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短期連載「HTB制作部・哀愁の飲み会」復刻版

藤村 | 2001.12/25(TUE) 17:15



 1ヶ月ほど前になりますか・・・表紙日記でたいして書くこともなかったので、「HTB制作部」の「ある宴会での出来事」を、短期連載いたしました。

 どうでしょうホームページの「表紙日記」。

 これは、その日見なければ、未来永劫お目にかかることはできない、一過性のものでございます。

 しかしながら、視聴者の皆様も、年の瀬を迎え、今まさに忘年会シーズンたけなわといったところでしょう。

 そこでまぁ、せっかくですから、我々の「知られざる宴会」というもの、ここで改めて読み返してみるのも一興。

 「どうでしょう」「巣」「いばら」。HTB3大バラエティーを日夜制作している男たちの、「熱き一夜の出来事・全4話」を、一部加筆を加えて、ここに再び公開!

 【第1話】

 少し前になるが、「制作部」の飲み会があった。人事異動によって制作部も少し人員が変わったのである。

 制作部には、我々「どうでしょう班」2名の他、「巣」「いばら」「スポーツ」の各班、カメラマン、助手、そして庶務の女性・・・計10数名が在籍している。
 主に「バラエティー番組」担当の部署だ。

 テレビ局といえば、華やかなマスコミ業界。「その飲み会となれば、さぞや・・・」と思うかもしれないが、それは大きな間違い。こっちは北海道の田舎ローカル局。その中でも弱小の名を欲しいままにする「HTBさん」だ。

 飲み会だって、この上なく地味だ。中でも制作部は地味だ。

 だって、我々の構成人員を見てごらん。

 女性1名。あとは30を越えたむさい男の軍団である。

 鍋を囲んで宴会が始まろうとも、新人OLさんあたりが、「お疲れサマでした!どうぞ!」「おう!ありがとう。そーいえばキミ、最近キレイになったんじゃない?」「わっ!そぉですかぁ!」「もしかして!恋してるんじゃないのぉ?」「ヤダァ!そんなことないですぅ!いい人いたら紹介して下さいよぉ」「じゃ、僕が立候補しちゃおっかなぁ・・・なんてネ!うはうはうは!」「あーもぅセクハラですよ!キャキャキャ!」なんて(大幅に加筆)、あちこちでお酌をする光景があるわけでもなく、我々制作部の場合、各々手酌でてんでにビールをあおり、黙々と鍋を食すという寒い宴会だ。

 だからもう、目の前の鍋もあっという間になくなり、

 「さぁ!次は!」

 「いや・・・まだ食い始めて15分だから・・・」

 「藤村さん、こっちの鍋まだ余ってますよ」

 「じゃ、そっち行くか」

 そんなことを言いながら席を移動し、そして、再び黙々と鍋に向かう。

 ややしばらくして、

 「もうねぇのか・・・」

 「こっちにまだ少し・・・」

 「よし。」

 あちこちの鍋を食い尽くし、ひたすら移動を繰り返す私を見て、「巣班」あたりから「イナゴみてぇだ・・・」と声があがる。

 「食う」ぐらいしかやることのない殺伐とした制作部の宴会は、「宴たけなわ」になることもなく、満腹感だけを各人が満たして終わりを告げる。

 しかし、「一応、次も行きますか」と、誰もたいして熱望していないのに「いばら」の福屋くんあたりが「2次会」のセッティングを進めていく。

 そして我々30男軍団+庶務女性1名は、さらに殺伐度を加速し、夜のすすきので肩身を狭くして、トボトボと歩き出すのである。

 【つづく】

 次号「30男軍団!カラオケBOXに行く~死に物狂いで盛上げるバラエティー番組の制作者たち~」は、明日!

 【第2話】

 「バラエティー番組制作者たち・哀愁の宴会」その第2話。

 「どうでしょう」「巣」「いばら」の各番組Dを中心としたHTB制作部の30男軍団+庶務女性1名は、ド派手なカラオケBOXの入り口で、身を寄せ合うようにして立っていた。

 「もうすぐ部屋、用意できるそうですから」

 「巣」に新加入した多田くんが受け付けから戻ってきた。

 「いいけど・・・でもなんで、カラオケにしたの・・・」

 「ダメですかね・・・」

 「いいと思うか?」

 「・・・」

 「お待たせしました!こちらです!」

 「あっ・・・行きましょう」

 「・・・」

 店員の後ろに整列した「沈黙の30軍団」は、案内されるままにぞろぞろと、その部屋へ入った。

 「さぁ!とりあえず飲み物を頼みましょう!」

 「おう・・・」

 防音設備がしっかりとしたその部屋は、やけに「りん」とした静寂につつまれていた。

 「カラオケBOXって、こんなに静かだっけか・・・」

 「巣」の杉山くんに言われて、軍団員約15名が一斉に頭を上げて室内を見回す。

 するとバラエティー3番組の音効を一手に引き受けている工藤ちゃんが、「そのこと」に気が付いた。

 「この部屋・・・ちょっとおかしくないか・・・」

 「あっ・・・」

 見ると、確かにこの部屋、少しおかしいのだ。

 部屋は、マイクスタンドを中心にコの字型にソファがレイアウトされている。レイアウト自体はいいのだけれど、なぜか「コの字」の真ん中にぽっかりと、不必要な空間がある。

 20人は収容できる大きな部屋に、小さなテーブルが2つ。

 おかげで全員の姿が、足元まで恥ずかしいぐらいに、よく見える。

 それはまるで、なにかの待合室のような空間である。

 「これは・・・びょ・・・病院だ。病院の待合室だッ!」

 「そっ・・・そうだ!病院だここは!」

 部屋に通された時から感じていた「なにかしらの違和感」にようやく全員が気付き、軍団がいろめきたった。

 部屋はカラーンと広く、壁は質素で落ち着いたベージュ。おまけに照明は青白く明るい。

 「コの字」の手前にいる私からは、向こう正面にキチンと一列に座った「巣班」と「カメラ班」の面々が、事情もわからず急遽病院に呼ばれて戸惑いを隠せない「集団伝染病患者」のようにも見える。

 「キ・・・キミら・・・なんの病気ですか・・・」

 「わかんないけど・・・来いって言われたから」

 病気持ちの30軍団は、よりいっそう哀愁を漂わせ、その異空間に沈黙してしまったのである。

 「よし!歌だっ!」

 いたたまれなくなった「いばら」の福屋くんが沈黙を破って雄叫びを上げた。

 「病院でかッ!」

 向こう正面の伝染病患者たちが、一斉に異を唱える。

 「うるさい!まずはこの歌だッ!」

 静寂の待合室に演歌のイントロが響き渡った。

 「オ・・・オレかぁーッ!」

 宴たけなわの泥酔状態でこそ聞ける、カメラの鈴木くんの持ち歌「炎」が、いきなりその口火を切ったのである。

 「オ・・・オレに・・・死ねってことかッ!」

 「大丈夫だ!盛上げるから!なぁ!」

 福屋くんが高々とこぶしを突き上げたが、さしものバラエティー軍団にもそれに呼応する勇気はなかった。

 そしてついに鈴木くんが、自決覚悟で冠二郎を熱唱し始めたのである。

 【つづく】

 というわけで次号「次はおまえだ!~伝染病患者たちの熱きカラオケ~」は、また明日!(ヤバイ、長期連載になってしまう)

 
 【第3話】

 全くそんなつもりはなかったが、連載を開始してしまった「バラエティー番組制作者たち・哀愁の宴会」今日は、その第3話。

 ついにカメラ鈴木くんの十八番「炎」のイントロが、病院の待合室に響きわたった。

 「シラフで歌うのは・・・初めてだ・・・」

 もはやすっかり酔いも吹っ飛んだ鈴木くんは、それでも「ご自慢のコブシ」でこの場を盛上げてくれん!と、マイクを握りしめた。

 歌う方もシラフなら、固唾を飲んで見守る軍団も、全く酔ってはいない。

 そしていよいよ「炎」の歌い出しが、モニターに映し出され、意を決した鈴木くんが声を張り上げた!

 「♪あぁ~・・・」

 「んっ!」

 向こう正面の伝染病患者たちが、すぐにその「異変」に気が付いた。

 「マ・・・マイク・・・入ってないぞ!」

 「壊れてんじゃねぇか?」

 「えッ!」

 カメラの鈴木くんは、慌ててマイクをガシガシぶつけてみたが、スピーカーからは一向に音は聞こえてこない。

 「壊れてるッ!」

 「マイク壊れてるぞッ!」

 「な!なにっ!」

 慌てふためく軍団を厳しく叱咤するように「いばら」の福屋くんが叫んだ。

 「ダメだ!歌えっ!歌いつづけろッ!」

 「えぇっ!」

 「ここでやめたら、盛り上がらないぞっ!」

 「そうだ!がんばれ!タケシ!」

 向こう正面の伝染病たちも、病をおして、必死に声援を送る。

 「♪燃えろ 燃えろ 燃えろぉ~」

 鈴木くんのマイクを通さない地声が患者たちの心に突き刺さる。

 「うっ!・・・なんか・・・体育館で歌ってるみてぇだ・・・」

 無駄に広いカラオケBOXの一室に、鈴木くんご自慢のコブシが大きく反響して、それはあまりに「ナマっぽい歌声」だった。

 「き・・・きびしいッ・・・」

 歌う方も自決覚悟なら、それを押し黙って聞いている軍団たちも、胸の奥底を締め付けられるような息苦しさに、失神寸前である。

 「い・・・1番だけでいいんじゃないか・・・」

 「ダメだ!途中でやめたら盛り上がらんッ!」

 「えぇーッ!」

 またしても福屋くんが、怒鳴りつけるように軍団を諌める。

 「最後まで歌ったら盛り上がるのかよッ!」

 「タケシ死んじゃうぞ!」

 向こう正面の伝染病たちが騒ぎ立てる。

 「うるさい!とにかく歌うんだ!」

 「♪アイ アイ アイライク演歌~」

 目の前で言い合いをする軍団員をよそに、もはや壁の一点を見つめたまま朦朧と冠二郎を歌いつづける鈴木くんは、しかし見事に歌い切ったのである。

 「イエーイ!よくやった!」

 満足気な「いばら」福屋くんが精一杯の拍手を送る。

 「いやぁ!盛り上がった・・・」

 しかし、哀れ鈴木カメラは、使い捨てカイロよりひどい「使い捨て」で、それ以降はすっかり押し黙ってしまった。

 「よーし!じゃ・・・次は・・・」

 言われてひとりの男の脳裏に閃光がほとばしった。

 (盛り上げ要員1号のタケシが、死んだとなれば・・・もはや次ぎに来るのは・・・)

 「じゃ・・・例のやつ・・・藤やん」

 「うぉわッ!待て待て待て待てッ!」

 恐れていた事態が、ついに起こったのである。

【つづく】

 次号「バラエティー番組制作者たちの熱きカラオケ~女神の歌声が患者たちの心に響く~」は明日!(いやもう、どうしよう・・・こんなもんに3日間もかけている)

 【最終話】

 「知られざるHTBバラエティー制作者たちの宴会・哀愁のカラオケ編」遂に最終回。

 「炎」を歌い終えた鈴木くんは、もはや「灰」になっていた。

 「いやぁ!盛り上がった!盛り上がった!」

 明らかに無理のある言葉で「いばら」福屋くんは、その場を取り繕い、すかさずこう言った。

 「よーし!じゃ・・・次は・・・」

 軍団に緊張感がみなぎった。

 (次の犠牲者は誰だ・・・)

 「じゃ・・・例のやつ・・・藤やん」

 「うぉわッ!待て待て待て待てッ!」

 「ダメか?」

 「当たりめぇだろ!オレがなんでシラフでケツ出して飛び跳ねなきゃいけねぇんだよ!」

 東京での営業時代、酒の勢いだけで尻を出し、各代理店のご機嫌を伺っていた秘芸を、なぜこの場で、この雰囲気で披露しなければならないのか。

 「キツイか・・・」

 「当たり前だ」

 「じゃ・・・とりあえず飲もう!全てはそれからだ。おいカガヤ!酒発注!」

 福屋くんは「いばら」の手下カガヤに酒の注文を命じ、ことなきをえた軍団は、とりあえず目の前の酒を黙々と飲み始めた。

 待合室には再び静寂が訪れた。

 と、突然!その静寂を突き破り「ウイアーザワールド」のイントロが室内に響き渡った。

 「な!なんだ!おいっ!」

 向こう正面の伝染病が、にわかに騒ぎ立てる。

 「だッ誰だ!こんなもん入れたヤツは!」

 福屋くんが怒鳴る。

 「ぼくです・・・」

 「どういうつもりだカガヤッ!」

 「いや・・・とりあえず・・・」

 「とりあえずじゃねぇ!今は、とりあえず飲めってんだ!」

 「♪ウイアー ザ ワー」

 「あっ・・・歌いやがった」

 盛上げるつもりもなく、単なる場つなぎで歌うつもりだったのだろう。聞くに堪えない歌声が、軍団員のむなぐらをえぐるように突き刺す。

 「♪ウイ アー ザ チルドレーン・・・」

 もはや、全員が沈黙し、そのマイケルの歌マネが早く終ることを祈っていた。

 がっ!その時!

 ガチャ!「お待たせしましたー!ナマ4つと・・・」

 (うわッ・・・)

 店員が入って来たのである。

 「えーと・・・酎レモン2つ・・・こちらですね」

 「はい・・・」

 つとめて事務的に飲み物をガシガシ置いていく店員。
 その動作を、黙って見つめる軍団。
 そこに響くカガヤのマイケル。

 えもいわれぬ空気が待合室全体を包み込む。

 (やめろッ!カガヤ!)

 (やめてくれ!カガヤ!)

 30男が、顔首揃えて15人。黙って「ウイアーザワールド」を聞いているこの異空間を、店員はどう思ったのか。

 「そ・・・そろそろ帰るかな」

 耐え切れなくなった向こう正面から声があがった。

 「今・・・今帰ったら・・・負けだぞッ!」

 私は叫んだ。

 「そ・・・そんな!」

 「よく言った藤やん!」福屋くんが応ずる。

 「な・・・なんで・・・」

 「よし!こうなったらあっちゃん歌ってくれ!」

 「えぇっ!イヤですっ!」

 ついに唯一の女性、庶務のあっちゃんに福屋くんが頭を下げた。

 「頼む・・・」

 「な・・・なにを歌えばいいんですか・・・」

 「プ・・・プリプリを・・・」

 そして、待合室に天使の歌声が響いた。

 
 「♪ダイヤモンドだねー アァ!」

 「アァ!」

 「♪いくつかのばーめーん」

 向こう正面の伝染病たちが、楽しげに頭を揺らしてリズムを取っている。

 それはまるで、長い闘病生活のリハビリ運動のようにも見えた。

 そして・・・2時間半に及ぶカラオケは幕を閉じた。

 私は最後にこう結んだ。

 「今回、ぼくはこの場で『新しい形の笑い』みたいなものを発見できたような気がします。HTBはまだまだやれると思いました!」

 「うおぉーッ!」

 「HTBここに在りッ!」

 向こう正面の伝染病患者たちが、叫びながら一斉に立ち上がった。

 【完】