あらすじ

矢木沢浩一(大泉洋)は3年前、東京で結婚した美和子(高野志穂)と幼い息子を連れて生まれ故郷の上富良野に帰ってきた。高校を卒業する時に父・徹郎(前田吟)と交わした農家を継ぐという約束を守り、F1に出るような車を作りたいという自動車メーカー社員としての夢を諦めての帰郷だった。浩一は開拓農家の四代目。ビールの原材料となるビール大麦とホップ(苦味と独特の香り・風味をつける)の生産農家。家庭を切り盛りする母・文子(倍賞美津子)と、今は引退し好きな絵画で思わぬ才能を発揮して、“上富良野のゴッホ”と呼ばれている祖父・敬三(大滝秀治)の親子三代五人家族で、平穏無事に暮らしていた・・・そのはずだった。

今年の大麦とホップの収穫が近づいた頃、とあるビール会社の新製品「農家の嫁」のコマーシャルに出演することになった矢木沢家。素人がテレビコマーシャルに出演する。しかも、自分たちが原材料を作っているビールの…矢木沢家にとってはビッグイベントになるはずだった。コマーシャルの撮影隊を率いるCFディレクターの手塚(森崎博之)たちがやってきて、撮影が始まったその初日に事件が“勃発”。ある台詞を巡って美和子が、「言えません」と言い出したのだ。当然、撮影はストップし、家族の誰もが美和子の様子をいぶかしがる。実は、浩一と美和子は農家をやめて人生をやり直したいと思い始めていて、徹郎や文子たちに自分たちの決心を言い出しかねていたのだ。

台詞が言えなかったのは緊張したのか、体調が優れないせいではと心配する徹郎や文子を前に、美和子はとうとう「農業をやめたいんです」と爆弾発言をする。両親に言い出せずにいた浩一だったが、「自分たち家族の将来を考えて農業に見切りをつけたい、ずっと考えていたんだ、自分たちはペンションを始めたい」と思いの丈を語る。上富良野にたった四軒しかない生産農家、しかも東京から浩一が家族で戻ってきてくれたことを誇りにも思っている徹郎や文子は猛反発。文子は東京育ちの美和子が根をあげて浩一をそそのかしているのではないかと疑心暗鬼になり、徹郎は「誇りじゃメシは食えない」と言った浩一を殴ってしまう。

家族として同じ喜びや苦しみを分かち合っていたと思っていたはずの矢木沢家の絆が、ほころび、揺らいでいく…。そんな中、家族に最初の波紋を投げかけた美和子が行方不明になり、美和子を探していた敬三が怪我をして病院に担ぎ込まれるという騒ぎが起こる。農家の後継ぎとして3年間頑張ってきた浩一や、自ら溶け込もうとしてきた美和子が、全然違うことを考え、しかもそれを黙っていたことに納得がいかなかった徹郎と文子だったが、最後に出した結論は「お前たちの人生だ。好きなようにしなさい」というものだった。

徹郎や文子からその言葉を告げられ、畑を切り開いてきた敬三の許しも得た浩一だったが、何かが違っていることに気がつき始めていた。美和子を見つけた浩一は、「農家を続けたい。やれるところまでやってみたい」と逆に問いかける。空と大地の間で生きていくことを本当に決心した浩一の姿に、夫婦の絆を取り戻すことができた美和子。浩一に身をゆだね、もう一度その胸に飛び込む。雨降って地固まる。家族の絆を取り戻した矢木沢家。そして中断していたコマーシャル撮影が再開。「農家の嫁に来てよかった」―美和子が言うはずだった台詞は文子が言うことに変更になった。しかし今度、「言えません」と言ったのは何と文子だった。唖然とする浩一たち。頭を抱えるコマーシャル撮影隊。そんな人々の生き様を包み込むように、微笑むように、収穫を間近にして黄金色に色づき始めた大麦畑は、風に吹かれてざわざわと大地の歌を奏でるのだった。