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12月26日(月) 山田佳晴(報道デスク)
年末、強盗事件があいついでいる。
路上で殴られ現金などを奪われる事件で、被害者に「けがはありません」という原稿があった。
警察の発表どおり報じるとこうなる。警察は、被害者が病院で治療した場合を「負傷」とする。病院に行かなかったら「けがはない」と発表されるのだ。
しかし、中には犯人に頭や顔を数発殴られたケースでも「けがはありません」という原稿があった。被害者は不死身の人間なのか。被害者はこの報道をどう聞くのだろうか。
取材現場を取り巻く環境は、ことし春から変わった。原因は、個人情報保護法だ。
いま火事などの取材で各地の消防署に電話すると、つぎのような会話が繰り返される。
「病院に運ばれたひとのけがの程度を教えてください」
「言えません」
「なぜですか?」
「個人情報だからです」
唖然とする。負傷者がいるのかもわからない火事の原稿を想像していただきたい。「火事がありました。焼失面積はこのくらい。警察と消防で火が出た原因を調べています。以上」。
これは消防署の完全な誤解である。
これとは別に、事件・事故の被害者を実名で発表するか、匿名で発表するか、その判断が警察にまかされようとしている。これも4月に施行された法律による。犯罪被害者基本法だ。
実名/匿名の判断は、これまでメディアの側が責任をもって行ってきた。桶川ストーカー事件での警察の対応を思い起こせば、被害者の情報を警察の手にゆだねることがどれほど危険かわかるはずだ。警察の思惑で匿名となった場合、公権力を監視するメディアの使命は果たしにくくなる。
政府はあす27日に閣議決定する見通しだ。こうした大きな問題が噴出している中、メディアの側も、被害者に「けがはありません」と安易に報じている場合ではないのだ。 |