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旭山動物園と出会ったのは今から5年前、2001年のことです。札幌の報道部から旭川駐在に異動になったのがきっかけでした。それまでは名前を聞く程度だった旭山動物園は自分にとって、単なる「動物園」の一つにすぎませんでした。しかし、取材にかこつけて園内を見て回り、その時に旭山動物園の面白さを実感しました。
驚いたのは動物がすごく近くで見られること。当時一番人気だったペンギン館。水中トンネルの素晴らしさはさることながら、外ではペンギンが触られるほどの近さにありました。
オランウータンの空中運動場では、17メートルもの高さでオランウータンが綱渡りをする姿に圧倒され、しばらく口を開けっ放しだったのを記憶しています。オランウータンが外に飛び出し、オリ越しではなく直接目に触れられることに感動しました。

そんな魅力あふれる旭山動物園を記者として取材しないわけはありません。
イベントがあるごとに顔を出すようになりました。
ほっきょくぐま館のオープンやペンギンの散歩の一般公開。
当時の自分の日記には、『この動物園は全国のモデルケースになるのではないか』と書いています。

そうした中、旭山動物園を密着することになる、ある記事と出会います。
記事では小菅正夫園長と絵本作家のあべ弘士さん(昔旭山動物園の飼育係だった)が対談していました。目にとまったのは昔を語る場面。入園者が少なかった頃に、何人かのスタッフが営業時間終了後に事務所に集まっては動物園が変わる事を夢見て、理想図を書き、その絵を今も残していると話していました。大きく紙面が割かれた対談のわずか数行の部分でしたが、強く印象に残り、即、ニュース特集を企画しました。
常に一緒に事件や事故を追っかけていた三戸史雄カメラマンも記事の存在には気づいていて、「ああ、あれでしょ。見ました。やりましょう」ということになりました。そこから、およそ1年半に渡る取材が始まった訳です。

当初から三戸カメラマンとは「この動物園の魅力は決して施設だけではない。飼育員だ」とよく話していました。そして、特集を組むからには施設の魅力の裏側にある飼育係の奮闘を描こうと決めました。時には迷惑がられ、時には「大変だね」と声をかけられながらの取材。そこで見えてきたのは、飼育員の熱意でした。
展示施設ばかりが話題になりがちななか、我々は飼育員が一つ一つ手書きの展示パネルを作っているといった特集を組んだり、普段は目にすることの無い、開園前の準備作業などを取材しました。
そうした継続取材が番組として日の目を見る事になります。
取材を始めるきっかけにもなった「14枚のスケッチ」を初めてニュースの特集で取り扱ったことがきっかけで、番組化しようということになりました。

今は全国の動物園でも様々な取り組みが行われていますが、ほんの2、3年前は違いました。
「旭山」を訪れた人たちは口を揃えて「こんな動物園は見たことがない」といいました。「また見に来たい」とも。一見すると普通の動物園と変わらないのに、一歩足を踏み入れると生き生きとした動物が間近にいる。それはまさしく旭山動物園ならではの光景でした。

これまでの動物園は真四角に区切られた檻のなかに、いつも寝てばかりの、つまらなそうにしている動物たちがいました。動物園に行ってもちっともつまらない。
そんな事態を打開しようと、サファリパークのように野生的な展示方法を取り入れる動物園も増えました。
しかし、「旭山」は全く違う手法をとっていました。「園」を豊かにするのではなく、「動物」を豊かにしようとしたのです。
取材を始めた当初、飼育事務室で開かれた朝礼で小菅園長が飼育員にこんな話しをしました。
「動物が幸せそうに見える展示。そうした展示が大切です。動物が幸せそうだというのはそれだけ飼育係が動物の面倒をみていることにほかならない。幸せそうな動物がいて、その動物を見る人々が幸せな気持ちになる。そんな展示を目指したい」
この言葉こそ旭山を言い表したものだと私は感じました。

そうして地道な取材を続け、2003年12月に「テレメンタリー 14枚の素描(スケッチ)」を放送しました。
20年近く前に書かれた「夢のスケッチ」が実現するまでを追ったもので、「あざらし館」の建設作業を追いながら旭山動物園の魅力や考え方を伝えました。番組は好評を得て、その年度の最優秀作品賞を頂く事が出来、望外の喜びでした。

今では多くの人に知られることになった理想のスケッチですが、実は裏話があります。
当時夢の動物園を語り合った小菅園長を始め、坂東副園長らに話を聞くと、スケッチ作業は14枚以上にのぼったと言います。
実際に作画をした元飼育員のあべ弘士さんも「何枚書いたかわからない」というほどでした。
そうしたなか、小菅園長に協力を得て、資料をかき集めた結果、現存するのが「14枚」だと確認し、それをもとにタイトルにしました。つまり実際はもっとあるけれど、現存する枚数に注目して我々が「14枚のスケッチ」と名付けた訳です。
その後名前だけが一人歩きし、しばらくしてから園長に「本当はもっと書いたのにね…」とつつかれました(笑)。

あれから3年。
当時でさえ多かった60万人の入園者が、今や4倍以上もの250万人を集めるまでになりました。
旭川市の人口が36万人。つまり、市民全員が1年に6回旭山に行っても追いつかない数字です。
これだけの人気を得ていながら、旭山の飼育員のみなさんは不安を抱えています。
「来てくれた人たちはきちんと動物を見てくれたのだろうか」と。
人気が出たことに決しておごらず、入園者のことを常に考えている旭山の姿勢は変わっていません。
その一方で、「進化する動物園」は≪チンパンジーの森≫などの新たな施設を展開しながら、訪れた人たちを楽しませ続けています。

今回の番組では、これまで他のメディアでも取り上げられたような夏の映像中心のものではなく、北海道ならではの冬にこだわって旭山動物園を紹介しようと考えています。
関根勤さん、麻里さん、そしてウド鈴木さんがおもしろく、かつ楽しく、「見ている人たちが幸せになるような」旭山の冬の魅力をたっぷり紹介していきます。

雪に囲まれた動物たちってどんな行動をするんだろう。キリンやライオンは寒さに強いの?
いまや有名になったペンギンの散歩、今年は?
生まれたばかりのライオンの赤ちゃん。初めて見る雪を前に、外に出る事ができるの?などなど…

ここにはあえて書かなかった施設の魅力や動物の魅力を含め、冬の時期しか見られない、「最北」の動物園をたっぷりとお伝えします。

三戸カメラマン(左)と坂本ディレクター(右)
チーフディレクター
坂本英樹(HTB)

「関根勤&麻里親子の旭山動物園日記」スタッフ
 【プロデューサー】 戸島龍太郎(HTB北海道テレビ)
 【チーフディレクター】坂本英樹(HTB北海道テレビ)

 【制 作】HTB北海道テレビ
 【制作協力】ケイマックス