北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年04月26日12時05分

著者名:HTB医pedia編集部

【医療のミカタ】本当に怖い「すい臓がん」

  

<今回のテーマ>

日本人の死因の第1位である「がん」。
中でも、自覚症状が出た段階で、手術を行うことが難しい、ステージ3期、4期となっていることもある、最も恐ろしい「がん」の一つとして挙げられるのが、「すい臓がん」です。
「すい臓がん」の恐ろしさの原因と、早期に発見するために、現在、行われている臨床研究について紹介します。

<「すい臓がん」の早期発見の難しさとは>

札幌市南区で油圧機械の会社を営む寺澤孝男さん、67歳。
4年前に、医師から「すい臓がん」と診断されました。

寺澤さん「なんか背中とおなかの痛みがちょっと...刺す痛みじゃないんですよ、鈍痛みたいな感じなんですけど、それがずっと続いたものですから・・・CT検査をやったら2.5センチくらいの、これは『すい臓がんですね』って。そこではっきり言われましたのでね、やっぱりその時はね、なんで僕がっていう感じは受けましたけども」

2017年の調査によりますと、「すい臓がん」の死亡者数は、全国で年間3万4,224人に上り、男性の場合だと5番目、女性の場合だと3番目に死亡者が多い「がん」だといわれています。 しかし、「すい臓がん」は、「すい臓」が、おなかの奥にある臓器であるため、早期診断として、体の表面からの超音波などの画像検査では見つけることが難しいという問題があります。

寺澤さんのように、おなかや背中が痛むなどの自覚症状が出たときには、「すい臓がん」が既に進行していることであることが多く、発見された後の「すい臓がん」の平均的な余命期間は10~11か月、「すい臓がん」と診断されてから5年間のステージ別生存率は、「すい臓」から「肝臓」、「肺」、「腹膜」、「大動脈周囲リンパ節」などへ、がん細胞の転移が認められる「ステージ4期」の場合で、5年後の生存率は、わずか1.1%となっています。

北海道大学・大学院医学研究院の坂本直哉教授によりますと、今のところ、「ステージ1期(「がん細胞」が「リンパ節」に転移せす「すい臓」内で留まっているレベル)」、「ステージ2期(「がん細胞」の一部が「リンパ節」まで転移しているレベル)」までの「すい臓がん」では、薬物(化学)療法ではなく、手術により治療を行いますが、「ステージ3期(腹腔動脈または上腸間膜動脈にがん細胞の転移が認められるレベル)」、また、上述の「ステージ4期」まで進むと、既に「すい臓」の他の臓器や重要血管にまで、「がん細胞」が広がっている場合が多く、手術が困難となるため、一般的には薬物(化学)療法によって治療を行います。

寺澤さんの場合は当時、「ステージ4期」と診断されましたが、奇跡的にがんを切除することが出来たと言います。手術から3年半、寺澤さんは現在、「すい臓がん」撲滅に向けた啓発活動を行う団体「NPO法人 パンキャンジャパン」で「すい臓がん」患者や、その家族をサポートする活動を行っています。

寺澤さん「自分の経験が少しでも(すい臓がんに)罹った方の役に立てればと思いましてね、一緒にやらせてくださいと参加させてもらいました」

<「すい臓がん」と闘いながら>

一方、「すい臓がん」と闘いながら、自身の経験をブログで発信している人もいます。

北見市に住む坂地史隆さん、53歳
坂地さん「超音波(検査)とかもやったんですけど、それでも、そのときはわからなかったんですよ。(4か月後に)いざ告知を受けた時には、頭の中が真っ白になりましたね」

坂地さんは「すい臓がん」を告知されてからすぐ、手術を受けることは出来ましたが、半年も経たずに再発しました。

坂地さん「(がん細胞が)いかにしつこい細胞か、ということですよね。お医者さんからみて、だいたい取れたということで、ある程度安心していたところが、また復活してくる、寄生虫のような、しぶとい細胞ですよね」

坂地さんは、そのような経験を経て、ご自身の経験と思いを綴るため、ブログを始めることにしました。

坂地さん「一番最初に、『すい臓がん』と言われた時に、まず知識がなかったので、『すい臓がん』が、どういうものなのか、インターネットや本を買ったりとか、書籍を集めたりいろんな情報を集めました。なんて無駄な時間なんだろうと思いましたよ。だから、私と同じような思いをしてほしくないと思って、頑張ってブログは更新している状態です。皆さんのためにも書いていますけど、逆に皆さんからも元気をもらって慰めの言葉をいただいたり、応援の言葉をいただいたり、とても励みになっています」

<「すい臓がん」の早期発見のために進む臨床研究>

自覚症状が出た段階で、既にステージ3期か4期で、手術も難しいという「すい臓がん」。
しかし、「すい臓がん」の手術による治療が期待できるステージ1期、2期での発見のために、現在、「血液検査」による早期発見の臨床研究が進められています。

国立がん研究センターの本田一文医学博士は、長年、「すい臓がん」患者の血液を調べる中で、血液中の「アポリポプロテインA2」という、特定のたんぱく質が低下していることを突き止めました。
本田博士によりますと、「すい臓」に異常がある方に血液検査を行うと、血液中に一定量存在する「アポリポプロテインA2」が減少している傾向があり、この結果を以て、次にCT検査などの高精度な検査に進むことが出来る、ということです。本田博士が開発した、この新たな血液検査の基準は、日米での共同研究も行われ、特に早期の「すい臓がん」や、「すい臓がん」を引き起こす可能性の高い疾患を、従来より高い精度で検出できると評価されています。

本田博士の、この臨床研究は、「国立研究開発法人 日本医療研究開発機構」の後援もあって、今年4月10日から「札幌がん検診センター(東区北26条東14丁目)」で無料の血液検査を受けることが出来るようになり、その検査の結果で異常が認められた場合、北海道大学病院でのCT検査も無料で受けられるようになりました。対象となるのは、これまで「すい臓」に疾患のない、50歳以上の札幌市民になり、受付は、2019年11月まで行われる予定です。

本田博士「今のところ血液検査の有効性を評価するには死亡率の低減効果が最も重要になります。 最終的には、手術可能なすい臓がんが見つかって、すい臓がんで亡くなる人が減ってくることが最も望ましいことだと思います」

実は、「すい臓がん」罹患率の都道府県別の全国1位は、「北海道」という結果になっています。 新たな血液検査の基準を使った臨床研究ですが、これまで鹿児島県と神戸市で行われ、今回の札幌のデータを合わせたおよそ1万5000件のデータも対象に、今後も研究が進められていきます。