落としやがった・・・あの野郎・・・。
「対決列島」第一戦・北海道対決。
そう北海道は広い。四国と九州合わせたよりも広い。
8万3千平方キロメートル。
ちっちぇえ香川が、2千平方キロメートル。
うどん41杯分・・・。
だから魔神も考えた。いきなり「五勝手屋羊羹」では、敵の戦意をそぐどころか、致命傷を負わせてしまう。
「死んじゃっちゃぁ、おもしろくない」
そこで、「ソフトクリーム」だ。あれなら、意外と勝負はわからない。
・・・というか、本音を隠さず言えば、「北海道は、渡したっていい」。そりゃそうだ。いきなり魔神が北海道を制圧してしまっては、「勝負」なんて、もう鹿児島に到着する前についてしまう。
それは言わずとも誰しもがわかっているはず。一番わかっているのは、ミスターだ。
「番組の流れを考えるのなら、ここは絶対勝っておかないと・・・そうか、だからソフトクリームなんだな・・・よーしッ!」
きっとそう思ったはずだ。
並々ならぬ闘志が、嫌がおうにも伝わってくる。
「よし。よし。勝てばいいじゃないかぁ。北海道8万3千ポイント、鈴井貴之にくれてやらぁ!そのかわり、これで鹿児島行きは決定だぁ。そうだぁ、8万3千ポイントは、地獄行きのチケットなんだぁ!ぬは!ぬは!ぬはは!」
・・・そうなのだ。告白しよう。魔神は、北海道を捨てるつもりでいたのだ。そして、「地獄行きのチケットなんだぁ!」という決めゼリフまでキッチリ用意して、やつの鼻っ面に叩きつけてやるつもりでいたのだ。
これが「戦略」というものだ。「緻密な戦略」なくして、「物語」はおもしろくはならない。
私の好きな「映画」には、ひとつのセオリーがある。
「緻密な計算」で絶対絶命の危機を逆転する、国防総省あたりの冷静な男が、「誰も思いつかなかった作戦」で敵の武力を痛快に粉砕する、というやつだ。
反対にまったく気に入らないのが、「おまえ!なんでそんなにジャンプできんのよ!なんで、核兵器に素手で対抗すんのよ!まずは武器を調達せんかいッ!まずは、国防総省を出さんかい!」というやつである。
なんの作戦もなく、行き当たりばったりで殴りかかり、そんで勝っちゃっちゃぁ、あまりに乱暴じゃぁないか。「殴り合い」で、勝負を決めちゃっちゃぁ、ストーリーもくそもあったもんじゃないじゃないかぁ。
だから、魔神は、47都道府県の総面積を計算し、通過ルートを慎重に選び、どうやったら「やつの息の根を止めることなく鹿児島へ連れ出し、最後の白熊決戦で、ものの見事なリベンジを果たし、よくぞやった!魔神ッ!という道民の皆様の喝采を浴びるような演出ができるのか」、これを考え抜いていたわけである。
そう、考え抜いて・・・考え抜いていて・・・そうだ。
「おやぁ?」と、ひとつの重要な点に気が付いたんだ。
「あれあれあれぇ・・・5泊6日で鹿児島まで行こうとすると・・・あれだなぁ・・・1日あたり5、6回は対決すんなぁ・・・どだろうなぁ、さすがにおれもキツイなぁ・・・」
「なら、安田くんあたり呼べばいいじゃないの」
「おう。そーだなぁ。で、チーム対決ってことにすりゃぁ、全部が全部、おれが食うこともないか」
「人数が多い方が、なにかと楽しいじゃないの」
「んだなぁ。」
ということで、あっさりと「安田さん参戦!」を決定したのである。
ここに、魔神の「緻密な計算」はなかった。ただ「食い過ぎると腹こわしちゃうなぁ・・・」「んじゃ安田さんあたりに食ってもらうかぁ」という「打算」があっただけである・・・。
そして迎えた第一戦。舞台は函館。
「もうヒゲの好きなようにはさせないッ!」
意気上がるミスター陣営。
(うふふふふ・・・好きなようにさせてもらうぞ・・・)
大泉さん、安田さんが、スタート位置につく。カメラを意識して、クラウチングスタートも逆向きだ。
「なんでしょう・・・この妙な緊張感・・・」
そうなのだ。なぜか、全員緊張してしまうのだ。
(北海道なんかくれてやらぁ!)と思っているはずの魔神自身、
「じゃぁ・・・そろそろ行きますよ」という声も小さい。
ミスターの声が響く。
「位置について・・・・よーい・・・・スタート!」
「よしッ!行けッ!安田くんッ!」
思わず出た声。ハッキリおぼえている。
この瞬間「北海道なんか、くれてやらぁ!」は、ものの見事に消し飛んだ。
「食うぞぉ!食うぞぉ!食ってやるぞぉぉう!負けるかい!おれがソフトクリームで負けるかいッ!」
ふたりが走り去った後の、緊張感たらなかった。ミスターも「よーし・・・よーし・・・」かなんか言ってそわそわしている。
30秒後。先に現れたのは大泉さんだった。
「よーしッ!」
「クソッ!なにしてんだ!ヤスケンっ!」
もう闘争本能は、誰も止められない。いや、止められた。「キンキン」だ。予想外にもふた口食ったぐらいで、もう「キンキン」だった。
「あっ!やばい!」
・・・放送では「キンキン1回」という「笑い所」も消化不良の感があったが、実は、あの後にも断続的に「キンキン」だった。こらえていたのだ。「笑い所」を捨てて、勝負に走ってしまったのだ。今思えば、「笑わせんでどうする!」と後悔の念に耐えないが、それほど本気だったのだ。
そして、ミスターとのタイム差を約7秒縮めて、安田さんにタッチ!
・・・この後の出来事は・・・もう、ご覧のとおりだ。
「落としたってか・・・おまえ・・・」
「は・・はい・・・」
「安田くん・・・落としたってか・・・」
「・・・す・・・すいません・・・」
がっくり・・・だった。
そりゃぁ結果的には、ミスターが「北海道・8万3千ポイント」を獲得した。
しかし、それは「くれてやった」んじゃない。正面切って、奪いとられてしまった。
今さら、
「それは、地獄行きのチケットなんだぁ!ぬは!ぬは!ぬはは!」
などと言おうものなら、負け惜しみにしか聞こえない。
魔神の「道民のハートは俺のもの!」ストーリーは、しょっぱなで崩れ去った。
「緻密な戦略で敵を粉砕!」なんて、もはや夢物語。
「うるせぇ!勝ちゃいいんだろう!勝ちゃぁ!くらえ!この野郎ぅ!うーりゃぁーッ!」
もはや、ジャッキーチェン、ジョン・ウーばりの「びっくり技」をこれでもかッ!ってぐらいに繰り出して、乱暴に相手を10メーターぐらいすっ飛ばす「痛快アクション映画」へとあっさり方向転換してしまうのである。
「青森対決」・・・あんなのは、序の口である。
「そこまで、せんでも・・・」という道民の声が、この後、何度聞かれることだろう。
しかし、魔神は同時に、このセリフも今後、何度も聞くことになる。
「・・・す・・・すいません・・・」
我が陣営は、「とんでもない天才」を迎え入れてしまったのである。
来週以降、「おもしろさ」は倍増する。