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「香川びっくりうどん紀行」最終話

藤村 | 2002. 2/ 6(WED) 13:55


 お約束どおり、「びっくりうどん」のつづきである。

 我々は、興奮状態のまま、物置を出た。考えを整理しなければならない。

 (この「中村」なるうどん屋・・・いったい・・・)

 私が腕組みをする横で、嬉野くんが、ハタと思いついたように言った。

 「ここが・・・中村なんだよね?」

 
 「えっ?」

 そうだ。言われてみれば確かに、物置にかかったのれんに店名はなく、朽ち果てた看板には「インテリアカーテン・スマイル」と書かれてあった。

 (うどん屋「インテリアカーテン・スマイル」か?・・・長いな。)

 「いや!やっぱり中村だ!」

 嬉野くんが、物置の横の住宅を指差して言った。

 「ほんとだ・・・中村って書いてある」

 玄関の表札には「中村」と、書かれてあった。

 「そして、どうだ藤村くん・・・この家、わりと新しいぞ」

 「確かに・・・」

 物置の横に建つ中村さん家は、わりと新築で、そしてわりと立派だった。

 「きっと、うどんで儲けたんだ」

 「かもしれん・・・」

 「なのにどうだ!肝心のうどん屋は、あの物置!」

 「すごい!肝心の店舗には、一切投資してないじゃないか!」

 「藤村くん!これはスゴイ!スゴイことだぞ!」

 我々は、一気に「讃岐うどん」の、「讃岐うどん屋のなんたるか」を理解した。

 我々の推論は、こうだ。

 そもそも、「中村」には、「飲食店としての概念」が希薄なのだ。というより、もともと「うどん屋」なんかじゃなかったのだ。

 それがいつのころからか、「中村さん家のうどんは美味い」なんて、ご近所で評判となり、それを聞きつけた好奇心旺盛なおっさんが、

 「すんませんけど、うどん一杯食わせてもらえんかね?」

 「ええですけど・・・でも、応接間では今おじいちゃんが寝とるけぇ・・・」

 「いいの!いいの!そこの物置で食うから!」

 「そうですか・・・じゃ、ネギを裏庭から・・・」

 「いい!いい!わしが取ってくるけ!」

 なんてな感じで、どんどん広まっていったのではないか。

 だとしたら!これこそ「飲食店のあるべき、一番正しい形」ではないか!

 「うまい」ことが、第一条件として整い、それを食った人々の勝手な熱意によって、「いつのまにやら飲食店」にされてしまった。

 「中村」の成り立ちが、本当にそうなのかどうか、これは、あくまで我々の推論でしかない。

 しかし、そう考えると、「物置」で、「看板」も出さず、「人目を避けるように」、というより「結果的に人目を避けちゃって」うどん屋を開業していること、その全てに合点がいく。

 そして、この旅の終り・・・高松空港の本屋で「恐るべきさぬきうどん」全巻を見つけ、それを熟読した結果、我々の推論が、あながち誤りでなかったことを知った。

 例えば、「どうでしょう」が「四国イチオシ」としてご紹介した「山越」さん。

 ここも、元来「うどん屋」ではない。うどんの麺を製造する「製麺業」が本業だ。

 まぁ、言ってみたら「工場」だ。

 それが、いつの頃からか、

 「山越さんのうどんはうまいなぁ。ちょっと作りたてを食べてみたいなぁ・・・」

 「あぁ・・・ええですけど。でもウチは製麺屋ですからイスもないし・・・」

 「ええ!ええ!そこらへんで立って食うから!」

 そうして、イスがひとつ増え、ふたつ増え・・・、そのうち、

 「天ぷらとかあるとうれしいなぁ・・・」

 「あぁ・・・ほな、天ぷらも作りましょか」

 「ほんまですか!ありがたいなぁ!」

 結果、従業員が忙しく製麺するかたわらで、人々が行列を作り、うどんが茹であがると、かたっぱしからどんぶりに投げ入れ、天ぷらをのせ、店のあちこちで勝手に食う、という現在の営業形態に至ったのである。

 「製麺所で、茹であがったばかりのうどんを食う」

 これはもう、「絶対うまい!」に決まってるのだ。

 私が、最初に「山越」の「かまたま」を食った時の衝撃は、はかりしれない。

 世界中で食った、どんな料理も足元に及ばない。

 たかが「うどん」。多分、離乳食の時から何千杯も食っている食い物だ。

 「フォアグラというものを、初めて食いました。美味かったです」というのならわかる。

 しかし、たかが「うどん」で、これほどの衝撃を受けるとは、考えてもいなかった。

 あつあつ、茹でたての「つるぴかうどん」に、なま玉子を一個割り入れる。

 カラカラカラっ!とかき混ぜると、ほどよく固まった玉子が、つるぴかを白濁した黄色に変えて、からみつく。

 そこに、ペットボトルに入った特製のダシを、少し垂らして、一気に食う!

 もう・・・もう!ダメだ!

 味だの食感だの、ごちゃごちゃ言ってると、今すぐ四国に行きたくなる。

 あれは、「うどん」じゃない。日本人なら、必ず脳天を打ち砕かれる「味覚の最終兵器」だ。

 さらに驚くのは、こうした「看板も出さない」「ただ、みなさんが、うまいって言うから、とりあえず店にしてますの」という、あっぱれな「営業形態」をとる店が、「中村」「山越」に限らず、香川県内には、数多く存在しているという事実である。

 決して、東京あたりの「隠れ家的フレンチの名店」とか「わたしだけが知っている!秘密のカフェーで午後のエスプレッソ!」なんて、ふざけたかくれんぼを売りにするこざかしい店とは違い、

 「いや、隠れてるわけじゃなくてですね、もともと見えにくいトコにあるんです。どうも、すんません」

 という、香川のうどん屋は、実にさりげなく、カッコイイのだ。

 さらに!だ。まだあるぞ。

 香川の「うどん屋」が素晴らしいのは、こうした「異空間でのびっくり店舗展開」だけでなく、ごく「一般的な店舗」においても、その「うまさ」に驚かされることが多々あるということだ。

 我々は、「中村」のあとにも、もう一軒のうどん屋を訪ねた。(そうだ。この日は四軒行った。結局、寺には行かず、宿に入った)

 訪ねたのは、善通寺の「山下」という店である。

 「異次元」を体験してしまった我々だ。なんに対しても驚かないつもりでいた。

 しかし、「山下」に着くと、ちょっと違う意味で驚いた。

 驚いたと言うより、「その店舗形態に、落胆した」と言ったほうが正しい。

 「山下」は、お世辞にもうまそうには見えない「国道沿いのドライブイン」のような外観を呈していた。

 信頼のおける「うどんマップ」がなかったら、絶対に立ち寄らない店だ。

 それが・・・うまいのだ。

 うどんのコシがもう、絞め殺す気か!ってぐらいにスゴイのだ。究極のコシコシを味わいたいマニア諸兄は、悶絶必至の麺である。

 後に「四国R−14」のロケで訪れた時、佐藤シゲが感涙にむせび、今でも「山下が忘れられない!」と、ことあるごとに言ってるらしい。

 数百円で、人をこうも虜にしてしまう「讃岐うどん」。

 
 香川の「うどん屋」は、いつも多くの人々で賑わっていた。

 子供連れのお母さん。営業の外回りのついでにフラリと立ち寄るサラリーマン。じいさん、ばあさん。

 500円あれば、うどんに天ぷらのせて、ガラスケースに並んだ「手作りのおいなりさん」も食える。

 「札幌の人は、いつもラーメン食ってるんでしょ?」
 食ってないよ。
 「名古屋の人は、いつもきしめん食ってんでしょ」
 食ってねぇ!
 「香川の人は、いつもうどん食ってるんですか?」
 
 はい!食ってます!

 我々は「讃岐うどん」が、ただ「うまい」だけでなく、「地域に根ざした食文化」を正しい形で残している、非常に稀有な例であることを知り、今や「尊敬の念」を抱くに至った。

 この、日本で一番小さな「香川」に現存する、日本で最も偉大な食文化。

 外部にいる我々は、しかし、決して騒ぎ立ててはいけない。我々は、彼らが築いてきた食文化の恩恵を、少しだけ体験させてもらう身なのだ。

 「100円のうどんを食いに、北海道から、飛行機で香川へ行く。」

 人が聞いたらバカだと思うかもしれん。

 しかし、これは貴重な体験であり、「価値ある旅」である。

 ・・・結局、我々はこの旅で、10軒近いうどん屋を巡り、そして、札幌に帰った。

 嬉野先生が、ラストシーンを書き上げたのは、それからしばらくたってからのことだった。

 【おわり】

 この文章を、香川県民のみなさまと、そして、本当に「うどんを食うためだけに、飛行機で香川に通いつめたバカな男」・・・チームナックスリーダー・森崎博之に、捧げる。





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