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夢チカ18

大泉洋ミュージックステーション出演 騒動記

藤村 | 2004/02/18(Wed) 20:04:18

 「大泉さんがミュージックステーションに出演する!」

 この一報がHTB制作部に届いたのはある日の夕刻のことであった。

 「ウソだろ?」
 「本当らしい」
 「いつ出るのよ」
 「来週」
 「マジかッ!」

 それはあまりにも急な出来事で、我々はいきり立った。

 「すげぇなオイ!」
 「やるなぁ!大泉洋ッ!」

 しかし、そんな驚嘆と喜びの入り混じった歓声は、やがてトーンを落とした。

 「あれって・・・生放送だよねぇ」
 「そうだよ・・・」
 「生で、歌うんだよねぇ」
 「そ、そうだな」
 「タ・・・タモリさんと、絡んだりするわけだよねぇ」

 「大丈夫なんでしょうか・・・」

 この時、HTB制作部一同は何故か、胸を締め付けられるような、痛みにも似た感覚を覚えた。何故か「オレが来週ミュージックステーションで歌うんだ!どうしよう!」もしくは「我が子が歌うんだ!どうする!」という見当違いな錯覚に陥った。

 しかしこれは、我々HTB制作部だけに起きた現象ではなく、多くの道民、そして全国に散在する藩士諸君もが、同様の感覚を抱いていたのだ―。

 大泉洋ミュージックステーション出演 騒動記

 「ローカルタレントが全国放送に生出演で大騒ぎ!」単にそれだけでは済ませることが出来ない、何か、もっと深い感情が支配したこの異常な出来事を、本誌記者は当時の日記を中心に記録に留めておくことにする。

 【2月9日(月)の日記】

 嬉野です!
 本日札幌天候晴れです!
 とうとう今週の金曜日となりました!

 なにがって、あなた!

 大泉先生が「ミュージックステーション」で歌う!がです!
 しかも生放送で歌う!
 大丈夫か!大泉先生!
 ちゃんとカッコ良く歌えんのか!
 タモリさんに話しかけてもらえるんでしょうか! 大泉先生!

 「あぁドキドキしちゃって、平常心でテレビ見てらんない!」
 「さんざん大泉さんの出番待った挙句、いざ出てきたら緊張が極限まで高まってそのままテレビを庭に投げ捨てるかもしれません!」
 「いやぁーっ!恐くて見てらんないっ!」

 本日只今も日本中に激震が走っております!
 そーは言っても2月13日の夜。 あなたは何処で! いったい誰と!
 この歴史的状況に立ち会うのでしょうか。

 「一人は恐いです。母と二人で見ます。」
 「家族全員で見ます。」
 「いやよ!一人で見る!だって絶対ビビッちゃって人に見せられるような顔なんかできないもん!」
 「いやぁー!とてもテレビの前で彼の出番を待つような緊張には耐えられそうにありません。かといって見ないなんてことはできないし。」

 さぁ、どうでるのでしょうか大泉先生は!
 テレビの中では誰もが知らないかもしれないけれど!
 テレビの外では凄い数の人が知っている!
 あの御存知の繰り出す一挙手一投足を見逃してはなりませぬぞ!
 大丈夫! 彼は天才です!本番に強い男です! 念じましょう!
 ただただテレビの前に端座して全国から一心に波動を送りましょう!
 おぉ、クワバラ、クワバラ。
 オン アビラウンケン バザラサトバン

 老婆心って言うんでしょ、こういうの。

■(本誌記者付記)

 大泉洋Mステ出演!の報が流れるや、掲示板には「この不安にも似た不思議な感情を誰かに伝えたい」そして「この恐怖心を共に分かち合いたい!というか分散させたい!」そんな者たちが大量に駆け込んで来た。それを読みながら本誌記者は、「うわっ!もうダメだ。読んでられねぇ」高ぶる緊張感を、なんとか平静に保とうと努力していた。

 【2月10日(火)の日記】

 藤村でございます。
 大泉洋氏のMステーション出演決定に揺れる昨今、私は毎日「7年前の大泉洋君」を見ております。
 DVD第4弾「サイコロ3」編集の真っ最中。VTRの中で彼は言ってましたね。「テレビはすべてオレの思い出作りなんだよ!」。7年後の今、大泉洋は一世一代の思い出作りに挑むわけでございます。しかしながら、誰がこんな事態になろうと思いましたでしょうや。誰がヘリで嘔吐した男が、ゴールデンタイムで、国民の前で、熱唱すると思いましたでしょうや。まさに「数奇な運命をたどる道産子・大泉洋!」。

■(本誌記者付記)

 翌11日(水)は祝日で、HPの更新はストップ。しかしこの日も大量の書き込みが掲示板に殺到していた。そしてその夜、私のパソコンに大泉洋から1通のメールが届いていた。

 【2月12日(木)の日記】

 藤村でございますねぇ。もちろん昨日はお休みいたしましたよ。
 さぁ明日!いよいよ午後8時から「大泉洋氏のMステーション出演」でございます。
 本日出社すると、本人からのメールが届いておりました。

 「どうしよう」

 そう、書かれておりました。さすがのヤツも浮かれているわけではなかったか!とある意味一安心。

 大丈夫!案ずるな!よういずみおう!

 なんなら藩士全員に「見るな!」と言っておこうか。少なくともオレは見ないでおこうか。見たら、なにがしか言いたくなるのは必定だし、逆に見たくせに「なにも言わないオレ」というのも、立ち直れないほどのダメージを与えそうだし・・・と思っていたら、なんとハナタレの福屋キャップが「大泉洋のMステ出演に密着する!」と言うではないか。それも次週、予定を変更して「その模様をハナタレで放送する!」と言うではないか。

 見ないわけにはいかなくなった。「オレは見なかった」というウソも通用しなくなった。これは困った。いや待て。なんでおれがバカが歌うだけで困らないといけないんだ!

■(本誌記者付記)

 本人から直接「どうしよう」という言葉を聞いてしまい、実は「一安心」どころか、逆に私の緊張は沸点に達していた。
 「おまえが言うな!その言葉は聞きたくなかった!」と。
 日記には記さなかったが、その日の朝、私は大泉洋宛にこんな言葉を返信している。

 「騒ぐな。平静を保ち堂々とカメラを睨みつけて歌え。頼むから空を見上げて歌うな。それをやったら・・・爆笑してしまう」

 これは、自分に向けた言葉でもある。「騒がず、平静を保ち、テレビを見よう」と。

 そしていよいよ放送当日を迎える。

 しかしその日の朝、HTB制作部では、私を含め多くの者が知らないところで、こんな出来事が起こっていたのだ。

 【2月13日(金)放送当日の日記】

 嬉野です。
 大泉洋先生、今朝、HTBへ起こしになり「ハナタレ」の福屋Dと連れ立って千歳空港の方へ出発されたとの情報を得ております。
 しかし!残念ながらこの重大イベントに際してHTB制作部で大泉先生を御見送りした人数、僅かに3名。内訳は、たまたまその時間に出社していた庶務の女の子二人と、徹夜明けの「ドラバラ」の多田Dだけだったそうでございます。

 「これだけか。」

 と大泉先生はこぼしておられたそうです。
 私、嬉野などは大泉先生がHTBから出発されるなどいうことはつゆ知らず、おめおめと11時過ぎに出社し、事の次第を庶務の女の子に聞くにおよんで自らの不覚に泣いたのでございます。
 「して、先生は最後に何かおっしゃっていなかったか?」と庶務の女の子に聞きましたところ、ただ一言、

 「昨夜は眠れませんでした」

 そう仰っておられたそうでございます。
 みなさん!先生もやはり人の子。緊張されておられます。
 今回オフィスCUEさんの副社長であるところの鈴井夫人も同行されているとの情報もはいっております。想像しますに、鈴井婦人の緊張も極度に高まっているのではないでしょうか。あのかたも老婆心の大家と噂される人でございます。福屋Dしかり!副社しかり!おそらく大泉先生は、今現在御本人にとっては、はた迷惑この上ない「肥大化した老婆心」に護送されながら一路東京へと向かわれておるものと推察いたします。

 どうなるんでしょう。

 私なんぞは緊張が極度に高まると、自分ではそれを抑制できなくなり体調に変調をきたすのを防ぐためでしょうか、極度の緊張が一定レベルを超えた段階で自動的に精神の高揚感がなくなり無感動に陥ることがございます。つまり、上がったり下がったりの波が無くなり、ふっつりと横一線のフラットなものになってしまうわけです。
 それだけは避けたいと思っております。
 それではあまりにもったいない。
 是非、ドキドキしながら大泉先生の一挙手一投足を見たいものだと思っておりますから。


■(本誌記者付記)

 大泉洋が僅か3名の見送りで、寂しくHTBから出発した。
 この事実を嬉野先生から聞かされた時、私も激しく後悔した。

 「知らなかった!知っていれば万歳三唱!必勝と染め抜かれた千人針をヤツに手渡し、盛大な出陣式を敢行したのに!」

 果たして今、大泉洋はどんな気持ちで東京へ向かっているのか。
 ヤツはどんな気持ちでひとり戦場へと立ち向かおうとしているのか!
 そう考えると私は、いてもたっても入られず、すぐさま同行の福屋氏に電話を入れた。

 「大泉洋の一挙手一投足をつぶさに報告して欲しい!ヤツは今!なにをしているんだッ!」

 そしてその日、HPの日記では「速報」という形で、大泉洋の動きをリアルタイムでお伝えすることになった。

 【本誌記者の大泉さんMステ出演速報1】

 午後2時、同行の福屋Dより打電。
 「現在、京急に乗車中。これよりテレ朝へ向かう」
 以上、午後2時現在の情報。

 【大泉さんMステ出演速報2】

 午後2時15分、福屋Dより打電。
 「現在、品川駅よりタクシーに乗車中。羽田へ向かう機内で大泉洋氏は、ウニ丼とカツサンドを摂取。氏の瞳には一点の曇りもなく、やる気がみなぎっている。大丈夫だ」
 以上、現況報告。

 【大泉さんMステ出演速報3】
 午後2時20分、大泉洋氏本人より打電!
 「おい。なにやってんだ。うっとおしいだろ。これからずっと電話するつもりか?えぇ?」  「すいません。今の心境は?」
 「あぁ?自然体だよ」
 「福屋Dによると瞳に一点の曇りもなく・・・ということでしたが」
 「あぁ?そりゃ寝てねぇからだろ」
 「寝てないんですか!」
 「一睡もしてねぇよ。飛行機でも寝れなかったよ」
 「あの・・・気になることを聞いてもいいですか?」
 「なんだよ」
 「あの・・お衣装はどんな?」
 「あぁ?衣装?北海道では見たこともねぇようなカッコいいやつだよ」
 「カッコいいんですか?ぷっ・・・」
 「おい。なに笑ってんだ。オレが扮装して出るとでも思ったか」
 「いや・・・」
 「あぁっと!六本木が見えて来た・・・」
 「おっ!いよいよですか!ではがんばって!」
 「うるさいよ」
 以上、午後2時20分から30分までの通話記録より。

■(本誌記者付記)

 この時の大泉洋氏本人との通話は10分近くに及んだ。その中で日記に記さなかった会話に、こんなものもあった。

 「キミさぁ、メールでずいぶん僕にアドバイスみたいなことを書いてたじゃないか」
 「おぉ。読みましたか」
 「カメラをじっと見据えて歌い続けろとか、書いてたよねぇ」
 「そうだよ。ビシッとカメラ目線で歌えよ」
 「キミねぇ」
 「なんだよ」
 「カメラ何台あると思ってんの?」
 「は?」
 「キミらみたいに1台じゃないんだよ」
 「あ・・・」
 「何台もあるの。キミさぁ、カメラが切り替わるたんびにいちいち僕、目線を変えるのかい?そのたんびにカメラを睨みつけるのかよ。そんなことやったらキミ、おかしいだろ。えぇ。悪いけど空を見上げて歌うぞ。おれは」
 「えぇっ!」
 「歌うよ。空を見上げて歌い上げてやるぞ」
 「や、やめてくれ!」
 「うるさいよ」

 ・・・この通話を最後に、福屋氏からの電話も一時途切れた。

 【大泉さんMステ出演速報4】

 午後7時現在、福屋Dからの打電なし。本誌記者が電話入れるも応答なし。
 午後2時20分、大泉氏本人からの連絡時には「今後も私から直接キミに情報を伝えることもある」との言葉も聞かれたが、今だ連絡なし。さすがに両者とも余裕はないと思われる。

 先ほど「イチオシ」の番組内で「北海道のキラ星!Mステ生出演!」の告知スーパーが流れた。本番まであと1時間。

■(本誌記者付記)

 午後2時半から5時間以上の空白時間。この間の大泉洋の行動は後日、福屋氏への追加取材で以下の点が明らかとなった。

 午後2時40分ごろ、六本木に到着した大泉洋は、自前のデジカメを取り出し、これから自分が立ち向かう戦場の光景をつぶさに記録しようと、勇んでタクシーを降りた。新装なった六本木ヒルズ・テレビ朝日は、氏を身震いさせるに充分な威厳を誇っていた。氏は震える手でデジカメを構える。しかしシャッターを押す直前、メモリーカードが入っていないことが判明。写真が撮れず、氏は一気にヘコんだという。

 その後、スタジオの入り口を探し「出待ち」と思われる人だかりを発見。勇んで入ろうとする氏に向かって、お約束どおり警備員が一時停止を要求。氏は慌てず「大泉洋でございます」堂々と答えたという。

 その後、控え室に入り、氏はすべての周辺事象に驚き、浮かれ、テンションは大幅にアップ。しかし、リハーサルが近付くにつれ、氏の容態が急変。寒気と吐き気に襲われ、室温27度に設定された控え室でダウンジャケットを着込み一時危篤状態に陥ったという。

 【直前情報!】

 午後7時50分!福屋Dより打電!
 「今、スタジオに入りました。大泉洋氏は先ほど1時間前に吐き気と寒気を催しました。5分ほどでメイクを終らせスタジオへ。見どころは髪型。」
 以上!直前情報!

 では、制作部一同テレビの前で応援いたします!

■(本誌記者付記)

 そしていよいよ午後8時。「氏の出演は最後」との情報を事前にキャッチ。
 熱く長い1時間がスタートした。

 【遂に生放送開始!】

 午後8時30分、放送開始から30分経過!
 制作部ではHTBの社旗を降り、大応援中!
 バレンタインの話に一同沈没!
 拍手の時はマイクを離せ!ぼこぼこ聞こえるぞ!
 出番はまだか!よういずみおう!

 【午後8時45分!】

 CM中に福屋Dより緊急打電!
 「CM明けトリで登場します。トークの尺はたっぷりあります」
 わかっとるわい!

 【放送終了!】

 午後8時52分、放送終了!やったぞ大泉洋!
 制作部一同スタンディングで見守る中、氏の歌声がブラウン管から響く。
 それは世の不幸を洗い流すようなまさに天使の歌声!
 歌い終わりで感涙にむせぶ者多数!制作部では一同の万歳三唱が響き渡っております!

 大丈夫だ!おもしろいことなど誰も期待してないぞ!
 
 【午後9時】

 福屋Dより打電!
 「終りました。パフィーさんはじめ周囲のアーティストの方々から大絶賛を受けております。」
 うおぉぉー!制作部一同から満場の拍手!やりました!大泉洋!

 思い起こせば8年前。あの日から1日も休むことなく、本誌記者が発声のレッスンをつけてきた甲斐がありました。歌の師匠として感無量であります!

 
■(本誌記者付記)

 得体の知れない不安と極度の緊張・・・それは、「きっと大泉洋は失敗する」そんな確信めいた予測が誰の胸にもあったからだろう。バラエティーならまだいい。いくら東京で寒い扱いを受けようと「でも大泉洋はおもしろい」そんな絶対的な自信が皆にある。

 しかし、「歌」は別だ。だいたいヤツは鼻づまりじゃないか。ヘタとは言わない。しかし、鼻づまりの男が、全国放送の、それも権威ある歌番組で歌い上げる。それは、恐怖にも似た感情だった。
 しかし、それがどうだ。見事に歌いやがったじゃないか。見事に潰されそうな圧力の中で、最後まで戦い続けたじゃないか。はしゃぐわけでもなく、恥ずかしがるわけでもなく、中空を見上げて歌う大泉洋の姿に、笑うどころか、誰しもが少し感動してしまったのだ。

 放送直後からHTBのサーバーはパンク状態に陥った。

 書き込み件数はゆうに1千件を超えていた。


 【Mステ騒動から一夜明けて2月14日土曜日】

 嬉野でございます。 ちょっと出社しております。
 いやぁ、みなさん。終わりましたね。 大変でした。大騒動でした。

 HTBの制作陣は昨夜ほど極度の緊張の中でテレビの中の大泉さんを注視したことはございません。その模様は藤村先生が逐一写真に収めておりましたので月曜日あたりの日記で当夜の熱気もそのままに御紹介させていただくことになると思います。

 さぁ!そして!
 先ほどチェックしましたらMステ終了後の掲示板への書き込みの量たるやまたすさまじいものがございます!ちょっとした祭り状態でございます!
 みなさん! 疲れたでしょ! ほんと!ご苦労さんでした! ゆっくり休んで。

■(本誌記者付記)

 週が明けて月曜日。本誌記者が生放送中のHTB制作部の盛り上がりを14枚の写真とともにレポートし掲載(今回、写真は掲載できないので文面のみ記す)。
 当日は大泉洋所属事務所・オフィスキューでも鈴井社長以下、タレント陣が勢揃いし、HTB同様、テレビの前で声援を送ったという。鈴井社長は寿司を発注したと聞いている。特上かどうかは不明。

 また月曜日は、この写真レポートに全国からアクセスが殺到。HTBのサーバーがパンク状態に。社内メールの機能も著しく低下した。

 【2月16日(月)の日記】

 2004年2月13日金曜日―。
 その日、多くの道民がそうであったように、HTB制作部の「どうでしょう」「ドラバラ」「ハナタレ」の各番組班は朝から全く仕事が手につかない状況にあった。
 
 大泉洋氏がテレビ朝日「ミュージックステーション」に出演する。
 生放送で、氏がその歌声を全国民におみまいする。

 本人のみならず、それは、我々HTBバラエティー班にとっても、老婆心ながら胃が痛むような出来事であった。

 本誌記者はこの歴史的な一瞬をつぶさに記録することに成功。
 「HTB制作部の熱く長い1時間」その渾身のレポートである。

 午後7時30分。「あたしんち」が始まるやいなや、テレビ前で「席取り」が始まる。「もうスタンバイか!」本誌記者の問いかけに「だって・・・」ドラバラ多田Dが落ち着かない様子で正面特等席に陣取る。大泉洋生出演まであと30分。

 テレビ前にはHTBの社旗、そして「がんばれ!北海道のキラ星!!大泉洋」と書かれた横断幕が用意される。甲子園初出場校の職員室のようである。

 午後8時。遂に生放送スタート!いつのまにか正面に陣取った嬉野先生もメガホンを振り上げ大声援を送る。

 そして「大泉洋withスターダストレビュー」が堂々の入場行進。
 「うぉぉう!本当に出たぞーッ!」
 「なんだぁ!あの衣装はッ!」
 「くそッ!騒ぎすぎて紹介のコメント聞き逃したぁーッ!」
 応援のボルテージが一気に上がる。

 番組中盤。「想い出のラブソングコーナー」にいきなり大泉氏が出演。予想外の出来事に一同のボルテージも最高潮。
 「うぉい!出たぞッ!」
 「すげぇ!」
 「なんでサザンが想い出なんだぁ!聞いたことねぇぞぉーッ!」
 「カッコつけてんだよ!」
 「無理するな大泉洋!墓穴を掘るぞ!」

 その時!タモリ氏から「バレンタインの想い出話」を聞かれる。

 「うわ!タモリさんと絡んでるッ!」
 「がんばれキラ星!」

 一同固唾を飲んでトークを見守る。

 「クラスの半分がボクのことを好きでした」
 大泉洋がホラとも真実ともつかぬ微妙な発言をする。
 「チョコはもらったの?」タモリが聞く。
 「はい・・・えぇ、もらいました」
 うわぁ!普通じゃねぇかぁッ!普通のコメントじゃねぇかぁッ!
 元「ドラバラ」チーフ杉山氏がガックリと膝を落とす。

 この後、大泉洋の登場までひたすら画面を凝視し続けるHTBバラエティー軍団。
 「こんなに他人の歌を長いと思ったことはない・・・」
 緊張が次第に各人の胸を締め付ける。

 8時45分。遂に大トリ「大泉洋」が満を持してマウンドに登場!一同はクラッカーを華々しく打ち上げ、興奮も絶頂に達する。
 「歌うぞぉーッ!大泉洋が歌うぞォーッ!」
 「おい!時間あり過ぎじゃねぇのかッ!」
 「逆に時間あまってるよ!」
 「うわぁ!またタモリさんと絡んでるッ!」
 「歌の前に無理するな!大泉―ッ!」
 一同の悲鳴が響く。

 遂に歌が始まる。もちろん全員スタンディングで氏の歌を聞く。

 好調な歌い出しに嬉野先生も安堵の表情。「おぉーい!上手いじゃないか!」

 歌が終る。誰もが満足気に言う。
 「やったぞオイ!上手かったぞオイ!」
 そして一同から惜しみない拍手!続いて万歳三唱が巻き起こる。

 あまりに素晴らしい歌声に本誌記者も思わずカメラを放り出し嬉野先生とガッチリ握手。
 「やったな!よくやった!」
 周囲から再び拍手が巻き起こる。ドラバラ多田Dは思わず涙ぐんでいた。

 こうして「がんばれ北海道のキラ星!大泉洋・応援実況」は万来の拍手の中、幕を閉じた。
 杉山氏は「なんか良いライブを見終わったような充実感がある」と言った。
 たまたま通りがかった人は「ちょっと室温が高くないですか?ここ」と首をかしげた。

 午後9時。制作部の室温は30度に達していた。

 【HTB制作部の熱く長い1時間】〜完〜


■(本誌記者後記)

 あれから数日がたった。私は今、清々しい気持ちで氏の歌を聞いている。

 大泉洋withスターダストレビュー「本日のスープ」

 「本日もパスタ」と言われるとおぞましい記憶が蘇るが、「本日のスープ」は実にいい歌である。AIR−Gの番組企画から生まれた歌だそうで、リスナーから寄せられた様々なフレーズを、大泉洋が最終的にひとつの歌詞に組み上げたらしい。

 なんでも「札幌の街」を歌っているという。

 「そうか・・・大泉洋が作った札幌の歌なのか。」

 恥ずかしながら本誌記者は、あの夜の熱狂のあと、ようやくそのことに気が付いた。
 そして、改めてひとり帰宅途中の車の中で、大泉洋からもらったCDを聞いてみたのだ。

 じっくりと歌詞を聞きながら。

 どうやら札幌に住む、カップルを歌っているようである。

 中に彼女がセーターをどうのこうのというフレーズが出てくる。
 「あなたに似合うセーター見つけたから!買いに行こっ!」とかなんとか言っちゃって、男の手を引っ張って走る女の様子が歌われている。
 「北の宿から」の「寒さこらえて編んでます」なら「そうですか!がんばって下さい!」となるが、この、男のセーター着て「やっぱり大きいネ!」なんてじゃれ合う輩(やから)に対しては「寒い!」と一刀両断せずにはいられない。

 「よういずみ、いい加減にしろよ」と。

 しかし、そんな中に

 「好きな景色に囲まれて・・・」

 「遅い桜を待ちわびて・・・」

 「このままでいたいね・・・」

 なんていうフレーズがある。実にいい。
 
 実になんというか、実際に北海道の「札幌」という街に住み、生活している38歳の私自身が、今、素直に共感できる言葉だ。

 セーターの一件は別にして、これは長く聞いていこうと思った。
 これは「札幌に住む者たちへの、とても素晴らしい贈り物だ」と思った。

 幸い、鼻づまり男の歌声とは別に、スタレビの根本さんが独唱しているバージョンもCDに収録されている。実に気の利いたCDだ。根本さんの歌声は独特で、それはクセになる。

 
 改めて言うのもなんだが、私は音楽とうものにそれほど熱狂した経験はない。

 だから高校時代に男子どもが行っていたアイドルのコンサートすら行ったことがない。歌手の歌を生で聞いたのは、近所のスーパーにやって来た新沼謙治ぐらいだ。

 そんな私が初めてコンサートというものに行ったのは、大学時代。札幌へ来てからのことだった。それも別に行きたかったわけじゃなく、ある知り合いの女性がそのグループの大ファンで、是非一緒に行こうと誘われたのだ。

 新沼謙治以来初めての歌手の歌声。

 しかしそれは「嫁に来ないか」とコブシを利かせて歌い上げる謙治とは違い、やけに透き通るようなカン高い声で、流れるような歌声だった。

 初めてのコンサート、それも女性と2人きりで行ったということもあってか、私はそのカン高い歌声に惹かれた。そしてコンサート以来、その女性からテープを借りてよくそのグループの歌を聞いていた。

 それが、「スターダストレビュー」だった。

 あれから10年以上が経ち、なんの因果か大泉洋がそのスタレビと一緒に歌を出す。
 嬉しいような恥ずかしいような、とても個人的な感慨深さがそこにあった。

 1月28日「本日のスープ」の発売日、その大泉洋が、私に電話をかけてきた。

 私の携帯に「大泉洋」は「ばか」と登録されている。「着信 ばか」と出るわけだ。

 「おう。ばかさん。どうしました」
 「おっ!相変わらずいきなりの罵声じゃないかぁ。いいのか?ボクに向かってそんな・・・」
 「なんだ。どうした」
 「藤村くぅん、今ねぇ、ぼかぁ、根本さんと一緒にいるんだけどねぇ・・・」
 「ス、スターダストレビューの根本さんか!ほ!ほんとか!」
 「サイン欲しいかぁい?」
 「ほ!欲しい!」

 「そうだよねぇ・・・なんでもキミんとこの奥さんが昔から大ファンだそうじゃないかぁ」

 そうなのだ。初めてコンサートに行った女性というのが、今のカミさんだ。

 「今ここにCDがあるからねぇ、それにサインしてあげようか?」
 「ありがとう!カミさんが喜ぶよ!ありがとう大泉くん!」
 「そうか、そうか。じゃ・・・」
 「・・・おい待て」
 「なんだよ」
 「おまえ何しようとしてる」
 「サインを・・・」
 「おめぇのはいらねぇからな」
 「なんだと!この野郎!」
 「オメェのはいらねぇんだよ!」
 「なにこの!大泉洋withスターダストレビューなんだぞ!オレのサインが無いと意味がねぇだろ!」
 「うるせぇ!ゴチャゴチャ言ってねぇで根本さんのサインだけもらえ!」
 「なにッこの・・・」

 そして翌日。

 私の元に根本さんのサインと大泉洋の怒りが込められたCDが届けられた。

 
 最後に。

 Mステ出演後の月曜日。大泉洋からメールが届いた。

 「緊張してテレビを見ていたバカな皆さんにも、よろしく伝えてくれ」と書かれてある。

 ではバカな皆さんに、このメールを公開しておこう。

 
 【大泉洋から届いたメール】

 随分と13日は盛り上がったようじゃないかー。

 社旗を掲げるあたりが面白いなー。さすがHTBさん。先は短いぞ。

 ただそこまで盛り上がってもらえるというのは嬉しいじゃないか。

 どうやらHTBだけではなく北海道のいたるところでそんな風にMステを見た人が多かっ
たようだ。

 これは私にしても少し感動だったな。

 それは私が頼り無いローカルタレントであることの裏返しである事はそうなんだが、
そんなタレントはそう居ないじゃないか。

 こんなにMステを楽しめたやつは居ないし、楽しめた地域もないじゃないか。

 私が東京のタレントだったらこうはならないわけだ。

 Mステ出たからって。

 面白いなーと思ったよ。

 どうでしょうの盛り上がりも東京で、全国でやってなかったからここまで盛り上がれるん
だと思うんだよね。
 みんなが知ってる訳じゃないんだよ。面白いと思うやつだけが知ってる。

 ローカルの面白さだね。

 北海道のローカルタレントで良かったと思ったね。

 おー藤村ただひげー。

 俺と一緒になって緊張してテレビを見てたとってもバカな皆さんによろしく伝えてく
れ。

 「バカだなお前ら」と。

 次は何だろうなー俺が何に出たらここまでの緊張感があるかなー。

 紅白ももうここまでではないだろう。同じ歌だからなー。

 んー次は私が曙となぜかタイトルマッチでもする時にまたみんなで緊張してテレビを
見ようではないか。

 よーーしじゃーまたな藤村でぶひさ。


 ■以上である。

 覚えておけ。にょういずみ。


 <追記>
 尚、「大泉洋Mステ出演・激動の1日」は今週金曜(2/20)の「ハナタレナックス」にて緊急放送される。あの緊張をもう一度!

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