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「香川びっくりうどん紀行」第2話

藤村 | 2002. 2/ 5(TUE) 13:47


 さて、「ドラマの脚本書き」を目的に、初めて嬉野くんと二人で旅をした四国・香川。

 そこで体験した「恐怖ドラマ」とは、一切無関係な「讃岐うどん」の驚くべき世界。

 今回は、その第2話である。

 (第1話を読んでいない諸兄は、「新グッズ情報の前に、キミらにひとこと言っておく!いいか!カレンダー買ってくれ!」コーナーの前に掲載した文章を読んでいただきたい) 

 じゃ、第2話。我々は、「中村」といううどん屋を目指し、車を走らせてた。

 「裏庭のネギを自分で取ってくるってか・・・」

 レンタカー屋に置いてあった「オススメ!うどんマップ」を見ながら、私は想像をふくらました。

 裏庭から自分でネギを取ってくるうどん屋・・・飯山町西坂元「中村」

 マップには、そう書かれているだけだった。

 「きっとあれだよ、有機栽培かなんかしてるネギを出す、コダワリの店なんだよ」

 私は、脱サラした都会育ちの若夫婦がやってるような、ちょっと気取ったうどん屋を想像した。

 「でも、客が自分で取りに行くってかい?」

 「まぁ、一種の農業体験だね。それもまたコダワリ。」

 20分ほど走っただろうか。

 「藤村くん、その橋渡ったら、右へ入って」

 道路地図を見ながら、嬉野くんが言った。

 「よしよし・・・これか?」

 「これ・・・ですね」

 「よし!」

 車は、住宅街の細い道へと入った。

 「相変わらず狭めぇな・・・」

 とりあえず四国へ来たら、この一言は言っておかなければならない。

 「さぁ!このへんにあるはずですよ!中村さん!」

 「よーし!」

 我々は気合充分、その細道を進んだが、ややしばらくすると空き地に突き当たり、道はそこでプッツリ途切れてしまった。

 「あれま・・・」

 「あれまじゃねぇよ。あんたホントに地図読むのヘタだもんな。」

 どうでしょう班では、大泉さんが「地図も読めないバカ」としてつとに有名だが、さすがに彼も「5年間バカ呼ばわり」されているうち、最近では、そこそこ地図も読めるようになってきた(まぁ、相変わらず他分野では頭抜けたバカだが)。

 で、彼のその著しい成長の裏で、現在「地図も読めないバカ王」の座に君臨しているのが、この嬉野くんだ。

 「ほら!地図貸してごらんよ!」

 もはや「バカ王」に任せてはいられない。

 「大丈夫だって!」

 「ウソつけ!じゃ、なんでうどん屋ないのよ!」

 「知らねぇって!」

 ・・・車内は、一気に険悪なムードとなった。

 「ほら!この住所・・・」

 憤然としながら、嬉野くんが地図を差し出す。

 「ん~と・・・西坂元・・・そうだな。確かにここら辺だな」

 「そうでしょ!だから言ったでしょ!オレは間違ってないの!」

 勝ち誇ったように「地図バカ」が怒鳴る。

 「ん~・・・じゃ、あれだ。あんたがどっかでうどん屋の看板見逃したんだ」

 「オレかよッ!」

 「バカ王」の、すっとんきょうな怒声を無視して、私は車をUターンさせた。

 「いいかい?もう1回行くからね。今度は見逃すなよ」

 「あんたもね」

 「・・・」

 お互い嫌味を言いながら、来た道を戻る。

 「ここらへんだぞ・・・」

 「あるか?」

 「ないなぁ・・・」

 「ちゃんと見てんの?」

 「見てるッ!」

 窓に顔をへばりつけたまま、嬉野くんがまた怒鳴る。

 結局、その道を2往復し、さらに念のため周辺道路もくまなく走ってみたが、目指す「中村」なるうどん屋は見つからなかった。

 「いいかい。最後にもう一回だけ行くよ」

 「いいよ」

 「これで見つかんなかったら、寺行こう」

 「そうだよ。こんなことしてる場合じゃないんだよ」

 そうなのだ。こんなとこでケンカしてる場合じゃないのだ。我々は「ドラマの脚本」を書きに四国へ来ているのだ。
 
 「じゃ、行くぞ」

 「よし!」

 早いとこ「中村」なる「コダワリのうどん屋」を見つけて、脚本に着手せねばならない。

 「中村、中村、と・・・」

 「中村、中村・・・」

 「おっ」

 「どした!」

 見ると、右手前方。奥まった住宅から、ひとりの若い男が出て来た。

 「人がいるよ・・・」

 これまで道を聞こうにも、昼下がりの住宅街に、人影は見あたらなかったのだ。

 「聞いてみるか」

 嬉野くんは、スーっと窓を開けて、奥の住宅からこっちに向かって歩いてくる、その男に向かって声をかけようとした。しかし・・・

 「あれ?」

 その男。

 突然、進行方向変えると、なにを思ったか、住宅前の小さな空き地に入り込み、そして、カシャカシャ写真を撮りはじめたのだ。

 「なに撮ってんだ?あの人・・・」

 どう見ても、その被写体は、住宅の前に建つ「物置」らしき建物。もしくは、その物置に立てかけられた「インテリアカーテン・スマイル」と書かれた朽ち果てた看板である。
 
 「んっ!」

 その時、私は直感した。

 「あれだッ!」

 「なにが?」

 「中村だよ!」

 「えぇッ!どこに!」

 私には、確信めいたものがあった。長年、「食」にこだわり、「美味い店」に巡り会うことを至上の喜びとしている私の、言葉では説明できない「カン」である。

 「あの物置の向こう側に中村があんだよ!あいつは観光客だ。うどん屋巡りかなんかしてる観光客だ!」

 「そうか・・・」

 そして同時に、私にはうどん屋「中村」の全体像が鮮明に浮かび上がった。

 「中村は、文字通り『隠れた名店』なんだ!」

 ・看板を出さず、わざと人目を避けるように営業するコダワリの店「中村」。
 ・瀟洒な和風建築の名店「中村」。
 ・メニューは「お昼の讃岐うどん懐石コース・3000円」のみ。
 ・なんなら祇園の割烹の如く「一見さんお断り」と、ふざけたことをぬかす高級店。

 その名も「うどん割烹・中村」。

 「そうか・・・でもあいつ、そこの物置撮ってんぞ」

 「知らんけど・・・とりあえず車停めよう。どっかに駐車場があんだろ」

 どうやら「うどん割烹・中村」は、右手奥に見える物置の、そのまた奥に隠れているらしかった。

 そこに辿り着くためには、とりあえずどこかに車を駐車し、住宅の軒先をかすめるように続く「細い路地」を歩く必要があるかと・・・

 「うわっ!車出て来たッ!」

 「どっどこ走ってんだ!こいつ!」

 「歩く必要がある」と思われた、その軒先の路地を、一台の車が、それもクラウンが!道いっぱいにうわん!うわん!いいながら走り出て来たのである。

 「おい!ここ走っていいのかよッ!」

 「四国と言えど・・・これはスゴイ!」

 北海道では考えられない「四国マジック」に驚嘆する我々を尻目に、その白いクラウンは、「どうも!」ってな感じでクラクションをひとつ鳴らし、平然と出て行った。

 「藤村くん、ここ・・・行くのか?」

 「クラウンで行けて、このヴィッツが通れんハズないだろ」

 言いながらも、その路地のあまりの細さにたじろいだ。

 「右・・・大丈夫?」

 路地の入り口、右コーナー。明らかに「後輪を巻き込む位置」に、ドラム缶が置いてある。しかし、ここをクリアしないことには、その路地には入り込めない。

 「な!なんで!このきわどい位置にドラム缶を置くんだ・・・」

 「ギッ・・・ギリギリだッ!藤村くん・・・!」

 「くッ・・・」

 「ヨシ!抜けた!・・・あぁっ!左!落ちる!」

 「くッ・・・」

 もし今、前方から人が歩いてこようものなら、申し訳ないが、轢き倒して進むしかない。それほどびちびち。でも、そうしないと「中村」には辿り着けない。

 「人目を避ける」どころか、明らかに「人の進入を拒む店・中村」。いやがおうにも期待は高まる。

 進行方向奥に、ようやく広いスペースが見えてきた。そこに2台の車が停まっている。

 「やっぱあそこだ・・・」

 車は、先ほど男が写真を撮っていた「物置」の前にさしかかった。
 
 「あっ・・・」

 嬉野くんが小さく驚いた。

 「なに?」

 すかさず私も目線を、その物置に送った。

 「あぁーッ!」

 「ねぇ今見た?」

 「見た!」

 「うどん・・・ゆがいてたね」

 「ゆがいてた!物置の中で!」

 なんと!「物置」だとばかり思っていた、その建物の奥に、棒っこをぐるん!ぐるん!掻き回して、一心不乱にうどんをゆがくおじさんの姿が、チラッと見えたのだ。

 「あれが店か?」

 「違うでしょ・・・」

 我々は、周囲を見回した。

 しかし、そこに「店らしき」ものはなかった。ましてや、瀟洒な和風建築の「うどん割烹」など微塵もなかった。

 あるのは、普通の住宅と、その「ちょっとくたびれた物置」だけである。

 我々は車を停め、「物置」へと向かった。

 入り口には「のれん」らしきものが下がっている。
 
 物置を、覗き込む。

 「すんませ・・・あっ!」

 
 ・・・我々は、言葉を失った。

 そこは、まぎれもなく「店」だった。

 その「物置」は、まぎれもなく「うどん屋」だったのだ。

 だって!「客」がいる。

 その「物置」の中で、うどん食ってる「客」がいるのだ!

 くたびれ果てた物置。

 入って左手に大きな釜があり、おじさんが黙々とうどんを茹でている。

 センターには大きなテーブルがあり、天ぷらが数種類、ダシ汁だろうと思われるボトル、そして・・・見つけた。

 ネギだ!

 まな板の上に、あまりに無造作に、ネギが置いてある。

 「ネギは取ってこなくてもいいからね、そこにあるから・・・」

 奥で天ぷらを揚げていた奥さんが声をかけてきた。

 (これが有機栽培のネギか・・・それにしては・・・)

 「何にします?温かいの?冷たいの?」

 考える間もなく、奥さんが聞いてくる。

 「あっ・・・冷たいの」

 「ぼくも・・・」

 (おい・・・メニューとかないのか・・・)

 「大?小?」

 かまわず、奥さんは聞いてくる。

 「あ・・・大」
 
 「小」

 「温かいうどん」か「冷たいうどん」。「大盛り」か「小盛り」。メニューはこの組み合わせしかないようであった。

 (これは、本当に「店」なのだろうか・・・)

 我々は困惑の表情を色濃く放出したまま、右手の壁際に並んだ椅子に座った。

 2人の先客が、黙々とうどんを食っている。

 横では、じいさんが、ネコと一緒にぼーっと座っている。

 (なんでしょうか・・・これは、人ん家に勝手に入り込んでいるような・・・)

 思っていると、客のひとりが立ち上がり、センターテーブルに向かった。

 すると・・・トントントン!手馴れた様子で、そのネギを刻み始めたのだ。

 「!」

 (客がネギ切ってる・・・)

 自分で裏庭からネギを取ってくるどころか、それを刻むのまで自分なんだ!

 (すげぇアットホーム・・・いやアットモノオキ・・・)

 まわりをぐるっと見回す。壁になにやら書いてある。

 小100。大200。

 (なんだろう・・・重さか?小は100グラムか?)

 重さではない。値段だ。

 100円だ。

 うどん一杯100円!

 「高級うどん割烹」どころか、「100円のうどんを、物置で食わせる店」。

 それが、「中村」だったのだ。

 (スゴイ!スゴイぞ!)

 私は、その異次元空間に興奮・・・

 「ハイ!冷たいの2つ。」

 「早っ!」

 相変わらずのスピードである。考えを整理する暇を与えない。

 「ダシは、そっちのボトルね」

 見ると、どんぶりには「うどんだけ」が投入されており、どうやらツユは自分で入れるようだった。

 トクトクトクッ・・・。

 言われるままに、テーブルにあったボトルからツユを注ぐ。

 とりあえず「異空間への深い考察」は後回しにして、なにはともあれ「うどん」だ。

 「じゃ・・・」

 「じゃぁ・・・」

 つるつるっ。

 (あぁっ・・・!)

 (うっ!うまいッ!なんだこのうまさは!なんだ!このシコシコは!)

 つるーっ。

 つるつるっ!
 
 「あはぁーッ!」

 「おっ!藤村くん、もう食った?」

 「食った!もう一杯行く」

 「えっ!」

 この段階で、私は「まずいうどん」「美味い肉うどん大盛り」、そして「中村のうどん大」合計3杯を食っていた。

 「でも、天ぷらも入れて食わないと。後悔する。」

 「後悔・・・」

 「すいません!冷たいのもうひとつ」

 センターテーブルに山と積まれた天ぷらの中から、「ちくわの天ぷら」をセレクト。

 厚めの衣が、ぎしっとまとわりついた天ぷら。冷め切っている。これを、うどんに投入。

 油がすわっと、透明なダシに染み込む。

 食う。

 うまい。うまいぞ!

 2杯食った。天ぷらも食った。それでも、500円でおつりが来た。

 スゴイ!スゴ過ぎる!

 「物置」からは想像できないうまさ!「100円」からは想像できない満足感!

 我々は、興奮状態のまま、物置を出た。考えを整理しなければならない。

 (この「中村」なるうどん屋・・・いったい・・・)

 私が腕組みをする横で、嬉野くんが、ハタと思いついたように言った。

 「ここが・・・中村なんだよね?」

 
 言われてみれば確かに、物置ののれんに、店名はなかった。


 【つづく】

 最終回「讃岐うどんの真実!ナゾの店舗形態に我々は驚愕する!」は、明日掲載!・・・の予定!