北海道テレビ:HTB online 医TV

2019年11月14日16時32分

著者名:HTB医pedia編集部

「がん領域におけるゲノム診断と個別化医療」 ③乳がん・・・臨床の視点から

  

<今回のテーマ>

今回の「医TV」は、「がん領域におけるゲノム診断と個別化医療」の二回シリーズの第三回目として、臨床の視点から、「乳がんのドライバー遺伝子と個別化医療」について、国立病院機構北海道がんセンター副院長 高橋將人さんにお話を伺います。

<乳がんの化学療法の対象と目的>

「乳がん」は早期に発見されれば、根治する可能性の高いがんです。しかし、「乳がん」は、早期の段階で手術によって、がんが完全に摘出できると判断された場合でも、がん細胞が体全体に行き渡っている可能性もあるため、手術前、手術後においても化学療法を必要とするケースが多くなっています。「乳がん」に対する化学療法は、手術前では、乳房の温存などを目的に腫瘍の縮小を図り、手術後は進行、再発の抑制や予防の為に行われます。

<乳がんの分類>

近来、「乳がん」にも様々なタイプが有ることが判ってきています。そのタイプの分類は、腫瘍細胞の発現が、「エストロゲン受容体」、「プロゲステロン受容体」というホルモンに関係する因子によるもの、「HER2」という遺伝子の変異によるもの、という三つの「乳がん」に大きく分かれますが、これら三つのいずれにも該当しないトリプルネガティブと呼ばれる「乳がん」もあります。

<HER2遺伝子変異以外に乳がんに関係するドライバー遺伝子>

「乳がん」への化学療法は、ホルモン剤や抗がん剤に加え、がん細胞に発現するドライバー遺伝子を標的に攻撃する分子標的治療薬の登場によって、個別化医療へと変化しています。上述の「HER2遺伝子変異」による「乳がん」以外に、特殊な遺伝子変異のタイプとして、「遺伝性乳がん」、「卵巣がん症候群」に関わる「BRCA」という遺伝子の変異によるものがあります。この「BRCA遺伝子変異」による「乳がん」に対しては、「PARP阻害剤」という分子標的治療薬で治療を行いますが、「PARP阻害剤」は、「HER2遺伝子変異」が陰性の場合や、再発した「乳がん」に対しても効果的なケースがあります。また、今まで分子標的治療薬が効果的ではないとされていた、トリプルネガティブといわれる「乳がん」に対しても、がん細胞のPD-L1という因子の特定による、「がん免疫チェックポイント阻害剤」の投与が効果的であることが判ってきています。

<ドライバー遺伝子の特定方法>

がんのドライバー遺伝子を攻撃する分子標的治療薬を選定するにあたって、今までのゲノム(遺伝子)診断は、乳がんのドライバー遺伝子である「HER2遺伝子変異」などを見つけるために、一回の検査で、ドライバー遺伝子を一つずつ特定する「コンパニオン診断」という方法がとられていましたが、今年6月に保険適用にもなった「がん遺伝子パネル検査」という次世代のシーケンサーの登場によって、一回の検査で同時に数十から数百のドライバー遺伝子を特定することが可能となりました。この「がん遺伝子パネル検査」によって、標準治療が無い場合や、化学療法による標準治療が終了し他の治療方法が無い場合に、がんの種類を問わず、遺伝子変異を精査して、臓器横断的な治療を行うこと(ゲノムプロファイリング検査)が可能となりました。
今後の分子標的治療薬による治療は、今までの臓器別の抗がん剤による治療ではなく、「がん遺伝子パネル検査」によって、がん種ごとに遺伝子変異を特定し、臓器横断的な分子標的治療薬の選択が可能となりますので、がん治療に大きく貢献することが期待されています。

医TVの放送内容はこちら >>