北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年09月30日13時18分

著者名:HTB医pedia編集部

【医療のミカタ】知られざる「敗血症」の恐怖

  

<今回のテーマ>

「敗血症」という病気を聞いたことがありますか?
実は、日本国内で年間10万人もの人(推定)が、「敗血症」で命を落としていると言われ、その数は男性の「肺がん」の死亡者数と女性の「大腸がん」の死亡者数を合わせた数をも上回っています。
熱っぽい...ぼ~っとする、息苦しいなど、体調がヘンだと思うことはありませんか?
それは「敗血症」かもしれません。命にまで危険を及ぼす「敗血症」とは一体どのような病気なのか。
市立札幌病院 感染症内科 児玉文宏の先生にお話を伺いました。

<敗血症の原因と症状>

児玉先生「敗血症は、一般的に言うと『感染症が悪くなった状態』ということをイメージしてください。体の一部に『肺炎』や『尿路感染症』といった感染症が起こることがありますが、それが悪化してしまい、『敗血症』になるということがあります」
例えば、肺炎は体内に入った細菌が肺の細胞に感染し炎症を起こす病気ですが、この菌が増え続け、免疫機能では抑えきれなくなったとき、他の臓器や組織にも障害が現れることがあります。この症状を「敗血症」と呼びますが、「敗血症」がより重症化してしまうと、2つ以上の複数の臓器が機能しなくなってしまう「多臓器不全」に陥ることもあります。
さらに、「敗血症」を引き起こす恐ろしい菌の一つとして、通称「人食いバクテリア」と呼ばれる「溶血性連鎖球菌」がありますが、このバクテリアが全身に広がると、手や足が壊死し、切断を余儀なくされることもあります。

<敗血症が重症化する前の徴候>

「敗血症」が重症化する前に、「敗血症」を疑うサインはあるのでしょうか。
児玉先生「早期の症状としては、高熱といった風邪の症状と見分けがつかないことが多く、例えば、(風邪のような症状に加えて)意識がおかしい、呼吸が速くなってしまう、脈が速くなる、あるいは、普段の血圧よりも低い、といった症状がある場合は、『敗血症』のサインということもありますので、注意する必要があります」

<敗血症の治療>

今年で創立150年を迎え、これまで敗血症患者を多く受け入れてきた市立札幌病院の院長、向井正也先生にもお話を伺いました。
向井院長「この3年間の平均で言いますと、主病名で『敗血症』と入っている方は平均して年間50人で、そのうち10人の方が亡くなっています。当院のように集中管理を行っていても、2割の方が亡くなっていますので、一旦重症化するとやはりなかなか厳しい状態になると思います。『敗血症』の疑いがあるという時にはぜひICU(集中治療室)が有る大きな病院の方に紹介していただいて、適切な病院に入院していただくことが必要になります」
「敗血症」とは、1つの病名ではなく、口や傷口などから入った細菌によって引きおこる肺炎や脳の髄膜炎、尿路感染症などの感染症が重症化し、意識障害や臓器障害まで引き起こす、恐ろしい病気ですが、実はそのプロセスについては未だ解明しきれていません。
また、「敗血症」は、呼吸困難や急速な血圧の低下も生じるため、抗生剤の投与、呼吸や血圧の管理、人工透析などほとんどの方がICU(集中治療室)での治療が必要になります。

<敗血症に注意すべき人>

65歳以上の高齢者もしくは、1歳未満の乳幼児、また、これまで心臓病や腎臓病など臓器疾患に罹った経験がある人が「敗血症」に罹りやすい人に該当します。特に糖尿病の方や手術で脾臓を摘出した方など、免疫機能が低下している人は特に注意が必要で、一見元気そうな方でも油断してはいけません。

<敗血症から復活した、プロレスラー大仁田厚さん>

意外な方が「敗血症」から奇跡の復活を遂げていました。
「1、2、3、ファイヤー!」と、派手なパフォーマンスで現在も多くのファンを魅了するプロレスラー・大仁田厚さん。強靭な肉体の持ち主ですが、1993年に、急性の「敗血症」で倒れ、生死の境をさまよった経験があります。
大仁田さん「あの頃(1993年)ですね、年間260試合くらいやっていたんですよ。それでやっぱり毎日全国廻って流血とかしていたんですよね。ある日、のどがすごく痛くなったんですよ。僕は風邪だと思っていたんですよ。そうしたら試合が終わった後に、息が出来なくなって」
扁桃炎から重度の「敗血症」を引き起こし、救急搬送された大仁田さんは、ICUで18日間、意識を失い続けたと言います。
大仁田さん「結局、もう70%(の確率で)死亡ですねって。両親が呼ばれて、ご臨終じゃないけど、死んじゃうかなって」
瀕死の状態で投与された抗生剤が効き、奇跡の復活を果たした大仁田さんですが、それ以来、「敗血症」の啓発を促す活動にも参加しています。
大仁田さん「やはりそのとき、感じましたよね。命の尊さと、生きるということの人間のしぶとさというか、生命力に対して、やはり真剣に考えるようになりました。だからこそ好きなことをやっていいじゃないかと。人がなんと言おうと自分が好きなものが好きだというのを貫けという、人生は諦めない、というメッセージをすごくこの敗血症によって考えさせられましたね。病気というのは罹らないと思っていても、日々の生活においてどこか調子が悪いと思ったら、すぐにお医者さんにみてもらうことが必要だなと痛感しましたね」

<敗血症の予防>

「敗血症」の予防で一番大切なことは、何よりも菌に感染しないための「手洗いとうがい」を徹底させることです。「敗血症」は実感を抱くのが難しい病気ですが、大仁田さんのように、何かどこか調子が悪いと思ったら、迷わず病院に相談してください。その判断が、命を救うかもしれません。