now onair

NEXT

リーダー登場!「大泉洋びっくり作戦」

藤村 | 2002. 4/12(FRI) 12:47


「試験に出る日本史」、最終試験で満点を取れなければ、ミスターも安田さんも「四国八十八か所お遍路の旅」に出る。

 今年は、そういうことにした。

 「試験」なるもの、やはり「それ相応の緊張感」がなければ、実際死に物狂いでがんばっている受験生諸君に対しても失礼だ。

 ただ、ミスターも安田さんも、平日はそれぞれ生番組のレギュラーを持つ。

 お遍路決行!となれば、最低5日のスケジュールは必要である。

 当然、それぞれのレギュラー番組を休んでもらわねばならない。

 となれば、事前に、ラジオ局様、夕方番組プロデューサー等々との対外的な調整も必要になってくる。

 しかし、それら事前調整に対し「どうでしょうの精神的参謀」嬉野くんから、「待った」がかかった。

 「ここはどうだ藤村君。そういう調整を一切せずに、試験に臨むというのは」

 「いや・・・ウチだけの問題じゃないんだから」

 「だからさ。あんたらが満点取らないと、いろんな番組にご迷惑をかけますよ、というプレッシャーを出演陣に投げつけるわけだよ。」

 「いやいや・・・」

 「いや!藤村君、そのぐらいの緊張感を持って試験に臨んでもらわないとさ」

 「そうかい?・・・」

 冷静に考えれば、「なんて身勝手な」と思える手段ではあったが、

 「まぁ、満点取れなかったら、そん時は、そん時!」

 結局、私は同意した。

 しかし、ご承知のとおり我々は、いともあっさり「そん時」を迎えてしまった。

 「その上、二人ともか・・・」

 威勢の良かった精神参謀は、なすすべなく

 「今さら調整も無理でしょう藤村くん・・・」

 と、いともあっさり二人のスケジュール調整に、さじを投げてしまった。

 「まぁ、それでも土日の2日間は、お二人に参加していただくとして、そのあとは・・・」

 参謀に問い掛けると、

 「そのあとは例年どおり、大泉さんひとりでいいじゃないの」

 参謀は、からっぽの頭で、投げやりに答えるのみであった。

 その時だ。

 「おはよーございまぁーす!」

 ぶしつけとも思える大音声を張り上げて、森崎くんが現れた。

 森崎博之という男。

 大泉さん所属の劇団「チームナックス」のリーダーである。

 「チームナックス」とは、大泉さんたちが、大学時代に所属していた演劇研究会の中で、各学年から「選りすぐりのバカ5人」が集まって結成した演劇グループである。

 最年少バカの音尾琢真くん。そのひとつ上に、大泉さん。その上が、安田さんと佐藤シゲ。そして最年長バカが、リーダー森崎くんという構成である。

 私は、森崎くんに会うずっと以前から、大泉さんに、彼の「人となり」を伺っていた。

 「とにかく、叫ぶんですよ」

 「叫ぶ?どんなふうに?」

 「ねぇりゃぁーッ!」

 「なんだ!なんだ!その最初の『ね』ってのはなんだよ!」

 「なんだか知らないけど、叫ぶ前に、必ず『ね』がつくんですよ」

 「なんでだよ!」

 「そういう人なんですよ」

 そして実際、私が初めて「その叫び」を目の当たりにしたのは、彼らの芝居を見に行った時だった。

 芝居の展開上、その「唐突な叫び」がどうして必要だったのか、今もってよくわからないが、舞台中央でリーダーが仁王立ちのまま、満身の力でうなりを上げた。

 「ぬぅぅっ・・・ねぇりゃぁーッ!」

 瞬間、鼻が飛び出しそうになるのを慌てて押さえつけ、暴発しそうな笑い声を喉奥に痛飲した。

 実物の「叫び」は、大泉さんのモノマネよりも、さらに「ため」があった。

 それ以来、私は「リーダーの大声フェチ」となり、ことあるごとに大泉さんに、リーダーのモノマネをしてしてもらい、快楽に身をゆだねていた。

 「おやおやリーダー、今日はどうしました?」

 月日がたって、そんなリーダーもHTBでレギュラー番組を持つに至り、最近では制作部にもよく顔を出す。

 「ドラマのロケです!ホワイトストーンズの!忙しいですよ!僕も!」

 大きな顔面に、大きな充足感を押し出して、リーダーは私の前を通り過ぎた。

 瞬間、風圧を感じて反射的に顔をそむけると、

 「どわっしょーいッ!」

 言いながら、近くのソファにどっかり腰を下ろした。

 「リーダー・・・」

 「なんですか?」

 相変わらず、顔面に満面の笑みを押し出している。

 「いや、年明けの1月はヒマ?」

 「もちろんヒマですよ」

 笑みを押し出したまま、リーダーはあっさり答えた。

 「四国に行く?」

 「おっ!」

 顔面の笑みが大きくせり出した。

 「どうでしょうの出演依頼ですかッ!この僕に!オッファーですかッ!」

 あまりのせり出しように、圧迫感すら感じたが、ことの仔細を説明し、その場で「八十八か所ロケ」への参加を依頼した。

 そして、後日、改めてリーダーを呼び出し、「ある作戦」を打ち明けた。

 こうだ。

 月曜日の朝、ミスターと安田さんは、松山空港9時50分発の飛行機で、札幌に帰る。

 リーダーは、その前日の日曜日、単身東京へ入る。

 翌月曜日。始発の羽田発・松山行きの便に乗ると、松山到着は、朝8時30分。

 ミスター、安田さんと入れ替わる形で、四国入りすることが可能である。

 松山に到着次第、リーダーは、タクシーを飛ばして、どこかの寺に潜伏。

 なにも知らずやって来た大泉さんの前に、大音響とともに現れる。

 最近とんとご無沙汰な、ヤツの「びっくり芸」を久々に堪能しようという計画である。

 検討の結果、リーダー出現の寺は、松山空港から近い「50番札所・繁多寺」とした。

 「この写真見てくれ」

 「なんですか?」

 「繁多寺の現場写真だ」

 「おおう!」

 お遍路3周目の我々。八十八か所関連の資料は充実している。

 「この、本堂の前で、リーダーは背中を向けて、祈ってろ」

 「大丈夫ですか?僕・・・目立ちませんか?」

 「大丈夫だ。キミとおんなじ白装束の人たちが、いーっぱいいるから」

 「なるほど!」

 「オレらは、大泉さんを連れて、なるべく本堂に近い位置に立つ」

 「うむっ!」

 「いいか、ここからがキミの出番だ。大泉さんが、『50番!繁多寺!』って言った瞬間!キミは『ねぇうりゃぁーッ!』って叫びながら、カメラの前に走りこんで来い!」

 「ねぇうりゃぁー・・・ですか?」

 「まぁ・・・言い方はまかせる」

 「わかりました」

 「いいか、わかってるとは思うが、ロケ出発までの間、くれぐれも大泉さんとの不用意な接触は慎むように」

 「だいじょぉーぶですッ!」

 決して「密談」とは言いがたい、大音声での打ち合わせに一抹の不安は残ったが、予定通り、四国ロケは、決行された。

 ロケ2日目。

 ミスター、安田さんとのお遍路も終盤にさしかかったころ、車中で大泉さんが、こんなことを言い出した。

 「なんかね・・・お二人が帰ってくるような気がするんですよ」

 「おっ・・・」

 「いや、どっかの寺でね・・・ぼくを驚かそうと、先回りして待ってんじゃないかと思うんですよ」

 「どっかの寺で・・・待ってる・・・」

 リーダーの「びっくり作戦」を知っている他の4人は、それぞれ胸の中で、

 (やっぱりこいつは、天才だ・・・)

 と、感心していた。

 その夜。

 我々は「予定通り」50番の手前まで、巡拝を終えていた。

 私は、道後温泉の宿で、リーダーに電話を入れた。

 時計は10時を回っている。

 彼はすでに羽田空港近くのホテルに、単身潜伏しているはずである。

 「もしもし・・・」

 「はい!森崎です!」

 「なんだ?騒がしいな・・・」

 「あぁ!藤村さん!」

 「今どこにいんの?」

 「ラーメン食ってますッ!」

 「ラーメン・・・」

 「せっかく東京に来たんで、美味いラーメン屋を雑誌で調べてですねぇ・・・」

 森崎博之という男。私に輪をかけて、「美味い店マニア」だ。

 明日は、早朝の松山便に乗り、「大泉さんびっくり作戦」を決行せねばならん。その大事な前夜に、雑誌片手に深夜までラーメン屋巡り。

 普通なら「馬鹿もん!」と一喝するところであろうが、私は、彼の、そんな「あくなき探究心」に敬服した。

 「リーダー」

 「はい」

 「領収書は、北海道テレビでもらっとけ!」

 「ありがとうございます!」

 「で、明日の話だ」

 「はい」

 「繁多寺に着いたら、オレのケータイを3回鳴らせ」

 「3回・・・」

 「それを確認してから、おれたちは繁多寺に向かう」

 「了解です」

 
 翌朝。ミスターと安田さんは、志半ばにして、札幌へと帰還した。

 見送る大泉さんは、寂しげだったが、我々にそんな気持ちは、微塵もなかった。

 だが、表面上は「寂しさ」を漂わせていた。

 「寂しければ、寂しいほど」、このあと待ち構えている展開に、「華がでる」。

 「大泉さん、寂しい?」

 「あぁ?」

 「寂しいね」

 「別に・・・」

 「寂しいんだ、やっぱり」

 「なにがよ」

 「寂しいでしょ?」

 「うるせぇって」

 ちょっと「寂しい」を押し売りし過ぎた感もあったが、事前の雰囲気作りは上々である。

 52番の巡拝を終えた時だった。

 ピリリ…ピリリ…

 携帯が鳴った。

 ピリリ…。

 呼び出し音は3回で切れた。

 一瞬、車内に不自然な空気が流れた。

 「藤村さんのケータイが鳴るなんて珍しいねぇ・・・」

 大泉さんが何気なく言った。

 「ウチからかな・・・おっと!ガソリンが無いぞ。ちょっとそこのスタンド寄ります」

 スタンドに車を入れると、私はすかさずトイレに駆け込み、リーダーに電話を入れた。

 「リーダー、着いたか?」

 「はい」

 「おれらは、このあと51番に寄ってから行く。だからもう少し・・・」

 ガチャ。

 (うわっ!)

 トイレに大泉さんが入って来た。

 「うっ・・・うん!もう少しね。水曜日には帰るから!お・・・おみやげは何がいいかな?」

 「な!なんですか?」

 電話の向こうのリーダーはびっくりしていたが、私は一方的にしゃべり続けた。

 「お菓子がいい?ん?お人形か!」

 「・・・」

 すぐ横で大泉さんは、少し不審そうな顔を向けたまた、用を足している。

 「じゃ!切るからね!」

 「いや!」

 ピッ!

 「・・・子供だ」

 「あ、そう・・・」

 しばし空間が静止した。

 「じゃ、先に車に戻ってるから・・・早く来いよ」

 「・・・」

 逃げるように、トイレから出た。

 大泉さんの不審そうな視線が背中に突き刺さっていた。

 51番の巡拝を終え、いよいよ50番・繁多寺が近づいてきた。

 私の目は、すでに「ある一点」に注がれていた。

 車は、繁多寺の駐車場へと入り、山門の先、本堂が見えてくる。

 (いっ・・・いた!)

 白装束の、見るからに大柄な男が、本堂の前で、微動だにせずお祈りしている。

 その姿が、車内からも確認できる。

 (そ・・・それにしても、目立ち過ぎじゃねぇか?)

 思ったのと同時に、大泉さんが言った。

 「おやおや・・・なんだか私みたいな格好をした人がいらっしゃいますなぁ」

 (ヤバイ・・・気づいたか!)

 「なんだか・・・」

 「大泉さん!」

 「なんですか?」

 「ちょっとここらへんから元気よくいきましょうよ!」

 「は?」

 とにかく話をそらそうと、必死だった。

 「そうだね。勢いのあるやつを見たいね、そろそろ」

 嬉野くんも、ヤバイと思ったのだろう。すかさず大泉さんに話し掛けた。

 「勢いのあるやつかい?」

 「できますか?」

 「もちろん!私にできないことがありましょうか」

 「さすが大泉さん」

 そして車を降りて、外へ出る。

 ゆっくり本堂へと向かう。

 その間、私も嬉野くんも「見てはいけない」と思いつつ、本堂の前の大柄な白装束に、視線を奪われまくっていた。

 (ヤバイぞ・・・あいつの他にお遍路さんが一人もいない)

 事前の予想に反して、寺はガランとしていた。

 ひっそりとした寺の境内で、大柄な白装束は、その存在感を強烈にアピールしていた。

 視線は、リーダーの背中に釘付け。

 (リーダー!今振り向いちゃだめだぞ!今、そっちに向かってるぞ!)

 リーダーは、我々がここにいることを分かっているのだろうか・・・。

 彼の背中は、微動だにしない。

 「さぁさぁ!50番ですよぉー!」

 私は、リーダーに聞こえるように声を張り上げて言った。

 (どこまで・・・近づいたらいいだろうか)

 「もう・・・この辺でいいかな!ね!嬉野くん!」

 「そうだな!この辺にするか!」

 嬉野くんも、我々との距離感を、リーダーに「音声で知らしめる」がごとく、声を張り上げた。

 (いや!・・・待て、やっぱもうちょっと近づいた方がいいか?)

 嬉野くんに、視線を送る。

 (うん・・・ちょっと遠いかも)

 嬉野くんが眉間にシワを寄せてうなづく。

 その瞬間、リーダーの背中がピクリと動いた。

 「あっ・・・よし!ここでもうやっちゃおう!いいね嬉野くん!」

 「い・・・いいんじゃないか!」

 これ以上、ごちゃごちゃやってたら、リーダーが今にも振り向いてしまそうで恐かった。

 「よぉーし!じゃぁ元気出してまいりましょう!」

 「でっかい声出していけ!」

 「よーし、じゃ元気よくいくぞ・・・」

 (いよいよだぞ!リーダー!タイミング間違うなよ)

 「50番!繁多寺!はーい!ハンダゴテ!はーいッ!」

 繁多寺と「ハンダゴテ」をかけたらしいが、私はさっぱり意味がわからなかった。

 それより、視線はリーダーに釘付けだった。

 (よし!今だッ!リーダー来い!)

 しかし、リーダーの背中は、ピクリとも動かなかった。

 (どうした!リーダー!なんで来ない!)

 まだ我々に気づいてないのか、それともタイミングを逸したのか、リーダーは一歩も動かなかった。

 「ダメだ!大泉さん!もう一回行きましょう!」

 あわてて私は、リーダーにも聞こえるような大声でNGを出した。

 「なんでだよ!」

 どこが悪いんだ!とばかり大泉さんが不満そうに答える。

 「だって、なに言ってんのかわかんないんだもん・・・」

 「繁多寺でハンダだろう!わかんねぇか?」

 「わかんねぇよ!なぁ嬉野くん」

 「元気もなかったしね」

 「そうか?もっと元気よくってか?」

 「もっと元気よく!」

 放送ではこのシーン、カットされている。実は、放送したものは、このあと撮影した「テイク2」である。

 「よし、もうちょっと近づくか」

 「そうだね、もう少し大泉さん後ろへ下がって・・・」

 大泉さんは、NGが出たことで、おそらく次のことで頭がいっぱいだろう。我々には多少の余裕も出てきた。

 (今度は頼むぞ・・・リーダー!)

 「さぁさぁ!元気出していくぞ!」

 「でっかい声出してけ!」

 先ほどと同じことを、リーダーにも聞こえるように言う。

 「よし」

 大泉さんがスタンバイする。

 「・・・50番!繁多寺!はーいカイロ!はーいハンダゴテで、ハーイ!」

 もうさっぱり意味もわからない言葉で、精一杯の「元気」を表現する大泉さん。

 その後方で、遂にリーダーの背中が動いた!

 (よしッ!)

 そして、ものすごい形相でこっちへ向かって疾走してくる!

 (よし来いッ!)

 だが次の瞬間!

 元気を出しすぎた大泉さんが、カメラに向かって走り出し、そのまま後方へフレームアウトしてしまった。

 (あぁっ!)

 大泉さんの姿は、カメラにはもう映っていない。

 笑いながらも、内心すごく焦っていた。

 リーダーは、走ってくる!

 「ごじゅうばーんッ!」

 もう止められない。嬉野くんは、そのままリーダーを撮っている。

 私は、瞬時に大泉さんに目を移す。ヤツは硬直したまま立ち尽くしている。

 (おぉっ!)

 私は、嬉野くんの肩をバンッ!と叩いて、合図した。

 嬉野くんは、慌ててリーダーから大泉さんへカメラを振る。

 この瞬間は、放送では「!!」マークを入れた。

 「はんたじーッ!」

 リーダーの絶叫が後ろから聞こえる。

 嬉野くんは、リーダーを捨てて、そのまま大泉さんの硬直しきった顔ににじり寄っていった。

 この間、ほんの数秒。

 
 結局、大泉さんが、「リーダーに気づく瞬間の映像」は、撮り逃した。

 もしも、あの場面。

 大泉さんが走らずに、「その場にとどまっていたら」。

 おそらく大泉さんはリーダーの方を向いただろう。驚いて振り向く瞬間の「びっくり洋ちゃん」は撮れたかもしれないが、その後は「びっくりする後頭部」しか撮れなかったかもしれない。

 まぁ結果的には、これでよかったのか、とも思う。

 その後の硬直した大泉さんの顔が、すべてをカバーしてくれたとも思う。

 計画から、数週間。

 久々のびっくり作戦は、成功を収めた。

 しかし、期待した「びっくり芸」は、炸裂しなかった。

 あまりにもリーダーの声が大き過ぎて、彼は心臓を痛めてしまったようだった。