしまい、免疫が自分自身の正常な細胞も攻撃してしまいます。従って、サイトカインストームが本当に進んだ状態では、肺だけではなくて、肝臓とか腎臓、心臓とか、そういった別の臓器まで攻撃してしまうことが有るのです。こういった状態を多臓器不全といい、サイトカインストームは正に致死率の高い、非常に恐ろしい病態と言えます。

北海道大学では、免疫細胞を制御するサイトカインを、がん治療に応用した研究を進めています。

清野先生 「免疫こそ、がんの治療において重要であり、第一選択となります。それはご記憶の方も多いと思うのですが、京都大学の本庶佑先生、そして米国のジェームス・アリソン先生らの研究による免疫チェックポイント阻害剤という薬の開発が非常に大きいと思います」

免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞の攻撃を逃れるために、PD1という分子に結合し作用していた、プレーキをはずすことにより、免疫細胞の働きを取り戻す薬です。

清野先生 「免疫チェックポイント阻害剤が使われるようになってきて、従来の治療法で効きが悪かったような『がん』がむしろ、免疫治療の得意とする『がん』であり、効果の有る患者さんの割合も、2割か3割ぐらいだということも分かってきました。逆になぜ、7~8割の患者さんに効かないのかということを、私たち、北海道大学では、マクロファージという免疫細胞に注目した研究を進めています。

免疫細胞であるマクロファージは、単球から分化したものです。
貪食細胞ともいわれ、体の中に侵入したウイルスなどを食べて排除し、食べたウイルスなどの情報をリンパ球や顆粒球に伝える司令塔の役割をしています。

清野先生 「がんという病気ができて、腫瘍、固まりができますと、この中にマクロファージがたくさん詰まっているのですが、このがんの中にいるマクロファージというのは少々性質が変っていて、頼りになる細胞というよりは、免疫を抑制するようなマクロファージであることが分かってきました。そこで、そのマクロファージを活性化するサイトカイン、インターロイキン34というたんぱく質が非常に重要である、ということを私たちは明らかにしました。
まだ、実験動物の段階ですが、免疫チェックポイント阻害剤が効かないがんを持っているネズミに対して、IL34を阻害するような薬を投与しましたら、免疫チェックポイント阻害剤がとても効くようになって、一部のネズミでは、がんが完全に消えて無くなってしまうぐらいの効果が有ることが分かりました。
がんの治療においては、侵襲をできるだけ抑える、患者さんにとって優しい治療法を選んでいくということが、重要なことになりますが、免疫治療、これらはキーになるような治療法になっているというふうに言えると思います。
免疫チェックポイント阻害剤と、このIL34を抑える薬と、これらを組み合わせることによって、従来の薬がもっと、今までよりもっと効くようになるということを考えて、研究を進めています」

<がん治療における免疫療法>

鈴木良子さん(仮名)は、2016年、自宅でご主人の介助をしているときに受けた自治体の大腸がん検診で異常を指摘されました。家の近くの病院で内視鏡による精密検査を受けた結果、進行がんであると診断され手術を勧められました。

鈴木さん 「二人に一人は、がんになる時代だっていうことを、私も承知していたのですが、長い間、夫が入退院を繰り返していましたから、夫を看取らなくてはいけないというふうにも思っていましたので、主治医の先生に、まず第一に手術、その状態によっては、抗がん剤もありうるかもしれないということを言われました。もし抗がん剤による副作用が出たら、夫の看病のこともありましたので、ずいぶん心の葛藤がありましたね。しかし、息子が副作用の少ない選択肢として、瀬田クリニックさんの免疫細胞治療というものを調べてくれて、本当に良かったと思っています」

鈴木さんは、手術を受ける前に、息子さんに教えてもらった、瀬田クリニックを訪ね、免疫細胞治療の副作用などについて聞きました。

がん治療の選択肢と、免疫細胞治療について、瀬田クリニックの後藤重則先生にお聞きしました。

後藤先生 「私も永年、多くのがん患者さんの治療にあたってきましたが、患者さんは一人一人、人生観も価値観も置かれている環境も異なっています。従って、私は患者さんご自身が正しい判断が出来るように、様々な治療法などを提示することが、非常に大切なことだと思っています。
がんの治療法というのは、従来、手術、放射線、化学療法というものが三本柱と言われてきたわけですが、近年では、それらに加えて、免疫療法という、四つ目の治療をうまく組み合わせていく、ということが標準的な治療、ということになっています。

第四の治療と言われる免疫療法には、免疫チェックポイント阻害剤による治療と、患者さん自身の免疫細胞を使った免疫細胞治療が有ります。
免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法は、がん細胞が免疫細胞の攻撃を避けるために、免疫チェックポイント分子に作用していたブレーキをはずすことで、免疫細胞が、がん細胞を攻撃する本来の働きを取り戻す治療です。
免疫細胞治療は、患者さん自身の免疫細胞を、体内から取り出して体外で加工後、再び体内に戻し、がん細胞を攻撃する免疫細胞の活性を高める治療です。
活性化自己リンパ球療法と、樹上細胞ワクチンの二つがあります。

後藤先生 「免疫細胞治療は広い意味で、再生細胞医療という治療分野に入り、お薬のように大量生産して、不特定多数の人に使っていく、ということではありません。免疫細胞治療は、患者さんごとに、どのような治療を行うのか、そして、その期待される効果や副作用について、きちんと計画書を作り、政府が認定した認定再生医療等委員会で審議、認定の上ではじめて行うことが出来ます。
免疫細胞治療は、患者さんご自身の細胞を使った治療法なので、多少の発熱などが起こることは有りますが、基本的に副作用はほとんど無い治療です。
免疫細胞治療のうち、樹状細胞による治療についてご説明しますと、体内にはがんを攻撃する、兵隊となる細胞があります。その主流はT細胞という細胞なのですが、T細胞以外にも、NK細胞や、NK細胞とT細胞の中間に位置する、ガンマ・デルタT細胞という細胞も、がん細胞を攻撃する力を持っています。更に、T細胞のような兵隊を指揮命令し、コントロールしてる司令官のような細胞が有り、これが樹状細胞という細胞になります。
この樹状細胞による治療は、その患者さんのがん細胞に全く特化した治療になるので、副作用も無く、他のがん細胞やウイルスに対して効果が無いということにもなるわけであります。

手術前に瀬田クリニックを訪れ、免疫細胞治療の副作用について聞いた鈴木さんは、手術を受けましたが、病理検査の結果、リンパ節転移が見つかり、術後補助化学療法を行いました。

鈴木さん 「私は歳なので入院での点滴を受けたら、かなりきついだろうということで、抗がん剤を家で服用するようにしたのですが、食欲が急に無くなりまして、体重もどんどん落ちていって、最終的には15㎏ぐらい落ちました。また、抗がん剤を飲まなければいけない、続けなければいけないと思うことが、結果的にストレスに繋がって、夜も眠れなくなってしまい、鬱病も発症してしまいました」

鈴木さんは、抗がん剤の副作用で、自宅でのご主人の介助が出来なくなったことを主治医に伝え、抗がん剤を中止してもらい、免疫細胞治療を行うことにしました。
瀬田クリニックの主治医である、瀧本先生に鈴木さんの受診時の様子についてお聞きしました。

瀧本先生 「私どものところに来院された時点で、抗がん剤の副作用が強くて中断せざるを得なかったという状態で、抗がん剤の治療が出来ないということの不安と、ご主人の介護が出来ないというようなご不安をお持ちでした。
ご本人の強いご希望としては、治療をするのであれば、副作用が無い治療で、日常生活に支障が無いこと、つまり、ご主人の介護が出来る、そういう治療を望んでおられましたので、ご本人の免疫の状況を診る検査をまずお勧めしました。その結果として、免疫機能が非常に低下しているところが分かりましたので、免疫細胞治療の中でもまずは活性化リンパ球療法を行って、その上で、がん組織を使った樹状細胞ワクチンを勧めた、という状況です」

活性化自己リンパ球療法は、患者さんの血液から免疫細胞であるT細胞を取り出し、体外で活性化させて、再び体内に戻すことで、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きを高める治療です。
樹状細胞ワクチンは、患者さんの単球から樹状細胞を取り出します。
そして、その樹状細胞に、手術の時に切除したがん組織からがんの情報を記憶させ、再び体内に戻します。
体内に戻された樹状細胞は、記憶した攻撃すべき、がん細胞の情報をT細胞に指示することで、そのがん細胞のみを狙って攻撃します。

瀧本先生 「免疫細胞治療は患者さんへの負担が少なく、日常生活に支障をきたさず、過ごされている方も多いので、QOLを維持しながら続けられる治療の一つだと思っています。患者さんにとって、いろいろな治療法の選択肢が有るということは、有意義なことだと思いますし、免疫細胞治療によって、一人でも多くの患者さんが喜んで頂けるような、そういう治療、提供、診療ができれば、うれしいですね」

鈴木さんは、2016年に大腸がんを切除して、まもなく5年が経とうとしています。
そして鈴木さんはご主人を看取ることができ、今は優しいご家族に囲まれ、自分らしい生活を送っています。

鈴木さん 「今思えば、こうすれば良かったなあ、とか、ああすれば良かったなあ、という思いも有りますが、息子がこの治療法を教えてくれて、本当に良かったなっていうふうに思っています」

がんの免疫細胞治療は、新たな視点で進歩しています。

後藤先生 「がん細胞は、正常細胞において遺伝子の異常、変異が積み重なってできるものです。従って、同じがんであっても一人一人持っている遺伝子の異常は異なりますから、近来は個別化医療の一つとして、遺伝子パネルというゲノムの検査により、およそ数百個の遺伝子を調べて、どの遺伝子に異常が有るかを特定し治療を考えていくこともあります」

免疫細胞治療の樹状細胞ワクチンも、ゲノム診断の進歩によって、がん細胞にだけ発現する、患者さん独自のネオアンチゲンを特定でき、樹状細胞に記憶させることで、効果的な免疫細胞治療が実現できるようになりました。

後藤先生 「免疫という働きは、体の本質的な一番大切な機能です。免疫の働きを十分維持していく、ということが、がんを含めた、いろんな病気と闘い、治していくうえで、とても大切なことだと思います。免疫の働きを十分に認識して、理解して頂くことを切に願っています」

私たちは、がんに罹ったり、新型コロナウイルスのような感染症に罹ったり、生きている限り病気と無関係ではいられません。しかし、私たちの体の中では絶えず、体の防御機能、免疫が働いています。
免疫が正しく働くためにも、今、私たちが考えるべきことがあるようです。

<取材協力>

順天堂大学医学部
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TEL: 03-3813-3111
https://med.juntendo.ac.jp/

北海道大学遺伝子病制御研究所
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https://www.igm.hokudai.ac.jp/

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