水曜天幕團本陣へ

藤村D.・嬉野D.編

 衣裳合わせを午後に控えた、嵐の前の静かな朝。事務局の隅っこに腰を下ろして、とりとめもなくインタビュー開始。
嬉野 最初はね、二のセンでカッコよく行こうと思ってたんですよ。

藤村 嬉野先生が一番最初に書いた原案の題名は、「神州桜姫」っていうんです。
嬉野 嬉野 蜷川さんのシェイクスピア劇にヤラれちゃったから(「ウラ話」7/29分参照)、お姫さまの話にしようと思ってて。でもいろいろ話してるうちに藤村くんがふと「……大泉くんがカニみたいなアタマしてたらどうだ?」なんて言い出したんですね。それ聞いて僕、ヤッバイなぁ〜って思ったんですよー。「嬉野くん嬉野くん、蟹の頭って書いて、何て読むんだろうね??」「……カニアタマじゃない?」「カニアタマかぁぁっ!!!」……で、蟹頭になっちゃいました(笑)。

――そもそも、なんでまたお芝居を?
藤村 みんなで旅してるとね、大泉くんがよく芝居の話をするんですよ。「藤村さん、この作品おもしろいですよ」「あー、そぉ〜」「ビデオ貸しましょうか」「んー、そーだねぇ〜」、終わり(笑)。俺、当時は全然興味なかったから、「そんなにおもしろいのかなぁー?」って思ってて。それがだんだんと、「そんなにおもしろいんなら、俺にもちょっとやらせろよこのやろぉ」っていうふうになってきたんです、ふつふつと。
 ……そう、ハテナ印も時を経れば「いいなぁ〜」に変わったりするものだ。TEAM-NACSリーダー森崎博之は、本読みの合間にこんな話をしてくれた。
(森崎) 「最初は大泉が、あの二人(藤村・嬉野)と一緒にテレビでどんどん人気をあげていって、そのあと僕らNACSのメンバーもドラマ(「四国R-14」)やバラエティに起用してもらったりして。僕らがステップを踏む上で、いつも彼らの存在があったんです。正直なところ、ちょっとした憧れや羨望がありましたね。その人たちが今回『(舞台やってるみんなのことが)うらやましかったから、俺にもやらせろ』って言ってきた。これはある意味、愉快ではありました。そっか、あの人たちも俺たちのことをそう思ってたのかぁ、と。なんだぁ両思いだったんだ、じゃぁ、つきあおっか!一緒に動物園でも行くかぁ!みたいな感じですね(笑)」
 長年のつきあいで、やっとこ両思いが判明した彼ら。その結晶となる「蟹頭十郎太」について、演劇誌ものけぞるコメントが飛び出した!

――蜷川作品にヤラれたとお聞きしましたが。今回は、どんなあたりに影響を?
藤村 もぉ、「そのまんまじゃねーかお前らぁっ!」ってくらい受けまくってます!
――え。でも。だってほら、演劇好きのお客さんもいっぱい来ますよね。
嬉野 ええ。

藤村 もちろん。
――シアターガイドでも特集しますし。
藤村 いいじゃないですかぁー。
――いいんですか??
藤村 全然!だってさ、そもそも「水曜どうでしょう」だってスタート当初は、他のいろんな番組の要素をもらってるんですもん。でも一番大切なのは、(そのモノの)何がイイかを見極めて、それを自分たちの方法で取り込むってことですよ。そこで、どの要素を選んでどう取り込むかが問われるんだと思う。

嬉野 昔、黄表紙(江戸時代の世相や風俗をイラストと言葉で表した書物。江戸時代のマンガみたいなもの)の世界ではね、ひとつの物語がおもしろいと、似た話の作品がどんどん出てきたんですって。でも最終的にはおもしろいものだけが残って、あとは淘汰されていくんですよね。発端がマネでも、それ以上におもしろいものを作れれば、そこには必ずオリジナリティが生まれる。そういう歴史があるんです。

藤村 だから僕らはいつも、何のてらいもなく断言しちゃうんですよ。「パクリです!」って(笑)。
――そういえば「ペリクリーズ観ましたッ!」って明言しちゃってますもんね、公式サイトで思いっきり。
藤村 そうですよ。

嬉野 これが言えちゃうのがやはり、異業種の強み(笑)。
――じゃ、蜷川作品以外にもいろいろご覧になった中から見出した“芝居の本質”ってどんなあたりですか?
藤村 俺ね、芝居で何が一番大事かっていったらやっぱり、役者さんだと思うんですよ。テレビだと、多少演技がヘタでもBGM入れたりして、いくらでもごまかす自信あるんです。でも、舞台は絶対ごまかせない。観客は、役者さんの一挙手一投足すべてに集中するでしょう。だからとにかく(観客の目線を)役者に惹きつけること。それで、「もぉやめてくれぇっ!!」ってくらいに笑わせて、泣かせること。それが今回僕らの目指すところですね。

藤村 僕らは何をするにせよ2人しかいないから、1つのことをやりだしたら他のことは全くできないんですよね。みんな(視聴者)もそのへんだんだんわかってきてくれてて、その点は非常に恵まれてるなぁって思います。

嬉野 2人、というのが、わりと良いんじゃないかと思うんですよ。ただ「やるか、やらないか」みたいな。そのシンプルさが、長く続いてる理由でもあるんじゃないかな。
――意見、すんなり一致します?
藤村 そらもう、嬉野先生、デキた人ですから(笑)。

嬉野 というかこれは、生まれつきの性質だと思うな。なんて言ったらいいのかなー、僕は、旗振りが欲しいタイプなんですよ。旗振ってくれる人を、ずぅっと探してたのかもしれない。で、たまたま北海道に来てみたら、たまたまこの人(藤村)が旗振っててね。やけにぶんっぶん振ってるんだけど、当時は誰もそれに気づいてなくて(笑)。それで僕が加わって、今がある感じかな。

藤村 僕がこうしたい、ってことに対して、嬉野くんはものすごくキレイに、僕がやりやすいように道筋を整えてくれるんですよ。だから迷いは特にないですねー。
――じゃ、今回もそんな感じで。
藤村 そう。とにかく、僕らがやりたい!っていう、この気持ちがすべての出発点です。目の前のほんの数百人を直接喜ばせる、っていうことをやりたい。そう考えると、どうでしょうファン全員を満足させるのは無理なんですよね。皆さんごめんなさい、僕はこの半年間は、テントに来てくれる何千人かのために全力を尽くします、と。これは相当わがままな話ですよ。でもね、僕らは今、芝居がやりたい。この欲求を発散することが、今後「一生どうでしょう」のための、1つのエネルギー源だと思うんです。ミスターが映画に没頭してるように、それぞれが「やりたい!」と思ったことをやれるのって、一生番組を続けていく上でものすごく必要なことだと思う。だから今回も全力でやるし、それでダメだったらあっさり辞めるし(笑)。 藤村
――え。それ、ありですか。
藤村 ありありあり。僕らあっさりしてますよそのへんは。「いやぁぁ、ダメでしたねぇぇ〜!」なんつって。

嬉野 そのへんズルいですよね。でも僕ら、そのスタンスで生きながらえてきたとこあるから(笑)。
――そこもまた、「一生どうでしょう」。
藤村 そう!引きずってたら、続かないもんね。

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