北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年11月14日15時40分

著者名:HTB医pedia編集部

「がん領域におけるゲノム診断と個別化医療」 ②大腸がん・・・臨床の視点から

  

<今回のテーマ>

今回の「医TV」は、「がん領域におけるゲノム診断と個別化医療」の四回シリーズの第二回目として、臨床の視点から、「大腸がんのドライバー遺伝子と個別化医療」について、北海道大学病院腫瘍センター化学療法部部長・診療教授 小松嘉人さんにお話を伺います。

<大腸がんへの化学療法の対象と目的>

「大腸がん」は早期の段階ですと、特徴的な症状がありません。従って、「大腸がん」の発見は、進行がんとして発見され、化学療法を必要とすることが多くなります。「大腸がん」への化学療法は、手術可能な、がんに対して再発を予防するために行う「術後補助化学療法」と、手術不可能な進行がんや再発がんに対して、その進行の抑制や生命延伸のために行う「全身化学療法」の二つがあります。

<大腸がんに関係する遺伝子変異と分子標的治療薬>

「大腸がん」の化学療法は、これまでは、がん細胞の組織形態を調べ、組織の型が同じ場合、特定の抗がん剤を投与するという画一的な治療が行われていました。しかし、分子標的治療薬の登場によって、分子標的治療薬が、がんの発生や進展に関係するドライバー遺伝子を目標に攻撃する性質を持っている為、がん細胞の組織形態を調べるとともに、遺伝子変異を確認するため、ゲノム(遺伝子)診断を行い、遺伝子変異に合わせた分子標的治療薬による、個別化治療が行われるようになりました。
「大腸がん」に対する分子標的治療薬は、「RAS遺伝子」という遺伝子の変異の有無を、コンパニオン診断によって特定し、変異が無ければ「抗EGFR抗体薬」、変異が有れば「抗VEGF抗体薬」というように二種の分子標的治療薬で対応します。

<ゲノム(遺伝子)診断の方法>

がんのドライバー遺伝子を攻撃する分子標的治療薬を選定するにあたって、今までのゲノム(遺伝子)診断は、がん種ごとに特定されるドライバー遺伝子を見つけるために、一回の検査で、ドライバー遺伝子を一つずつ特定する「コンパニオン診断」という方法がとられていましたが、今年6月に保険適用にもなった「がん遺伝子パネル検査」という次世代のシーケンサーの登場によって、一回の検査で同時に数十から数百のドライバー遺伝子を特定することが可能となりました。この「がん遺伝子パネル検査」によって、標準治療が無い場合や、化学療法による標準治療が終了し他の治療方法が無い場合に、がんの種類を問わず、遺伝子変異を精査して、臓器横断的な治療を行うこと(ゲノムプロファイリング検査)が可能となりました。

<がん遺伝子パネル検査で精査すべき他の遺伝子変異と分子標的治療薬>

「がん遺伝子パネル検査」は、「大腸がん」の一部に発現する遺伝子変異(ドライバー遺伝子)を特定することで行われる分子標的治療薬による治療のみならず、他臓器の「がん」治療にも役立つことがあります。例えば、「胃がん」や「乳がん」などに関係する「HER2遺伝子変異」を特定することで行われる「抗HER2療法」や、悪性黒色腫などに関係する「BRAF遺伝子変異」を特定することで行われる「BRAF阻害剤」に加えて他の「分子標的治療薬」による治療(臨床試験)にも活用されることがあります。
※現在の医療保険制度では、上述の「抗HER2療法」や、「BRAF阻害剤」及び「分子標的治療薬」による治療は保険適用の対象となっていませんので、自由診療での治療、臨床試験として主治医にご相談ください。
今後の分子標的治療薬による治療は、今までの臓器別の抗がん剤による治療ではなく、「がん遺伝子パネル検査」によって、がん種ごとに遺伝子変異を特定し、臓器横断的な分子標的治療薬の選択が可能となりますので、がん治療に大きく貢献することが期待されています。

医TVの放送内容はこちら >>