 |
11月7日(月) 山田佳晴(報道デスク)
数年前、イギリスの首相公邸・「ダウニング10(テン)」で取材中、公邸に犬を連れてきたヒゲの紳士がいた。「よほどの愛犬家なんだね」と言うと、「何言ってるの、デビッド・ブランケットよ。盲目の大臣。あれは盲導犬なの」と英国人女性に笑われたことがある。
生まれながらの盲目だったブランケット氏は、4歳で親元を離れ、施設で勉強を続けた。
12歳のときには父親が事故死し、一家は無一文の状態になったという。苦学して大学に進み、その後、下院議員に。97年のブレア労働党政権の誕生以来ずっと重要閣僚のポジションにいた。アメリカ同時多発テロ以降は、内務大臣として、徹底した犯罪対策と移民政策を行ってきた。ときとして過激な姿勢が目立つひとだったが、ブレア首相がもっとも信頼する閣僚のひとりだった。「将来の首相候補」とも言われた。
それが1年に2度の辞任である。
去年12月、元愛人への職権乱用疑惑で内務大臣を辞任。今年5月の総選挙で労働党が3度目の大勝をとげたことで、雇用・年金大臣として復活したばかりだった。しかし今度は、民間企業の役員になったことをきちんと報告していなかった。閣僚としての規則違反だった。本人は「ミステイクだった」と今月2日辞任した。
それにしてもカラフルな人生を歩んできたひとである。波瀾万丈といってもいい。2度の辞任で「将来の首相」の可能性はゼロになった。政治の世界でよく引用される言葉だが、まさに「一寸先は闇」である。こういう形で表舞台から消えていくひとではなかった。
|