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8月15日(火) 山田佳晴(報道デスク)
小泉総理を何度か取材したことがある。一番印象に残っているのは就任直後、ロンドンでミュージカルを見たときだ。
シアターの前で、いわゆる「ぶらさがり取材」をしようとTV各社が集まった。出口から車までは数メートル。質問できるのはたぶんワンチャンスだろう。政治スケジュールの合間の観劇なのだから、軽口の質問をぶつけてみた。
「永田町の変人が、『オペラ座の怪人』を見たということですか?」
小泉総理は車に乗り込む寸前だった。後ろを振り向いた。答えを探している表情。沈黙は1秒だったか、2秒だったか。口を開いた。
「永田町の変人が『オペラ座の怪人』を見てもいいじゃないか」
このひとは面白い、と思った。
総理はこのあと会見場に向かい、「変人が『怪人』を見てもいいじゃないか」と同じことを言って記者たちを笑わせていた。
ノリがいい。言葉が単純明快。日本人はこういうひとに弱い。わたしも同じだった。
わたしが「このひとはヘンだ」と思ったのは、イラクで日本人3人が武装集団に拘束されたときだ。
国民の命を守るのが政府のトップ・プライオリティーのはずだ。でも、小泉総理は、あきらかに迷惑顔だった。解放されたあと、1人が「またイラクに戻ってきたい」と言ったことに対しては、「まだそんなことを言いますかね」とほんとうに迷惑そうだった。世界を見渡してもこういうリーダーはいない、と思った。
しかし、支持率は高いままだった。結局、5年5カ月の長期政権だ。
その小泉総理が靖国神社を参拝した。最後のチャンスである「8月15日」という「公約」にこだわった。国債の発行については、「公約を守ることなんか大したことではない」と言っていたのに。
ところで、参拝が問題なのは「政教分離」に反するから。それが問題の本質だろう。
でも、小泉総理の過去5回の靖国参拝で、TVが報じたのは「中国と韓国の反日感情」ばかりではなかったか。答えは簡単。反日デモの「画」が派手だったから。
今になって「政教分離」を声高に指摘するTVメディアが増えているのは何故か。こういうTVの報道ぶりもよくわからない。軸足がしっかりしないと、またこの手の「パフォーマー」にTVメディアは振り回されてしまうことになる。いや、TVメディアが「現象」を振り回しているのか。
総理の靖国参拝を見ながら、この5年間を想った。一記者として、自戒をこめて。
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