あれから2週間がたちました。
放送後、我々D陣は1週間の休暇をいただき、そして現在、「永久保存版!水曜どうでしょうDVD全集」制作のため、膨大な過去のVTR、資料を整理しているところです。
さて、「水曜どうでしょう」が6年間の放送に、いったんピリオドを打った「運命の9月25日」。
その日を我々は、どう迎えたのか。
そこに至るまでの、激動の数日間。
そして放送直後、我々の想像をはるかに越える「50万件」というアクセス数を記録したホームページとの格闘の顛末を、ここに記しておきたいと思う。
【9月11日(水)】
放送の2週間前。
樋口了一さんから、「1/6の夢旅人」新バージョンが「メール」で届く。
驚いた。
「なにが」って?
いいか。「メール」で「音楽」が届いたのだ。郵便屋がテープを運んで来たんじゃなくて、おれのパソコンに、直接、曲が届いたのだ。メールを開くと、スピーカーから、曲がジャカジャカ鳴り出したのだ。
「別に驚かねぇよ」ってか?うるさいわ。
アナログ人間の私にとっては、その「デジタルちっくなやり方」が、まず驚愕だったのだ。そしてもう、「できたてのホヤホヤ!」って感じがして、やけに感激したのだ。
じっくり聞いた。
エンディングシーンを思い浮かべながら、何度も何度もパソコンをクリックし、聞いていた。「ピッタリだ」と思った。
しかし、だ。
ここで「ひとつの問題」が浮上した。
メールで届いたはいいが、これをどうやってパソコンの中から取り出し、編集機に持って行ったらいいものか。
まぁ、実物のテープは、明日以降、東京から送られてくるから問題はないのだけれど、とにかく、少しでも早く、エンディングシーンに、この曲をはめてみたい。
ひとつ考えられるのは、パソコン内で「CDなんたら」だか「MOなんたら」だかに曲を取り込んで、それを音効・工藤ちゃんの部屋に持ち込み、テープにおとしてもらうという手段。これだろう。
パソコンに詳しい「いばら」のナカジに聞いても、「まぁ、その方法が、普通でしょうね」などと、小生意気に言っていた。
ふん。これぐらいの知識は、私にだってあるのだ。
「でも、藤村さんのパソコンには、書き込み機能はついてないんじゃないですか?」
なに?
そう言われてみると、確かに私のパソコンには、CDの書き込み機能がついていなかった。それになにより、肝心の工藤ちゃんが、まだ出社していない。
困った。
ナカジも、「今のところ、お手上げでしょうね」と、小生意気に腕組みをしていた。
しかしここで、私以上のアナログ人間、嬉野くんが、思いも寄らない解決策を提示した。
「これで録音すっか。」
言うと、やおら「デジカメ」を持ち出した。そう、いつものビデオカメラだ。
「それでどうやって?」
「こうやって」
嬉野くんは自信満々、カメラのマイクを、パソコンのスピーカーに近づけた。
な!な!なんと!
スピーカーから流れ出す音声を、そのまんまテープに録音してしまおうというのだ!
なんとアナログな方策!
確かに、CDだのMOだの、んなメンドくさいものはいらん!
そして確かに!オレも小学生のころ、買ったばかりのラジカセをテレビの前に持って行き、「ザ・ベストテン」を録音したことがある。
しかし!しかしだ!嬉野くん!
残念ながらそのテープには、母ちゃんがトイレに立つ音も、妹のへったくそなハナ歌も、オレの「黙れ!」っていう声も、全部いっしょに録音されていた!
その手法を今!この21世紀に、それもテレビマンの我々が、やろうと言うのか!
あっぱれ!嬉野雅道ッ!
・・・まぁ、そうこうするうちに音効・工藤氏も出社し、ことなきをえた。
放送2週間前、編集は、いよいよ大詰めを迎えていた。
【9月18日(水)】
放送の1週間前。
どうでしょうの聖地(いつのまにやらファンの間でこう呼ばれるようになった)平岸高台公園で、最後の枠撮りが行われた。
鈴井、大泉両名は、それぞれミスター・ジャイアンツ長嶋茂雄、そして懐かしの王子に扮し、やや緊張の面持ちで、現場へと向かった。
公園の入り口まで来ると、美術を担当するビジービーの皆さんが、横断幕を掲げて待ち構えていた。そこには、
「6年間ありがとう!」
そして、
「ビジービーも、一生どうでしょうします!」
そう書かれてあった。
一堂、感激し、そしていよいよ「最後の撮影なんだ。」そんな実感が沸いてきた。
ところが、だ。
いざ公園に入ると、そこには、誰もいなかった。
編成担当者、広報担当者等々、「そりゃもう駆けつけます!」「私も行きます!」「当然私も!」。数日前から、やけに盛り上がっていたが、それが、誰ひとり駆けつけていないのだ。
「おい、藤村くん。どういうことだこれは・・・」
大泉さんが、憤然とした表情で言った。
「我々は、6年間、このHTBにずいぶんと貢献したはずだぞ。そうだろ?えぇ?」
「そうですねぇ・・・」
「それがなんだ。この扱い。」
「・・・」
「そしてなにより藤村君。」
「はい」
「カメラマンがいないじゃないか」
「あっ」
そうなのだ。最後の枠撮りを担当する「カメラマン」と「音声マン」の姿すら、そこにはなかったのだ。
「これじゃぁなんだか、いつもより寂しいじゃないか・・・」
王子と、そしてミスタージャイアンツは、明らかに手持ち無沙汰となり、カメラもいない公園で、置き忘れた仮装行列のように、ぽつんと立ち尽くしていた。
遠くで、横断幕を掲げたままのビジービーさんも、引っ込みがつかないまま、こっちを黙って見ていた。
「すいません!遅れました!」
そうこうするうち、ようやくカメラ軍団が、駆け足で現れた。
それに続いて、局舎の方から大勢の人の波が、こっちに向かって歩いて来るのが見えた。
そしてあっという間に、公園は黒山の人だかりとなってしまった。中には、かなりのお偉いさんたちの姿も混じっていた。
慌てた大泉さんは、
「みなさん!わざわざすいません!あっ、どうもわざわざ・・・」
平身低頭、先ほどまでHTBの処遇に対し、さんざ悪態をついていたのが嘘のように、ひたすら周囲に愛敬を振りまいていた。
「お・・・おい、藤村君。なんだか緊張するなぁ」
そして落ち着かない様子だった。
「じゃ、そろそろいきますか!」
関係者一同が見守る中、最後の枠撮りがスタート。
しかし、いつもと違う雰囲気に圧倒されてか、前枠の大泉王子、ジャイアンツ長嶋の発声も、どこか上ずり、
「いや、ダメだな。いつもはね、皆さん!もっと面白いんですよ僕ら!」
「いやいや大泉さん!サイコーに面白かった!イエーイ!」
「いばら」の福屋さんあたりが、無責任な盛り上げ方で、周囲に拍手を強要し、前枠は終了。
続いて、衣装を私服に戻し、後枠の収録。
そこで私は、ミスターに、
「メイクはそのままで」
と、青ヒゲを残すように言った。
周囲が多少どよめいた。
「それは・・・どうだ」
「おかしいだろ・・・」
「感動のラストなのに・・・」
しかし、私は、なんとなくこう思ったのだ。
最後は、せめて「しまりなく終わろう」と。
ミスターも「あ、そうですか。はい、わかりました」あっさりと同意し、カメラの前に立った。
最後の枠撮りは、そうして終了した。
収録後、女子アナから二人に花束が手渡された。
周りの人からは「ご苦労さん!」「終わったな」なんて声を掛けられたけれど、私には、そんな感傷的な気持ちは、ほとんどなかった。
だってまだ、「1時間スペシャル」は、完成していないのだ。
残る作業は、この前枠・後枠を本編にくっつけ、そして出来上がった映像すべてに、美術班・ビジービーが制作したスーパーをのせる作業。さらに、4分にも及ぶエンディング映像の編集作業。
そして・・・もうひとつ。
とても重要な、そして、頭の痛い作業が、実は、残っていた。
この時。
これまで編集を進めてきた本編の尺が、知らず知らずのうちに、放送時間を「5分」もオーバーしていたのだ。
この「5分」をカットする作業が、残っていたのである。
どこを、切るか。
放送まで一週間。
いよいよ「9・25」が迫ってきていた。