水曜どうでしょう祭 UNITE 2013 水曜どうでしょう祭 UNITE 2013

SPECIAL(スペシャル)

匠の技を見学

有田焼編

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 有田といえば真っ白な磁器に色鮮やかな絵付けをした「有田焼」。
中国から磁器を作る技法が日本に伝わったのは400年前。
やがて有田は一気に世界的に有名な磁器の産地となります。
あれから400年――――。
有田にひとりのバカな男が現れます。

彼の家は、古くから陶土作りを生業(なりわい)としておりました。やがて家業を継ぐことになった彼は考えました。「もっと軽くて、割れにくくて、保温力のある磁器ができないものか」と。「そんなものがあったらとっくに作ってるわ!」誰もが思いました。しかし、陶土作りを生業(なりわい)とするバカは燃えます。
彼は有田の研究所の門を叩き、技術者を口説き、3年通い続け、遂に「軽くて、割れにくくて、保温力のある磁器を作れる土」を作ってしまったのです。
しかし世間は分かってくれない。「そんな混ぜ物をした土は有田焼ではない」、有田では誰もその土を使ってくれないのです。彼は途方に暮れます。そんな彼に、「そんなにすごい土なら…」と、ひとりの男が手を差し伸べます。彼は有田で「山忠」という焼き物の卸を営む、いわば商人。
こうして、本来、焼き物の世界では出会うはずもなかった入口と出口が出会ってしまうのです。
その後入口と出口は賛同してくれる仲間を集め、窯元、型屋、生地屋が参入し、ついに入口から出口へとつながる一本の線が出来上がります。
軽量強化磁器フッチーノの誕生です。
彼らはフッチーノを持って東京へ向かいます。行先は大手航空会社。
軽くて割れにくくて保温力がある有田焼ならファーストクラスの機内食に使う器としては、まさにうってつけではないか!そして彼らの器フッチーノは、ものの見事に採用されます(採用されるまでにも熱い話がありますが、もうここまで十分長いのにさらに長くなるので割愛)。さらに調子づいた彼らは、なんとライバル会社の大手航空会社にも果敢に売り込みに行き、そこでもフッチーノは見事に採用!バカはやっぱり強い!
さらに大手コーヒーチェーンにも売り込み、スターバックスが採用!もうNHK「プロジェクトX」的には大成功のお話ではありますが、バカは落とし穴に気づきませんでした。フッチーノは…「割れにくい」。つまり、長持ちしちゃって、航空会社からは追加発注も来ず。彼らは困窮。結局のところ「もう、どげんしたらよかとでしょうかねぇ…」と。
――――そんな話を我々は有田で延々3時間も聞き。「軽くて割れにくくて保温力があるのか」「なんだそれならまさに!屋外でやる祭の器としてはうってつけではないか!」「それでどんぶりを作って、釧路の和商市場でやってる勝手丼みたいに、好きな刺身を買ってきてどんぶりにのっけてワシワシ食らう」「でも屋外で刺身は出せないから、そうだ!どんぶりにぴたっとのっかる皿を作って、そこに好きなおかずをのっけてワシワシ食ってもらおう」「その皿はどんぶりのフタにもなりますよ!」「なるほど!」「作れますか!」「作りましょう!」「よーし店長!何個作ってもらう?」「うーん、8000個!」「はっ!8000個!?」「作れますか!」「作りましょう!」。
陶土作りを生業(なりわい)としている男の名前は渕野さん。
だから彼が作り出した磁器のブランド名が「フッチーノ」。ネーミングもバカです。
…と、いうことで、既にかなり長い前振りになりましたが、このあといよいよ嬉野先生による「匠の技」の、これまた長いレポートにまいります。どうぞ!

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― さて、私たちは有田の町に来たはずなのですが、でも、ここは魚河岸の裏庭でしょうか…?

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― だってほら。鮮魚の入っていた発泡スチロールのケースがところ狭しと山積みですもん…。

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― あ。藤村さん…。どうされました?このような所に陶芸家のような風体で。

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藤村「これは発泡スチロールのケースなどではない!どーん!」
― え?そうなの?
藤村「ここにあるのは全て、石膏で出来た有田焼の型です!」
― え?型?

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藤村「有田焼はねぇ、ろくろを回してお椀を作ったりはしませんよ」
― あ、そうなの?

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藤村「お椀を作る時は、お椀の型に土を流し込んでお椀の形を作るのです」
― フィギュアみたいッスね。
藤村「そう。フィギュアとおんなじ」
― はぁ~。知らないもんですね、一般人なんて。

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藤村「型の中はこんな感じです」
― あ。フタ開けた!
藤村「これは今回の祭どんぶりの上にぴたっとのっかる皿ですよ」

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― あ!ほんとだ!どんぶりのその上にぴたっとのっかる皿ですな!…それも2個同時にできる型だ…。
藤村「そう…」。

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― これも同じで…1個作る用。この型を使って具体的には…どう…するんでしょうね?
藤村「さぁ…」
― あら?藤村さんもご存じないの?
藤村「知るわけがないでしょ…素人ですよ私は」
― でも見てくれはなんでも知ってそうな風体ですよ。
藤村「まぁね…」

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― こっちの樽の中で回ってるのは何ですか?
藤村「あぁ、これはね…」

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藤村「これは有田焼の土です…」
― へぇ。トロっトロなんですね。

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藤村「土はね、土屋さんから持ち込まれた時はこの様に堅い粘土みたいな物だったんですが…あ!土屋さんって言ったってねぇ…苗字じゃないのよ」
― …?分かってますよ。土を作ってる工場でしょ?
藤村「そうそう」

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藤村「とにかく土がね、固すぎるままでは型に流し込めないので、水を加えて、この樽の中で撹拌するのです…」

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藤村「そして、このようにトロトロの土にするわけです。それをみなさん生地と呼んでいますね」
― ははぁ、ではまず固い土をトロトロの生地にしなきゃならないんだ。
藤村「正解!」

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― あ!藤村さん、あの人…あの人。
藤村「お。なにか置いてるな…?」

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― 型を置いてますよ。
藤村「ほんとだね…」
― ぽんぽん置いていけばいいのにね…。
藤村「そうだね、どことなく位置合わせしてる的な…腰つきだね」
― 確かに…。
藤村「そばに寄って見てみますか…」
― 寄って寄って。

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藤村「彼、この型を置いていましたな」
― 祭どんぶりの上にぴたっとのっかる皿の型ですね。

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藤村「そしてなんかね…ここに大きい穴があるんですよ」
― あ、ありますね。
藤村「…上へ行くとほら、針の穴みたいな小さい穴もありますしね」
― ほんとだ、ありますね。
藤村「そしてこの大から小へと向かう溝がある…」
― あります。

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藤村「おや~ぁぁぁぁっ!」
― どうしました藤村さん!
藤村「ここを見てください…」
― はいはい。

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藤村「ほら!この台にも穴が開いてますよ…」
― あ。ほんとだ…。

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藤村「あれれ!」
― こんどはなんですか藤村さん!
藤村「なんか出てきてます!」
― あ~!

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― これ…土!ていうかトロトロの生地でしょう?
藤村「そうだね…」
― あ!ということは…。
藤村「そうです!」

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藤村「台に開いてるこの穴の上に…」
― 型にあいてる穴を…合わせてた!
藤村「そう」

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藤村「あの人、型の大穴がここにピッタリ来るように位置を合わせていたんですな…」
― そうです!

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藤村「こうやって、合わせてたんです」
― そうですよね藤村さん!

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藤村「そして更に大穴の位置を合わせながら置いた型の上にまた型を積んでいくんです。こうやって、腰を落として…」
― いや…、腰はどうでも…
藤村「まぁね…」

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藤村「ここの位置合わせしとくと台の穴から押し上げられて来るトロトロの生地が、この大穴を押し上がって→この溝をはって→上の小穴から型の中へ入っていくしかけですね」
― いやぁそーだわ。

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藤村「下からは、どんどんトロトロ生地が押し上がってくるので、生地は大穴から大穴へとどんどん上がって上の型へ、そして型の中へ、さらに大穴を上がってそのまた上の型へと、どこまでも上がって行ける仕掛けです…」

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藤村「あ。蓋を開けましたよ」

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藤村「ほらごらん。出来てますよ。これ…」

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― あ!どんぶりの上にぴたっとのっかる皿の形になってる!
藤村「ねぇ、こんな感じになるんだねぇ」

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― いや、きれいに形になってるなぁ…。
藤村「やっぱり、あそこのちっちゃな穴から生地が入って来たんだね…」
― あんな小さい穴からねぇ…。
藤村「その証拠に、ぽつぽつと小さい突起がぴたっとのっかる皿の上にできてるもの…」

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― この突起ね…。

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藤村「この突起を、ああやって指で上手いことなじませて無くしているよ…」。

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― これね、簡単そうに見えて職人技だそうですよ。

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― ほら。消えましたよ…藤村さん。

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藤村「お、型からはがしてる…」。

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― うまいもんですねぇ…

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藤村「じゃ、失礼してわたしもね…」。
― なにが?

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藤村「おおっ…」。
― あ!やばいですよ藤村さん!

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藤村「いや、すっげぇ柔らかいんだよ…」。
― あたりまえだよ!

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藤村「いやぁ危なかった危なかった…」

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― 気をつけてくださいよ藤村さん…
藤村「分かってる、分かってる…」

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― いやぁ、どんどん出来てますねぇ。

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藤村「こうして器の形ができたら、ここで自然乾燥させて、あとは窯元で焼くわけです」。
― なるほど。じゃ、そもそもここに来る前に、土は、どうやって作られているんでしょうか。
藤村「土。そうね。たしかにフッチーノは『軽くて、割れにくくて、保温力のある、これまでに無かった磁器が焼ける土』こそが、最大の武器だからね。それを見ないことにはね…」
― そうですよ。
藤村「では、これから渕野さんの工場まで出かけてみますか…」
― ぜひ!

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― これって…住所、なんですかねぇ。
藤村「あなたの名前が、いたるところでフューチャーされてる町ですよここは」
― こんなところで有田焼の土を作っているんですねぇ。温泉とお茶で有名なとこなんですがね…いやぁ知りませんでした。

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― だけど、やたらと石ころが積み上げられてますね…土はどこにあるんでしょうか…?

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藤村「いや、この石が、有田焼の土になるんですよ」
― え?最初は石なんですか土って?
藤村「そうなんだね…」

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藤村「この白い石が粉のようになるまで砕いて砕いて水に溶いて粘土のように練って、有田焼の土は出来ていく…」
― ははぁ~。知らないもんですねぇ、一般人は。

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藤村「でも。ただ、そこら辺にある岩を砕いただけでは粘土質の土にはなりませんよ。ここに積み上げられている石は全て特殊な石なんです。たとえば、中国やヨーロッパでは、白い岩の粉末に、さらに様々な物質を混ぜ込まないと陶土にならないのです」
― なるほど。ブレンダ―技術が求められるわけだ。

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藤村「でもね、今私が持っているこの白い石はですよ」
― はい…。
藤村「砕いて粉末にするだけで最高品質の陶土になるんです」
― なんで…また?
藤村「この石の中に、はじめからウソのように必要な物質が天然でブレンドされているからなんですってさ」
― 奇跡だ!
藤村「そう。奇跡なんですよ。その奇跡の石が、ここ九州の地で多数産出した」
― ブレンダ―要らず。手間いらずだ。

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藤村「そう。ただ砕いて、水に溶いて練っていけば最高の磁器が焼ける陶土が出来るのですから、そりゃ焼き物産業も栄えます。

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でもね、だからこそ有田では陶土のブレンダ―技術が反対に進化しなかったわけです。だって奇跡の白い石があるんだもん、それを砕くだけだもん。と。こうして土という素材にみんな関心を無くし陶土作りを生業(なりわい)とする渕野さんの稼業も低く見られておったんです」
― はぁ~…。藤村さん、物知りですなぁ~。

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藤村「渕野さんに聞いたんです」
― なるほど。
藤村「あの人、勝手にものすごいしゃべるんです…。こっちが覚えるくらい」
― はいはい…。

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藤村「結局、渕野さんはフッチーノ開発でブレンダ―になったわけですな。軽くて割れにくい有田焼を焼ける土を作るには、更にどんな物質を混ぜ込めばいいのか日本中を探し回らなければならなかったわけです」

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藤村「でも渕野さんは執念で探した。だって奇跡的な岩が近くにあったばっかりに、長年、渕野さんの稼業は低く見られてきた、だったら、その奇跡の白い石を越える奇跡をオレの手で作り出さなければ、オレの仕事はずっとこのままだ!そう渕野さんは燃えたわけです…」
― いい話じゃないですか…。
藤村「ねぇ…」

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藤村「では、石を砕くところを見てまいりましょうか」

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― 物凄い騒音の中 ―

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― まるまる1昼夜 ―

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― 石を突きまくっている間に ―

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― 我々はそそくさと宿へ戻りまして、

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― さっそく一杯やって、その晩ぐっすり寝て…。翌日、あらためて出直しましたら…

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― 驚いたことに石は突きまくられて、今やこのようにほこりのように舞うほど粉々になっておりました…。

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― 驚きますねぇ。それはそれは大晦日のすす払いだってこんなに細かい埃は出ないだろうと愚痴の出そうなほどの埃っぽさで…。

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― そばで眺める藤村さんも…。

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― 鼻の穴おっぴろげて、たいがいにして欲しいといわんばかり。

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― でも、ほら、こんなですもの、埃も立ちます。

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― これではまるで石臼で挽いた小麦粉です。

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― いや、そば粉かな。更級の…。

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― と、ここでお兄さん、やおら掃除機を出すと掃除を始めました。

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― 外見に似合わず細かいところが気になる綺麗好きなんでしょうか。

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― 違います。こうやって埃みたいに細かくなった昨日までは石だったものを吸い上げながら次の工程へと運べる仕掛けだったんですね。

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― こうして吸い上げて、

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― 石の粉は…ホースの中を高速で吸い上げられながら…

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― どんどんこの壁を突き抜けて…

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― 隣の部屋にあるタンクの中へと溜められていく。

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― 左上にタンクが見えますね。そうして、あのタンクから出て来た石の粉は、この部屋にあるさまざまな水槽をくぐりながら…

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― 水でもって洗われて石の粉から不純物が取り除かれていく。

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― ここもくぐらせた…。

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― さらにここもくぐらせた…。

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― いろいろくぐらせて、そうして…散々きれいになって

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― 手前のこの水槽の中に集められて…

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― これですね。

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― 撹拌させて…。

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― さらに遠心分離器で濾過して…。

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― この強力な磁石の中を通して砂鉄的なものも取り除き…。

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― とにかく細かく不純物を取り除いた状態でこの中に入れられて…。

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― ここに入ってます。

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― そしてここから汲み上げられて…

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― このような濾過器の中を通して…土を濾しとっていくのです。

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― この濾過器って清酒工場にもありますよね…。でも清酒工場の場合はね…

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― この隙間に溜まるのは酒粕…、つまりカスなんですが。

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― 有田焼の場合は、ここに溜まってるのが、お目当ての土であるという仕掛けです。

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― ほら、これ。

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― これ、、ね、土ですよ。

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― こうして出来た土を積み上げて。でも、まだ終わりじゃない。

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― さらにミキサーに入れて、何度か繰り返し捏ねて捏ねて焼き物に適した土にするのです。

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― これ、お肉屋さんのミキサーと似たようなもですよね。ここにどんどん押し込む。すると、こなれた感じになって…

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― こうして先っぽから、ヌーっと、出てくる…。

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― ほらほら。出てきてます。ヌー…つって。

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― この工程を何度か繰り返すと製品としての土になる。

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― こうやって今、硬さをみてます。

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― そろそろ好いころあいだと思ったら切り出して…。

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― 乾燥を防ぐためにビニールで丁寧に包みます。出来ました。こうして有田焼の土が出来ていき先ほどのように生地屋さんへと渡されるのです。

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