おじさんのアトリエの椅子に腰を掛けたら、窓の向こうに春の空が見えた。
おじさんは、空の絵を描く。
ぼくは、おじさんの描く空の絵が好きだ。
海の夕焼けも、
茜色の雲も、
どの空も、どの空も、
見ていると、胸の奥の方で勇気が湧いてくる。
ニンゲンはさぁ、年取ると自然が好きだよ、ニンゲン不信になってくのが人生だから。
そう言って、おじさんは、ふふふと笑う。
おじさんのアトリエは、山の中腹にあるから、少しだけ空に近い。
ちゃちゃのデッキからも街が見下ろせるくらい、空に近い。
鳥だってくるかな。
カエルだって、
いや、カエルは、来ないな。
その代わり、UFOが来る。
壁にこんな張り紙がしてあった。
「08−12月14日
マドの外の山並みに青い光が吸い込まれていく。
ゆっくりした20°の角度で。
しかも、山の手前あたりでそれは流星のように尾を引いてきたわけではなかった。
時間22時50分あたり。
青い光の玉だった。
あたかも、その山並みの向こうに着地でもするかのような動きを見たのだ。」
おじさんは、宇宙人と友だちになるつもりだろうか。
壁に、女の人の絵が貼ってある。
おじさんが描いたのだ。
今でも、おじさんは、喫茶店でナンパしてるって噂がある。
もててるはずはないだろうと、ぼくは思っていて。
それでも、おじさんは、スキって、正面切って言ってそうな気がする。
おじさんが描く、この“ぺ”というキャラのように。
そして、こんな風に、カエレと言われたりしているのだろう。
だから“ぺ”は、おじさんなのかもしれない、と、ぼくは思う。
コミュニケーションの練習の時間にしなければいけなかった子ども時代に、
おじさんは家庭の事情と世間の冷たさのせいで不良でいるしかなかったから、
どうしたら友だちになれるのかが、ほんとは今でも分からないのかもしれない。
だから、ストレートに言うしかないのだ。
スキって。
ちゃちゃが、見ていた。
おじさんは、年をとっていく。
ちゃちゃも年をとっていく。
時間は流れているのだ。
おじさんの二人の子供たちも、もう立派な大人になって。
おじさんは、大人のやくめはもう終わったと思っていた。
それなのに…、
おじさんは、ある日、子どもたちに伝えなきゃと思ったそうだ。
こどもたちに、
大人が、教えてあげなければ、ならないことがある、と。
そう思ったらしいのだ。
そうして、おじさんは、そのことを絵本に描き始めた。
次回は、いよいよ、そのことを語ろう。