海洋堂のチョコエッグ「日本の動物シリーズ」の造型の見事さに胸打たれ、いつか「どうでしょう」のフィギュアを作りたいと思い続けて幾年月。思い続ければ願いは叶うもので、縁あってフィギュア製造会社のユニオンクリエイティブの連中と知り合い、「どうでしょうフィギュアシリーズ」が実現したのが3年前。原型を作る造型師さんたちはみんな、どうでしょう好きで、業界では名の知れ渡ったトップクラスの実力者ばかり。原型が完成するたびに、その緻密さと味わい深さに驚かされます。
やはり日本のモノ作りは素晴らしいと思わずにはいられないわけですが、日本で作られた原型を元に、それを大量生産しているのは中国の工場なのです。ぎくしゃくした日中関係。中国製品は粗悪だというイメージ。ご近所さんなのにお互い悪口ばかり。たしかに、中国が安い人件費で大量に作る製品には、正直、疑念が拭いきれないところはあります。
でも、ユニオンクリエイティブの連中が「一度、どうでしょうのフィギュアを作っている工場を見てください。あそこは本当にレベルの高い仕事をしてますから」と言うのを聞き、不肖藤村、繁栄する現代中国へと嬉野先生、石坂店長と共に向かったのであります。
行ってきました中華人民共和国。ここは深圳です。
これから、水曜どうでしょうフィギュアを中国の工員さんが作ってくれている様子を皆さんと一緒に見てまいりましょう。ちなみに藤村さんの左に立つ元気そうな人は中国工場の社長さんです。右側の通りすがりのような青いシャツの人は、たんなる守衛さんです。
さぁ工場の中に通されましたら、
日本から派遣されたユニオンクリエイティブの生産管理のスタッフがフィギュアの色を決めているところでした。
こだわり部分は、プロデュースする側の日本チームが定期的に現地へ出張って、
集中的に指導しているのです。
そりゃそーです。だってね。なにぶん中国のみなさんに作らせている物がこれですから。
これですよ、これ。そら中国の方も戸惑います。
どうしてこんなね、可愛くないものにね…、
いや、可愛くないわけではない…とも思えてしまう妙なものにね、これだけ熱意を傾けてね、日本人たちは、厳しい目を向けて、ここはこうしないとダメとか、あーしてくれとか言ってこだわるのか、その根拠が正直分からんと、中国4千年の歴史を誇る民族は戸惑いを持つわけですよ。
であれば、そこは日本人が出張って、いや、日本人と言うよりかね…特殊な感性に毒されたどうでしょう軍団が出張ってね、口出しをしないといけない。ということで…来てみたらね…。
「それにしても…」と藤村さんは思うわけです。
「これはなにぶん他人のような気がしない」と。
「ちゃんとオレにパンツ履かせてるんだろうな」と。
いやまったく藤村さん。ずいぶんと変わり果てたお姿です。しかしながら。藤村さんと言う方は、こけしの時もそうですが、お人形になると、なぜだか哀愁を漂わせる。そこが不思議であり。謎であるところです。ですが出来はいいですよ。
おおっと、これも藤村さんだ!渡世人的な迫力炸裂でHTBのマスコットも串刺し状態!
なんでもありだなHTB!
ははぁ。これは、どうでしょうDVDのオープニングアニメのフィギュア化ですね!どうでしょう祭にフォーカスを合わせたプロジェクトが進行中なのですな!出来がいい。
しかし、こうやって見ると、奥の人とそっくりということでも、ないようにも思える…んですが。しかしながら…
こうして、これだけを見ておりますと、そっくり以外のなにものでもないと思えてくる。これWIT STUDIOの浅野くんが描いてますのよみなさん。
浅野くんといえば、今やアニメ「進撃の巨人」キャラクターデザインを担当している巨匠ですよ。
巨匠だが、こういうのも描くんです。
そしてその絵を日本の名工・造型師が立体化させるのです。
いやぁこのヒゲ見ましたか!実に丁寧に印刷されていますよ。中国の工員さん、実にこまかい仕上げです。正直、驚きました!
「おや?」藤村さんの目が留まります。
「こいつら、全員、ニャンですよ」。
「ハイ。ワタシ、ニャント、モウシマス」
あぁニャンさん!懐かしい!元気だった?
いやぁ思わず懐かしくなるほど似てる…。
あっこの人はジム!ジムじゃないか!アラスカで下ネタばっか言って笑ってたドライバーのジム。
ジム!ナップさんは元気なの?
こちらはロビンソン。「小魚取るか」と言ってます。
さぁ実はこの2体、左右で違いがございます。
お分かりになります?分かりにくい?
少し角度を変えてご覧にいれましょう。
どーです!左のロビンソン!上目使いで人相が鋭い!これは怖い!と制作サイドのユニオンクリエイティブの生産管理担当者が配慮してくれて穏和な顔になったのが右のロビンソンだった、のに
「こっちの方が良くねぇか」という藤村さんのひと言で、バキッと怖い方の人相に戻りました。迫力重視だ!水曜どうでしょう!
「あ!オオウナギいた!あ!今!西日本最大のハゼがいた!」「ロビンソン。もう帰ろうよ」
なんだか懐かしい8年前の西表の暑い夜がよみがえってくるようです。
工場の社長のレイモンドさんです。
とにかくハイテンションによくしゃべる陽気な実業家です。
この可愛いお嬢さんは通訳のタイさん。
右奥は、グッズ店長石坂さん。
こちらは工場内。ただ今中国の工員さん全員、熱心に作業中です。
これは…なんでしょう?キャベツの千切り…?。
違います。藤やんのメガネです。
「あ。オレのメガネかぁ…」と藤村さん。
「え、あの人のメガネ作ってるの?」と内心仰天する中国青年。突然のことに日中両国民ともに言葉を失う瞬間です。
みんなで藤やんのメガネのバリを取ってたみたいです。
ところでこの工場、なんだかやたらとピンクです。
ものすごいピンクの人の量です。
実は中国の工員のみなさんは全員ピンクのポロシャツが制服なんでピンクピンクなんですよ…
藤村「でもさ、あいつなに?なんであいつ、まったく同じ色のピンクのポロシャツ着てるの?」
嬉野「たまたま日本から着て来たら、色がカブったらしいんだよ」
藤村「マジで…あれ自前なの?」
嬉野「うん」
藤村「そんなことってあるか…!」
藤村「いや…こいつの間の悪さって、ホント驚異的だよな…」
藤村「ここで借りたわけでもないわけだろう?…」
藤村「はるばる日本から着て来て…カブってるんでしょ…」
藤村「その辺…、自覚ってあんのかな…?」
藤村「いやぁピンク…」
藤村「とにかく、あいつがいると見分けがつかなくなるんだよ」
藤村「あれ?店長、どこ行った?」
藤村「ほらね。店長どこにいるか、もう分からなくなったでしょう?」
藤村「あのさ。撮影に来てるのに、おまえのせいで、紛らわしくてしょうがないんだよ」
店長「藤村さん、これ、姫だるまですよ」
藤村「何がだよ…」
藤村「あ。たしかにこれ姫だるまだな」
着色された状態です。あれ?でも、顔が黒い。どうしてでしょう?
これにはわけがありましてね。まず、黒いお顔にこのようなマスクをピタッとあてる…。
そこへ白い塗料をブブーッと霧吹く…。
すると、ほれ、このように。黒かったお顔は、縁取りの部分だけ黒く残されて見事に白いお顔となるわけです。
「いやぁ考えましたね」と感心する藤村さん。
よく見ると、工員さんたちのそばに…
このようにお手本の写真が貼ってある。
工員のみなさん、このお手本を見て、お手本に限りなくそっくりにしている。
みんななんかね、楽しそうなの、工場全体。雰囲気がね。
こちらは彩色ではなくて印刷の工程。ヒゲは印刷なんです。フィギュアにとって顔は命。
だからヒゲの色の濃さ、ヒゲの位置、それを決定するのがかなりデリケートな作業になってくる。
中国青年が、ヒゲの位置を決めようと試行錯誤していました。
とにかく、何度も何度もやっているのです。
透明のテープにヒゲを印刷しては、その濃さや位置を見ているのです。
お手本と見比べる彼の眼は真剣そのもの。
この女性は、どうでしょうフィギュアの現場責任者のランさんです。
この人がまた熱心な人なのだそうです。
青年の仕事を見守るランさん。
中国青年はとにかく見ています。
本当に真剣なんです。
ヒゲの微妙な位置の違いで、顔の味わいが変わってしまう。
だから、とにかくこだわっている。こだわるだけの甲斐があるということを彼は経験してしまっている。
この中国青年の熱意に我々はいたく感動しました。
まじめに取り組む彼の姿、物作りに夢中になれている若者の姿に何やら胸打たれてくるのです。
藤村「ま、そうは言っても、やってるのは結局オレのヒゲなんだけどね…」
…。
藤村「…」
一方、こちらはパーマ屋へやって来た藤村さん。
「今日はパーマ、いつもよりきつめにあててもらおうかしら…」
それとも、いきなり出くわして言葉を呑んだ双子のヒゲ兄弟をとらえた決定的瞬間。「兄さん!」
まぁ実際は、クリーンルームへ来ただけのことなんですがね。
藤村「ここでも、やっぱり…」
藤村「あいつが…」
藤村「やたらと周囲のピンクとカブって…ウザいんですよ…」もうフィギュアの工程を追うことよりも店長がピンクであることに興味がシフトしております。
藤村「でも、…ピンクも良いな…」
店長「藤村さん、そのピンクどうしたんですか?」
藤村「工場の人にもらった」
店長「ぼくも、もらったんですよ」
藤村「え?おまえ着替えたの?」
石坂「はい。」
藤村「そんな変化。細かすぎて分かんねぇって」
石坂「確かに…」
ということで。中国、深圳。とても好い街でした。
たしかに深圳は、スモッグに煙る街でした。晴れていても青空は見えない。
でも、年々便利になっていくこの街で暮らす中国の若者たちは楽しそうでした。
給料は、毎年10%ベースアップしているそうです。
頑張れば、頑張っただけ報われる好い時代です。
そんな急速な発展の中で、それでも、ここにはまだ、人間の背丈のままの暮らしが残る居心地の良さがありました。そして、いつかテレビニュースで見たような、ぼくら日本人に対する偏見の目は、何処にも見られませんでした。
ここには、ただ…同じ顔をして、同じごはんを、同じように美味いと感じて喜ぶ幸せそうな顔と…、
自分たち中国人の仕事に手放しで満足してくれた日本人を前に…
笑顔になる素直そうな顔があるばかりでした。
少なくともこの街では、日本と中国を隔てる垣根は、どこにもありませんでした。知り合ってしまうこと。それって人間にとって大事なんだなと、あらためて気づけた出張でした。
どうでしょうはフィギュアを通して、中国の人たちとも繋がることができました。水曜どうでしょうフィギュアは、あの人たちの熱意に支えられ作られていくのです。