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6月20日放送 「対決列島」第2夜

藤村 | 2001. 6/21(THU) 13:50


 落としやがった・・・あの野郎・・・。

 
 「対決列島」第一戦・北海道対決。

 そう北海道は広い。四国と九州合わせたよりも広い。

 8万3千平方キロメートル。
 ちっちぇえ香川が、2千平方キロメートル。
 
 うどん41杯分・・・。

 だから魔神も考えた。いきなり「五勝手屋羊羹」では、敵の戦意をそぐどころか、致命傷を負わせてしまう。

 「死んじゃっちゃぁ、おもしろくない」

 そこで、「ソフトクリーム」だ。あれなら、意外と勝負はわからない。

 ・・・というか、本音を隠さず言えば、「北海道は、渡したっていい」。そりゃそうだ。いきなり魔神が北海道を制圧してしまっては、「勝負」なんて、もう鹿児島に到着する前についてしまう。

 それは言わずとも誰しもがわかっているはず。一番わかっているのは、ミスターだ。

 「番組の流れを考えるのなら、ここは絶対勝っておかないと・・・そうか、だからソフトクリームなんだな・・・よーしッ!」

 きっとそう思ったはずだ。

 並々ならぬ闘志が、嫌がおうにも伝わってくる。

 「よし。よし。勝てばいいじゃないかぁ。北海道8万3千ポイント、鈴井貴之にくれてやらぁ!そのかわり、これで鹿児島行きは決定だぁ。そうだぁ、8万3千ポイントは、地獄行きのチケットなんだぁ!ぬは!ぬは!ぬはは!」 

 ・・・そうなのだ。告白しよう。魔神は、北海道を捨てるつもりでいたのだ。そして、「地獄行きのチケットなんだぁ!」という決めゼリフまでキッチリ用意して、やつの鼻っ面に叩きつけてやるつもりでいたのだ。

 これが「戦略」というものだ。「緻密な戦略」なくして、「物語」はおもしろくはならない。

 
 私の好きな「映画」には、ひとつのセオリーがある。

 「緻密な計算」で絶対絶命の危機を逆転する、国防総省あたりの冷静な男が、「誰も思いつかなかった作戦」で敵の武力を痛快に粉砕する、というやつだ。
 
 反対にまったく気に入らないのが、「おまえ!なんでそんなにジャンプできんのよ!なんで、核兵器に素手で対抗すんのよ!まずは武器を調達せんかいッ!まずは、国防総省を出さんかい!」というやつである。

 なんの作戦もなく、行き当たりばったりで殴りかかり、そんで勝っちゃっちゃぁ、あまりに乱暴じゃぁないか。「殴り合い」で、勝負を決めちゃっちゃぁ、ストーリーもくそもあったもんじゃないじゃないかぁ。

 だから、魔神は、47都道府県の総面積を計算し、通過ルートを慎重に選び、どうやったら「やつの息の根を止めることなく鹿児島へ連れ出し、最後の白熊決戦で、ものの見事なリベンジを果たし、よくぞやった!魔神ッ!という道民の皆様の喝采を浴びるような演出ができるのか」、これを考え抜いていたわけである。

 そう、考え抜いて・・・考え抜いていて・・・そうだ。

 「おやぁ?」と、ひとつの重要な点に気が付いたんだ。

 「あれあれあれぇ・・・5泊6日で鹿児島まで行こうとすると・・・あれだなぁ・・・1日あたり5、6回は対決すんなぁ・・・どだろうなぁ、さすがにおれもキツイなぁ・・・」

 「なら、安田くんあたり呼べばいいじゃないの」

 「おう。そーだなぁ。で、チーム対決ってことにすりゃぁ、全部が全部、おれが食うこともないか」

 「人数が多い方が、なにかと楽しいじゃないの」

 「んだなぁ。」

 ということで、あっさりと「安田さん参戦!」を決定したのである。

 ここに、魔神の「緻密な計算」はなかった。ただ「食い過ぎると腹こわしちゃうなぁ・・・」「んじゃ安田さんあたりに食ってもらうかぁ」という「打算」があっただけである・・・。

 そして迎えた第一戦。舞台は函館。

 「もうヒゲの好きなようにはさせないッ!」

 意気上がるミスター陣営。

 (うふふふふ・・・好きなようにさせてもらうぞ・・・)

 大泉さん、安田さんが、スタート位置につく。カメラを意識して、クラウチングスタートも逆向きだ。

 「なんでしょう・・・この妙な緊張感・・・」

 そうなのだ。なぜか、全員緊張してしまうのだ。

 (北海道なんかくれてやらぁ!)と思っているはずの魔神自身、

 「じゃぁ・・・そろそろ行きますよ」という声も小さい。

 
 ミスターの声が響く。

 「位置について・・・・よーい・・・・スタート!」

 「よしッ!行けッ!安田くんッ!」

 思わず出た声。ハッキリおぼえている。

 この瞬間「北海道なんか、くれてやらぁ!」は、ものの見事に消し飛んだ。

 「食うぞぉ!食うぞぉ!食ってやるぞぉぉう!負けるかい!おれがソフトクリームで負けるかいッ!」

 
 ふたりが走り去った後の、緊張感たらなかった。ミスターも「よーし・・・よーし・・・」かなんか言ってそわそわしている。

 
 30秒後。先に現れたのは大泉さんだった。

 「よーしッ!」

 「クソッ!なにしてんだ!ヤスケンっ!」

 もう闘争本能は、誰も止められない。いや、止められた。「キンキン」だ。予想外にもふた口食ったぐらいで、もう「キンキン」だった。

 「あっ!やばい!」
 
 ・・・放送では「キンキン1回」という「笑い所」も消化不良の感があったが、実は、あの後にも断続的に「キンキン」だった。こらえていたのだ。「笑い所」を捨てて、勝負に走ってしまったのだ。今思えば、「笑わせんでどうする!」と後悔の念に耐えないが、それほど本気だったのだ。

 そして、ミスターとのタイム差を約7秒縮めて、安田さんにタッチ!

 ・・・この後の出来事は・・・もう、ご覧のとおりだ。

 「落としたってか・・・おまえ・・・」

 「は・・はい・・・」

 「安田くん・・・落としたってか・・・」

 「・・・す・・・すいません・・・」

 がっくり・・・だった。

 そりゃぁ結果的には、ミスターが「北海道・8万3千ポイント」を獲得した。

 しかし、それは「くれてやった」んじゃない。正面切って、奪いとられてしまった。

 今さら、

 「それは、地獄行きのチケットなんだぁ!ぬは!ぬは!ぬはは!」

 などと言おうものなら、負け惜しみにしか聞こえない。

 
 魔神の「道民のハートは俺のもの!」ストーリーは、しょっぱなで崩れ去った。

 「緻密な戦略で敵を粉砕!」なんて、もはや夢物語。

 「うるせぇ!勝ちゃいいんだろう!勝ちゃぁ!くらえ!この野郎ぅ!うーりゃぁーッ!」

 もはや、ジャッキーチェン、ジョン・ウーばりの「びっくり技」をこれでもかッ!ってぐらいに繰り出して、乱暴に相手を10メーターぐらいすっ飛ばす「痛快アクション映画」へとあっさり方向転換してしまうのである。

 「青森対決」・・・あんなのは、序の口である。

 「そこまで、せんでも・・・」という道民の声が、この後、何度聞かれることだろう。

 しかし、魔神は同時に、このセリフも今後、何度も聞くことになる。

 「・・・す・・・すいません・・・」

 我が陣営は、「とんでもない天才」を迎え入れてしまったのである。

 
 来週以降、「おもしろさ」は倍増する。