北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年01月11日15時28分

著者名:HTB医pedia編集部

「医療のミカタ」再生医療の最前線 

  

<今回のテーマ>

今回のテーマは、自分の細胞の力を使って改善するという画期的な治療法「再生医療の最前線」についてです。医療の常識を覆す脅威のメカニズム「再生医療」について札幌医科大学神経再生医療科本望修教授にお話を伺いました。

<ステミラック注とは...>

事故など首や背骨に強い力がかかることで起きる脊髄損傷は、道内でも毎年200~300人が患者となり、半数ほどの人に重い後遺症が残っています。
しかし、昨年末に希望の光となるニュースが飛び込んできました。世界で初めての傷ついた脊髄の神経を再生させる治療、「ステミラック注」が厚労省に販売を認められました。
札幌医科大学と医薬品メーカー(ニプロ)の共同開発で、申請からわずか半年という異例のスピードでの承認でした。
「ステミラック注」は、安全性に優れていて、高い治療効果が期待できることが特徴です。患者に投与するわずか40ミリリットルほどの液体の中身は患者自身の細胞を培養したものです。人の骨髄液のなかには千分の1の割合で「間葉系幹細胞」という細胞が存在しています。この間葉系幹細胞は、内臓・血管・神経など何にでも分化できるため「万能細胞」とも呼ばれています。
「ステミラック注」は、患者の骨髄液から間葉系幹細胞だけを取り出し、およそ1億個まで増やし点滴で体に戻す治療法です。大量の「万能細胞」はすぐに全身に広がり、脊髄の損傷部で血管や神経細胞を再生するとされています。

<札医大でのステミラック注の研究>

札医大では、1990年代からこの研究に力を入れてきました。中心を担ってきた本望修教授は、脳外科医として働くなかで重い後遺症が残る患者の多さを何とかしたいと思い、研究の道に進みました。そこで出会ったのが患者自身の幹細胞を使った再生医療です。
薬というのは、作用のメカニズムがだいたい一つで、これがこう効くからこう治ると...。
ところが細胞はその場所に行って、何が必要なのかどうしたらいいのか考えて働くので、たくさんのメカニズムで治療します。だからこれまで治療が難しかった病気にも効果が期待できます。
5年前から始まった治験では重い後遺症のある13人の脊髄損傷患者が対象となりました。札医大によると、そのうち12人で機能の回復がみられたといいます。脊髄を損傷したらもう二度と元に戻らないという常識が覆されたのです。
副作用は全然ありませんでした。最も回復した人では、寝たきりから歩いて退院しました。


<北海道せき損センター>

美唄市の北海道せき損センターは、全国に2つしかない脊髄損傷の専門病院です。道内の重症患者のほとんどがここに運ばれてきます。
今までの医学では、一度傷ついた神経を元に戻すことはできないといわれていたので、出来る最大限のことは、少しでも早く治療を行ったり、残った機能を最大限活用するためにリハビリをするとことしかありません。
永井勝美さんは、一年前に仕事中の事故で脊髄を損傷しました。首から下の感覚が全くなく、最初は息をすることも自分ではままならなくて、のどに穴をあけて人工呼吸器で呼吸していました。
今では寝たきりの状態から、リハビリによって腕を動かせるまでになりました。今回、承認されたステミラック注は事故から一か月以内の患者が対象とされているため永井さんはすぐに治療を受けることはできません。しかし、いつか受けたいと思うことで日々の過ごし方は変わったといいます。
「絶対受けたいと思います。少し手が動いたり、歩けなくても歩行器で立てるとか、それだけでもいいからやりたいです。それがあるから、リハビリも頑張れます」
北海道せき損センターの医師は「常日頃限界を感じていたり、絶望感を感じたりしていたので、今まで想像もできなかった治療がこういう風に実現してくると、われわれにとっても夢や希望を与えてもらえる」 と話しました。
「ステミラック注」は対象患者の制限に加え、安全性や有効性の確認を続けることを条件とした7年以内という期限付き承認です。しかし、データが集まれば、期限より早く、誰もが使える治療として再申請できる可能性があると本望教授は意気込んでいます。

<今後の再生医療について>

再生医療というと「iPS細胞」が有名ですが、厚労省の担当者は「iPS細胞の研究はこの治療法に比べたら周回遅れだ」と言っています。そのくらい、副作用の少なさと効果の面で非常に期待ができる治療だといわれています。
デメリットは、量産できないことです。札医大では厳密な衛生管理をした専門の施設を作って、研究を進めてきました。今後は共同開発した医薬品メーカーのニプロがステミラック注を作りますが、通常の医薬品と違って1人1人の患者の細胞を培養するのは手作業でとても高い技術が必要なため、技術者の育成が間に合わず当面は、年間100人分くらいしか作れないとしています。
札医大では、脳卒中の患者への治験もすでに始めていて、麻痺した手が動くようになるなどの効果も少しずつ明らかになってきています。
他にもこれまで治療が難しかった脳卒中(脳梗塞・脳出血)や認知症、脳腫瘍、プリオン病、てんかんなどの神経系の病気にも効く可能性があることが動物などへの研究でわかっています。
本望教授は「5年から10年で自分の細胞をつかった医療はどんどん増えてくる、自分の研究もまだ登山で言うと2合目くらいです」と話しています。

医TVの放送内容はこちら >>