嬉野雅道連載企画「ぺのおじさん 鯨森惣七のダラララーな日々」

もくじ

おまけ ニンゲンは、アホーなのよ 2

はい奥さん、嬉野です。
さて、本日は、鯨森惣七画伯の絵本、「ぺ・リスボーの旅ダラララー」に、クマのボボ役で出演されましたクマさんに、余暇の合間のお時間をおかりしまして、わたくし嬉野が、今回の絵本についてお話しを伺いたいと思い、スタジオにお呼びしております。

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嬉野雅道

えぇではクマさん、あらためまして、どうも、こんにちは。

ボボ

あ、どーも。

嬉野雅道

絵本出演を終えて、今はどのようにお暮らしですか?

ボボ

ま、冬眠も終えたので、今まさに食欲と繁殖の夏というところでしょうか。

嬉野雅道

あぁ、それはお忙しいところをありがとうございました。

ボボ

どーいたしまして。お腹が減ったらあなたを食べますよ。

嬉野雅道

ハハハ、それはご勘弁を。

ボボ

ハハハ、それは冗談ですよ。

嬉野雅道

ハハハ。

ボボ

ハハハ。

嬉野雅道

あぁ、スタッフの人!クマさんにお茶なんか出してちゃだめでしょう、もっと胃にどかんとくるやつ出さないと!カツ丼だよカツ丼!カツ丼とかを用意してさしあげて!

ボボ

あ、お気遣いなく。

嬉野雅道

とんでもない。あぁ食べ終わる前に、間髪を入れず、特大のおかわりをお持ちするように!

ボボ

あぁ、おかわりは、いくら丼にしてもらえますか?

嬉野雅道

あぁ、大盛りのいくら丼にしてさしあげて!

ボボ

サーモンの刺身も…。

嬉野雅道

あぁ、トロサーモンの脂の乗ってるところを固まりでお持ちして!

ボボ

いいんですか?

嬉野雅道

もちろんです。

ボボ

すみません。気を使わせちゃって。

嬉野雅道

あぁ、ところでクマさん。

ボボ

はいはい。

嬉野雅道

次回作にご出演のご予定は?

ボボ

絵本が在庫を抱えるうちはないと聞いていますが。

嬉野雅道

なるほど。

ボボ

どーなんですかねぇ絵本の売れ行きは。

嬉野雅道

気になりますか?

ボボ

いちおう出演者としては責任を感じますので。

嬉野雅道

札幌の宮越屋珈琲店さんでは、店舗によっては売れ行きの好いところがあるらしく。

ボボ

あら。

嬉野雅道

動きはつねにあるようです。

ボボ

それは好かった。

嬉野雅道

で、今日は、出演されたクマさんに、絵本についてお伺いしようという趣向でして。

ボボ

主演のリスでなくて好いんですか?助演のぼくからで…。

嬉野雅道

リスはしょせん子どもですし、脳みそも小さいですから。たいした話にはなりません。

ボボ

なるほど。他にもヘラジカのじいさんとか出てますが…。

嬉野雅道

とかく年寄りは話がくどくなりますから。

ボボ

なるほど。

嬉野雅道

やはりあなたですよ、肝は。

ボボ

肝…?クマの肝は人間が重宝して欲しがっていると聞いたことがあります。

嬉野雅道

昔の話ですよ。熊をしとめて、裂いた腹から肝を取って薬にしたって話でしょ?

ボボ

クマとしては、聞いていて、あまり気分の好い話ではないので。

嬉野雅道

今は21世紀です。忘れてください、過去の因習は。

ボボ

油断させておいて…、あとで、ってことはないんですか?

嬉野雅道

そう言うあなたこそ、ないんですか?

ボボ

…。

嬉野雅道

…。

ボボ

ハハハハハ。

嬉野雅道

ハハハハハ。

ボボ

私は紳士のクマですよ。無作法はしません。

嬉野雅道

そうでしょう、そうでしょう。

ボボ

絵本に出るくらいのクマですよ。

嬉野雅道

たしかに。

ボボ

それに双方で警戒しあっていたら話が進展しませんから。

嬉野雅道

おっしゃる通り。事実ここまでなんの実のある話もないです。妙な汗をかくばかりで。

ボボ

生き物に、油断なく生きることを強いてはいけない。油断せずには平和も来ないわけで。

嬉野雅道

まったくです。さすがに教養のあるクマさんのようで、いちいち感心いたします。

ボボ

どーもありがとう。

嬉野雅道

では、そろそろ本題にはいりたいと思うのですが。

ボボ

はい。

嬉野雅道

ズバリ。クマさんは今回、この絵本に出演され、この絵本をどう思われましたか?

ボボ

この絵本は、鯨森惣七の人生が色濃く反映していて実に興味深いと思います。

嬉野雅道

ほう。それは、どういうところでお感じになりますか?

ボボ

あなたは、この絵本になぜ人間が一人も登場しないと思いますか。

嬉野雅道

あ…。

ボボ

鯨森惣七が、どこかで人間を嫌っているからですよ。

嬉野雅道

…。

ボボ

仕上げの時、ぼくに色を塗りながら、彼が、ぽつりと言ったことをぼくは聞き逃しませんでした。彼はこう言いましたよ。人間は、優しくないよな、と。

嬉野雅道

…。

ボボ

動物の方が優しい、動物は近づいてくれる。そう言って鯨森惣七は、ぼくら動物の中にある素朴で素直な魂に心を寄せるのです。その結果として絵本に人間は出てこなかった。でもその代わり、ぼくやリスを擬人化しています。そうして動物の身を借りて、彼が生涯求めていた友情というコミュニケーションを物語の中で初めて成就させています。鯨森惣七の生い立ちは、あなたも散々聞いたことだし、読者もあなたの連載で読んだはずです。

嬉野雅道

はい。

ボボ

彼は、ずっと友だちが欲しかったと言っているのです。

嬉野雅道

はい。

ボボ

でも、人間の怖い面ばかり知る彼は、どうコミュニケートしたら好いかが分からない。

嬉野雅道

えぇ、そう言っていました。

ボボ

彼は、そのやりきれなかったことを、この絵本を描きながら、物語の中でやりとげたのです。描きながら彼の心は慰められていたはずです。だからこそ、私が演じたクマ のボボとリス坊との出会いから別れへのくだりは、読む者の胸に迫るのです。

嬉野雅道

確かにそうです。あなたはやっと冬眠から覚めて、川に魚を取りに行く途中でした。
でも、ちょっとした油断から木の枝ぶりに足を挟んで身動きがとれなくなるのです。

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そこへ運悪く春の雪嵐が三日三晩吹き荒れて。しかし、いくら助けを呼ぼうと応える声はありません。あなたは寒さと空腹の中で自分に死が近づいていることを悟ります。一方、旅の途中だったリスの子も、近くで、この不意の雪嵐に襲われ、あまりの寒さに凍え、意識が薄らいでいました。

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それでもゴーという雪嵐の音の中に掻き消されそうなあなたの叫び声を聞きつけ、消え入りそうだった意識を取り戻していくのです。結局、あなたはリスの子に助けられるのですが、死の領域へ落ちていこうとしていたリスの子も、実は、あなたの叫び声に引き戻され命を拾ったのです。それがあなたたち二人の出会いでした。

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ボボ

そうですね。

嬉野雅道

二人とも助かった後、温かいあなたの家で、眠りから覚めたリスの子は、あなたが、かあさんと別れて一人で生きている身の上だと知り、尋ねますね。ボボは、どうしてかあさんと別れて一人で生きているのと。かあさんと別れてひとりぼっちで寂しくないの、と。

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ボボ

えぇ。

嬉野雅道

あなたは答えます。

ボボ

うーん…さびしくないことはないが、オレにはやることがあるからさ。まずは、この丘をナワバリにして…恋をして…家族を作るんだよ。

嬉野雅道

おぉ。やはりお上手ですね、台詞回しが。

ボボ

私の役ですから。

嬉野雅道

リスの子は、聞きます。ボボのかあさんは?と。あなたは答えましたね。

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ボボ

川の向こうの山ふたつこえたあたりが、かあさんのナワバリでな…オレはかあさんと別れて、ここで生きている。ここが気に入っているしな。

嬉野雅道

でもリスの子には、かあさんと別れて一人で生きていかねばならないということが、なかなかイメージできない。その時、あなたはこう言うのです。

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ボボ

ここにきて、一人で生きていると、いろんなことと向き合うんだ。子どもの時よりいっぱいケガをして、それで、オレはひとりだぞって自分に言う、すると真剣な気持ちが湧いてきて、知らないうちに時間が経っていく。

嬉野雅道

あぁ、私の好きなくだりです。オレはひとりだぞ、って自分に言う、すると真剣な気持ちが湧いてきて、というあたりがね、なんだか私を懐かしい気持ちにさせてくれるのです。

ボボ

それはつまり、生きることの底にあるべき真剣な気持ちというものから、日々のあなたは遠いところにいるということです。

嬉野雅道

そのような気がするのです。

ボボ

私はクマです。クマは一人で生きていくのです。今日、空腹なのは、昨日狩に失敗して獲物にありつけなかったからです。失敗したのは私の狩の技量が未熟だったからです。でも今日は獲物をしとめて、なんとしても腹いっぱいになりたい。そうでないと、明日はもう、狩をする体力がないかもしれない、クマはそう考えるのです。私は朝から慎重に獲物を狙おうとする。お分かりでしょうが、自分がなんとかするのだという真剣な気持ちは、自分がなんとか出来る環境があるから湧くのですよ。自分では、なんともできない世界に放り出されて、勇気が湧くことはないのです。そこには困惑と絶望しかないでしょう。でも、あなたたち人間は、自分たちに都合の好いようにこの世界を変えることが出来るようになった。だからあなたたち人間は、いつの時代も、世界を自分の都合で変えられる強大な力を持つ有力な人間たちに牛耳られることになるのです。あなたがたが、生きづらいと感じるのは、そのことと関係が深いでしょう。もはや、自分ひとりの力では生きていけない世界にいるのかも知れない、と、あなた方は思ってしまっているのです。でも、世界はもともと自分でなんとか出来るように出来上がっていたのです。でなければこの世に、クマもあなた方も存在しているはずがありません。今、ここに存在するということは、存在できるからこそなのだと言うことです。本能を持っている生き物であれば皆そのことを知っています。

嬉野雅道

うーむ。なんてクマだろう。

ボボ

私はここに、鯨森惣七からの手紙をもって来ています。これを最後にみなさんに読んでいただければと思います。なぜ鯨森惣七が、この絵本を書こうと思ったのか。その辺りの事が切々と書かれています。

嬉野雅道

なるほど。では読ませていただきましょう。

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嬉野雅道

うーむ。好いこと書きますなぁ、あのおっさんは。

ボボ

はい。

嬉野雅道

おや、クマさん。

ボボ

はい?

嬉野雅道

あなた、もうひとつなにか持ってますね?

ボボ

え?あ!いや、これは、これはなんでもありません。

嬉野雅道

いやいや、なんでもないことはないでしょう。見せなさいよ!よこしなさいよ!

ボボ

いやいや!

嬉野雅道

いやいやいや!(と、奪う)あれ?漫画ですかぁこれ?オフのボボとリスボー?なんすかこれ?

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嬉野雅道

夏の日の恋ぃ?なんだよあのおやじ。おいクマ。

ボボ

へい。

嬉野雅道

なにがスミレさんだよ。なにシャワー浴びてんだよ。

ボボ

おそれいります。

嬉野雅道

くだんないんだよ!

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さて、これで、おまけも終わり、連載は終わるわけです。

始めたものが、終わると思うと、まぁ寂しくもあり。
なんなら、この先もダラダラと書き続けていきたいという気持ちもどこかには、あり。

でもね、書くことを思えば、ダラダラとしてもおられず。
それはそれで能力的に無理なのでしてね。

だから、どこかで区切りをつけないといけないので、
まぁこの辺りが好い潮時でございましょう。

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ぼくが、クジラさんと出会って、この連載を始めて、
その中で、毎回、書いてきたことは、
「あぁ、こういう人がいるんだ」という、
正直な感動だったと思います。

鯨森惣七という人は、
今年60歳で。
ちょっとみると悪そうな目つきをしていて、身体もデカくて、ケンカも強そうで、でも、時に、犬の子みたいに、おびえた目をするようでもあり。
人生をかみしめた哲学者のようでもあり、たんなる不良のようでもあり。
悪人のようでもあり、正義の味方のようでもある。
まぁその全部なんでしょうが。

なんにしても、世界と世間を相手に、自分という定規で分かろうとする。
そんなクジラさんの生きる姿勢に、ぼくは共感するわけで。

「分かんないんだよなぁ」とは、クジラさんの口からよく出てくる言葉だけど、
分からないことばかりの足場から、
クジラさんは世界と世間に出て行かざるを得なかった生い立ちだったことを思えば、よくやってきたな、と、ぼくは人生の先輩を前にして、思うばかりで。

そのクジラさんが、絵本を描いて。
その絵本には、ひとりで生きるクマや、ひとりで生きることを考えるリスが出てくる。

そして、クジラさんは、生き物が生きていく底に持たなくてはならない感情を、
「真剣な気持ち」と端的に書く。

「ここにきて、ひとりで生きてるといろんなことと向き合うんだ。
子供のときより、いっぱいケガをして、
それで、
オレはひとりなんだぞって、自分に言う、
すると真剣な気持ちがわいてきて、
知らないうちに、時間がたっていく」
(絵本・ぺ・リスボーの旅ダラララーより)

そうだ。
そんな、背筋がピンと伸びるような気持ちが、生き物にはあって。
その気持ちは、もちろん人間も持っていて、
そして、少し前まで、だれもが持っていたような気がするのです。
でも、
ぼくらは、それを、遠いところに置き忘れたふりをして、便利な今を生きている。

クジラさんが書く、
生き物の底でわいてくる、「真剣な気持ち」を、感じる瞬間こそが、
きっと、「生きている意味」の、一番近くにあるものだと思えてならず、
ぼくは、その場所にもう一度、帰りたいと思ったのです。

けれど、帰り道は、もう誰にも分からないのかもしれない。

足繁く、行き交う事をしなくなった道には、
いつしか草が生え、生い茂り、覆い隠す。
その道は埋没し、もう探しようもないのかもしれない。

ならば、どうすれば好いのか。

クジラさんは、それを考えて欲しいと、
あの絵本を描くことで、ぼくらに言っているような気がしてならないのです。

ではいったいぼくらは何を考えれば好いのでしょう。

それは単純に、
幸せってなんだろう、って、考えることだと、ぼくは思います。

幸せってなんだろう。

それを考えることが、真剣な気持ちに通じていく、ただひとつの道であるような気が、
今のぼくには、するのです。

幸せってなんだろう、って考える。

「それって、大人の役目なんじゃないんですか?」って、
自分を定規にして、世界を分かろうとする、鯨森惣七が、
そう言って、ぼそっとつぶやいたような気がするのです。

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「ぺのおじさん鯨森惣七のダラララーな日々」は、これでおしまいです。
読んでくれてどうもありがとう。

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