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―2014年放送―

2014年9月2日放送
2001/05/13  「母の日のざんげ」 高田順子(当時50歳・事務員)=釧路管内標茶町

写真

二十数年前、長男が小学一年生の五月の、ある土曜日の午後のことです。
 三歳になる弟の手を引いて「ただいま」と帰ってきました。
その様子が、いつもと違います。
片手を後ろへ隠し、後ずさりして自分の部屋へ入り、机の引き出しを閉める音がします。
 「何か隠している」と直感した私は、
「まさか、万引」と、頭の中がパニック状態に陥りました。
部屋の戸を開けるなり「何を隠したの」と、いきなりの罵声(ばせい)。
戸惑いで涙目の息子に「出しなさい!」と追い打ちをかけるように、大声をあげていました。

 目を丸くしている次男の横で、
「これ、明日の母の日のプレゼント」と、
涙をポロポロこぼしながら差し出した長男の手には、
一本の赤いカーネーションがあったのです。
日曜日が休日の近所の花屋さんへ、
小遣いの百円玉を握り、弟の手を引いて、二人で買いに行ったのです。

 そのやさしい気持ちに、素直に「ごめんね。ありがとう」というはずが、
ボソリと出たひとことは、「行き先を言わないで出かけたらダメでしょ」。
早合点したバツの悪さに、感謝の言葉を失ってしまったのでした。
 子育てに完ぺきなどありえないのに、
気負いと焦りの錯綜(さくそう)する日々だった、と、
息子たちが手を離れてしみじみ思います。
 母の日がくるたびに思い出す、苦いエピソード。
息子たちにざんげします。
「あの時はごめんね。そして、ありがとう」