北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年11月19日14時48分

著者名:HTB医pedia編集部

【医療のミカタ】どうなる?外国人医療の最前線

  

<今回のテーマ>

去年、北海道を訪れた外国人観光客は、およそ312万人、前年より32万人も増加しています。
それに比例して増えるのが、外国人の患者数。今回の「医療のミカタ」は、外国人が予期せぬ事故や病に倒れた時に立ちふさがる様々な問題について、外国人医療の最前線を紹介します。

<外国人患者との言葉の壁>

外国人医療で最も大きな問題は「言葉の壁」。「言葉の壁」で困るのは患者である外国人は勿論のこと、診療する医師も同様です。
「円山ため小児科」院長の多米淳先生に聞きました。
多米先生「おなかが痛いという一つのことでも、どういうふうに痛いのか、どこが痛いのか、重たくて痛いのか、ずきずきするのか、いろんなことがありますよね。おなかの痛みひとつをとっても、それをきちんと説明できるのか、という問題があって、更に、宗教によっては、服の上から診断してください、ということが常識の国もあります」

<外国人患者の受け入れを進める「東徳洲会病院」>

言語、宗教などの壁がある中、札幌市東区の「東徳洲会病院」では、6年前から「国際支援室」という外国人患者のための部署を設け、様々な国籍の通訳スタッフが8人常駐し、待合室の案内も多言語で表記しています。対応言語は、英語、中国語、ロシア語、ポルトガル語、マレー語、インドネシア語、スペイン語、韓国語と8か国語にわたります。
循環器内科 山崎誠治先生「(国際支援室のスタッフは)かなり医学的な知識とか、薬の名前だったり、病気のこともかなり勉強されていて、本当に助かっています。単なる通訳だと、間違いや食い違いもあるんですけど、より患者さんに理解、納得してもらえるという部分で助かっています」

この日、午前10時にタイから来た観光客の家族が「東徳洲会病院」を訪れました。
1歳の息子が前夜から急に高熱に襲われたと言います。父親が英語を話せるため、国際支援室の日本人スタッフの中島永美子さんが英語で通訳を行い、問診票の記入も一からサポートします。この患者さんについて中島さんに聞きしました。
中島さん「(患者さんが)入っていたのは旅行保険ですが、うちの病院ですと、原則患者さんの負担で支払ってもらって、帰国後、患者さんご自身で保険会社に請求してもらいます。ご請求の際には、保険会社によってはレシートだけでもいいし、診断書も必要なこともあるので、それを今、必要かどうかを確認してもらっています」
診療の結果、タイ人の息子さんには、インフルエンザの心配もないことが分かり、両親はほっとした様子です。
タイ人の父親「素晴らしいです。自分がもし、ここの病院に来たとしても日本語が出来ないので、英語やその他の言語も話せる職員がいて助かりました」
「東徳洲会病院」の国際支援室のスタッフは、受付、診療だけではなく、会計、薬の受け取りまで付き添い、薬の飲み方も丁寧に説明し、混み具合によっては、2時間以上付き添うこともあります。

「東徳洲会病院」を訪れる外国人患者は年々増加し、去年はおよそ1500人にのぼりますが、外国人患者の救急搬送が最も多くなるのは、「さっぽろ雪まつり」の時期だそうです。
救急科 増井伸高先生「(さっぽろ雪まつり期間中は)骨折や転んでしまって歩けない、そういった患者さんが多いですね。(しかし)外来だけの対応は出来ても、入院対応となると院内に言葉の話せるスタッフがいなくて、入院対応を出来ない病院もあるので、そういったところも僕らの病院は対応しています」

<外国人患者と外国人スタッフへの配慮として>

「東徳洲会病院」の国際支援室のスタッフは、外国人患者が訪れない時間帯では、日本語で通常の受付業務を行い、さらに、普段は看護師として働きながら、必要に応じて通訳の仕事もするというスタッフもいます。

インドネシア出身のシャウキさん(29歳)は、「東徳洲会病院」で3年前から働き、インドネシア語とマレー語を担当しています。今年の1月には、インドネシアの方が入院された際には、シャウキさんが対応しました。
シャウキさん「(その患者さんは)インドネシア語しか喋れないので、1週間ぐらい、先生の説明とか、命に関わる話とかの対応もさせて頂きましたので、私自身もうれしかったです」

国際色豊かな「東徳洲会病院」では、外国人患者に配慮したラウンジや、宗教的な配慮として、イスラム教徒のための礼拝室まで設けられています。
イスラム教徒であるシャウキさんは、院内に礼拝室があることで、毎日欠かさず礼拝を行うことが出来ると言います。
シャウキさん「ここで働かせてもらって本当にありがたいです」

<札幌市との協定>

「東徳洲会病院」は、2016年からは、夜間や土日祝日の外国人患者の救急受け入れを行う協定を札幌市と締結しています。
東徳洲会病院・太田智之院長「誰も知り合いもいない、心細い中で、体調が悪いのは、非常に寂しく、つらいと思います。そういう方を一人でもなくすために、行政を巻き込んで、外国人医療に対して体制を作っていきたいなと思います」

<外国人患者の医療費未払いの問題>

2018年度の観光庁の調査によりますと、日本を訪れる外国人観光客のうち73%の方々が、医療費がカバーされる旅行保険に加入されていますが、残りの3割近くの方々は(医療費がカバーされる)旅行保険に入っていないというデータがあります。
そこで懸念されているのが、医療費未払いの問題です。北海道医務薬務課の2017年度の調査では、1年間で21の医療機関が「外国人患者の医療費未払いがあった」と答えていて、うち3機関は100万円以上の医療費未払いとなっていました。保健未加入の外国人観光客であれば、場合によって医療費が莫大な金額になることもあり、未払いのまま逃走し、そのまま帰国するケースや、別のトラブルに繋がるケースもあります。「東徳洲会病院」では、医療費の未払いをなくすため、一つ一つの過程でかかる料金や支払うことの出来るカードの種類などを、事前に通訳して理解してもらうように努めています。

年々増加する訪日外国人観光客に対して、「東徳洲会病院」のように、外国人の受け入れ体制を進める病院がある一方で、日本国内の一般的な病院では、クレジットカード決済導入の遅れなども含めて、外国人患者への対応は追い付いておらず、不測の事態に備えた課題は山積みというのが現状です。