北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年09月24日15時26分

著者名:HTB医pedia編集部

【医療のミカタ】「白血病」治療の最前線

  

<今回のテーマ>

水泳の池江璃花子選手の発病が記憶に新しい「白血病」。「白血病」は血液のがんです。
血液中には、赤血球や白血球、血小板などの血液細胞があり、その血液細胞は骨の中の骨髄という場所で作られます。こうした血液細胞が作られる時に、遺伝子に異常が起きキズが付くことでがん細胞が生まれ、このがん細胞が増え続け骨髄を占拠してしまうのが「白血病」です。
若くして発病することもある、恐ろしい血液のがん「白血病」。しかし、最近では治療の研究が進み、「治るがん」に変わりつつあります。

<白血病とは>

現在34歳で、札幌市内の病院で看護師として働く中津正志さんは、専門学校生だった19歳に「白血病」と診断されました。
中津さん 「僕、死ぬんだなって思ったのが本音のところですね。ちょっと風邪っぽいなというのが2か月くらい続いて、薬をもらったら治るのは治るが、また1週間後にぶり返してというのが2か月続いて検査をしたら白血病だというのが発覚しました」
「白血病」は、病気の進行タイプによって慢性型と急性型の2つに分けられます。
さらにがん細胞のタイプによって、急性型の中でも骨髄性、リンパ性、そしてどちらか分かりにくい混合性に分かれます。中津さんの場合は「急性混合性白血病」と診断を受けました。

<白血病の治療>

症状の激しさから「不治の病」とも呼ばれた「白血病」。しかし、北海道大学の豊嶋崇徳教授は、最近では治る病気に変わりつつあると話されます。
豊嶋教授 「急速に自分の血が作れなくなりますから、患者さんからみると、熱が出たり、どうしても体がしんどいとか、歯ぐきから血が止まらないといったことが急速に起きてきますので、そういう意味では非常に激しい発病をすることが多いです。(しかし)リンパ性は子供に多いですが非常に治りやすく、子供だと8割くらいは治ります。骨髄性はどちらかというと成人に多いですが、半分近くが治ることが可能です」
「白血病」の治療はまず、血管の中に抗がん剤を投与する薬物療法(化学療法)から始まります。抗がん剤の効果が得られなかった場合、次に行うのが骨髄や臍帯血などの造血幹細胞の移植です。
19歳で「白血病」を発病された中津さんも、臍帯血移植を行うなどおよそ2年間の入院生活を送りました。
中津さん 「鬱にもなっちゃって自分の感情がポンと飛んじゃって。ワイワイやっていた自分がいなくなったってタイミングがかなり辛かったですね」
そんな中津さんを支えたのが医療スタッフの存在でした。
中津さん 「20歳の誕生日を病院で迎えて、その時に担当の看護師さんが小さい誕生会を開いてくれたんですよね。その時に鬱になってからすごい久しぶりに涙が流れてきて、自分の殻に閉じこもっていたのを看護師さんが開けてくれたような感じで、ちょっとだけ世界が明るく見えたなと思って」
寛解(一時的あるいは永続的に、がん腫瘍が縮小または消失している状態)と告げられた中津さんは、体のことだけではなく、心の面でも患者を救えるような看護師に自分もなりたいと一念発起し、看護学校に入学し看護師になる夢を叶えました。
治療を終えて10年以上が過ぎた現在、中津さんは結婚し、家族を築いています。
中津さん 「本当につらかったですけれど、今こうやって仕事ができて誰かの支えにはなれているのかなと思っていて、病気になったことで、もちろんいろいろな障害も残っていて子供ができないとかもあるんですけれど、子供ができないというのを受け止めて結婚してくれた嫁にはすごい感謝しています」

<白血病治療の大きな進歩>

治る病気に変わりつつある「白血病」。
今年、「白血病」の治療の概念を大きく変える出来事が二つ起きていました。
白血球の型は「HLA」と呼ばれ、両親からそれぞれ一つずつ受け継ぎます。従来の「HLA」の移植では、「HLA」がドナーと完全に一致しなければ移植ができず、非血縁者で合致する確率は数百から数万分の一といわれ、血縁者では4分の1の確率で一致しますが、家族内でもドナーが見つからないことがしばしばありました。
しかし、今年新たに開発された「HLA半合致移植」では「HLA」の片方だけでも一致していれば移植ができ、家族内でドナーが見つかる可能性が格段に増えたのです。
豊嶋教授 「誰にでもドナーが見つかる時代がいよいよ来ました。これが1つの大きな進歩です」
さらに、「HLA半合致移植」に加えて、「白血病」に対する新薬の保険適用が認可されました。
今年5月、厚生労働省は、「白血病」などに対する新薬「キムリア」を公的な医療保険の適用対象とすることを決めました。この薬を使って行われるのが「CAR-T細胞療法」と呼ばれる、患者自身の免疫システムによる治療です。「CAR-T細胞療法」は、まず、患者から血液を採取して、T細胞と呼ばれる免疫細胞を取り出します。このT細胞に対して、遺伝子の操作を行い、がん細胞への攻撃力をアップしたCAR-T細胞を作り出し、これを再び、患者の体の中に戻すのです。体に戻ったCAR-T細胞は、がん細胞を特定して攻撃していきます。
※但し、この治療法は強力な効果が期待できる反面、「白血病」の場合は25歳までの人にしか適用できず、副作用が強いため、専門医の判断が必要になります。
豊嶋教授 「今までの白血病治療は抗がん剤治療がメインであって、だめであれば他人からの移植がありました。そういった治療がダメであっても自分の免疫を利用した免疫療法が始まります。どういう人が治療に適しているのかというのは専門医の判断をきちんと仰いでほしいと思います」
白血病の新薬「キムリア」のは1回3349万円ですが、高額療養費制度があるため、年収がおよそ370万円~770万円の患者の場合、自己負担は41万円ほどになります。この場合、自己負担分以外の残りは公的医療保険で賄われるため、医療財政への影響も懸念されますが、一方で、まだ全ての患者に万能というわけではありませんが、不治の病といわれた「白血病」の克服に近づいているという意味で、医学は確実に進歩しているのです。