水曜天幕團本陣へ

大泉 洋編

 午後からの衣裳合わせ、そして夜になっての本読み稽古。その全てが終了したのは、午後11時をだいぶ回った頃だった。明らかに疲労困憊のはずの出演陣。でも「いやもぉ全然平気ですよ!」とインタビューに応じてくれたのが、御存知!大泉洋だった。誰もいなくなった会議室。憎まれ口叩く相手もいないその場所で、番組じゃ聞けないホンネトークが始まった――。

――舞台に関しては、大泉さんたちの方が先輩なわけじゃないですか。
大泉 そうですねえ。
――なんかこう、ひそかに思うこととか。

大泉 大泉 いや、それが全然ないんですよね。あの人たちのスゴさは、僕ら非常によくわかってるので。お芝居の経験がないぶん、彼らには「これはできねぇ!」ってことがないんですよ。特に藤村さんて人は、物事の本質を見抜くのがすごく早い人でね。これは一体何なんだろ、一番大事なのは何だろう、何をやんなきゃいけないんだろう。それらを一瞬にして見抜くんです。だけど彼は、ゼロから全てを発想する人ではなくてね。何か発想のキッカケがあって、それを緻密におもしろく作り上げてく人なんです。「水曜どうでしょう」ではそれがミスターの役目なんだけど、今回その原案を書いたのは嬉野さんで。あの2人はホントにいいコンビなんですよね。悔しいけど、僕らが今までやってきたものより、ずっとすごいモノを作っちゃうんじゃないかな。

――いつもの番組とはだいぶ違った世界ですけれど、今回のお芝居に「どうでしょうテイスト」って感じておられます?
大泉 あーもうそれは非常に感じてますねー。僕、台本読んでホロッと来ることってめったにないんですけど、そんな僕でも涙がひとつ落ちましたからね。ただね、普通ならそこで終わるんでしょうけど、でも彼らの場合は決してそこでは終わらない。なんともこう、「いーじゃねぇか」っていうノリなんですよね……「四国八十八ヶ所」という名物企画がありましてね。いつも死ぬ思いでお寺を回るんですけど、毎回何らかの理由で、全部回ってないわけですよ。いつも「ん〜、ダメでしたねぇ〜」っていう(笑)。僕ら別に、全部きっちり回りきることが第一目標じゃなくてね。立てた目標が達成できないことなんて、生きてればすっごくよくあるわけでしょ。そういう時に、どうするか。それがこの番組なんですよね。だから今回も、非常に壮大で感動的なテーマはあるんだけれども、それをただ大まじめに提示するのかっていうと、そこはどうでしょうさん、そうはいかない。そのへんが実に、この人たちらしいなーって思いますよね。
――東京で暮らしていると、がっつり演技してる大泉さんを観る機会がほとんどなくて。
大泉 あー、そうですよねー。
――それで今日、本読みを拝見してて感動したわけです。とても誠実にお芝居されてるなぁと。
大泉 (笑)。
――それで思ったんですが。
大泉 はい。
――大泉さんみたいに俳優とタレントを兼任してると、観る人の目にはどうしても「大泉洋」が透けて見えてしまうでしょう?どんなにリアルに演じていても。そのへん、俳優としてはどうなんですか?
大泉 そうですねぇ……ま、最近は「大泉は芝居もやってるんだ」ってことが知られてきたから、そういうこともだいぶ少なくなってきた気はしてますけどね。ただ、なんていうか……自分っていったい何なんだろうって考えるとね、これが何とも言いがたいというか。俳優として、しっかりお芝居できる人にはなりたいけど、だからといってバラエティもやめられないんですよ。バラエティも芝居もやってないと、僕はバランスが取れない。飽きてきちゃうっていうのかな。……実は昔ね、藤村さんに言われたことがあって。「もし芝居の本番とロケが重なったら、お前どうするんだ」って。そうなったら悪いけど、テレビに出るんだという覚悟を持っててくれないと困るよ、って。
――持ててます?
大泉 んー……完全には持ててないです。だって僕にとってはそのどっちも、決して斬り捨てるわけにはいかないものだから。全力をかけて、そうならないようにするしかない。二兎を追うしかないですよね。当然それには周囲の皆さんの理解と協力が不可欠だし、藤村さんなんかそのへん、今はすごくわかってくれてるし。こういう人たちと出会えたのは、自分にとってほんとに大きかったなって思うんですよね。
――確かに、すごく大きいと思います。はたから見てても。
大泉 だからそういった意味では、今回はすごく嬉しいんですよ。僕の大っ好きなバラエティであるどうでしょうさんが、僕の大っ好きな芝居を作ってくれるという。どっちも、僕を満たしてくれてるわけですからね。
――メジャーになるとか、全国区とか、そういうことへの願望はどうですか?
大泉 僕は、ですけどね、あんまりないんですよねそういう憧れが。これはまさに、今話した通りのことで。自分ひとりの力なんて、大したもんじゃないなと思うわけですよ。僕をこういうふうに世に出してくれた人たちとの出会いが、僕にとってはとても大事で。そしたらやっぱり、今一緒にいるみんなとどこまでいけるのかってことに、一番興味があるんです。……例えばね、僕らの作るものを道外の皆さんが待っててくれてるっていう状況が、今はあるわけですよ。今回の舞台だって「北海道の人たちがうらやましい」みたいなね。これって、ずっと北海道に住んでる僕らにしてみれば圧巻というか、してやったり的なものがあるわけで。こういうこと、他にももっとできないかなぁって、今はそれを模索するのが楽しいんです。……そもそも僕、あんまり野心がない方だしね。荒波にもまれたいタイプでは、決してないもんだから。
――じゃ、例えば東京の劇団が「大泉さん、ぜひ客演で!」とか言い出したら?
大泉 あ、もう全然出ますよ(一同笑)。おもしろそうなことであれば、呼んでいただけるならもぉ、ホイっホイ行きますね。
――あれ(笑)。
大泉 ただ、やっぱり根っこは北海道に置いときたい。今の連中とやっていきたいことが、まだまだありますからね。……そもそも「どうでしょう」だって、そうでしょ。これ、いっぺんにドーン!と全国放送されてたら、命は短かったと思いますよね(笑)。いつまでもマイナーでいつづけるのが、この番組の魅力というか。
――あーすごくそうです!
大泉 そこまでメジャーになろうって気持ちが、僕らの誰にもないんですよ(笑)。このスタンスが、番組のスタイルにも影響してるんでしょうね。(マイナーなおかげで)ほんっとに自由だから、あの人たち。
――出会いとか居場所とか、いろんな偶然がすごく幸運に重なったチームなんですね。
大泉 そう! 誰がいなくても、何が欠けてても、この形にはならなかった。こうやってちょっとずつちょっとずつ変化していきながら、これからも続いていくんでしょうね。

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