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ドキュメント 9・25

藤村  | 2002.10/10(THU) 14:09


 
 あれから2週間がたちました。
 
 放送後、我々D陣は1週間の休暇をいただき、そして現在、「永久保存版!水曜どうでしょうDVD全集」制作のため、膨大な過去のVTR、資料を整理しているところです。

 さて、「水曜どうでしょう」が6年間の放送に、いったんピリオドを打った「運命の9月25日」。

 その日を我々は、どう迎えたのか。

 そこに至るまでの、激動の数日間。

 そして放送直後、我々の想像をはるかに越える「50万件」というアクセス数を記録したホームページとの格闘の顛末を、ここに記しておきたいと思う。

 
 【9月11日(水)】

 放送の2週間前。

 樋口了一さんから、「1/6の夢旅人」新バージョンが「メール」で届く。

 驚いた。

 「なにが」って?

 いいか。「メール」で「音楽」が届いたのだ。郵便屋がテープを運んで来たんじゃなくて、おれのパソコンに、直接、曲が届いたのだ。メールを開くと、スピーカーから、曲がジャカジャカ鳴り出したのだ。

 「別に驚かねぇよ」ってか?うるさいわ。

 アナログ人間の私にとっては、その「デジタルちっくなやり方」が、まず驚愕だったのだ。そしてもう、「できたてのホヤホヤ!」って感じがして、やけに感激したのだ。

 じっくり聞いた。

 エンディングシーンを思い浮かべながら、何度も何度もパソコンをクリックし、聞いていた。「ピッタリだ」と思った。

 しかし、だ。

 ここで「ひとつの問題」が浮上した。

 メールで届いたはいいが、これをどうやってパソコンの中から取り出し、編集機に持って行ったらいいものか。

 まぁ、実物のテープは、明日以降、東京から送られてくるから問題はないのだけれど、とにかく、少しでも早く、エンディングシーンに、この曲をはめてみたい。

 ひとつ考えられるのは、パソコン内で「CDなんたら」だか「MOなんたら」だかに曲を取り込んで、それを音効・工藤ちゃんの部屋に持ち込み、テープにおとしてもらうという手段。これだろう。

 パソコンに詳しい「いばら」のナカジに聞いても、「まぁ、その方法が、普通でしょうね」などと、小生意気に言っていた。

 ふん。これぐらいの知識は、私にだってあるのだ。

 「でも、藤村さんのパソコンには、書き込み機能はついてないんじゃないですか?」

 なに?

 そう言われてみると、確かに私のパソコンには、CDの書き込み機能がついていなかった。それになにより、肝心の工藤ちゃんが、まだ出社していない。

 困った。

 ナカジも、「今のところ、お手上げでしょうね」と、小生意気に腕組みをしていた。

 しかしここで、私以上のアナログ人間、嬉野くんが、思いも寄らない解決策を提示した。

 「これで録音すっか。」

 言うと、やおら「デジカメ」を持ち出した。そう、いつものビデオカメラだ。

 「それでどうやって?」

 「こうやって」

 嬉野くんは自信満々、カメラのマイクを、パソコンのスピーカーに近づけた。

 な!な!なんと!

 スピーカーから流れ出す音声を、そのまんまテープに録音してしまおうというのだ!

 なんとアナログな方策!

 確かに、CDだのMOだの、んなメンドくさいものはいらん!

 そして確かに!オレも小学生のころ、買ったばかりのラジカセをテレビの前に持って行き、「ザ・ベストテン」を録音したことがある。

 しかし!しかしだ!嬉野くん!

 残念ながらそのテープには、母ちゃんがトイレに立つ音も、妹のへったくそなハナ歌も、オレの「黙れ!」っていう声も、全部いっしょに録音されていた!

 その手法を今!この21世紀に、それもテレビマンの我々が、やろうと言うのか!

 あっぱれ!嬉野雅道ッ!

 ・・・まぁ、そうこうするうちに音効・工藤氏も出社し、ことなきをえた。

 放送2週間前、編集は、いよいよ大詰めを迎えていた。

 【9月18日(水)】

 放送の1週間前。

 どうでしょうの聖地(いつのまにやらファンの間でこう呼ばれるようになった)平岸高台公園で、最後の枠撮りが行われた。

 鈴井、大泉両名は、それぞれミスター・ジャイアンツ長嶋茂雄、そして懐かしの王子に扮し、やや緊張の面持ちで、現場へと向かった。

 公園の入り口まで来ると、美術を担当するビジービーの皆さんが、横断幕を掲げて待ち構えていた。そこには、

 「6年間ありがとう!」

 そして、

 「ビジービーも、一生どうでしょうします!」

 そう書かれてあった。

 一堂、感激し、そしていよいよ「最後の撮影なんだ。」そんな実感が沸いてきた。

 ところが、だ。

 いざ公園に入ると、そこには、誰もいなかった。

 編成担当者、広報担当者等々、「そりゃもう駆けつけます!」「私も行きます!」「当然私も!」。数日前から、やけに盛り上がっていたが、それが、誰ひとり駆けつけていないのだ。

 「おい、藤村くん。どういうことだこれは・・・」

 大泉さんが、憤然とした表情で言った。

 「我々は、6年間、このHTBにずいぶんと貢献したはずだぞ。そうだろ?えぇ?」

 「そうですねぇ・・・」

 「それがなんだ。この扱い。」

 「・・・」

 「そしてなにより藤村君。」

 「はい」

 「カメラマンがいないじゃないか」

 「あっ」

 そうなのだ。最後の枠撮りを担当する「カメラマン」と「音声マン」の姿すら、そこにはなかったのだ。

 「これじゃぁなんだか、いつもより寂しいじゃないか・・・」

 王子と、そしてミスタージャイアンツは、明らかに手持ち無沙汰となり、カメラもいない公園で、置き忘れた仮装行列のように、ぽつんと立ち尽くしていた。

 遠くで、横断幕を掲げたままのビジービーさんも、引っ込みがつかないまま、こっちを黙って見ていた。

 「すいません!遅れました!」

 そうこうするうち、ようやくカメラ軍団が、駆け足で現れた。

 それに続いて、局舎の方から大勢の人の波が、こっちに向かって歩いて来るのが見えた。

 そしてあっという間に、公園は黒山の人だかりとなってしまった。中には、かなりのお偉いさんたちの姿も混じっていた。

 慌てた大泉さんは、

 「みなさん!わざわざすいません!あっ、どうもわざわざ・・・」

 平身低頭、先ほどまでHTBの処遇に対し、さんざ悪態をついていたのが嘘のように、ひたすら周囲に愛敬を振りまいていた。

 「お・・・おい、藤村君。なんだか緊張するなぁ」

 そして落ち着かない様子だった。

 「じゃ、そろそろいきますか!」

 関係者一同が見守る中、最後の枠撮りがスタート。

 しかし、いつもと違う雰囲気に圧倒されてか、前枠の大泉王子、ジャイアンツ長嶋の発声も、どこか上ずり、

 「いや、ダメだな。いつもはね、皆さん!もっと面白いんですよ僕ら!」

 「いやいや大泉さん!サイコーに面白かった!イエーイ!」

 「いばら」の福屋さんあたりが、無責任な盛り上げ方で、周囲に拍手を強要し、前枠は終了。

 続いて、衣装を私服に戻し、後枠の収録。

 そこで私は、ミスターに、

 「メイクはそのままで」

 と、青ヒゲを残すように言った。

 周囲が多少どよめいた。

 「それは・・・どうだ」
 「おかしいだろ・・・」
 「感動のラストなのに・・・」

 しかし、私は、なんとなくこう思ったのだ。

 最後は、せめて「しまりなく終わろう」と。

 ミスターも「あ、そうですか。はい、わかりました」あっさりと同意し、カメラの前に立った。

 最後の枠撮りは、そうして終了した。

 収録後、女子アナから二人に花束が手渡された。

 周りの人からは「ご苦労さん!」「終わったな」なんて声を掛けられたけれど、私には、そんな感傷的な気持ちは、ほとんどなかった。

 だってまだ、「1時間スペシャル」は、完成していないのだ。

 残る作業は、この前枠・後枠を本編にくっつけ、そして出来上がった映像すべてに、美術班・ビジービーが制作したスーパーをのせる作業。さらに、4分にも及ぶエンディング映像の編集作業。

 そして・・・もうひとつ。

 とても重要な、そして、頭の痛い作業が、実は、残っていた。

 この時。

 これまで編集を進めてきた本編の尺が、知らず知らずのうちに、放送時間を「5分」もオーバーしていたのだ。

 この「5分」をカットする作業が、残っていたのである。

 どこを、切るか。

 放送まで一週間。

 いよいよ「9・25」が迫ってきていた。