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水曜どうでしょうプレゼンツ「TEAM-NACS芝居公演」

藤村 | 2003/06/17(Tue) 14:41:31

 もう8年ほど前になりますか。

 「どうでしょう」の前身である「モザイクな夜」という深夜番組を作っていたころのお話です。

 当時私は、ビシバシステムという東京のお笑いコンビの「コント」を主に担当しておりました。現在、コンビのおひとり住田隆さんは「なんでも鑑定団」に出ておられるし、布施えりさんは「ナースのお仕事」で女優としても活躍されております。そんな彼らが月に一回札幌へやって来て、2日ぐらいかけていくつかのコントを撮り、放送しておりました。
 彼らの笑いは、どちらかと言えばシュールで、私自身「どこがオチだったんだ?」と戸惑うこともしばしばでしたが、でも私は彼らの笑いが好きでした。

 ある日、彼らが新宿の劇場でコントライブを開催することになり、私はその舞台を撮影するため上京することになりました。

 撮影クルーは東京の会社に頼んでいたので、札幌から行ったのはディレクターの私だけ。リハーサルを見ながらカメラマンにひととおり撮影意図を伝えると、本番まで私はとりあえずやることもなくなり、劇場を出てひとり、新宿の街をぶらついておりました。

 開演時間が近づいて劇場に戻ると、私は面食らいました。いつのまにか入り口には長蛇の列。客席は超満員で、中にはチラホラと芸能人の顔も見え、それはなんだかとても華やいだ雰囲気でした。と、同時に北海道からノコノコと、たったひとりで撮影に来てしまった自分が「とても場違い」に思えてしまい、ちょっと肩をすぼめて客席に座りました。

 コントライブが始まると、客席には笑いが絶えず、舞台上の2人も「月に1回札幌で会う彼ら」とは違う、「東京のひと」って感じがして、輝いて見えました。

 ライブが始まって1時間ほど経ったあたりでしょうか、ちょっとした幕間にVTRが流れました。実はそのVTRというのが、我々が北海道で撮影した彼らのコントの映像でした。いつも深夜番組で流していた、北海道で作った我々のVTR。それが、こともあろうに新宿の、その超満員の劇場に流れたのです。

 私は一瞬、身を固めました。

 「どう考えたってこの新宿の劇場に、オレらが作ったVTRなんて場違いじゃないか・・・」

 観客は黙って、スクリーンに映し出された映像を見ています。なんだか、いたたまれなくなりました。

 そしていよいよ「オチ」の場面。私は恥ずかしさに「ぐっ!」と拳を握り締めて、下を向いていました。

 でも次の瞬間、劇場が、ドッ!と沸きました。私は目を、耳を疑いました。北海道の番組なんて知るはずもない東京の人達が、我々が作ったVTRを見て、手を叩いて笑ってるんです。

 この出来事は、私にとって「衝撃」でした。

 なぜなら、自分が作ったVTRを見て「他人が笑っている姿」なんて、それまで一度も見たことなかったんです。

 考えてみれば、テレビ番組を作っている我々にとって、視聴者の姿が見えないのは当たり前。でもそれを初めて目の当たりにして、私は単純に「幸せな気持ち」になりました。

 そして、こう思ったんです。

 「おれらの仕事って、こういうことなんだ」

 モノ作りの目的をハッキリと自覚した瞬間でした。

 それからしばらくして、大泉洋に出会いました。彼は大学で演劇をやっておりました。

 それとほぼ時を同じくして、鈴井貴之は長年主宰していた劇団を解散しました。芝居の世界から、テレビを始めとする映像の世界に自分を懸けてみようと思ったそうです。

 やがて、どうでしょうが始まり、その中でひとつ、問題が起きました。

 大泉洋は、大学の演劇研究会とともに、他の劇団にも所属して、それぞれの公演が近づくと、ロケの日程に少なからず支障をきたす事態が発生したのです。

 私は何度か「演劇とテレビの仕事と、どっちが重要なんだ?」と聞きました。
 ヤツは言葉では「もちろんテレビです!」と言ってたけれど、芝居の公演が近づくと必ず「ちょっと稽古があるもんですから・・・ロケの日程ずらせませんか?」申し訳なさそうに、そう言ってきました。

 私は内心そんな大泉洋に、そして「芝居」というものに、苛立ちを覚えていました。

 「所詮、お芝居なんて“趣味”じゃないか。」

 それが、いつのころだったか、たぶん、大泉くんから、森崎くんの話を聞くようになって、少し「芝居」というものを「違う角度から」見るようになりました。

 森崎博之は、大泉くんの大学の先輩で、東京でのサラリーマン生活を辞めて、芝居をやるために札幌に戻って来ました。そして劇団「チームナックス」を復活させました。

 「チームナックス」ってのは、同じ大学の演劇研究会の仲間である森崎博之、大泉洋、安田顕、佐藤重幸、音尾琢真のバカ5人が寄り集まって結成した演劇ユニットのことです。

 たぶん森崎博之は、東京でサラリーマンやりながら、大学時代、演劇をやっていた自分たちが、とても輝いて見えたんだろうね。誰にだってあることです。僕だってね、大学時代にラグビーやってて、「あの頃が一番楽しかったな」なんて、今でも思いますもの。

 でも森崎博之は、それで会社を辞めて札幌に戻って来ちゃったんです。これはね、僕のラグビーとは明らかに違う。それは「芝居」というものの持つ、「力」なんじゃないかな。芝居はね、たぶん「演ずる」という楽しさ以上に、「客に見てもらう」「客を楽しませる」という「快感」が強いんじゃないかと思うんです。このためなら「人生をかけてもいい」というほどの、それは力を持ってるんですよ。

 コレってね、「リオのカーニバル」みたいなもんじゃないのかね。年に一度のカーニバルのためなら、あとは貧乏してても耐えられる、みたいな。あれと同じ魔力。

 それでね、いつのころからか、こう思い始めたんです。

 大泉洋も、きっとテレビの仕事以外に、こうして演劇をやってるからこそ、大袈裟に言えば「生きていけるんだな」と。

 たぶん、森崎博之も、そしてヤスケンや、シゲや、音尾くんも、お芝居を通じて、常にこの力を感じてて、だからこそ今でも「チームナックス」なんてこっ恥ずかしい名前のグループで芝居を続けてるんじゃないだろうかと。

 そして、いつのころからか、自分も「お芝居を作ってみたい」と思い始めました。

 いや、正確に言えば「直接、お客さんの楽しむ顔を見たい」と思い始めました。

 数年前、たったひとり、新宿で味わった「幸福感」。

 今まで見えなかったお客さんの反応を見て、初めて得られた「快感」。

 それは、テレビの仕事とは別に、彼らが芝居を通じて享受している「生きる力」(=幸福感)と、実は同じものだったのだと気付きました。

 ただ、あの時の僕は「仕事をしていく上で」、この「幸福感」を意識したんだけれど、でも今「一生どうでしょうをやっていく」なんて言っちゃったのは、間違いなく「リオのカーニバル的」な「生きる力」を求めたんだと思います。

 そういえば、鈴井貴之は、もう何年も前に芝居をやめました。そして今、あのおっさんは「映画」に挑戦しています。一見、ナックスの連中とは逆の方向に進んでいるようですが、実は求めているものは同じです。「映画」は、まぎれもなく鈴井貴之にとっての「リオのカーニバル」なんです。

 
 我々のやる「お芝居」は、映画やテレビのように何万人もの人々を相手にするものではありません。1回の公演でせいぜい数百人。10回やったって数千人。テレビのように「見たい」と思っても必ず全員の方に見てもらえるわけではございません。

 ようやく今、全国の皆様に見てもらえるようになった「どうでしょう」が、そんな少人数を相手にモノを作ることは、明らかに流れに逆行しているのかもしれません。第一、いっこも儲かりません。

 しかし!

 これから10月まで、「水曜どうでしょう」は、その数千人のために全力を注ぎます!

 我々にとっての年に一度のカーニバルを開催します!

 ~水曜どうでしょうPRESENTS~

 藤村忠寿・嬉野雅道+TEAM NACS[LIVE CIRCUS 2003](仮)

 「サーカス」たって、空中ブランコするわけじゃございません!もちろん芝居!そしてこれはまだ仮題!

 ただ!サーカスのごとくHTBの駐車場に「特設テント」を建てて、普通の劇場じゃ味わえない、そして映像では味わえない「どうでしょうワールド」を体感していただきます!(の予定!)

 期間は10月中旬のおよそ1週間!

 やるからには、「いやぁ!お腹いっぱい!もう帰してくれ!もうこのテントから出してくれ!」と言わしめるほどに、楽しんでいただくつもりでございます。

 そして、たっぷりと!諸君のバカ笑いしてるバカ面を見せてもらいます!

 覚悟してくれ!

 チケットの発売方法等は一切未定!

 内容に関しては、現在嬉野先生が、原案を執筆中。その後、私が細かい脚本を書き、完成次第、ナックスのみなさんと連日連夜に及ぶ荒稽古!もちろん演出は私がやる!

 6月中旬現在、脚本は一行も書いておらん!

 しかし!私の頭の中には、すでに!本公演の構成は出来上がっている!

 なぜなら!私と嬉野先生、そして四宮プロデューサーの3名は、まだ雪深き早春3月より!様々な芝居の視察に出かけ、結果「芝居の本質とはなにか!」をビシッと掴んだのである!

 もう成功したも同然!

 次回いよいよ!「チームナックス・テント公演への道・第1話~3月中旬!第1回目の芝居視察で早くも構想まとまる!の巻~」にて、世紀の大芝居の構想が明らかとなる!

 乞うご期待!

 そして最後に。

 森崎博之、安田顕、佐藤重幸、大泉洋、音尾琢真のチームナックス諸君。

 ズブの素人の我々を「あなたたちなら」と快く受け入れてくれたことに、心より感謝しています。

 諸君らを後悔させないように!不肖!藤村忠寿、嬉野雅道、日々精進する覚悟でござります!

 そしてこの場をかりて、業務連絡!

 6月17日現在!嬉野先生が原案を執筆中!しかしながら昨夜先生より!

 「えー・・・筆が進まず、少々焦っております」

 との、弱気な発言あり!しかし!案ずるな!まだ6月!7月末日にはビシッと台本を揃えて、8月より荒稽古に突入する!体を鍛えて待っとけ!

 以上!業務連絡!